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6話 マオが意識を取り戻すようです

6話 マオが意識を取り戻すようです


さてと僕の仕事はドリーを助ける事だから、後はここから連れだしたら終わりかな。そう思っていると頭の中でファンファーレがなり響いた。


あれ、レベルが上がった?



天兎 玲人


レベル  1 レベル  9 レベル  5


HP   151 / 151

MP   101 / 219


スキル 同期  ・ 合成術(レベル2)

    半人半魔 ・ 風の初級魔法(レベル3)


おお、人が相手でもレベルは上がるんだ…。でも今までの上がらなかった事を考えると、さっきの冒険者は結構レベルが高かったって事か。

それに合成術と風の魔法のレベルが上がっているな。でも、MPの減りが激しいのはなんでだ?


(スキルの同時使用は魔力の消費が倍になるのよ。前に<同期>を三人で使って使用した事があったでしょ?その時に気が付いたのよ)


ああ、服を作った時か……ならさっきの<シャドーエッジ>はあまり多様出来ないって事だな。


「さてと服で思いだしたけど、この恰好で屋敷から出るのは嫌だから服を作り直すか」


(私はそのままの格好でも良いと思うわよ)


駄目です!こんな恰好で町を歩いたら恥ずかしくて死んでしまいます。


「なら俺達専用の恰好って訳だな」


(それは良い考え方だわ)


違う!断じてそれは違うから!もうこの会話から離れて!


そう思いながら急いで服をオメガで作り直した。


「さてと、お嬢ちゃん。さっき叩き斬った剣の刃を俺に食わしてくれ。あの斬り合いで刃が欠けちまったんだ」


「やっぱり…ちゃんと魔力を流して使ったよね?それに形を変えれるんだから、欠けた部分を補えないの?」


それにしても魔力を流し、切れ味と耐久力を上げた魔剣が普通の剣と戦って刃が欠けるなんて…


(……無様ね…)


ゼロも呆れるように呟いている。


「…言っただろ。俺は数百年何も食べていないから、切れ味が落ちてるって。今の俺は魔力を貰ってもさっきの剣より、やや上ぐらいの力しかないんだよ。それにダメージで欠けた部分は、記憶に残っているから補う事は出来ないんだよ。

そう言う訳だから食事としてくれ!そうすれば欠けた所も直って、その材質並みには丈夫になるからな」


弱体化しているって知っていたのに……ごめんなさい、僕の使い方が悪かったです。


そう反省しながら落ちている剣を拾い、オメガに重ねるように近づけた瞬間、剣は淡い光を出し消えていった。


「ふう…ごちそうさん。数百年振りの飯は最高だな!」


そう言ってるオメガの傷は既に直っていた。


(なんてお手軽な男)


「優秀な男と呼んでくれ!」


「まあ、手入れが楽なのは助かるよ。オメガの痛みは私の痛みでもあるしね。優秀だしお手軽でもあるから、二人共喧嘩はしないでね」


2人共間違いないと言われ、これ以上は何も言えなくなっているようだ。


「……さて、この状況をどうしようか…」


一先ずオメガを体内に戻して考えていると。


「あの~、私はどうすれば良いのでしょうか?」


ドリーが困ったような顔でこっちに近づいて来た。


「ああ、忘れてた」


「忘れてた!?酷い!」


「ごめん、ごめん。実は私は君の親からの依頼を受けて助けに来たんだよ」


本当は依頼を受けたのはアカツキさんだけどね。


「お父さんが?…でも、私が酷い目に合っているのに、様子も見に来てくれなかった人が何で今更……」


ドリーは少し怨むような顔をしている。親に見捨てられたと思っているようだな。


「ドリー、それは違うよ。お父さんは何度もここを訪ねたけど、一度も合わせてくれなかったらしいよ。それを不審がって、危険な盗賊ギルドにまで行って、依頼をしてきたんだからね。お父さんも命懸けで君を守ろうとしてくれたんだよ」


「お父さんが、盗賊ギルドに……。え!?それなら貴女は盗賊ギルドに所属しているって事?」


ドリーは親の事より、僕が盗賊ギルドに所属している事の方が驚いているようだ。…やっぱり盗賊ギルドって危険な場所なんだな…


「そうですよ。ある人の為にお金が必要になったから、盗賊ギルドに所属して稼ぐ事にしたんだ」


「そうですか。大切な人なんですね」


ドリーは感心したように僕を見ている。どうやらさっきまでの恐怖は薄れてきているようだ。


「さてとそれよりどうしようこの状況。私達だけでは全員を運ぶのは大変だよね」


そう悩んでいると。


「それなら心配はいらない。俺が強力すればすぐに済む!」


「わぁ!?」


いきなり背後から登場したアカツキさんに、僕は飛び跳ねるように驚いた。


「だ、誰ですか!?」


「あ~、この人はアカツキさんと言って、私の仕事仲間です」


突然の登場と僕の悲鳴に加え、全身黒尽めの格好にドリーが怯えていたので、僕は軽く紹介をした。


「私?暫く会わない内に、ずいぶんと女らしい言葉使いになったものだな」


しまったー!今までの癖が出ちゃったよ…


「……それよりアカツキさんはなぜここにいるのですか?」


「俺はずっとこの屋敷を見張っていた。そうしたら警護の冒険者が、ここに慌てて入って行くのが見えてな、何かあったと思いここに来たと言う訳だ。そしたら…」


そう言ってアカツキさんは周囲を見回して、


「このような状況になっていた訳だ。どうやったかは知らないが、冒険者は死んでいるし、焦げた塊は二つあり、子供達はほとんど気を失っている。方法は気になるが、今は子供達が目を覚ます前に安全な所に連れて行こう」


確かに目が覚めたら死体があったでは、精神的に良くはないか。方法を今聞いてくれないのは助かる。正直、誤魔化す方法を考える時間が欲しかったし。


アカツキさんはそのまま身近に倒れていた子を数人担いで外に出て行った。その様子を見て僕も1人担いで、その横にドリーを歩かせて着いて行った。


外に出てみると、騒ぎを聞き付けたミミが心配そうな顔をして待っていてくれた。


「レイちゃん大丈夫だった。何か大きな音がしたと思ってここに来たら、あの小屋から黒いのが飛び出してくるし、私怖くて動けなくて…」


ミミは僕の胸に飛び込んで来て、泣きだしてしまった。


「ミミちゃん、僕は大丈夫だから。ミミちゃんもお家へ帰してあげるから泣かないで」


「無理よ。私はここに売られて来たの。もうここの奴隷として一生出て行く事は出来ないのよ」


そう言えばミミは人攫いにあってここに売られて来たんだっけ。


「大丈夫、もうこの屋敷には人がいないからミミちゃんも自由だよ。もちろんフランちゃんも含めて全員帰れるから安心して」


僕の言葉にミミは少し驚いた顔をして見つめて来た。


「…ほんと?私、本当におじいちゃんの所に帰れるの?」


「ほんとだよ。皆の意識が回復したら、一緒に屋敷を出よう」


僕は少し強めにミミを抱きしめてあげて、安心出来るように軽く背中を叩いてあげた。


「ミミちゃんとドリーで気を失っている子を、見ておいてくれないかな。私とあっちにいる人で小屋から運んでくるから」


「分かった。私、ちゃんと見ておくよ」


そう言って元気な顔を見せてくれた事に安心して、僕は子供達の移動に入った。



「玲人、これを見てみろ」


子供達を全員運び終えた小屋でアカツキさんが何かを見付けた。


「こ、これは……」


アカツキさんが見付けたのは、子供達の死体だった。床の下に穴が掘ってあり、そこに無造作に捨てられていたのだ。


「ここで殺した子をそのまま捨てていたのか。……それで屋敷を出て来た者はいなかった訳だな」


これを見せるのも子供達を縛る材料としていた訳か。最低な事をしてたんだな。


「そうなると、子供達の心の方が心配ですね。今後の日常生活に支障が出ないと良いんですが……」


「それは親やそれぞれ各個人に任せるしかないだろう。だがこの世界は何時でも死の危険があるから、恐らくは大丈夫だろう」


そう言って僕達は小屋を出て行った。


屋敷の部屋に戻ると、既に何人かは意識を取り戻して他の子の看病に混ざっているようだ。


「あ、レイちゃん。もう他の子はいなかった?」


ミミが僕を見付けて元気に声を掛けてくれた。


「うん、大丈夫だった。もう他にはいないよ」


「…ところで私達はどうしてここで寝ていたのでしょう?」


フランが現状を理解分からないので聞いて来た。


「えーと、ここにいるアカツキさんが私達を助けてくれたんですよ。皆は怪我をしないように薬で眠らされていたんです。でも安心してください。アカツキさんのおかげでもうこの屋敷にいる必要はなくなりました。皆、家に帰れるんです!」


僕の言葉を聞いていた子達が1人が泣いたと思ったら、皆にも伝染したようい泣きながらお礼を言っている。泣く事も許されない状況にされていたのだから、一気に涙が溢れ出したようだった。


「…玲人よ、俺は今回何もしていないのだがな…」


アカツキさんは皆には聞こえないような小声で訴えてきた。


皆には聞こえないように話すなんて、空気を読む事が出来るんだなーと思った。


「僕が助けたと言うより、大人のアカツキさんがした事にした方が安心すると思ったんですよ」


本当は目立ちたくないだけだけどね。


「…そうか、そう言う事なら仕方がないか…」


仕方なくだがアカツキさんは納得してくれたようだっだ。そうして全員が目を覚まし、落ち着いたのを見計らって屋敷を出て行った。ちなみにこの屋敷にあったお金は、今後の子供達の事を考えて均等に分配して分け渡した。


「ドリー!ドリー!」


僕達が屋敷の門を出てすぐに、ドリーの名前を呼ぶ男の人がいた。その人はドリーの姿を見つけると、勢いよく走って来た。

近づいて見ると、その顔は涙があふれ出ていた。


「お父さん!」


ドリーもその姿を見つけ駆け出していき、二人は抱き合った。


「ドリー、すまなかった。お父さんに力があれば、もっと早くにお前を助けられたのに」


「お父さん!怖かった、怖かったよ………」


今まで我慢していた涙が一気に溢れ出したように、ドリーはお父さんの胸の中で暫く泣き続けた。


他の働きにこの屋敷に来た子達や、この町で人攫いに合った子達も、この光景を見てすぐに家に向かって帰って行った。


「本当にありがとうございました。依頼は完了です。話に聞いていた通りの腕前でした」


そう言ってドリーのお父さんは頭を下げた。


「いや、今回の……」


「ドリー良かったね!今後は働く所をちゃんと調べてからにしてね」


今回働いたのは僕だと言いそうだったので、僕はアカツキさんの言葉を止めるように、ドリーの肩を掴んで話しかけた。


「う、うん。今後は気をつけるよ」


突然の僕の行動に驚き気味だったが、なんとか返事を返してくれた。そしてそんなドリーに小声で、


「小屋での事は誰にも言わないでね。ばれると私が困っちゃうからね」


そう言って、ドリーも頷いてくれた。


「それじゃあ、気をつけて帰ってね」


僕は手を離して別れを告げた。


「うん。ありがとう!私、貴女の事を忘れないから」


そう言ってドリーも手を振ってくれた。


「お父さん、帰ろ」


「あ、ああ。本当にありがとうございました」


戸惑いながらもお礼を言って、そのまま手引かれて、ドリー達は帰って行った。


あの様子なら安心だな。アカツキさんは疑るような目で僕を見てるな……ほんと、どうやって誤魔化そう…。


あと、この場に残っているのは、人攫いに合ってこの町に住んでいなかった子、そうミミ一人だ。

ミミが住んでいたのは、南の森を越えた先にある<ファスト村>と言う所で、そんな所に子供を1人で帰す訳にもいかず、暫くはザルバさんの治療所にいてもらう事にした。

マオが回復したら僕が連れて行ってあげる事にしたのだ。



治療所に帰る間、僕はミミと話をしていたので、アカツキさんは何も話しかけては来なかった。


「ザルバさん、只今帰りました。マオの様子はどうですか?」


僕がここに帰って来た時の流れになりつつある。そして僕はマオの様子を見る。


「だいぶ顔色が良いだろ。予定より早いがいつ目が覚めてもおかしくない状態だ」


「ほんとですか!?…良かった、本当に良かったよ…」


僕は安心して、崩れるように座り込んでしまった。


「それでその後ろの子は誰なんだ?」


そう言ってミミの方へ視線を向けた。


「は、はじめまして、私はミミです」


「実は人攫いにあった子なんですよ。それでマオが良くなったら、僕が村まで連れて行ってあげる事を約束したんですよ」


僕は軽くミミの事情を説明した。


「ザルバ、すまないが暫くのあいだ世話をしてくれ」


「…はー、またか。…しかし、お前が帰って来たと言う事は、無事に仕事は終わったって事だな。アカツキ、お疲れさん!」


ザルバさんは無事に帰って来た事を、アカツキさんの肩を叩きながら喜んでいた。


「いや、今回、俺は何もしていない。すべてコイツが終わらせた」


「は?何を言っているだ?」


そんなザルバさんは淡々と言うアカツキさんの言葉を聞き、肩を叩く手も固まって驚いていた。


「……言葉通りだ。俺が異変に気付き、駆け付けた時には既に護衛も屋敷の主も死んでいた」


「馬鹿な、あそこに雇われていた冒険者は、確かランク5だったはずだ。金に汚く、嫌われていたが腕前は確かだったはず……。

…一日、二日レベル上げをしただけの奴が、倒せる相手ではないはずだ」


「確かにそうだが全て事実だ」


その言葉を聞き、僕の方へゆっくりと顔を向けて来る。ザルバさんは目は見開き、口は半開き、頬には一滴の汗が流して、まさに信じられない者を見ている顔だった。


「おい、お前はいったいどうやっ……」


「それ以上の詮索は無しですよ」


ザルバさんの言葉を被せるように、僕は笑顔で答えた。


「だが!」


それでは納得がいかないのか、なおも聞こうとしてきた。


「それ以上詮索するなら……僕は秘密を守る為に、貴方達とお別れをしないといけません。…僕は凄く感謝しているんですから……お願いしますね」


その言葉に込めた意味、これ以上聞くようなら容赦はしない…その事が分かったのか、ザルバさんは黙ってしまった。


「……長生きをする秘訣は、親しき者にも手の内は晒さない事がある。そう言う意味では間違ってはいない」


流石、アカツキさん。盗賊ギルドに所属しているだけあって分かっているね。


「…お前は心から信用出来る人はいないのか?」


ザルバさんは少し悲しそうな顔をして僕を見ている。


「信用し過ぎても自分が痛い目に会うだけですよ?」


その質問の理由も向けられた顔の意味も分からない。


「そうか……お前の過去に何があったかは知らないが、…お前が全てを話せる者が現れる事を願っているよ」


そう言ってザルバさんは話を終わらせた。


「さて、これから俺は仕事の報酬を受け取りに行ってくる。金は明日持ってくる。今日は疲れただろう、ゆっくり休むがいい」


アカツキさんは労いの言葉と共に去って行った。


「さてと、ミミは僕が使っていた部屋を使うと良いよ。僕はここで寝て、マオが起きるのを待つ事にするよ」


そうして僕はミミを部屋に案内してあげて、その後マオの下へ戻ってきた。



「戻ってきたか」


マオの部屋に来た僕を、ザルバさんは待っていたようだ。


「どうしたんですか?今日はもう寝るだけだと思うのですが?」


「なに、1つ疑問があったから聞こうと思ってな。ああ、言っとくがさっきの事じゃないぞ」


僕の目つきの変化が分かったのか、ザルバさんはすぐに否定した。


「…それで聞きたい事とは?」


僕が話を聞く態度をした事を見て、少しホッとしたような顔をしていた。


「ああ、お前がこの子に執着する訳を知りたかったんだよ」


…なるほど、さっきの事で僕が人を信用しきれないとばれてしまったか。


「マオは僕の代わりにこうなってしまった。いわゆる命の恩人ってやつですよ」


「ほう、それで?」


顎に手をやり、続きがあるんだろ、そう含みを込めているのが分かる。


「……お礼を言いたいのもありますが、一番の理由は聞いてみたいんですよ。なぜ自分の命を犠牲にしようとしてまで僕を助けようとしたのかをね」


「そうか、…お前にとっては初めて会うタイプだったって訳か……」


なにやらザルバさんは笑っているようにも見える。そんな話をしているとマオに変化があった。


「…う、ううん…」


「ザルバさん!マオが!」


ベットに寝ていたマオが僅かに声を出し頭も動いた。


「うーーん………ここは?」


そのまま目も開き周りを見ている。


「マオ!僕が分かるかい?」


僕はマオの上から顔を見せるように乗り出した。


「おお、玲人か。どうやら無事のようじゃな」


こんな時まで僕の心配か…


「僕の事より、自分の心配をしてよ。……でも、ありがとう。君のおかげで僕は何ともないよ」


僕は精一杯の笑顔でお礼を言った。


「そうか。それは良かったのぅ。…それで妾はどうなったのじゃ?体が動かぬのじゃが…」


マオは起き上がろうとしているのか、首を動かしているが体は寝たままだった。


「おいおい、そんなに早く動けるようになる訳がないだろ。無理はしないで今はまだ寝ていろ」


ザルバは無理に動こうとしているマオを見て叱った。


「お主はだれじゃ?」


「俺は医者のザルバだよ。君は何らかの薬の影響で意識がなかったんだ。1週間近く寝ていたんだから、すぐに動くのは危険だ。リハビリは明日からやるから覚悟しとけよ」


「それは世話になったのう。それに体の状態も分かった。明日からよろしく頼むぞ」


ザルバさんはマオの返事を聞いた後に部屋を出て行った。


「さあ、まだ完治した訳ではないんだから寝よう」


「そうじゃな、明日から大変そうだし寝るとするか」


そうして2人は眠りに就いた。



「レイちゃん、マオちゃん、朝だよ。ザルバさんが朝食を作って待っているよ」


「おはよう、ミミちゃん」


「おはようじゃ。……お主は誰じゃ?」


そう言えばマオに紹介していなかったな。


「マオ、この子はミミ。ミミは分かっているからいいね。それと僕は玲人だよ。レイは偽名って言ったでしょ」


昨日、屋敷からこの治療所に来るまでの間に名前の説明はしたが、ミミにとってはレイと名乗っていた時間が全てだったので、そう簡単には直らないのだ。


「あ!ごめんなさい。でも、レイジちゃんって似合わないよ」


それは自分でも分かっています。


「でもそれが本名だから我慢してね。…さあ、朝食を食べに行こう。マオはまだ1人では動けないだろうから、肩を貸すよ」


「すまんが、よろしく頼むぞ」


そう言って、僕はマオを起こして食事が用意されている所に連れて行ってあげた。



「ところで、マオちゃんはどこから来たの?」


ミミはパンを食べながら問い掛けた。


「そう言えば僕も知らないや」


「なんじゃ?女の過去を知りたがるとは、無粋な奴らじゃのう」


マオは飲み終えたコップをテーブルに置いた。


「いや、無理には聞かないよ。言い難い過去だってあるかもしれないし」


僕が多くを語らないのに、他人の話を聞き出すのはフェアじゃないからね。


「冗談じゃ別に構わぬよ。…妾はここより北の地より参ったのじゃ」


「ここから北だと、〈中央都市マクスウェル〉かな?」


意外と地理に詳しいミミの口から知らない町の名前が出ていた。


「そう言えば僕ってここら辺の地理が、まったく分からないんだよね…。…ここって何て言う町なの?」


「なんだ、アカツキはそんな事も教えていないのか。この町は四大国家の一つ、〈ノーム国〉の城下町だ」


既に食事を終わらせていたザルバさんは、アカツキさんに呆れるように言い説明してくれた。


「そうなんだ、それでマオは治ったらどうするの?」


「妾はここより更に南を目指して行かねばならぬ」


理由は分からないが、そう言ったマオの目には決意を感じる力強さがあった。


「…そこになにかあるの?」


「他人には価値のない物じゃ。…ただ昔失った物を取りに行くだけじゃからな」


「でもここから南って事は、私の村に近いかもしれないね」


そう言えばミミの村もここから南の方だっだっけ。


「なら一緒に行こうか。ミミもそうだけどマオだって一人旅は危険だろうし」


なにせ一回人攫いに会っているからね。


「そこまで世話になる訳にはいかぬ。妾は一人で大丈夫じゃから安心せい」


そうは言いながら胸を張っているが、とても弱々しいまだ体に力が入らないマオを見ていると、安心出来る要素がまったくなかった。


「でも目的地が一緒なら、人は多い方が楽しいよ」


ナイス、ミミ!今のマオを一人にすればまた人攫いに会う可能性は高いだろうし、モンスターの危険もあるしね!


「じゃが……」


「それに僕も助けてもらった恩を返さないといけないし、どうだろう僕に護衛をやらしてくれないかい?」


それでもまだ困ったような顔をしている。いったい何がそんなに気掛かり何だろう?


「断ろうとする理由は分からないが、お前がモンスターを相手に実力を証明すれば良いのではないか?」


「わぁぁぁぁぁ!!!」


「キャーーーー!!!」


「………おはようございます。アカツキさん」


マオの背後からいきなり声を掛けるという、相変わらずのアカツキさんの登場の仕方に、マオとミミは驚き悲鳴を上げて、椅子から落ちそうになっていた。


「アカツキ、お前のその気配を消して近づき、声を掛ける癖をどうにか出来ないのか?慣れている俺でも驚くぞ」


まったくだ。ザルバさんもっと言ってやってください!


「うぬ、気をつけよう」


…無理だな。悪い事をしている自覚がまるで感じないし。


「大体お主は何者じゃ!全身黒尽くめ、怪しい奴め!」


マオは驚かされた事もあり、指を差し今にも噛みつかんばかりの顔でアカツキさんを睨みつけている。


「俺は怪しい者ではない。それでこの子の実力が分かればお前も安心するだろう。…どちらにせよ体が治療前の状態まで回復してからの話だがな」


アカツキさん説明もしないで一言で終わらせたよ……


「えーと、この人はアカツキさんと言って見た目は怪しいかもしれないけど、マオを助ける為に動いてくれた1人だから安心していいよ」


「そう…なのか?……それはすまんかった。世話を掛けたようじゃ、感謝するぞ」


あまり納得がいっていないようだが、気持ちを切り替えたのか素直に頭を下げてお礼を言った。


「別に構わん。それに俺がしたのは医者の紹介と、仕事の斡旋だけだ」


「たとえそうだとしても、そのおかげで妾が助かったのは事実じゃ。素直に感謝の気持ちを受け取るが良いぞ」


「そうか。なら素直に感謝されるとしよう。それとザルバ、これが約束の金だ」


マオからの感謝を素直に受け取る事にしたアカツキさんは、そのまま懐から布袋を出してザルバさんの前に置いた。

それを受け取ったザルバさんは中身を確認する事無く、確かにと言い奥の引き出しにしまった。


中身を確認しないでいいほど信用しているのか……なかなか凄い関係だな…


「話を戻すけど、まずは自由に動けるようになるのが先決だね。護衛の話はその後にしよう」


「…確かに今の妾では話にならんからのう。ザルバよ、早いところ元のように動ける状態に戻すのじゃ」


「リハビリがきつくても泣き言を言うなよ」


そしてそのままマオを連れて、ザルバさんは部屋を出て行った。



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