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4話 盗賊ギルドに入るようです

4話 盗賊ギルドに入るようです


ここ、〈修練の森〉で戦い続けて順調にレベルを上げていき、もうすぐ夕方になりかかった頃、トラブルに巻き込まれた。


遠くで戦っていたはずの先客達が、何かに追われるように僕達の方へまっすぐ走って来たのだ。


「何かに追われているのか?助けないと」


周囲を警戒もせずに走って来たので、その存在にはすぐに気付いた。


「!?。不味い!モンスターを押し付けられるぞ!」


アカツキがその様子を見て何かに気付いたようだが、玲人はその言葉の意味を理解出来ずに、ただ様子を見てその場に留まってしまった。


そのまま追われている者達は、玲人達のすぐ横を走り抜けて行ってしまった。

その後ろにいたモンスターは、逃げていない玲人達に標的を移したのだ。


その数、フリーウルフが10体以上、そしてクマのようなもモンスターが1体。大群だった。


「…あー…もしかして…囮に使われた?」


玲人は走り去って行く男達を見てつぶやいた。


「不味いな、〈ハングリーベア〉までいる。こいつに追われてフリーウルフ達まで引っ張って来てしまい、逃げれないから俺達を利用したようだな」


やっぱり囮か…これがモンスタートレインってやつだな。ゲームでもやられた事が無かったのに、現実が初めてなんて非道いな………今度会ったら覚えておけよ!


「それでハングリーベアってのは、厄介な相手なんですか?」


初めて見るモンスターだな。何だよあの爪は!一本だけ不自然に伸ばして…


そうハングリーベアの両手には、一本づつ1メートルはある、長くて太い爪が伸びている熊なのだ。まともにくらえば、腹に穴が開くのは疑いようがない。


「…正直やっかいな相手だが仕方がない。…ハングリーベアは俺が引き連れて相手をする。その間は、お前がフリーウルフ達の相手をするんだ。……出来るか?」


フリーウルフ10体以上を同時に相手か……。アカツキさんがここを離れるなら、オメガ達のスキルを試せるし好都合か。


「大丈夫です。安心して時間を掛けて相手をして来てください!」


「…ずいぶん余裕そうだな……まあいい、そっちは任せるぞ!」


普通なら急いで戻って来てと言う場面で、時間を掛けてくれと言われ疑問に思った。だが、その余裕さを聞いて安心出来たのも事実だった。


そのままアカツキさんはハングリーベアに一撃を喰らわし、追いかけられる様に離れて行った。


「さて、オメガ、ゼロ。実戦でスキルを試してみようか」


そう言うと玲人の手は漆黒の剣に姿を変えた。


「やっと出番か。数百年振りの実戦だ!楽しませて貰うぜ!」


(私も早く新しいスキルを試してみたくて、ウズウズしてたのよね)


どうやら二人共、やる気は十分のようだ。


「まずは、オメガの切れ味から!」


そう言って玲人はフリーウルフの集団に突っ込んでいき、オメガを横に一振りする。


その一撃はナイフよりも軽く振る事ができ、肉を斬る事が出来た。実際振ってみて、オメガの軽さに驚いた。

その重さは鉄のナイフよりも軽く、まるで木の棒を振っているようだったのだ。


「次!ゼロのスキルでフリーウルフを痺れさせて!」


(分かったわ!麻痺させるだけなら、結構広範囲に放てそうだわ)


そう言って左手から放たれた電撃は、6体に当たり、その動きを封じた。

その間にオメガで動ける相手を斬っていった。


「痛っ!?なんだ今の痛みは?」


理由は分からなかったが、剣を振った時に痛みが走ったのだ。


「お、お嬢ちゃん。不味い!骨に当たった時、刃が欠けそうになった!」


「はい!?だってそんなに硬い相手ではないよ?」


僕はオメガが何を言っているのか分からなかった。なにしろフリーウルフは、借りているナイフでもなんとか骨を断つ事が出来るレベルだったからだ。


「ここまで脆くなっているとは予想外すぎる!

…骨に刃が当たった時、確かに軋む音が聞こえた。正直、折れるかもしれん」


オメガが驚いたような声で自分の状態を嘆いていると、


(…貴方、かなりのなまくらじゃない。雑魚モンスターとの戦闘で刃が欠けそうになる魔剣なんて、聞いた事も無いわよ…)


ゼロは呆れるような声で呟いた。


「…仕方がないだろ、俺という存在を維持するのに、攻撃力を削ってきたんだ。お嬢ちゃん!早いうちに俺に鉱石を食わしてくれ!そうすれば、ゼロにあんな風に言われなくて済む!」


ゼロになまくらと言われたのが相当堪えたのか、オメガは泣きつくように懇願して来た。


「ちょっと待って!もしかしてさっきから感じてる痛みって、刃が感じている痛みなの?僕にも痛みが来ているんだけど」


「……融合した影響かもしれないな…」


(貴方がなまくらのせいで、被害者が……)


「なまくらって言うな!!!」


これは鉱石の採取が急務なのは分かったけど、鉱石なんてそうそう手に入らないよ……


今の状態でオメガを使う訳にはいかず、風の魔法で迫って来たフリーウルフを一体倒した。


「オメガ、他に戦い方はないの?」


「…方法はある。お嬢ちゃんの魔力を使って、強度と切れ味を上げる事が出来るのだ。そうすればなんとか保つはずだ」


現状では仕方がないか…


そう思いながらもオメガに魔力を流すイメージをする。その瞬間オメガは淡く光だし、何となく強そうに見えたのだ。


その後は順調に、襲ってくるフリーウルフを全て倒し、麻痺しているフリーウルフの内5体にトドメを刺した。最後の1体はゼロのスキルで倒した。


1体に雷を絞ると、黒こげに出来る程の威力になるか……それにスピードもかなり早いから、並の相手なら動く事も出来ずに倒せるな。

それにオメガもなんとかなりそうだ。


そう考えていると、後ろの方から大きな気配を感じ振り向いて見ると…。


「……まさか、もう1体いるとはね」


そこにはハングリーベアが立っていたのだ。



ハングリーベアがしゃがみ込んだと思ったら、そのまま玲人に向かって突進を行い、爪の射程圏内に入った瞬間、爪を下から突き上げるように攻撃してきた。


「速い!?」


玲人はその爪を警戒していたので、体を捻る事で何とか避ける事ができ、その後交差するように距離を離した。


マジかよ……ホーンラビットとは比較にならない速さだ。


「まあいいや、今回は安全を取ってさっさと倒してしまおう。……オメガ!霧で奴の視界を封じて!」


「お!俺にもスキルを使うチャンスが来たぜ!」


そう言ってオメガから魔力が放たれ、ハングリーベアの顔を中心に黒い霧が現れた。


「ゼロ!雷を!」


かけ声と共に、フリーウルフを黒こげにした雷が大輝の左手から放たれ、相手は避ける事も出来ずに直撃した。


「うゎ~、まだ息があるよ…」


ハングリーベアは大輝の放った雷をまともに受けても、体の各部が焦げた程度で済んでいたのだ。ただ、痺れているようで起き上がる事は出来ないようだ。


(私のスキルもまだまだね。でも、私好みの良いスキルだわ)


「オメガの耐久力には問題があるけど、スキルの黒い霧はいろいろ使えそうだし、ゼロの雷の魔法は攻撃力が段違いだった事も分かったから、今回はこれくらいで終了だね」


そう言って玲人は用心をして、ハングリーベアの爪を切り取ってからトドメを差した。


「あれ?ハングリーベアの爪が消えてない?」


今まで倒したモンスターは、切り落とした所も本体を倒したら一緒に消えてしまっていたのだ。そう思っていると、後ろからアカツキさんが声を掛けてきた。


「おい!大丈夫だったか?」


「ヤバ!?」


その声を聞き、慌ててオメガが姿を消した。


「……だ、大丈夫でしたよ。ここにいたモンスターは全て倒しました」


慌ててそう言って大輝は、手に持っていた物の存在を忘れて振り向いてしまった。


「なに!?お前、その爪はハングリーベアの爪じゃないか!」


し、しまったー!?慌ててたから隠すの忘れてたよ。


「こ、これはそこに落ちていたんです。珍しそうだったから、拾って見ていたんです」


(…厳しい言い訳ね)


自分でも分かっているよ……


「それは生きた状態で、ハングリーベアの爪を切った時に手に入る部位だ。薬の素材にも使えるからザルバに渡せば、治療費を安くしてくれるぞ」


あれ?信じてくれた?


(おそらく嬢ちゃんのレベルと借りてるナイフでは、あの爪は斬れないのだろう。なら持っていても、拾ったと思ったんじゃないか)


なるほど、確かに!


「さて、そろそろ暗くなって来たし、レベルはどうだ?あの大群を倒したんだ。予定に達しているだろう」



天兎 玲人


レベル  1 レベル  7 レベル  5


HP    135 / 135

MP     31 / 191


スキル 同期  ・ 合成術(レベル1)

    半人半魔 ・ 風の初級魔法(レベル2)



うゎ~、レベルが一気に上がっているよ…ハングリーベアってやっぱり強かったんだ……黙っておこう。


「…はい、目標を達成しました!」


「よし!なら帰るぞ。明日は朝から盗賊ギルドに登録しに行くぞ」


そうして二人は町に帰って行った。



「只今帰りました。…マオの様子はどうですか?」


治療所に帰って来て、僕はマオの下へ向かった。


「お、無事に帰って来たか。こっちのお嬢ちゃんは、とりあえず水や流動食は取れるようになったから、すぐに死ぬ事はなくなったぞ」


マオの顔を見てみると、まるで眠っているような穏やかな顔をしていたので、少し安心した。


「…良かった……あ、これお土産です」


そう言って爪を渡した。


「こ、これはハングリーベアの爪じゃないか!どうしたんだ!アカツキが仕留めたのか?」


ザルバはかなり驚いて爪を見ている。


そこまで驚くって事は、結構レアな素材なのかな?


「確かにアカツキさんもハングリーベアを倒しましたが、それは僕が拾った物です。遠慮なく貰ってください」


倒した所は見ていないから、多分だけどね。


「これを買い取れるなら、治療費を一万引いても良いぐらいだ」


一万か、結構な価値だな。


「値引きは必要ありません。その分マオの治療に力を入れてください」


「…手を抜くつもりは全くないが、これは病気ではなく怪我に近いから、時間が掛かるんだ……」


早く治してやりたいんだが…そんなザルバの気持ちがこもっているが、言葉から感じた。


「それは覚悟しています。それにまだお金も用意出来てはいませんし。……それで目安はどれくらいですか?」


焦らせるつもりはないが、せめて治療予定を聞いて起きたい。


「そうだな……順調に行って10日で意識を取り戻す予定だな。早くて確実に治す方法として、〈スライムの雫〉と言う万能薬のレアアイテムが存在するが、普通のスライムを倒してもまず手に入らない。ただ、ガイザースライムと言う、どこにいるか分からないレアスライムが、偶に落とすらしいがな」


そんな噂レベルのモンスターを探しに行く事は出来ないな。


「とりあえず、治療の継続をお願いします。僕は明日、盗賊ギルドに登録して仕事を開始します。

…マオの事を、お願いします」


そう言って頭を下げ、自分の部屋に戻って行った。この日の夜はMPが続く限りカオスの闇魔法を使った。おかげでスキルレベルが2に上がった。




「さあ、出かけるぞ!」


翌朝もアカツキさんの顔を、朝一に見る事になった。


「………おはようございます…」


流石に二回目となると驚く事はなかった。

しかしやはり外は暗い。

こんなに朝早くから、ギルドがやっているのか疑問に思ったが、アカツキさんみたいな人が集まるギルドなら、ありうると納得してしまったのだ。


挨拶を済ました後、アカツキさんに付いて行き、盗賊ギルドに着いたようで足を止めた。


まさに迷路のような裏路地の奥、目の前の気味の悪い建物の二階が、盗賊ギルドらしい。


「……なかなか雰囲気のある場所ですね…」


正直、地球にいた時は絶対近付く事はなく、今でもアカツキさんがいなければ、確実に避けている自信はあった。


「ギルドと言っても用心しとけ。ここは命ですら金で解決する場所だ」


アカツキさんは冗談を言わないからな……マジで警戒はしといた方が良さそうだ!


そうして二人はギルドのある二階に登って行った。


「おや?アカツキじゃないか。どうしたんだい、流石のアンタでも今回の仕事は厳しいかい?」


入り口を入ったすぐの所に、小さなカウンターだけがあり、そこにいた老婆が話し掛けてきたのだ。


「…確かに厳しいな。奴は身の回りの世話には子供しか雇わないから、情報が全く出て来ない。それになかなかの冒険者を雇っているようで、警備も厳重だ」


アカツキさんが苦そうな顔をして話ている。


「アンタがそう言うなら相当のようだね。…それでそこの子を使おうって訳かい。珍しいね、アンタがそんな素人に頼るなんて」


「まあな。…それで、コイツの登録を頼む」


アカツキは玲人を指差し、登録の意志を伝えた。


「………アカツキ、アンタ分かっているんかい?ここは子供が生き残れるような場所じゃないんだよ!それにアンタ!」


カウンターにいる老婆は、静かにアカツキさんに怒っていると思ったら、急にこっちを指差して来た。


「はい、何でしょう?」


「アンタはモンスターや人と戦った事はあるんかい?」


「一応、ありますね」


戦いの定義が互角に近い戦闘なら、ハングリーベアとしか戦ってはいないな。他は余裕があったから一方的だったしなー……


「…煮え切らない返事だね……それで経験はどれくらいなんだい?」


経験?経験値じゃなくて、戦い始めた日数の事かな?


そう考えていると


「一年ぐらいだ!」


アカツキさんが割り込むように答えた。


その回答につい驚いた顔をしてしまい、それを老婆は見逃さなかった。


「…アンタは黙ってな、私はこの子に聞いてるんだ。さあ、正直に答えな」


アカツキさん、嘘をつくなら事前に打ち合わせをしましょうよ………あの目は下手な嘘を言ってもばれるか…


「…一昨日、からです…」


「は~……アカツキ、アンタは冗談を言わないと思っていたが、間違いのようだね」


老婆は呆れるようにため息を吐き、アカツキさんを見損なったと言わんばかりの目で見ている。


「…そう思うだろうから、嘘をついたんだがな。だがオババよ。俺は実力、そして素質を見て判断したんだ。それも見抜けないとは目が衰えたか?」


自信たっぷりに言ってくれるけど、自分では裏社会で生きる素質があるとは思えませんよ~。


「!?……そこまで言うなら試してあげよう。こっちに着いておいで!」


そう言って老婆は裏に歩いて行った。


「俺達も行こう」


アカツキさんが先行して、カウンターの横の扉を開け奥に入って行った。



「さあ、コイツに実力を見せてみな!ただし、この業界では寸止めなんて無いからね。死んでも恨むんじゃないよ!」


カウンターの奥は広いスペースだった。奥の方で待ち構えていた老婆の横には、二十歳ぐらいの少し細めの男が立っていた。

見える範囲で、武器は腰の二本のナイフ。前衛で戦うタイプではなく、スピードを生かした戦いを得意としているように見える。


「いきなり実践ですか!?…出来ればもう少し穏やかな方法で認めてすれませんか?例えばスキルなんかで…」


「アンタのスキルはどれくらいなんだい?」


老婆が返事を返してくれた。これはいけるか!


「風の魔法レベル2です!」


僕の返答を聞いて、額に手を当ててため息をついている。それも二人もだ。


なんでアカツキさんまでため息をつくんですか!


「…アンタ、相当ぬるい所で生活していたようだね。バカ正直に自分のスキルを、そしてそのレベルまで言っちまうなんて、殺して下さいと言っているようなもんだよ!

……アンタはここで楽になった方が幸せかもしれないね。…やってしまいな」


その一言が開始の合図になり、細めの男がナイフを抜きこっちに向かって来た。


「ちょ、ちょっと待ってよ!いきなり過ぎるよ!」


マジで殺す気で向かって来てるよ…勘弁して欲しいな…


玲人は男が繰り出すナイフをかわして、逃げるように距離をあける。


「話合いましょう!殺すだけが解決ではないと思います!」


なおも説得を試みるが、まるで聞く耳を持ってくれない。

男は距離を詰めて二つのナイフで交互に攻めて来るが、その速さはハングリーベアに比べて遅い為、借りているナイフで捌く事が可能ではあった。


「…それなりには、やるようだね。だが人を殺す度胸もない者がこのギルドではやっていけないよ」


「そんな事言ったって、ギルドに入ったら仲間になる人でしょ?そんな人を殺せる訳がないよ!」


「安心しな。そいつはギルドの仲間じゃないからね」


「でも!」


なおも拒み続ける玲人にアカツキが声を掛けた。


「玲人、この試験に合格しなかったら仕事の話は無しだ。そうなればどうなるかは分かるだろう?それに、そいつは人を殺す事を趣味にしている殺人狂だ。ここに連れて来られる前にも1人、子供をいたぶるように殺している。容赦する必要はない!」


「!?……それは本当の事ですか?」


相手の攻撃をナイフで受け、力任せに弾き飛ばして問いかけた。


「ククク、ああ、本当の事だ。ジワジワといたぶっていたら、うるさく泣きやがって居場所がばれちまったんだよ。だが、ちゃんとトドメは差しておいたから安心しな。

ああ、苦しむガキの顔も良かったが、それを見せていた親の顔も最高だったぜ!

……俺はお前を殺せば、逃がしてもらえる事が決まっている。精々、俺を楽しませて死んでくれよ!」


男はその時の事を思い出して笑っていた。


「………親の前で…子供を殺したのか?」


「ああ、親を縛りつけて見せてやったんだよ!やめてくれ、やめてくれと何度も言ってる顔が最高で、興奮していつも以上に念入りに苦しめてしまったよ」


「…そうか、もういい。何も喋るな」


そう静かに玲人は言い、左手を上げた。


「この距離でレベル2の魔法が効くかよ!自分からスキルを教える馬鹿には分からな……な!?……」


玲人は風の魔法を放っている。ただその風の向きは、男から離れる方向に向いているので、何も感じれないのだ。


「どうした?ほら、さっきみたいに話しても良いんだぞ?フフ、急に静かになったね」


僕は薄く笑って男を見ていた。


「な!………い、息…が……出来な…い…」


そう、玲人は男の顔を中心に外に向かって風を流し、真ん中を真空状態に近づけたのだ。


そうして立てなくなった男の目の前まで歩いて行き、見下ろす形で見つめた。


「た……助け…て…」


「苦しいでしょ?レベル2では酸素の量を減らすまでしか出来ないから、楽には出来ないんだよ。ごめんね」


「さ……ん…そ?……」


どうやら酸素の存在は知らないようだ。


「大丈夫だよ。あと、十分もしたら死ねると思うから、今までの事を反省してくださいね」


僕は男に向けて笑顔で教えてあげた。


「!?…じゅ……ぷん…!?」


苦しみながら、更に絶望的な顔をして玲人を見た。


「た……す…け……て」


そう何度も言いながら10分ほど経ち、男は何も言わなくなった。


「終わりか。…ふん!」


動かなくなった男の首を、風の刃で刎ねてトドメを差した。


「……アカツキ、どうやら目が曇っていたのは私の方だった。…本当にアイツは昨日から戦い始めたのか?あの動きを見るだけでも、とても素人には見えなかったぞ」


オババと呼ばれた老婆は、玲人の戦いを見て寒気を感じていたのだ。


「俺が出会ったのは一昨日だから、その前の事は分からん。だが、昨日モンスターと戦わしたがレベルの上がり方は、確かに低レベルの上昇の仕方だった。

……ただ、あいつのレベルの上昇ペースは変だった。1つレベルが上がった時、動きが良くなったがその後すぐにもう一段階、動きが良くなったんだ。そんな間隔でレベルが上がるはずがないが、確かにレベルが上がったような動きだった」


「そんな事はありえないはずだが、…しかし、アイツは何者なんだ。子供のくせになんて残酷な殺し方を思い付くんだ」


2人が歩いて来る玲人に寒気を覚えながら見ていた。


「ふー。…これで登録をしてもらえるのかな?」


?…なんか僕を見る目が変な気がするな?


「…ああ、お前ならこのギルドでやっていけるだろう。…しかしいったいどうやって倒したんだ?風の魔法であんな苦しむ殺し方は想像が出来ないんだが」


オババは風の使い方を理解出来なかったので、玲人に問いかけて来た。


「アイツの顔を中心に風を外に放ち、中心を酸欠状態にしたんだよ」


「酸欠?」


「そっか、酸欠を知らないか…んー、僕達が吸っている空気には酸素があって、それを吸う事で生きていけるんだよ。酸素は消費されるから、周りから酸素が補給出来ない状況を作ったって訳だよ」


大分端折っているけど、嘘は教えていないよな。


「理屈は分からんが、そういう方法で倒せる事は分かった。…それとお前が異世界人だという事も分かったぞ」


「……………」


僕は笑顔を崩さなかったが、冷や汗を流していた。


やっぱりさっきの説明が、致命的に悪かったな。でも、情報収集も仕事の内のギルドだから、すぐに調べられるだろうし、時間の問題だったはず。うん、そう思おう。


「アカツキさん、これで仕事は貰えますね」


僕は逃げるようにアカツキさんの方に振り向いた。


「話をそらしたのは肯定と受け取っておこう」


オババは確信を得たように、ニヤリと笑い僕をを見ていた。


「そうだな、これから仕事の斡旋所に寄った後、屋敷に向かってもらおう。必要な事は着くまでに話す」


そうして二人は盗賊ギルドを出て行き、斡旋所に向かって行った。


僕がやる仕事は、屋敷に住み込みで働き、主の〈イナクス〉が何をやっているかを探る事らしい。

イナクスは身の回りの世話として、10歳前後の女の子しか雇わない。しかし定期的に人を雇っているが、辞めて出て来た者はおらず、聞いても会わせてももらえないのだ。

そして働きに入った子の親が、会わせてもくれない屋敷から、娘を救い出してくれと依頼があり、アカツキさんが受ける事になったのだ。

その子の名前は<ドリー>。年齢は12歳との事だ。


しかし、屋敷の内部事情が全く探れなく、救出作業の為、無理も出来ない。

そこで僕の出番と言う訳だ。今の僕は見た目は10歳ぐらいの女の子、条件は完璧に満たしているはず。


潜伏期間は5日。その間に連れ戻す事が出来なかった時は、アカツキさんが騒ぎを起こすので、それに紛れて脱出する手筈だ。



その他の細かい打ち合わせを終わらせ、僕は屋敷の前に立っていた。





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