3話 身体を鍛えないといけないようです
今回は、周りから玲人を見ると独り言ばかりの話です。
3話 身体を鍛えないといけないようです
物置きの様な建物に、玲人は覚悟を決めて入って行く事にした。
「…失礼します。治療を頼みたいんですけど」
恐る恐る声を掛けたが返事はなかった。しかし、外見と一緒で中もはっきり言って物置だ。
ここが本当に治療所なのかも不安だ。
「今日は留守なのかな?」
「いや、ここはまだ違う。ここから地下に降りた所が治療所だ」
そう言ってアカツキは手慣れた手付きで物をどかし、足元の階段を降りて行った。
なるほど、見つかり難い場所に建てて、更に地下に隠す。二重の警戒って訳か。
階段を降り切った所には、綺麗に掃除されているスペースがあった。1階とのギャップでより、綺麗に見えた。
「おい、ザルバ。病人だ、出てこい!」
地下にあった扉を開けると、アカツキはそう言って声を掛けた。
「…そんなに大声を出さんでも聞こえている。それで患者は誰だ?」
奥から出て来たのは、白衣を着ているが髪はぼさぼさで、身長は170センチぐらいのほどよい筋肉を持っている男だった。
「この子だ。何かの薬を飲まされたようで、意識が戻らないらしい」
ザルバと呼ばれた男は、玲人の前に来てマオの様子を見ていた。
「これは完全に精神と肉体がバラバラにされているな。このままほかって置けば、数日で死ぬな」
サラリと最悪の症状と診断するザルバに、玲人は掴み掛かるように問い詰めた。
「治るのか?治してくれるのか?どうなんだ、ハッキリ言ってくれ!」
「…大丈夫だ。すぐに治るものではないが、十分治療出来る範囲だ」
「…そうか…良かった。…マオ良かったよ」
玲人は治療出来ると聞き、安心したようにマオを見つめてあげた。
「治療費は5万ゼニーだ」
「……5万ゼニーってどれくらいなんだ?…これでいくらぐらいになります?」
玲人はさっきの男達が持っていたお金を取り出してアカツキに見せた。
「これで250ゼニーってところだ」
「これの200倍、か…」
この世界の相場は分からないが、手持ちの資金との差に、少し顔が暗くなったのをザルバが気付いた。
「無理なら帰ってくれ。俺は慈善事業をするつもりはない」
「!?いや、払う。何をしてでも金を稼いで払うから、治療を初めてくれ」
少し弱気になってしまった事に気が付いた玲人は、慌てて気持ちを切り替えてお金を貯める決意をした。
「金は大丈夫だ。ただし、お前が俺の仕事をしっかりこなしてくれれば、…だがな」
アカツキの手伝いをこなせる事が出来れば払える。最初からここまで考えて声を掛けていたのかと思うと、僕には断る選択肢はなかったと言う事か。
「おい、アカツキ!そんな女の子に何をやらせる気だ!奴隷っぽいからと言って汚れ仕事をやらせるのは感心しないぞ!」
見た目と反して意外と常識人のようなザルバは、アカツキに対して怒鳴りつけていた。
「確かに汚れ仕事だが、ほかって置くと人を殺めてでも金を手に入れて来るぞ。それだけの覚悟のある奴だ。しっかりルールを教えてやらなくては、敵が増え過ぎて生きては行けなくなる」
「…まさか既に?」
「ああ、既に3人、もしかしたらそれ以上の人を手に掛けている」
2人の会話は聞こえないがザルバが怒鳴った後、何やら驚いているような顔でこっちを見ている。
いったい何を話しているのかな?まー、マオの治療が出来るなら何でもいいか。
(…それよりオメガ、聞こえるかい?)
玲人は声には出さず、心の中でオメガに問いかけてみる。
(大丈夫だ。聞こえているぞ)
(案外話せるもんだな。それでオメガって外に出て来れるの?)
(ああ何時でも出ていけるぞ。それにどうやら俺も召喚者扱いになったようで、<闇の初級魔法レベル1>黒い霧を自由に操るってのを覚えちまった。俺、剣なのに不思議な事も起こるもんだな)
喋るだけでなく、姿を消せて、魔法まで覚えるなんて既に剣の枠を超え過ぎている気がするが……まあいいか。
(それで魔法に使う魔力はどこから手に入れるんだ?)
(基本は契約者のお嬢ちゃんから分けて貰う形だな。少量なら俺も保持出来るから、平常時に貯めておくのが理想だな)
ん?今、聞き捨てならない言葉があったぞ?
(…オメガ…今、契約者って言わなかったか?)
(そう言ったな。何しろお嬢ちゃんは俺を掴んじまったからな。前の契約者が死んでから次に俺を握った者が、契約者となるんだ)
(普通の武器に契約なんていらないだろ?)
(ハッハッハッ、普通の剣が喋る訳ないだろ。一応俺は魔剣なんて呼ばれていたからな、契約者が必要になるんだ。だが魔剣と言っても、今の俺に攻撃力を期待するなよ。ここ数百年食事をしていないから、攻撃力が下がりっぱなしなんだからな)
……あー、何から突っ込めば良いのか分からない。魔剣?そんな事は初耳だし、自分で普通じゃないと認めてるよ。
(いろいろ言いたいけど、とりあえず食事って何?剣がどうやって、何を食べるの?)
(基本は鉱石だな。材質が硬かったり、魔力が籠っていればなおの事いい。食事は一日三回までで、一度食べたら消化に時間が掛かるから、暫くは食べれない。俺に吸収させようと鉱石を近づければ、消えるように吸収出来るからそうしてくれれば良いぞ)
…成長する武器と思えば良いか。話によると数百年食べないでも、問題はなさそうだから鉱石を手に入れれた時にだけ渡すとするか。
(…それより良いのか?恐らく人を殺める事もある仕事の手伝いだぞ)
オメガの声が心配そうな声に変わった。
(ああ、覚悟はしている。だが、僕が納得しない事なら手伝わないで、マオを連れてここから逃げる。その時はザルバも連れていけば何とかなるだろう)
(お嬢ちゃんが覚悟しているなら構わんが……無理をして、壊れるなよ)
(ありがとう。…それで研究所での事だけど、…)
研究所で現れた人格が何なのかを聞こうとした時、アカツキ達の話は終わりこっちにやって来た。
「待たせたな。さっき言っていた<約束の儀>の準備も整っている。こっちへ来てくれ」
「あ、ああ。分かった」
(オメガ、その話はまた後で)
そうして玲人はアカツキの後を着いて行った。
そこには一枚の魔法陣の様な物が描かれている紙が、机に置いてあるだけだった。
「これが、魔法契約の紙だ。ここと、そこに互いの血を一滴垂らせば約束の儀は終了だ」
言われたままにマオの指先を少し切って血を垂らし、僕も指先を切って血を垂らした。
2人の血が染み込んだ瞬間、魔法陣が光り、紙が燃え上がるのと同時に玲人とマオの手の甲も、火が燃え移ったように燃えているが、不思議と熱さは感じなかった。
少ししたらその火も消え、2人の手の甲には痣の様な魔法陣が浮かびあがって、暫くしたら消えた。
「それは魔力を流せば、また浮かび上がる。これで、離れていても互いの存在を感じる事が出来るはずだ。意識をすれば居場所も分かるから、少しは安心出来るだろう」
「ああ、すまないな。いろいろして貰って」
「なに、お前にはこれからいろいろやって貰うからな。先行投資だと思ってくれればいい」
アカツキは少し笑ったように話をしている。そのまま玲人はザルバの指示の下、マオを連れてベットに運んだ。
「それで僕に何をやらせたいんです」
「まずは<盗賊ギルド>に登録してもらう」
「盗賊ギルド?とはどんな所なんですか?」
確か、地球にいた時に読んだ本では冒険者ギルドとは、町の者の依頼を受けて報酬を貰う場所のはずだ。でも盗賊ギルドとはなんなんだ?
「盗賊ギルドとは、裏の仕事が集まる場所だ。盗み、暗殺、情報収集などが仕事で、お前にやって欲しい仕事は情報収集だ。俺が暗殺の依頼を受けた屋敷に潜入して、事前に情報を集めて欲しいのだ」
「潜入…ですか?でも俺はそんな技量はありませんよ」
僕には天井に隠れたり、気配を消したりする事は出来ないからなー。
「お前に技量は必要ない。ただ使用人として働きに入れば良い」
「使用人って簡単にやれるものじゃないですよね」
「大丈夫だ。その家の者は、他にもお前の様な年の者が何人も雇っている」
今の僕…つまり、そういうのが好きな人って事か。権力を持っているそういう人は怖いな…
「だがその前に、お前にはモンスターと戦ってレベルを上げてもらう。万が一の時に逃げれる実力を、付けておいた方がいいからな。…今のレベルはいくつだ?」
「全てレベル1です」
理由はハッキリしてないけど、レベル欄が3つあるもんなー………言えないけど。
「全て?…まあいい、レベル1のままでは流石に危険だから、明日は俺と町の外へ行くぞ。この辺りのモンスターでそこまで危険な相手はいないから、武器は貸すが俺は手を出すつもりはない。
それと暫くはここで寝てもらう事になった。その方がお前も安心するだろうしな」
武器か…いきなりオメガを出して戦うのは驚くだろうし、武器を貸してくれるならその言葉に甘えよう。
「分かりました。それではまた明日って事ですね」
「ああ、明日の朝迎えにくる。それまではゆっくり休んでおけ。ザルバも頼んだぞ」
そう言ってアカツキは治療所を出て行った。
最後まで足音を聞けなかったな。僕もああならないといけないのかな…多分無理だけど、それをマスターしたら暗殺者みたいなスキルが手に入っちゃいそうだ。
「さて、飯にするか。アカツキがここに連れて来たって事は、外を出歩くのは不味いって事だろ。遠慮はいらん、飯代も治療費に上乗せしてやるから食うぞ」
僕が気まずくならないように、話してくれているのかな?そこまで考えれる人なら、カウンセラーの知識もあるのかもしれないな。…アカツキとは違った所で凄い人なのかも知れないな。
「お金を払うって事なら、遠慮なくいただきます」
そう僕は笑顔で答えた。
「フ、その調子ならまだ大丈夫のようだな」
まだ大丈夫?少し意味が分からないが、まあ安心しているなら気にしないでおこう。
そうして玲人はご飯を食べて、用意された部屋に入って行った。
「さてと…オメガ、出てきて」
ベットに腰をかけてオメガを呼ぶと、その姿が目の前に現れた。
「な!?」
しかしオメガが現れた姿を見て僕は驚き、息を飲む事になる。僕が見た時の形ではなく、失ったはずの右腕が剣のように姿を変えていたのだ。
「久々の外の空気は美味いな……。
………雰囲気を味わっているだけだから、変な突込みはするなよ」
そんな事はどうでもいいよ!
「そ、そんな事より、どうして僕の右腕がオメガになっているの?」
「どうしてって、腕がないと不便だろ?どうせ融合したんだからサービスのようなものだ」
確かに助かるのは確かだけど…
「…この話は置いといて、さっきの話の続きだ。あの時の僕の中から現れた人格は何だったの?」
「…あれは恐らく、お嬢ちゃんが取り込んでしまった、瘴気で出来た人格だろうな」
「取り込んだって、同期のスキルを適当に使った時の黒い奴の事?」
「ああ、あそこは理不尽に呼ばれて捨てられ、死ぬまで放置された者の恨みが充満していたからな。
その恨みで出来た瘴気を、全て吸収した魔族の核が意思を持ち、恨みの統合人格の源でその姿になった原因でもあるのだろう」
あの時の痛みがこの体への変化の痛みだった訳だ。
「そして、あの時お嬢ちゃんが目の前の男達を恨んだ事で、統合人格と意識が同調してしまい。結果、体を使われて全てを破壊しようと思ってしまったと思うぞ」
「なら今後はあまり怒らなければ、大丈夫って事だね」
(それは多分無理ね。貴方は心の奥では人を信じていないもの)
「ちょ!?なんでまた声が聞こえるの?」
突然の声に驚き、ベットから滑り落ちそうになった。
「まったく、やっぱり消えてはいなかったか」
今の声はオメガにも聞こえたようだ。でもどうしてまた聞こえるようになったんだ?
(別に聞こえるようになった訳ではないわ。ただ私が話掛けなかっただけだもの)
えー、そんな理由だったの。でもこんな声が周りにも聞こえたら、気味が悪いって思われちゃうよ。
(気味が悪いなんて失礼しちゃうわね。それに安心しなさい。この声は内側から話しかけているから、外には聞こえないわ。ただ貴方と同化している、そのお節介な剣には聞こえているでしょうけどね)
「お節介は余計だ。大体同化しているのはお前も一緒だろうが。俺の声もお前には聞こえるんだから、その事に関しては言われる筋合いはない!」
(お前、お前って私にも<ゼロ>って名前があるんだから、そう呼んで頂戴)
「えーと、それでゼロの目的ってなんなの?僕の体を乗っ取るのが目的とか?」
(私自身がどうこうする目的なんてないわ。全ての者を恨んでいる意志が、貴方と同調してない時の話し相手みたいな人格ってだけだしね。たださっきみたいに怒りで我を忘れた時に、ブレーキが効かなくなるぐらいの影響しかないわ)
「それが厄介なんだろうが!危うくマオのお嬢ちゃんまで手に掛けるところだったんだぞ!」
(それが私なんだからしかたがないわ。でもあそこまでなって冷静に戻れるなんて、あの子の影響力はなかなかのものね)
「ああなった時にマオに手を出さない協力を、ゼロに頼めないかな?」
正直あの時はゾッとした。もしマオに手を掛けていたらと思うと、思い出すだけで冷や汗が出てくるもんな。
(それは私にも難しいかもしれないわ。それ程眠っている恨みが大きいって事ね。
でも他に標的がいれば、そっちを先に狙うようにする事は可能かもしれないわ。
でも最後には、玲人君本人の意思がないと元には戻れないわよ)
「そう言う事だ。どちらにせよ、お嬢ちゃんの意思しだいで抑える事も可能って事だな」
「僕しだいか…あ!それと僕って元の姿には戻れないの?」
(不可能じゃないわ。ただし、魔力を全身に巡らせて身体強化を図った時に、最適な体になろうとするから、それを維持出来る様になれば大丈夫ね)
「それって元に戻ったとは言わないんじゃ…」
(そうね。既に貴方は私を取り込んで、人ではない別の存在になっているから、完全に戻る方法は知らないわ。もし強引に私を引っこ抜こうとすると、神経とかダメージを受けて良くて一生寝たきり、悪くて死んじゃうと思うから無理は進めないわ」
「まあ、お嬢ちゃんしだいでは、相談役が増えたと思えば良いんじゃないか」
気楽だなー。間違っちゃいないけど、もう少しは深く考えて欲しいところだな。
(それより貴方はまず服装をどうにかしなさい。若い女の子が布を羽織っただけなんて、襲ってくださいと言ってるようなものよ!」
「そう言われても僕はあまり外には出れないし、お金もほとんど持っていないから、どうしようもないよ}
(何を言っているの、貴方の右腕もオメガが作っているんでしょ。それの応用で服を作ればいいから楽勝でしょう?)
「おいおい、俺にそこで振るか。…可能だが、俺は服のデザインなんて出来ないぞ」
(…ならいいわ。イメージは私が送ってあげるから、それに合わせて形を作りなさい)
そんな事が出来るのかは疑問に思ったが、羽織っていた布を目の前に置き様子を見ていた。
僕の体を覆うように光り出し、形が現れていく。
その後黒い光りが収まると、僕の体にはノンスリーブの黒いワンピースのような形をした服を着ていた。
「オメガが剣なのか疑問に思うけど…便利な能力だな」
玲人が感心するように完成したワンピースを見ていた。
「どちらかと言えば、同期のスキルがメインで役に立っているぞ。今のは同期のスキルで融合した俺の形を、ゼロが一部操作したんだからな」
(そう言う事!いくら同じ体にいても同期のスキル無しでは、今みたいな事は出来ないわ)
意味がないと思っていたスキルが、まさかの大活躍だな。
「だがスキルを一度に二つ使うから、効率は良くないがな」
(まあ、多用する事もないでしょうから、そんなに気にする必要はないわ。
さて、私は眠くなったから寝るわ。)
「おーい、核なのに寝るって、なんなの!」
「そうだな、俺も眠くなって来たからな」
そう言ってオメガは姿を消し、右腕が元に戻った。
「お前もかよ!?武器だろ!」
玲人は二人の言葉に、突っ込まずにはいられなかった。
(…私達は話をしてると、内蔵している魔力を消費していくのよ。だから寝る事で魔力の回復をする必要があるの)
「そうだったのか。ごめん、考えもなしに叫んで」
玲人は頭を下げて謝った。
((…チョロいな))
「何?なんか凄い馬鹿にされた気がしたんだけど?」
(気の性よ。それじゃ、おやすみなさい。
あ!?言い忘れてたわ。私も〈雷の初級魔法レベル1〉ってのを、覚えてたから)
「お前もかよ!?勇者召喚が凄いのか、神の恩恵ってのが適当なのか、もう全然分からないよ!」
しかし、ゼロからもオメガからも返事はなかった。
…本当に寝たのかよ………もういいや。僕も寝よ。
そうして三人?は眠りについたのだった。
「おい!何時まで寝ている。出発するぞ」
玲人はその声に気付き、目を開けたら目の前にはアカツキさんの顔があった。その状況に驚き、ベットから落ちてしまった。
「痛っ~」
頭から落ちてしまい、かなり痛い。でもそのお陰で、目はしっかり覚めた。
「アカツキさん、おはようございます」
「目が覚めたなら、早く支度をするがいい。人の目が増える前に町の外まで行くぞ!」
「は、はい!」
でもね、アカツキさん。今の僕は一応、女の子なんですよ。その部屋に気配も足音も消して入って来るのは、どうかなーって思うんですけど。
そう思いながらも、玲人は支度をした。
支度と言っても、昨日作ったワンピースを着て、毛布を畳むだけだけどね。
「お前、そんな服をどこで手に入れた」
アカツキは玲人のワンピースに気付いたようだ。
「昨日の夜に作ってもらいました」
ゼロにだけど。
「そうか、あいつにそんな特技があったとはな」
あ、ザルバさんと勘違いしてる。…ま、いいか。正直に言っても信じてもらえないだろうし。
そうして玲人はアカツキの後ろを付いていき、町の外へ出て行った。
「この辺りには、ホーンラビットやフリーウルフが現れる。武器を持って入れば、1対1ならまず負けないだろうが、油断はしないように」
そう言われ、アカツキから刃渡り30センチぐらいの鉄のナイフを受け取った。
「お前は風の魔法が使えるようだから、危険と思ったら遠慮なく放て!」
「風の魔法で思い出しましたけど、基本の4属性以外のスキルは、どんな物があるんですか?
後、他のスキルを覚える方法はありますか?」
「今は4属性以外はない。…昔は他にも何種類か存在したようだがな。それと他の属性スキルを覚える方法は、ある事はあるが昔に作られた魔導書を手に入れる必要がある。しかし、基本それらは使い捨てだからまず手に入らないがな」
闇と雷は存在しない属性ですか……なら、オメガとゼロのスキルは、アカツキさんの前では使わない方がいいよな。
二人はそんな事を話ながら歩た。傍目から見ると、親子のようにも見えるが、全身黒尽くめの男と黒いワンピースの女の子が歩く姿は、かなり異常な感じだった。
そしてモンスターと出会った。
「あれがホーンラビットだ。頭の角に気をつければ問題ない」
ハッキリ言って角が生えたウサギだ。大きさは50センチぐらいはあるが、角の先は丸みがあるから恐れる必要はないな。
ホーンラビットもこちらに気付き、いきなり向かってきたが、目で追える速さだった。
その動きに合わせてナイフを構えると、自分から斬られに来てそのまま消えてしまった。
アカツキさんも、その調子だと言って誉めてくれた。どうやらレベルの恩恵は、動体視力も良くしてくれたようだ。
そのまま近くにいた二匹も倒した後、頭の中にファンファーレのようなのが聞こえた。
「今の音は?」
「どうやらレベルが上がったようだな」
アカツキさんは急に耳を押さえて、不思議がっている僕を見て、レベルが上がったのを悟ったようだ。
「レベルが上がると、今のような音が聞こえるのだ。しかし、スキルレベルは上がっても何も無いから、必要ならこまめに確認をする事だ」
レベルアップか……ちょっと確認してみるか。
天兎 玲人
レベル 1 レベル 2 レベル 1
HP 41 / 41
MP 68 / 68
スキル 同期 ・ 合成術(レベル1)
半人半魔 ・ 風の初級魔法(レベル2)
おお、しっかり上がるよ。どうやらレベルは表示ミスじゃなく、全て独自のようだな。
それにいつの間にかに、風の初級魔法もレベルアップしてたよ。今日はまだ使って無いから昨日の内に上がってたんだな。
「確認出来たようだな。ならドンドン行くぞ!今日の目標はレベル5だ!」
そう言われ、次々ホーンラビットを狩っていった。
昼過ぎには、僕のレベルはここまで上がった。
天兎 玲人
レベル 1 レベル 3 レベル 2
HP 60 / 60
MP 94 / 94
どうやら右のレベルは上がるのが遅いようだ。
それにしても、左のレベルは上がる気配がまるでないな…
昼食を終え、レベルの上がりが遅く感じてきた事と、僕に余裕を感じたのか、森の方へフリーウルフを狩りに行こうと言ってくれた。
僕はアカツキさんのサポートもあるから、安全と思い頷いた。
この森は〈修練の森〉と言って、召喚された人達のレベルアップの場として活躍しているらしい。
どうやら瘴気の量が多いから、モンスターが次々生まれて来るとの話だった。
森に近づくと、中からは戦いの音が聞こえてきた。他にもレベルアップをしている人がいるようだ。
「先客がいるようだな。鉢合わせになると面倒だから、我々は反対側に向かうとしよう」
しかし、進もうとした瞬間、フリーウルフが3匹現れた。戦闘音にでも釣られたようだ。
「いきなり3匹はキツイな!…先手必勝、〈かまいたち〉!」
玲人は後手に回るのは不利と判断し、すぐに走り寄り風の刃で1匹の足を切り、そのまま無傷のフリーウルフをナイフで首を跳ねた。
突然の攻撃にもう一匹のフリーウルフが逃亡を図ったが、風の塊をぶつけて木に叩きつけ、苦しんでいる所をナイフでトドメを差した。
最後に動けなくなっていた奴にトドメを差して、この戦闘は終了した。
「やはり魔法を操る才能があるようだな。風をそこまで薄く操るなんて、そうは出来んからな。
それに咄嗟の判断と魔法の切り替えもスムーズだった」
アカツキは感謝して玲人を誉めまくった。
「そんなに誉められると、調子に乗っちゃうから止めてください」
なおも誉めようとしていた所を、玲人の言葉に思う所を感じ、口を閉ざした。
「そうだな。技術は凄いがレベル不足で、威力がギリギリの所があった。
風の刃も鋭いという事は、もう少し硬い敵には弾かれる恐れがあるからな。慢心は危険だ」
「そうですね。レベル2の魔法ではこれが限界ですからね」
魔法のレベルアップは今後の課題だけど、モンスターに使う必要はないから、町中で余裕がある時に使っていけばすぐに上がるか。
そう思いながら玲人はレベルアップに励んでいった。