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2話 女の子を保護する事になったようです

2話 女の子を保護する事になったようです


スキンヘッドの男は、殆ど全裸にされてしまった玲人を汚れた布で包み、肩に担いで運んでいる。


「まったくついてないぜ。何時になったら〈コロッセオ〉で闘わせれる駒を、手に入れる事が出来るんだよ」


男はブツブツ愚痴を言いながら歩いていた。目的地は研究所。新薬の実験をしている所だ。


この研究所は人体実験をするために、奴隷や身よりのない子供を買い、実験に使う非人道的な施設なのだ。


男はそこに玲人を売り、お金を手に入れて帰って行った。




玲人は小、中学とイジメに遭っていた。生徒だけではなく、先生も一緒になっていたから救われようがなかったのだ。


高校は県外にしたのでイジメは終わった。しかし、玲人は目立つ事を避ける様になり、友達も作らず1人で本を読むのが日課となっていた。


そんな玲人が本を買いに行った時、今回のトラブルに遭ってしまったのだ。




「………あれ?いったい僕はどうしたんだ?」


目を覚まして見ると、そこは石の壁と鉄格子の誰の目から見ても間違いない牢屋だったのだ。


「ここはいったい?僕はどうしてこんな所に?あれ、右腕もちゃんとある?」


意識を取り戻しても、まだ考えがまとまらない。気を失っていた影響と言うより、いろんな事が起こりすぎて訳が分からないと言った方がよかった。


そう悩んでいると角の方から人の声が聞こえてきた。


「ここは研究所とやらの牢屋じゃ」


声がする方を見て見ると、そこには肩まである白髪で、年齢は10歳に行くか行かないかぐらい、やや吊り目の顔立ちがいい女の子がいた。


「牢屋?」


僕はその意味を理解出来ずにいた。


「お主は先程、男に連れて来られたのじゃ。……それより前を隠さんか!女同士とはいえ、慎みは持つものじゃ」


その言葉に自分の姿を見ると、肩に掛かっていた布が大きく開いており、女の子にしっかり見せている状態だった。


「!?ご、ごめん!」


恥ずかしい~!?。本当の姿じゃないけど、何か恥ずかしいよ……。


玲人は羞恥で顔を真っ赤にして、しゃがみ込んでしまった。


「少し落ち着くのじゃ。安心せい、恥ずかしがる必要がない、綺麗な体じゃったぞ」


「そんなフォローをされたら、余計に恥ずかしいよ…。何でこんなに恥ずかしいか分からないけど、とにかく恥ずかしいと思ってしまうんだよ」


自分で自分の感情がコントロール出来ないよ。いったい僕はどうしちゃったんだ?


しゃがみ込んで更に頭まで抱えてしまった玲人に、フォローが失敗した事が分かり、女の子は頭を掻きながら困っていた。


「えーーい!。これでおあいこじゃ!……そしてこの話は仕舞いじゃ!妾の名は〈マオ〉じゃ。お主の名は?」


マオと名乗った子は、突然自分が羽織っていた布を脱ぎ、頬を赤く染めながら玲人に裸を見せたのだった。


「ちょ!?も、もう分かったから前を隠して!?…僕は天兎 玲人だよ。よく分からないけど、気が付いたら男達が目の前に現れていたんだ…」


慌てて顔を手で被い隠し、マオに隠すように言った。


「アマト レイジ…お主、召喚者か?」


「…なんで召喚者って分かるの?」


自分でもよく分かっていない事を見破ったマオに、玲人は不思議に思った。


「お主はアマト レイジと名乗ったじゃろ。この世界の者は王族か、一部の貴族以外は名前は一つじゃ。妾の名が、マオと言うようにな。お主の様な者がその名を名乗れば、異世界から来た者とすぐに分かってしまうのじゃ」


「なるほど…」


名前一つで身元がばれるのか…今後は気を付けた方がいいな。


「お主はどうせコロッセオで戦わせる駒として呼ばれたのだろう。じゃがその姿ではまともに戦えないと思い、ここに売られてしまったのであろう」


「…確かにそんな事を言ってような…。でも、どうしてそんな事をするんだ?召喚するには大金が掛かるって言ってたのに…」


コロッセオ、その単語を聞いて少し呼ばれた時の会話を思い出した。


「……それを説明するには、この世界の事を少し話さないといかんのぅ。

この世界は昔、魔族とそれを治める強い魔王がおったのじゃ。しかしその魔王に対抗する為に人は勇者召喚を手に入れ、異世界から勇者となるべく者を呼び魔王を倒した。

じゃが、魔王は何十年かののち復活するのじゃ。その都度勇者は召喚された。しかし、数百年前の戦いで魔王の力を8つに封印する事に成功た。その後の魔族は衰退の一方で、今となっては隠れ住んでいる者と、奴隷として飼われている者がおるだけになってしまったのじゃ。

人にとっては平和な時代と言えるのじゃろうな…」


「その事と、コロッセオがどう関係するの?」


「元々コロッセオは魔王に対抗する人材の育成用の施設じゃった。しかし、魔王や魔族の衰退でその意味をなくし、奴隷を戦わせて賭けをする、娯楽施設と変わってしまったのじゃ。そして、その戦わせる奴隷の持ち主は、勝てば賞金が貰えるので奴隷を鍛えた。

…しかし1人が勇者召喚を使い、神の加護を得た者を奴隷にして戦わせた事を皮切りに、全ての者が勇者召喚で奴隷を得る事をしたのじゃ。

この世界の奴隷と、神の加護を得た奴隷とでは実力が段違いじゃ。皆が競って勇者召喚を行うのも納得のいく話じゃ。そしてその中の1人がお主と言う訳じゃ」


「……………」


娯楽の為に人を奴隷として、戦いを強要するなんて。


「奴隷が当たり前に認められる制度では、金で人や魔族の者を売り買いするのが当たり前となり、妾も森で捕まり、ここに売られてしまったと言う訳なのじゃ。妾も馬鹿じゃった。力もないのに1人で居ればこうなる事も容易く想像が付きそうなものを」


マオは自分の行動を思い出し、苦笑を浮かべながら玲人の方を見て話してくれた。


「…マオの両親や知り合いとかは探したりしてくれないの?」


まだ子供の様だから、親は心配して探しまわってるよな?


「妾に両親はおらぬ。ずっと昔に人に殺されてしまっておる。…知り合いも多分、一緒に殺されておるじゃろうな…」


そう遠くを見るような目で、昔を思い出しているようだ。


両親に知り合いまで殺されて、1人の所を今度は自分が売られた。よくそんな経験をして自暴自棄にならないでいられるな。


「…人を怨んではいないの?」


「そうじゃのぅ。怨んでないと言えば嘘になるじゃろう。じゃがその者もずっと前に死んでおる。全ての人がそんな者ばかりではない事は分かっておるから、運が悪かったと諦めるしかないのじゃよ」


希望と悲しみを持った状態で、マオ自身も揺れ動いているのが分かる。


だけど僕は納得がいかない。殺された方が運が悪いで済ませるなんて間違ってる。


「さあ、この話は終わりじゃ。それよりお主は召喚されて来たのじゃろ?なら何かの属性の魔法を授かっておるはずじゃ。確か、ステータスと念じれば表示されたカードが浮かんでくるはずじゃ」


そこはエルディアと一緒なのか。どこの世界でも勇者召喚の技術は同じなのかな?


そう思いながら玲人はステータスを確認してみる。


天兎 玲人


レベル  1  レベル  1  レベル 1


HP   25 / 32

MP   52 / 52


スキル 同期   ・ 合成術(レベル1)

    半人半魔 ・ 風の初級魔法(レベル1)



あれ?スキルが増えているのは分かるけど、スキルにレベル表示があるぞ?それに何、このレベルの数は?なんで三つもあるの?


それに半人半魔ってなんだよ。


半人半魔  『使用MP   ・・・ 瘴気を取り込む事で上がるレベルを得る。大量の瘴気を取り込み、魔族の核を製造する事に成功した者が得る事が出来る』


風の初級魔法  『使用MP 3 ・・・ レベルに応じた風の量を操れる事が出来る』


合成術  『使用MP レベル ・・・ レベルに応じた金属を合成、加工する事が出来る。レベル以上の金属の合成を行う時は錬成陣が必要となる』


ああ、どこで瘴気を取り込んだって言うんだ?

それに風の初級魔法…これがこの世界に呼ばれた時に貰える恩恵って奴かな。

最後に合成術のスキルの内容が変わっているよ。元々は銅の加工までしか出来なかった、微妙なスキルだから良い事かな?使用MPがレベルって事は、レベルが上がれば使用MPも上がるって事だろうな。


「どうじゃ?基本となる属性は火、水、風、土の四属性じゃ」


「僕のスキルは風の初級魔法レベル1だったよ。それで、レベルって何?」


「スキルのレベルは使用すれば上がって行く、強さの目安じゃ。確か、レベルが20を超えると中級の魔法が覚えれるはずじゃ」


なるほど、エルグラウンのスキルはレベルがあるのか。もしかしたら、その影響がエルディアで得た錬金術にも出ているのかもしれないな。


「そう言えば魔法ってどうやって使うの?」


説明にも風を操れるとしか書いてないし、意味が分からないよな。


「魔法は魔力を手などに集めて、起こしたい現象をイメージすれば発動するのじゃ。風なら薄い刃のようにして物を切ったり、塊にして相手にぶつけたりと、使用者のイメージがそのまま形になる。もちろんイメージが鮮明なほど威力は上がるし、複雑な事も可能となるのじゃ」


マオは指で地面に絵を描きながら、大輝に説明をしてくれた。


「なるほどね。なら試しに<かまいたち>!」


玲人は牢屋の鉄格子を斬り裂くように、風を刃に見立てて放ったが弾かれてしまった。


「駄目か…。上手く行けば、ここから脱出が出来ると思ったんだけどな…」


「いや、教えてすぐに、刃を作れるとは思わなんだぞ。普通は風を集めるイメージだけでも大変なんじゃぞ」


マオは感心するように腕を組んで驚いていた。


イメージか、1人で本を読む時間が長かったから想像力が上がっているのかな?


「でも鉄格子は切れなかったよ。レベルが上がれば切れるようになるのかな」


「確かにレベルが上がれば可能じゃろうが、妾達は売られて来たのじゃから、いつまでこの命があるかは分からんぞ」


マオは少し暗くなった顔で、玲人に現実を伝えた。


「…そうだね。でも何日かあれば、もしかしたら切れるようになるレベルまで、上がるかも知れないから挑戦してみるよ」


そう簡単に諦めたくはない。こんな所に売られて、そんな人の言いなりにはなりたくないしね。


とりあえずは、判明し難い角の鉄格子に狙いを絞るか。


そう思い風の刃を鉄格子に放ち続ける。鉄格子はビクともしないが、トータル18回目の魔法を使った時、体に異常が起こった。


急に眩暈のように視界が周り、立ってはいられなくなってしまった。


「な、なにが?」


その様子を見ていたマオが原因を教えてくれた。


「…お主、魔法を限界以上に使ったな。魔法は精神の力じゃ。MP以上の魔法を使ったり、急に大量の魔力を消費すれば精神衰弱を起こし倒れてしまうのじゃ。…なに、安心せい。少しの間気を失い、魔力がある程度回復すれば気が付くからのぅ」


「そういう事は先に教えてよ……」


そう言いながら、もう体を支える事も出来ず、僕の意識は闇の中に落ちようとしていた。


「…すまぬのう。ここは研究所との話じゃから、もし妾達の内1人が実験に使われる時…今のお主なら選ばれぬであろう。安心して眠るがよい……」


そんな!?マオはここの事を知っていてあえて言わなかったって事?…駄目だ!僕も戦うから、諦めちゃ……


そう思っていても精神衰弱からは、逃れる事は出来ず意識を失ってしまった。




「ああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


「うるさい!静かにしろ!」


「あああああああああああ!!!!!」


「もう飲ませる物は飲ませた。さっさと口をふさげ!うるさくて敵わんわ」


玲人の意識はマオのと思われる声で、急に覚醒した。


「あああああああああ!!!!!」


マオの周りに3人の男がおり、何やら飲ませたのであろう空の瓶を手に持っていた。

そしてマオは椅子に暴れようとする手足を縛られ、目を見開き、涙を流しなら苦痛の表情で叫んでいる。


「いったいマオに何をしたんだ!」


意識を取り戻したがまだ体は動かない。僕に出来る事は顔を上げて男達を睨みつける事しか出来なかった。

男はマオの声がうるさかったのか、口に布で猿ぐつわを作って、黙らせようとしていた。


「マオが苦しんでいるじゃないか!さっさと治療しろよ!」


体は寝たままだが出来るだけ大きな声で男に叫んだ。


「治療も何も、これは実験だよ。子供の奴隷の身体を強化して、更に戦える大人に急成長させる為のね」


「実験?」


「そう、毎回金と魔力の掛かる召喚を行わないでも、その辺の奴隷を使えれば安く済むと言う発想から生まれた実験だよ」


男はにたにた笑いながら玲人に説明をしていく。


「そんな横暴が許される訳がないだろう!それに同じ人間じゃないか!」


「横暴?同じ?何を言っているんだね。お前達は金で売られて来た奴隷じゃないか。所謂、消耗品と言うやつだよ。そんな物を使うのに誰の許しが必要だと言うのかね」


「馬鹿な!?相手は子供だぞ!」


玲人の怒りはドンドン上がって行くが、精神衰弱の影響か未だに動いてはくれない。


「子供だから安く買えるんじゃないか。それにこれはお前は精神衰弱を起こしているから、自分が実験を受けると言ったんだぞ。すなわちお前の性でこうなってると言っても良いんじゃないか?」


ニヤニヤしながら、まるで苦しむのを分かっているように、男は実験までの経緯を玲人に話してきた。


「僕を庇う為に……」


その言葉を聞いて愕然とした。さっき出会ったばっかりなのに、俺より小さい子なのに庇って実験の対象になるなんて。


「これの実験が終わったら、次はお前だから無駄な足掻きだろうがな。ハハハハハ」


殴りたい!今すぐ起き上がって殴りつけたい!……いや、殴るだけじゃ収まらない、殺してしまいたい!


玲人の感情が負の感情でいっぱいになっていく。


その時、玲人の胸が熱くなっていき、ここにはいない女性の声が聞こえて来た。


(なら恨みのまま、全てを壊してしまいましょう!)


「な!?」


その声が聞こえた時、玲人の意識とは別に体が動き始めた。


「なんだ?動けるようになったのか?だが安心しろ、次の実験はまた後日だ。今日の失敗でまた改良する為に時間が必要だからな」


失敗?マオへの実験が失敗?


男の言葉が聞こえ、体は動かないが視界に入っているマオの姿は確認出来た。既に体に力が入ってなく、目は開いているが輝きはなく焦点も合っていない、顔には涙の後だけがハッキリと残っていた。


その姿を認識した瞬間、体は抵抗もなく動き始めた。まるで息をするように風の魔法を使い、目の前にいた男を真っ二つにしてしまった。

その突然の異変に残りの男達も驚いて、動きを止めてしまっている。


「逃げないの?いい子ね。ご褒美に首を刎ねてあげるわ」


玲人とは別の女性の色香を振りまくような声で、男達に語り掛けている。


これが人のやる事か。憎い、全てが憎い、全てを壊してやる!


玲人の意識は表面には出ていない。しかし、怨む気持ちは同調しているようで、目の前の男に向けて魔法を放っていく。

その瞬間、残りの男達の首は胴から切り離されてしまった。


そしてその視線はマオにまで手を掛けようと向いた。



一歩、また一歩と歩みより、目の前でマオにまで魔法を放とうとした時、聞き覚えのある声が玲人の中から聞こえてきた。


「おい!お嬢ちゃん!意識をハッキリ持て!そのままだと、マオのお嬢ちゃんまで手に掛ける事になるぞ!」


その声を聞いて、一瞬玲人の動きが止まる。


「お前が怒ったのは、マオのお嬢ちゃんに対する物だったんだろ?そのお前が手を出してどうするんだ!」


「……オメガ?」


玲人は思いだしたように声を出した。


「ああ、俺だ。オメガだ。今まで姿を隠す為に、お嬢ちゃんの体の中に同化していたんだ。意識を取り戻したなら、まずはその手を下げろ。マオのお嬢ちゃんを殺すつもりか」


オメガの言葉に、自分が今何をしようとしていたかを理解した。


「…そんな、なんで僕はマオにまで手を掛けようとしているんだ…」


慌てて手を戻し、自分の手を見つめている。


「理由はなんとなくだが分かる。だが今はマオのお嬢ちゃんを連れてここから逃げるんだ」


「あ、ああ」


牢屋の鍵は開いていたのでマオの拘束を解き、背負って研究所から脱出し始めた。


しかし早速、問題が発生した。


「道が分からない。オメガ、僕の体の中から道を見ていないかい?」


「残念だが分からない。適当に上の方へ上がって行き、窓を見付けたらそこから覗いて外への方向を知るしかないな」


そうか、ここには窓がないって事は、地下にいる可能性が高い。ならまずは上を目指すのが先決か。


そう思い階段を探して上に上がって行った。

5階分ぐらいの階段を上がった時、初めて外への窓を見付ける事が出来た。外を見てみると、そこは町の中ですぐそばには飲食店もあった。しかし既に夜が遅いのか客の数は少なく、遠くに見える光も疎らだった。

窓から見た感じでは、ここは2階ぐらいに当たりそうな高さだったので、急いで引き返し外への扉を探そうとした。

そんな時、地下の方で騒ぎ声が聞こえて来た。


どうやら死体が見つかったみたいだな。急いでこの建物から出ないと危ないな。


1階に戻ってからは割とすぐに扉は見付けれたので、風の魔法でカギを壊し外へ駆けだして行き、少しでも離れようと息が続く限り走った。



「ハァハァ、…ここまで逃げてくれば、もう大丈夫かな?」


玲人達は建物との間のうす暗い所に身を隠した。2人の服装は布を羽織っただけの粗末な物で、汚れも手伝って浮浪者にしか見えなかった。


「まー暫くは大丈夫だろう。だが、ここまで来る間にいろいろな人に見られているから、息が整ったらまた移動した方がいいだろう」


確かに、粗末な布を羽織っただけの姿は目立つよな。


オメガの意見に賛同して、息が整うまでの時間にマオの様子を見てみた。

目は開いているが、体には力が入っておらず、手を離せばそのまま倒れてしまう状態だった。でも息はしているので、死んではいないようだ。


「……これは不味いな。薬の影響か意識が覚醒する様子がまるでない。この状態が続くと栄養失調か脱水症状で死んでしまうぞ」


マオは何とか息をしているだけの状態なので、とてもじゃないが水や食料を取れそうにはないのだ。


「オメガはこんな症状の人を治す方法を知らないか?」


「俺はこの世界の住人じゃないから、どんな薬があるか想像もつかねえ。悪いがお嬢ちゃんと変わらない知識しかないんだ」


そう、玲人は地球から、オメガはエルディアからと、2人共ここではない異世界から来ているので治療の方法が検討も着かないのだ。


お金もないし、あったとしてもこの世界に病院があるとも限らない。…どうすればいいんだ。


そんな時、人相の悪そうな男達が玲人達を見付けてよってきた。


「おいおい、こんな所に女の子が来たら危ないよ。お兄さん達みたいな人に捕まっちゃうよ」


「ハハハハハ、自分で言うなよ。それにしても結構な上玉だな」


男は玲人達の価値を鑑定するように見ていた。


「恰好からしてもどこかの奴隷が逃げて来たって所か。なら俺達が頂いても文句は言われないな」


3人はもう玲人達を自分達の物のように話を始めていた。


「すみません。連れの意識が戻らないんです。治療所か薬などありましたら貰う事は出来ないでしょうか?…どうかお願いします」


藁にもすがる気持ちで玲人はこの男達に頭を下げて頼み込んだ。


「なんだ、1人は壊れているのか。しゃあないな1人だけ持って売りに行くか?」


「そうだな、あんなの持って行っても買い手なんかいないだろうし無駄な労力になっちまう」


「どうせほかって置いても死ぬだけだし、元気の良い方だけで良いだろう」


男達はあっさりマオを見捨てる話を始めた。その言葉を聞いて、玲人はスッと表情を凍らせた。


…この人達も同じか。


ニヤニヤしながら寄って来た男達に、玲人は表情を凍らせた状態で顔を上げた。その表情は当人以外が見れば美しい、可憐な笑顔だっただろう。

しかし、その目は笑っておらず、まるでゴミを見るような感情のこもっていない目を、月明かりでハッキリ見えた時、男達は背中に寒気を感じて動きを止めた。


死を予感させられた男達は、逃げようと思ったが既に遅かった。玲人が手を横に振ったのと同時に、男達の命も終わっていたのだ。


そのまま玲人は男達からお金を奪い、その場から離れようとした。



「なかなかの筋が良いな」


マオを背負おうと後ろを向いていた玲人は突然話掛けられた。


「誰だ!?」


慌てて後ろを向いた玲人の視線の先には、さっきまで気が付かなかったのが不思議な位置に立っている黒尽くめの男がいた。

黒尽くめの男は先ほどの3人のすぐ後ろの、月明かりが切れている境目に立っていたのだ。


馬鹿な!?あそこならさっきから視界に入っていたはずだ。なぜ気が付かなかった。


「もう一度聞く、誰だ?」


玲人は仕掛けて来るなら容赦はしない覚悟で話た。


「うむ、良い殺気だ。とてもお前の様な子供の殺気とは思えない」


黒尽くめの男は感心するように玲人を褒めてきた。


「質問に答えろ!僕には時間がないんだ。邪魔をするつもりなら容赦はしないぞ」


そう言って玲人は右手を前に向けた。


「まあ待て、その子の治療方法に心当たりがある…と言ったらどうだ?」


「何!?それは本当の事か?」


玲人の出していた右手が大きく揺れるほどの、明らかな動揺が生まれた。


「そんな簡単に、相手に弱みを見せるのは感心しないが、……その治療法に心当たりがあるのは事実だ」


黒尽くめの男は動こうともせずに、ただ玲人の目を見つめている。


「…分かった、お前の話を聞こう。それで僕に何をして欲しいんだ?」


玲人は諦めたように向けていた手を下げ、話を聞く体勢に入った。


「ふ、話が早くて助かる。まずは場所を変えよう。ここはその内騒ぎになる」


黒尽くめの後ろを着いていくように歩いていくが、その道は裏道から裏道へと町を知り尽くしていないと必ず迷うような道であった。それにその歩き方も特徴的で、足音がしないのはもちろん、足跡すら付けずに進んで行くのだから、その道のプロという事は疑いようがない事だった。


「それでどこまで行けば良いんだ?」


既に30分以上は歩いていたので聞く事にした。


「まずはその子を、信用出来る治療所に連れていく。仕事をして貰うのに抱えたままでは困るのでな」


「その治療所が信用できる保証はあるのか?」


マオを人質にでもされたら、たまったもんじゃないからな。


「それは信用して貰うしかないな。だが、1つだけ離れていても安否を確認出来る方法はあるがな」


男は決して歩みを止めないが、質問には答えてくれる。


「その方法とは?」


「<約束の儀>、そう呼ばれる魔法契約の一種だ。離れていてもその安否を確認し合える紋章が手の平に浮かび上がり、その形で相手の状態が分かると言う物だ」


「それは簡単に出来るものなのか?」


「ああ、普通に売っている魔法契約書に、互いの血を一滴づつたらすだけで終わりだ」


「……分かった。それを頼む。それとあんたの事は何と呼べばいい?僕は玲人と呼んでくれればいい」


玲人の話を聞いて、男は歩みを止めて振り返った。


「…今後、自分の名前は正直に言わない方がいい。名前を知られるだけで呪いに掛けたりする事も出来るからな」


「……名前から掛ける呪いとはどのような方法のものなんだ?」


「呪いの魔法陣があり、そこに相手の名前を書くと魔法陣の種類による呪いが発動する」


その事を聞き大輝は少し考えてから、また1つ質問をした。


「名前を書くと言ったが、それは正確に書かないと発動しないものなのか?」


「ああ、そうだ」


「…なら大丈夫だ。僕は異世界人、僕の名前を書くには僕達の世界の言葉を、知らなくてはならないからな」


玲人のさりげないカミングアウトに、男は少し肩を揺らし驚いたようだった。


今のは驚いたのかな?なら一本返した気分だな。


その表情を読んだのか、男はすぐに前を見てしまった。


「なるほど、異世界人だったか。なら、少しは安心か。…だがどこで広がるか分からないから、用心だけはしておけ」


「ああ、忠告感謝する」


「それと俺の事は<アカツキ>と呼んでくれて構わない」



そしてもう暫く歩いた所で歩みが止まり。


「ここが俺が世話になっている治療所だ。見た目は悪いが腕は良く、口は堅い奴だから安心出来る所だ」


「ここが…」


そこはまさに建物の影にある、三畳ぐらいの小さな物置きの様な所だった。知っていても辿り着けるか分からないほど、入り組んだ所の隅に建っていたのだ。


そんな建物を見て、少し不安になる玲人だった。


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