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第3話 美しき黄金の薔薇

 帝都1番街、王城にほど近い場所にある中央司令部の廊下を女が歩いていた。

 金糸のような髪を一つに纏め、怜悧な美貌は鋭いアイスブルーの瞳を際だたせている。

 がっしりとしながらも女性らしさを失わない肢体を包むのは皇帝直属騎士団を示す濃紺の制服、胸元につけられた階級章には第6部隊隊長と明記してある。

 女は眉間にシワを寄せ何かを思案している。



――諸君もすでに聞き及んでいるかと思うが、現在帝都で起きている連続殺人事件は同一犯の犯行であると判明した。

 さらにこの件には能力者が絡んでいる可能性がある。

 警察のみでは危険と判断し、我々騎士団も捜査に参加することが決定した。

 今回は第6部隊に出動してもらう。いいな、エルサ・ミルヴェーデン隊長―――



「……市井の雑用が女のわたしには似合いとでもいうのか」


 先ほどの会議の内容を思い出し歯噛みする。

 皇帝直属騎士団は8つの部隊からなり、数字が大きくなるほど末端の扱いをされる。

 第7、8部隊を差し置いて帝都の治安維持のために第6部隊が駆り出された裏側には、女の身でありながら若くして隊長に収まったエルサへの軽視があるのだろう。


「隊長」


 聞き慣れた声に振り返れば、明るい茶髪を跳ねさせた若い男。

 1年前第6部隊に入隊したリベラート・アンジェロだ。

 詰め所で待機を命じたはずだが、帰りが遅いので出てきたのだろう。

 髪の毛の色も相まってまるで忠犬のようなその姿に、かつての自分を見ているような錯覚に陥り小さく嘆息する。


「会議の結果は?」


「お前も予想はついているのだろう?あの老害ども、裏で手を回したな。今回の件で出動するのは第6部隊のみだ」


「第7、8部隊は?」


「陛下のお膝元の狼藉にあまり下っ端を出すわけにはいかないということだ」


「そんな…」


「陛下引いては国民を守ることが我々の存在意義だ。例えそれが内からの脅威であろうとな。これから帝都の警察と合同会議を開く。手を抜くなよ」


不満そうな顔をするリベラートの肩を叩き、エルサは第6部隊の詰め所へ向かった。














 帝都3番街警視庁。

 とある会議室。

 机とホワイトボードぐらいしかない簡素な部屋で第6部隊隊長と副隊長は、帝都連続殺人事件の捜査本部と向き合っていた。

 副隊長であるジャミヤン・オゼロフは2メートルを超えるスキンヘッドの大男で、その厳つい顔と筋骨隆々な身体は正に典型的な軍人の様を表している。

 だがそんな見た目とは対照的に情報戦にも長けるジャミヤンは部隊の参謀役を担っている。


「はじめまして。私が第6部隊隊長、エルサ・ミルヴェーデンだ」


「警部補のパーシヴァル・トウニーです。いやはや、皇帝直属騎士団唯一の花に会えて光栄ですよ」


 エルサと握手を交わす初老にさしかかった男。

 色の褪せた金髪を後ろに撫でつけているが、そのくたびれた背広に包まれた体は年のわりに引き締まり、碧眼も光を失っていない。


「その呼び方嫌いでな。今後私との良好な関係を望むのならやめていただこう」


 騎士団唯一の花。

 その呼び名はエルサが隊長に就任した際まことしやかにつけられたあだ名だ。

 その美貌と女であることを揶揄したあだ名をエルサは心底嫌悪しているのだ。


「それは失礼。直接みるとあまりにも美しかったものですからな」


 エルサの眉がしかめられ、目に見えない怒気が立ち上がる。

 パーシヴァルの後ろに控える部下らしき男たちが怒気にたじろぐが、パーシヴァル本人は柳のように飄々と笑っている。


「ではまず連続殺人事件のこれまでの進展をお話しましょう」


 そういって目配せをすると、ホワイトボードに帝都の地図が貼られ、エルサ達に被害者の解剖結果などの資料が渡される。


「事件は7件、主に3番街以下の民間街で起きています。犯行は夜間、人気のない裏路地などで行われています。殺害方法はサーベルなどの曲刀での斬殺、時に首の骨を折っての窒息死などがあります。被害者のあいだに関連性はなく、唯一の共通項は」


「身体のどこかしらに逆十字の痣があることか」


「はい、そして首に残った痣の形を調べたところ」


 いったん言葉を切る。


「12歳前後の子供であることがわかりました」


子供という単語にエルサの眉が跳ね、ジャミヤンが眉をひそめる。


「間違いという可能性は?」


「わたしも間違いであって欲しいですがね。首に残った手の痣の形から年齢を割り出したらしいですから誤差は大してないでしょう」


「では、12歳前後の子供が人間の首を素手で折っているというのか?」


「悪夢のような話ですがね」


地図につけられた赤い丸、おそらく現場の場所であろう数を見てパーシヴァルはため息をついた。


「どうやら犯人も能力者絡みのようですな」


ジャミヤンが耳元で囁いた言葉に小さく頷くことで同意する。


「それと、犯人は複数犯の可能性があります。これだけの犯行を重ねながら目撃者は0。実行犯が子供ということもあり、おそらく組織だったものの犯行でしょう」


「組織の犯行か……。それはそれで矛盾を感じるな。組織とは本来利益を出すために結成するものだ。資料を見る限り、所持金などには手をつけておらず物取りの線は薄いとある。ならば無差別殺人など害はあっても利はあるまい。まあ、能力者を疎ましがってるというのなら話は変わってくるがな」


「どちらにせよ、頭が痛いですな」


 つまりは、一般には公開されてない能力者の情報が漏れているということである。

 会議室が重苦しい空気に包まれる中、失礼しますと言って男が入ってくる。そして、パーシヴァルに2、3言囁くと、入って来たとき同様、失礼しましたと言ってでていった。


「失礼、昨夜3番街で殺人事件が起きたものでしてな。慌ただしいのですよ」


「3番街の殺人事件?」


「ええ、最近商人として名をあげてきたヴァシィル・ベルトランが家族、使用人ともども惨殺されましてな。そっちの調査にも追われているのですよ。まあこちらは犯罪組織の小競り合いに巻き込まれただけのようですがね。まったく、人手不足はどこも深刻ですな」


言外に忙しいから早くしろという意志を汲み取り、エルサは話を続ける。


「ここからが本題だが、今後の捜査態勢について議論したい。騎士団と警察では動き方も変わってくるだろう。ここは独自の捜査を行うというのでいいだろうか」


「そうですね。そのほうがお互い都合もいいでしょう」


わざとらしい含みのある言い方をエルサは鼻で笑う


「では今後は現場と定期会議のみの付き合いになるが、この事件の早期解決を祈る。いくぞオゼロフ、トウニー警部補殿はお忙しいらしい」


「御意」


「ええ、ではまた定期会議の日程は後々打ち合わせということで。お互いの健闘を祈りましょう」


薄っぺらい笑顔に見送られ、エルサ達は会議室をでた。


「……この件、どうも臭いな」


エルサの空気に溶けるような呟きに、ジャミヤンは沈黙をもって是と答えた。





 現段階で主人公の名前がでてないことにわたしが一番びっくりしてます。

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