片膝をつくわけ
応接室の中には、一人の青年がいた。ティーカップを優雅な仕草で口に運んでいる。セルジュの姿に気がついた青年は持っていたカップを机に置き、片膝をついて礼をした。流れるように優雅な動きとその優雅さを一層引き立てている赤みがかった茶色の髪に、セルジュは一瞬見惚れたが、我に返り慌てて静止する。
「か、顔を上げてください。僕はただの養子ですから。」
セルジュの言葉に青年は少し困ったような顔をしたが、言われた通りに立ち上がる。その様子に、セルジュは以前のフォールの姿を重ねていた。
もうずっと前、セルジュがまだ幼かった頃。フォールはいつもセルジュに対して、片膝をついて挨拶をしていた。幼いながらに何だか敬遠されているような気分になったセルジュは、フォールにそれは止めて欲しいと言ったのだ。その時のフォールも今の青年のように困ったような顔をしていた。それから何度も何度も言い続け、普通に挨拶をしてくれるようにはなったが。
「・・・セルジュ様?」
セルジュがそんな事を思い返していると、不意に青年から声を掛けられた。その声に我に返ったセルジュは慌てて返事をする。その慌てぶりに、青年は少しだけほほ笑んだ。
「まだ、ご挨拶をしていませんでしたよね。私はルマインと申します。フォール様の側近を勤めさせていただいている者です。これから、どうぞよろしくお願いいたします。」
青年、ルマインはそう言い再び片膝をついた。止めようとすると、これは礼儀ですからと言われしぶしぶ納得する。
「ルマイン様。遅れてしまって本当に申し訳ございません。」
セルジュは言いそびれていた事を思い出し、謝った。しかし、ルマインは
「いえ、全然お気になさらなくて結構ですよ。それ程待ってもおりませんしね。それに宮殿はいろいろと忙しいので、フォール様にゆっくりしてきてくれと言われておりますから。」
と笑顔で答える。その答えが自分を安心させるために言った言葉だと分かりつつも、セルジュは少し安堵した。
「そう言えば手が離せない状況だとフォール様がおっしゃっていましたけれど、宮殿で何かあったのですか?」
ふと思った疑問を口にしてみると、ルマインはそれは、まぁ、その・・・と曖昧に答える。何かを隠している事は明白だったが、言いにくそうにしていたのでそれ以上は何も言わずにしておく事にした。
「そ、それより、そろそろ宮殿に向かいましょうか。今ならフォール様は休憩中のはずですし。」
話題を切り替えるかのようにルマインはセルジュに向って言った。セルジュとしても忙しそうにしていたフォールの事を考えると、仕事の邪魔にはならないようにしたいと思っていたので異論はなかった。
「そうですね、仕事の邪魔はしたくありませんし。休息を邪魔するのも気が引けますが、そちらの方がフォール様のご迷惑にはならないはずですから。」
お読み下さり、ありがとうございます!
まだ、まったくといっていいほど話の核心に触れられていません・・・。
少しずつですが、更新していきたいと思います。
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