睡魔には勝てない
扉を叩く音が近くで聞こえる。その音に安眠を妨げられたセルジュはぼんやりとしたまま起き上がった。だが、意識は完全に眠ったままである。その間にも扉を叩く音は鳴り止まない。しばらくそのままの状態でいると、自分の名を呼ばれたような気がした。とりあえず返事はしたものの、寝起きという事もありかなり不機嫌そうな声になる。事実、不機嫌ではあったのだが。その声のせいなのか、扉を叩いていた音が一瞬止まる。怖がらせたか?と苦笑しながらセルジュは返事をし直した。
「あ、あの・・・。宮殿から使いの方がいらっしゃっているのですが・・・。」
先程の不機嫌そうな声がまだ尾を引いているのか、恐る恐るといった感じで使用人は用件を伝える。扉越しに伝えられたその言葉に、セルジュの眠気は一気に覚めた。慌てて飛び起き、勢いよく扉を開けると、驚いた顔をしている使用人の姿。
「い、いつ頃いらっしゃったのですか?」
そんな使用人の様子にはお構いなく、セルジュは質問する。いつもの彼ならば怖がらせてしまったことや驚かせてしまったことを謝るが、今はそれどころではないようだ。
「じゅ、十分程前だったと思いま―」
使用人の言葉を最後まで聞かず、セルジュは礼を言って走り出す。いつもの穏和なセルジュからは想像の出来ないその様子に、残された使用人はただただ唖然としているだけだった。
セルジュは走っていた。その様子に何事かと驚く使用人たち。そんな使用人たちの姿が目に入っているのかいないのか、セルジュはスピードを緩めることなく玄関に向かって走っている。普段ならば絶対にありえないその光景に使用人たちは互いに顔を見合わせた。
そんな中、一人の使用人が何かに気付いたようにセルジュに声を掛ける。
「セルジュ様!宮殿からの使いの御方なら、応接室にいらっしゃいますよ!!」
その言葉に足を止めたセルジュは礼を言い、応接室に向かって再び走り出した。
ようやく応接室のある屋敷の前までたどり着き、セルジュはスピードを小走り程度に緩める。今日ほど、この屋敷の広さを疎ましく思った事はない。
宮殿の敷地内にあるこの家は、本館―フォールがいた館の他に、客人用、使用人用、研究用と3つの別館があるという、一風変わった作りをしている。そして、何よりの問題点が、一館一館の距離が遠いという事だ。現に応接室のある客人用の館に着くまでに5分以上の時間を要してしまっていた。ただでさえ待たせてしまっているのに・・・!と悔やむが、過ぎ去った時間は戻ってはこない。
屋敷の玄関扉を開き小走りから歩きに変えたセルジュは、応接室へ向かっていた。その合間に、何と謝るか考える。いろいろとアイディアは浮かんだが、やはり正直に言って謝るべきだという結論に至った。
応接室の前にたどり着いたセルジュは、一呼吸してから応接室の戸を軽く叩く。返事をして戸を開けた使用人は、相手がセルジュだと分かり中へ入れた。
遅くなりましたが、更新しました!
読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。
まだまだ続く予定ですので、お付き合いくださると嬉しく思います。