禍いの火種
初めて小説を投稿します。拙い文ですが、よろしくお願いします。
警告タグをつけるほどのものではないかもしれませんが、話の構成上、一部死亡ネタなどが含まれておりますので、苦手な方はご注意くださいますよう、お願い申し上げます。
-その国には、古くから一つの言い伝えがあった。
『百年に一度だけ訪れる、3月32日。この日に誕生した者は、その地に禍いをもたらす-』
人々は、その言い伝えを絶対のものと信じていた。
そして、その国に百年ぶりの3月32日が訪れた日。
ひとつの産声が、静かな朝に響いた。
アルウォール。そこは、古くから人々の生活地として栄えている街だ。
その中心、カルセスの一角にセルジュの家はある。代々、科学者や医者などを輩出している名家だ。セルジュは養子であるためそういった類の才はないが、この家の長男であるフォールは王室直属の隊士であり専属医でもあった。剣の腕も立ち、第一王子の側近としても活躍している。
セルジュはそんなフォールの事を尊敬していたし、憧れてもいた。出来の悪い自分を庇ってくれる兄の様な人であり、いろいろな事を教えてくれる先生の様な人なのだ。
フォールはセルジュが疑問に思っている事や考えている事について質問すれば必ず何か答えてくれたが、どうしても一つだけ答えてくれない事があった。それはセルジュに敬語を使う訳だ。フォールだけではない。この家に住む者は皆、セルジュに対して敬語を使う。父も母も使用人も、全ての人が。
セルジュはそれが納得いかなかった。自分は養子に入った者なのだし、第一、一番年下だ。それなのになぜ皆、自分に対して敬語なのだろうか。もしかしたらこの家に何も関係の無い他人だからなのかとも考えた。しかし、フォールはそうではないと言う。ではどうしてなのかという問いは、ほほ笑み返されてごまかされてしまった。
自分の部屋からぼんやりと外を見ていたセルジュは、宮殿の方からフォールが歩いてくる姿を見つけた。フォール自身にしてみればただ歩いているだけなのだろうが、肩にかからない程度の長さに切られた漆黒の髪とその髪と同じ漆黒の目が、その何気ない動作を優雅に見せている。誰もが振り返るほどの美形っていう使用人たちの評価は伊達じゃないなと内心で思いながら、セルジュは玄関に向かった。
フォールを出迎えるのは、セルジュの日課だ。フォールが使用人たちにそんなに大勢の出迎えはいらないと言っているのを知り、だったら僕がと半ば強引に引き受けたのだ。最初の頃は遠慮をしていたフォールだったが最近は諦めたのか何も言わなくなった。
セルジュが玄関の前に着くと、そこには大勢の使用人たちの姿があった。普段はないその姿が気になり、近くにいた使用人に声を掛ける。
「どなたかいらっしゃるんですか?」
声を掛けられた女性の使用人は、相手がセルジュだと分かりかすかに頬を赤く染める。銀色の長髪を背の位置で括り、淡い碧眼のセルジュ。本人は全くといっていいほど自覚してはいないが、その姿は男女問わず見惚れてしまうほど美しいものだ。フォール以上の美形ではないかというのが使用人たちの評定だった。
「は、はい。なんでも宮殿の使いとしてフォール様がいらっしゃるそうです。」
「宮殿の使いで・・・?どういうことですか?」
使用人の答えを聞き、セルジュは思わず聞き返してしまう。
「それが、詳しい事は何も分からないのです・・・。お役に立てず、申し訳ありません。」
心底申し訳なさそうにしている使用人に礼をして、セルジュはその場から少し離れた所に腰を掛けた。先ほどの使用人が言っていた言葉について考える。宮殿の使いということは、父上か母上に用なのだろうか?しかしそれならば父上や母上が自ら宮殿に出向けばいいだけであって、わざわざフォール様がいらっしゃる意味はない。・・・どういうことだ?
セルジュが考えを巡らせていると、ざわついていた使用人たちが一斉に静かになった。どうやらフォールが到着したらしい。そう確信したセルジュは、一番近くにいた使用人の隣に並ぶ。使用人の仕事はしたことがないため失礼なことをしたりしないか若干不安に思ったが、何度も出迎えの様子は見た事があるから大丈夫だろうと思う事にした。今、この場を立ち去るのはかえって失礼なのかもしれないからと心の中で言い訳をしながら。
しばらくして、玄関の戸が重重しく開いた。そして、フォールが入ってくる。使用人に紛れて礼をしているセルジュを見つけフォールは一瞬笑みを浮かべたが、すぐに真顔に戻り自身の一番近くにいた使用人に声を掛けた。用件を告げたのか、その使用人は少し驚いた顔をした後慌ててどこかに走っていってしまう。しばらくして戻ってきた使用人は、フォールに耳打ちをした。その内容を聞いたフォールは苦い顔をしていたが、分かりましたと頷いた。
「皆さん、用件は済みましたのでもう各自の仕事に戻ってくださって結構ですよ。わざわざすみませんでした。」
フォールの言葉に、使用人たちは皆仕事に戻る。セルジュは一瞬悩んだ後、フォールに声を掛けた。
「フォール様、お仕事ご苦労様です。これから宮殿にお戻りになられるのですか?」
「はい。・・・セルジュ、大変申し訳ないのですが、少々お時間よろしいですか?」
「僕は構いませんけど・・・。どうかなさったんですか?」
いつもに増して敬語口調のフォールに戸惑いを感じながらも、セルジュは返事を返した。その返事に、フォールは僅かながら笑みを浮かべる。
「すみません・・・。ここでは何なので、後で宮殿の私の部屋に来ていただけますか?本当は私が出向くべきなのでしょうが、生憎と手が離せない状況でして。後ほど、使いの者を送ります。」
「はい、わかりました。」
セルジュがそう言うと、フォールは礼をして宮殿に戻っていく。
フォールの姿が見えなくなるまで見送った後、セルジュは自室に向かった。向かいながら、今日のフォールの様子について考え始める。フォール様、今日はいつも以上に敬語だったな・・・。宮殿で何かあったのだろうか?手が離せない状況だと言っていたし・・・。
自室に着いてからもそんな事を考えていると、だんだんと眠気が襲ってくる。普段はあまり使わない頭を使いすぎたのか?と思いながら、セルジュは意識を手放した。
お読み下さりありがとうございました。
私個人の都合上、更新は遅くなってしまうかもしれませんが、続きもお読み下さると嬉しく思います。