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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

墓守の秤森、ハカで発火する

作者: きつね
掲載日:2026/06/20

「お前ら、準備は出来ているか?」


「当たり前だろ。このためにどんだけの時間を費やしたことか……」


「油断はするなよ。ここの墓は金持ちがよく使うだけあって、警備が厳重だ」


「言ったって、墓守がひとりいるだけだろ?」


「それが問題なんだよ!……ここの墓守はただもんじゃないらしい……」


「言ってもよ、俺達は二十人は超える大人数だぞ?それを守りきるなんて……」


「わかってねぇな……まあいい、そろそろ行くぞ」


大群は拳銃やナイフなどの武器を腰に付け、墓へと走り出す。

墓に着くと、ある男が何か布に包まれている長い棒を支えに目を閉じて座っていた。

その男は青年のように見えたが、身長はゆうに成人男性の平均を超えていた。

髪はちょんまげのようにひとつにまとめており、黒のコートを羽織っていた。

その姿は油断しているように見えたが、威圧感を漂わせていた。


「おいおい、こいつ寝てるぜ?今チャンスだろ」


「……まあ、そうだな。よしお前ら、拳銃を構えろ」


盗賊が一斉に銃を構える。

男はそれに気づかずにまだ目を閉じて動かない。


「撃て」


一人の合図を皮切りに、盗賊は引き金を引く。

銃弾が雨のように男に降り注ぐ。

大きな銃声が静寂を切り裂き、なり続ける。

盗賊達は拳銃にある玉を全て使い切るまで撃ち続ける。

何秒後かに、銃声はなりやむ。

男は身体中から血を滝のように流しながらその場から少しも動かない。


「……やったか?」


「確認なんか要らねぇよ。こいつは死んでる。さっさと向かうぞ」


盗賊は、墓へと歩き始める。

一歩、二歩と歩を進めた時、ドスの効いた低い声が辺りに響く。


「待てい……」


「……冗談きついぜ」


盗賊は目を丸くする。

先程まで少しも動かなかった男が、棒を杖のようにしながら立ち上がった。

男は首を鳴らし、身体の血を手で拭き取る。

顔には、恐怖や動揺は一切なかった。


「ワシをどんだけ撃とうが勝手じゃが、この先の墓に入るというのは話が別ってもんじゃ」


男は棒を如意棒を操る孫悟空のように華麗に扱い、地面に直線を引く。


「こっから先に入るなら、お前らの墓が必要になる。ワシは守らんがな」


盗賊はその気迫に押され、後ずさりする。

だがひとりが拳銃を空に放つ。大きな音とともに、その場が静寂に包まれる。


「何が墓が必要だ!必要なんはてめぇの脳ミソだろ!この状況が見えねぇのか?人数が数えれねぇなら墓守なんかしないで学校に行くんだな!」


「……お前らはだいたい二十人程……それがどうした?」


「どうしたもこうしたもねぇよ!……もういい、お前ら」


「強行突破だ」


全員が武器を構える。

拳銃を、ナイフを、爆弾を。

男は棒を構え、盗賊に向ける。


「ワシは!この墓を先祖代々守っておる墓守の秤森!」


「そうかよ!」


爆弾が秤森に対して投げられ、起爆する。

爆音とともに黒い煙が辺りを包む。

追撃するように盗賊は一斉に射撃し、ナイフでの追撃をする。


「【隕石の一撃(メテオ・インパクト)】!!」


一人が能力を発動する。

拳が黄金に光り、流星群のような速さで秤森の顎にアッパーを仕掛ける。


「何がメテオじゃ。本物のメテオというものはな……」


秤森は拳を強く握り、相手の脳天に拳骨を喰らわせる。

盗賊はその一撃で意識を失い、その場に倒れ込む。


「こういうのを言うんじゃ……さて、こっからが本番じゃろう?」


秤森は挑発するように手を曲げる。

挑発に乗った盗賊は一斉に能力の構えをとる。


「本番……そんなじゃねぇよ……こっからは虐殺だ」


秤森は無言で構えを取り始める。

腰を深く落とし、両腕を力強く構える。

盗賊は能力の使用を警戒し、いつでも発動できるように神経を研ぎ澄ます。


「………」


お互いに、無言の時間が続く。


「……ハッ!!!」


静寂を切り裂いたのは、秤森の大声だった。

盗賊は一斉に能力を発動する。

様々な能力が秤森を襲うが、まるで効いていないように秤森の身体には傷ひとつつかない。

盗賊が死を感じた時、秤森が動き始める。


「ハッ!!!ハッ!!!!ハッ!!!!!」


「……は?」


秤森は攻撃をするのではなく、踊りを、

ハカを、始めた。


「ハッ!!ハッ!!ハッ!!」


盗賊は驚きで言葉を失う。


「……はは……ハハハハ!!!!」


一人が笑い始める。

その瞬間、笑い声が辺りを包む。

盗賊全員が笑い始める。攻撃を始めるのではなく、踊りを始める。

そのおおよそ常識的ではない狂気的な行動に、笑いを抑えられなかった。

それでも、秤森は踊りを続ける。


「……はぁ……笑った笑った……」


盗賊の目には涙が溢れていた。


「だけど、もういい。飽きた」


盗賊は拳銃を構え、秤森に見せつける。


「もう踊りはいいから、大人しく死ね」


引き金を引こうと力を入れるが、上手く力が入らない。

いや、力は入っているが撃てない。

まるで、何かが引き金を止めているかのように。


辺りに冷たい風が吹く。

その風は盗賊達の頬をなぞりながら、秤森の元へと集まる。

小さな台風のようになった時、秤森の下の地面から黒い、【何か】が手を伸ばす。

ひとつ、ひとつ、と、どんどんと地面から這い上がる。

そして、盗賊は気づいた。


「踊りがトリガーの能力かよ……!!」


「今更気づいたとてよ!!」


秤森の踊りはどんどんと激しさを増していく。


地面から這い出る死者達。

黒と紫の混ざった色をしており、人のような形をしているが、身体は少し透けている。

盗賊達は少し怯えるが、すぐに武器を構え攻撃を開始する。


「はは、召喚系かよ……てめぇみたいなやつは、召喚したやつに反逆されてくたばるのが落ちだぜ!!」


拳銃を放つ。

だが、それは死者の身体を通り抜ける。

すぐに死者は飛びかかる。

阿鼻叫喚の地獄絵図。

一人は腕と足を剥がされ、一人は首があらぬ方向に曲がっている。

それでも、秤森は踊り続ける。

盗賊に慈悲はいらない。

どんなことであれ、その道を選んだの本人であるから。


【ハカ】


それはニュージーランドのマオリ族に伝わる伝統的な舞踊。戦前に踊り、全体の士気を高めたり、戦士自身の強さをアピールしたり相手を威嚇するため、そして、葬式などでの弔いをするため踊り。


秤森は身体に眠るエネルギーを放出する。

その度に、踏み込む足が強くなり、踊りのキレが増していく。

段々と温度が上昇していく。

エネルギーが炎のように熱くなり始める。

いや、エネルギーが炎自体になり始める。


秤森の持つ能力は先祖代々継がれてきた能力、【弔いの踊り(ネクロマンサーダンス)

死者に踊りを見せ、感動した者が力を貸してくれる能力。

死者は感情が薄くなるため、感激することは少ない。

踊りは、本人の技量に左右されるため、こういった【召喚系】は弱いとされてきた。

しかし、極めれば話が別。全身全霊の踊りは、死者すら感動させる。


残った盗賊は腕が大きく曲がった男一人だけだった。


「クソッタレが……!!やってやろうじゃねぇか!!そっちがそうならこっちも全力(マジ)で行かせてもらう!!」


拳同士をぶつける。

身体が狼のように変化し始める。

腕は元のように戻り始め、骨格が人間のものから狼のものになる。歯は鋭くなり、爪も同様に変化する。

目には先程までの理性はなく、紅く光る。


「さあ……始めようぜ!!!」


盗賊は大きく踏み込み、天高く飛び上がる。

その目の先には、秤森しか見えていなかった。


「もう、終わっとるわ」


小さく呟くと、地面に力強く踏み込む。

秤森が炎に包まれる。

傷は炎に焼かれ、修復され始める。

噴火でもしているかのような炎。

盗賊は空中を蹴るように反転し、秤森から離れる。

理解したのだ、近寄ることはできない。少しでも触れたら、身体が灰になると。

喉を唸らせ、秤森をじっと睨む。


秤森の持つ能力は、ひとつではない。

弔いの踊り(ネクロマンサーダンス)

これは、継いだ能力。

親から子に、子から孫にと継がれる能力。

本来であれば能力は一つだけだが、秤森は別だった。


炎の踊り子(ファイアーダンサー)


踊りをすることで身体のエネルギーを放ち、それを纏うことで身体を燃え上がらせ、身体能力を劇的に増加させる能力。


秤森は横の棒を力強く掴む。

炎により布が燃えカスとなる。

出てきたのは、鉄の棒。

棒には赤を中心に黄金の色が龍のように描かれており、その上から名前が刻まれている。

その中には、秤森の名前もあった。


秤森はゆっくりと歩を進める。


次盗賊が目を開けると、身体と頭が離れ離れになっていた。

目の前にある自分の身体。

それは、炎に包まれ燃え上がり、溶け始めている。

声を出そうにも、何も出ない。

出るのは、目に残った絞りカスの涙だった。

その雫すら、秤森の炎で蒸発する。


「死者の者共、協力に感謝する」


秤森は深く頭を下げる。

死者は地面へと戻り、元の場所へと帰る。

秤森は盗賊共を片付けた後、定位置へと腰をかけ、深く目を閉じる。



ひとつの棺桶の前で、少年が一人泣いていた。

棺桶の中に眠る男は、その少年の父であった。

少年の後ろに立っているのは、その祖父。


「なんで……なんでだよ……!!」


「……」


祖父は大きく息を吸い、少年を鼓舞するように話しかける。


「泣くな!!貴様はなんのために生きとる!!」


「……だって、父さんが……父さんが!!!」


「仕方の無いことじゃ!!儂らは墓守の一家、いつ常に死が付きまとう仕事、儂の愚息も墓を守り抜いて死ねたんじゃ、今頃、天国でよろしくやっとるわ!!」


「今、貴様にできることはなんじゃ?そこで泣きわめくことか?父の意志を継ぐため、墓守を継ぐため、訓練を続けることじゃろ!!」


「でも……いつ死ぬかなんか……」


「死んで結構!!儂らはそういう星の元に生まれた存在!!死を恐れるな!!恐れることは一つ!!」


「この墓を、守り抜けなかった時だけじゃ!!」


半ば強制的に祖父に連れられ、訓練を始める。

初めはやる気などなかった。

自ら死に近づく行為など、馬鹿馬鹿しいと思っていたからだ。

祖父は強かった。

能力は少年に継がれている。

能力なしでも少年よりも圧倒的に。

今は亡くなった父の代わりに祖父が墓守をしている。


どんなに強い人でも、年齢には勝てない。

あんなに強かった祖父。

今はもう、訓練でも少年が倒せるほどに弱くなっていた。

あんなに大きかった背中を、小さくなった背中を見つめながら、少年は何を思ったのか。


それでも、少年は墓守をしなかった。

怖かったから。

死にたくなかったから。


朝目が覚めて、リビングに向かう。

そこには、一枚の紙があった。

【遺書】と書かれた紙。

そして、泣きじゃくっている母と祖母。


「お義父さん……」


その瞬間に理解した。

祖父が、この世を去ったことを。

少年はトイレに駆け込む。

口から出てくる液体を便器に流し込む。

頭の中では、負の感情が渦巻いている。

後悔、悲しみ、怒り、苦しみ。


「なんで……僕が……なんで……おじいちゃんが!!!」


虚ろな目をしながら、少年はリビングに歩き出す。

泣いている母と祖母は少年に話しかける。


「貴方は、墓守なんかやらなくていいのよ。生きていれば、私達は幸せだから」


甘い誘惑。

少年は、一言だけ言葉を出す。


「……僕が、ワシが、墓守になります」


もう何も、後悔したくなかったから。

父と祖父。

先祖の意志を無下にしたくなかったから。



秤森は、目を開ける。


「懐かしい夢を見たのう……ワシにも若い時があったの……それと」


腰を上げ、目の前に堂々と立っている男に話しかける。


「なにか、ようかの?」


「……(わたくし)は、ここにいる先祖にお供え物を置こうかと……」


「そうか、ならええわ」


「では……」


男はそそくさと墓へと歩き始める。

墓地へと入ろうとすると、秤森が棒で道を塞ぐ。


「……なに入ろうとしとる。入墓書を見せんか」


「すいません……忘れておりました……おや?」


男はわざとらしく言葉を発し、身体中を手でまさぐる。

そして、身振りを大きくし、手を額へぶつける。


「誠に申し訳ないのですが……少々家に置いてきてしまったようで……取りに帰ろうにも、ここから二、三日はかかるのです……私は源と申します……貴方も知っていますよね?どうにか……」


「何を言われようが、できんもんはできん。ないならとっとと帰れ」


「……ふむ……貴方はお父さんやおじいさんと同じで頑固ですね……」


その言葉を言われた瞬間。

秤森の頭の中に渦巻いていた違和感が、確信となる。

血管が、切れる音がした。

視界が血に濡れ、赤く変化する。

目の前にいる男への憎悪で、感情が支配される。

心臓が一度、大きく鼓動する。


「お前が……父さんを……おじいちゃんを!!!!」


「おやおや、やめてくださいよ」


男は口角を大きくあげ、ニヤリと笑う。


「……」


秤森は一度深呼吸し、精神を落ち着かせる。

男は秤森を挑発するかのように話しかける。


「おやおや?どうしました?(わたくし)は思ったことを伝えただけなのですが……それに、私は別に貴方のお父さんやおじいさんに似ているなと……」


「……黙れ……もう、予想はついとる。ここにいた源は、一年前に倒産して別の墓地に移動しとる。それを、家族が知らんわけない」


「私も調べが浅かったですね……すいません。では……」


「死んでください。私が明日を生きるために」


男は腕を大きく振ると、突風が吹く。

風は秤森の腹を切り裂き、内蔵が腹から垂れ流される。


「……冥土のみあげに教えてあげましょうか?私の名前」


「……そうだな……お父さんもおじいちゃんも名前知らんだろうしな……」


「私の名前は、【鳴木(なるき)優作(ゆうさく)】と言います。おじいさんとお父さんによろしく」


「……鳴木……優作……な」


秤森の身体が燃え上がる。

前回でのエネルギーが、まだ残っていた。

腹は瞬時に燃え上がり回復し、首を抑え、音を鳴らす。

その目には、確実な殺意が溢れていた。


「その名前は忘れん……貴様の名前が書かれた墓石を、ワシがたたてやろう」


「そして、ワシが壊す」


「……言ってくれますね……その挑発、買いましょう」


お互いに、構えをとる。

秤森は棒を如意棒のように構え、鳴木は腕から骨の音を出す。

先手を仕掛けたのは、鳴木だった。

先程と同様に腕を振り、風が秤森に迫る。

棒でその風を抑え、風を操るように回し鳴木に向かって風をぶつける。

鳴木は指一本で風を抑え込む。


「頑丈な棒ですね……」


「貴様も大概だろうが」


秤森は棒で鳴木の腹を突く。

鳴木は風で棒を抑え、逆に秤森の顔面に風で攻撃を仕掛ける。

空中に秤森の血が舞う。

それに臆せず、秤森は棒で鳴木の足を薙ぎ払い、拳を鳴木の腹に喰らわせる。

鳴木は一瞬顔を歪めたが、すぐにいつものような余裕の笑みを浮かべ、秤森に反撃する。

お互いに距離を取り、静寂が訪れる。

その静寂を、秤森が破る。


「貴様、能力を隠しとるな?」


「……なんのことです?私の能力は、風を操る【風の子】ですよ?それなら、貴方も炎だけじゃなくて、先祖代々伝わる【舞踊】を見せてくださいよ」


「……貴様が真の力を見せたら考えてやろう。貴様如きに、あの力は勿体ないわ」


「残念ですね〜〜まあ、私は踊りを見るのが好きなので、しょうがありませんね」


「真の力、見せてあげますよ」


鳴木は腕を伸ばし、銃のような構えをとる。


「……バン」


指先から、炎が飛び出る。

光のような速度で飛び出した炎は、秤森の頬を掠める。

秤森は瞬時に棒で鳴木の腕を叩き落とし、大きく曲げる。


「痛いですねぇ〜というか、私は真の力を見せたのですから、貴方も見せてくださいよ」


「まずは腕をどうにかしたらどうじゃ?まだ沢山残っとる能力で、な」


「貴方も私の知らない能力を持ってそうで怖いですよ……まあ、隠すことでもないのでね」


大きく曲がっていた腕を秤森に見せつけるようにすると、腕はまるでミミズのように動き出し、元の形に戻り出す。


「……貴方に言っておくと、私が持ってる能力は七つ、あります」


「信用出来んな……だが、嘘にも聞こえん……仕方ない」


秤森は棒を地面に刺し、構えを取り始める。

大きく足を広げ、腰を深く落とす。

腕を力強く構え、深呼吸をする。


「……ハッ!!!」


秤森は大きく足踏みし、大地を揺らす。

身体からエネルギーが放出され、秤森の身体が熱くなる。

地面からは、感動した死者が這い上がり、鳴木の元へと走り出す。


「おお……久しぶりに見ましたね……この能力」


鳴木は感動したかの表情を見せ、拍手をする。

自分に付きまとう死者を無視するように、ハカをする秤森の元へと歩き出す。

ニヤリと笑い、秤森の首元に手を当てる。


「素晴らしい踊り……そして研ぎ澄まされた能力……とても」


「欲しい」


鳴木の手に風がまとわりつき、剣で首を切るように秤森の首を一刀両断しようとする。

秤森の身体からは、十分なエネルギーが溢れていた。

身体中から炎が燃え上がり、風すら燃やし尽くす。


「熱っついですねぇ〜〜まさか踊りがトリガーとは……」


「ハッ!!ハッ!!ハッ!!」


炎に包まれながらもハカを止めることはない。

力一杯の踊りは、死者達の士気をさらに引き上げる。

無視していた死者達の力はどんどんと増していき、無視できないほどになる。


「ははは……皮膚がちぎれます……痛いです……よ!」


軽く腕を振ると、風が大きく吹き、死者達の体を大きく歪み、吹き飛ばされる。

死者の身体は削れることなく、再生し、強さが増していく。


「何が召喚系は弱い、ですか。召喚系程強いものもないです。量より質とは言いますが……研ぎ澄まされた召喚系は量も質もどちらもあるのですよ」


「褒めてくれるのはありがたいが、貴様は自分の心配をすることだな」


死者達は鳴木の身体にまとわりつき、身体をどんどんと蝕んでいく。

鳴木は表情を歪めることなく、死者達を吹き飛ばし、身体を再生させる。

鳴木は未だに笑い続け、秤森を舐めるように見続ける。


「素晴らしい能力……やはり欲しい……なので、こっからは本気で、行かせてもらいます」


腕を天高く伸ばし、空を握るかのようにする。

その瞬間に空間が歪み、死者達はひとつの塊になる。

鳴木は手を見つめる。

未だに、秤森はハカを続けている。


「貴方の敬う死者達がボールになってしまいましたよ?……どうするんです?」


「……」


秤森は平成を装っているが、実際には気が気ではない。

目の前であの光景を見た上に、まだ判明していない能力が最低でも四つは存在している。

それでも、秤森は踊りを続ける。

祖父からの教えを、守るために。



「……絶対に、弱い姿を見せるな?」


「ああ、死者にも、誰にもな」


祖父は盆栽をいじりながら話しかける。

まだ、元気のあった頃の祖父。


「弱い姿を見たことないやつってのはな、普通は怖えんじゃ。お前もそうじゃろ?」


秤森は祖父のことを考えながら、確かに、と頷く。


「それに、儂らの能力は踊りの上手さだけでなく、死者を弔う慈悲深さ、そして、踊ってるやつの強さだ」


「……強さ、いる?」


「強いやつはの、それだけでカリスマっつうもんが、なくてもあるように見える」


「そして、いちばん簡単に見せれるのが、弱い姿を見せないことだ」


「これだけは、しっかりと守れよ」



秤森はその教えを胸に、踊りを続ける。

鳴木は攻撃を続ける。

風が、炎が、ありとあらゆるものが秤森を襲う。

それでも、踊りを続ける。

鳴木はその姿に、ほんの少しだけ、恐怖を持った。


「……いい加減、諦めてくれません?もう隠してる能力一個だけですよ」


「……ハッ!!ハッ!!ハッ!!」


「ここまで行くと、正気を疑いますよ……」


何を言おうが、秤森は反応しない。

ただハカを続ける。

身体はもうボロボロ。

血が溢れ、地面には大きな血溜まりがある。

骨も無事ではない。

そんな状況になったとしても、秤森は踊り続ける。

死者達は、秤森を見て何を思ったのか。

動けなくなった自分達。

それでも踊り続け、自分達を弔ってくれてる秤森。


秤森の動きが鈍くなる。

炎は傷を燃やしているか、エネルギーが尽きてきたのか、治りが遅くなる。

息は早く、浅くなる。

鳴木は欠伸をしながら攻撃を続ける。

その姿には余裕が見えているが、それでも確かに疲れはあった。


「そろそろ、流石に倒れてくれません?タフすぎですよ。近寄ろうにも、燃えてて近づけませんし」


「……」


――もう、疲れた


秤森は、身体から力を抜く。

そのまま、地面へと身体を預けようと、倒れ込む。


「やっと、ですか」


鳴木は笑った。

ようやく終わるのかと。


――それで、お前はいいのか


声がした。

昔聴いてた、ずっと聴いていた。

怖くとも、馴染みのある、声。

本当に聴こえたのかは分からない。

もしかして、幻聴なのかもしれない。

それでも、良かった。

自分を、鼓舞してくれたから。

秤森は再び力を加え、舞い始める。


「……もう結構……本当はしたくなかったですが、仕方ない……!!」


鳴木は天高く腕を上げ、再び握るように手を閉めようとする。


「手が燃え尽きたとしても、十分!!夢にまで見た能力が手に入れれるのなら!!」


空間が、歪む。

鳴木は顔を歪める。

手には炎が触れているかのような痛みが伝わる。

火傷跡が段々と広がっていくが、その痛みにも耐えながら手を握っていく。

手が、完全に閉まる瞬間、腕から血が流れる。

痛みにも気づかないほどの速さで、何かが通った。


「……は?」


瞬時に秤森の方を見る。

そこには、自分の手を持っていた秤森の姿があった。


「……諦めようなんて……馬鹿なことをやろうとしたのう……じゃが、こっからが本番じゃ」


秤森は手を捨てる。

手は燃え上がり、灰となる。

鳴木は腕を抑える。

痛みが、苦しみが襲ってくる。


「ん?なんじゃ、急に苦しみ出して……ああ、あれか。再生能力の弱点っつうもんかの?」


「完全に消滅しない限りは痛みもなく、再生し続けるが、消滅すると、痛みが倍で襲ってくる……とかかの?」


「……何を根拠に……!!」


「お前の態度が、その証拠じゃろうて」


鳴木はもう片方の腕を使い、能力を使う。

迫り来る能力。

それを棒を使い華麗に避け、鳴木の顔面に一撃を喰らわす。

怯んだ隙を逃さず、もう片方の腕を剥ぎ取る。

鳴木は脚に能力を纏わせ、回し蹴りを喰らわせるが、棒で抑え込まれ、すぐに吹き飛ばされる。


「……なんじゃ貴様……そんな弱かったか?……ああ、腕がないからか」


「生意気なやつだな……いいですよ!!真の力を理解させてやりますよ!!」


鳴木は地面を力強く踏み込む。

秤森はその姿に、残りの能力が未知数なこともあり、受けの構えをとる。


「これが……私の真の力!!!」


「【神の輝き(ゴッド・シャイニング)】!!!!」


その瞬間、光がその場を包む。

まるで夜が明けたかのような光。

秤森は棒で反撃するが、感触はない。

光がなくなり、まだチカチカする目のまま鳴木を探すと、必死に逃げ惑う鳴木を見つける。

血を垂れ流しながら、必死に走り続ける鳴木。

死にたくないという意思が、しっかりと伝わった。


「……結局は、盗賊。ただの小悪党か……」


秤森は落胆したかのような言葉を呟く。

父を、祖父を殺した者が、この程度な存在だったことに、秤森は怒りで震えていた。


「死にたくない!!!死にたくない!!!死にたくない――あ?」


地面から這い出る腕。

それに脚を地面に叩きつけられ、動くことができなかった。

鳴木は必死に蹴り飛ばそうとするが、その蹴りは当たることがなかった。


「やめろよ!!!やめろ!!!やめ――あっ……」


鳴木は、視線を目の前に移す。

そこには、秤森が棒を構えている姿が見えた。

何も言わずに、鳴木を見つめる秤森。


「やめてくれ……ただの気まぐれだったんだよ!!たまたま、殺した相手の能力を奪える能力で……それで、たまたま全部上手くいかなくて、墓を襲ったら――」


「もう、喋るな」


秤森は、下衆を見つめるような顔で鳴木を見つめる。

軽蔑の視線。

鳴木は、深い絶望に包まれる。


「……ワシは、殺さん」


「……え?ホントに……?」


「ああ、本当じゃ」


鳴木は一気に笑顔になる。

その笑顔の裏には、何が渦巻いていたのか。

鳴木は、墓地からどんどんと遠ざかる。


「……ワシは、な」


秤森は、後ろから聴こえる絶叫を耳にしながらも、元の位置にもどる。

墓地に戻ると、水を持ち上げ、【秤森】と書かれた墓石へと歩き出す。

墓石に水を掛け、雑巾で綺麗に拭く。


「……父さん、おじいちゃん、それに、先祖の人達……」


「僕は、しっかりと守れましたか?」


暖かな風が、秤森の頬を撫でる。

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