ー前編ー
婚約者である三つ年上の彼ディア・ローレンはこの国の第一王子。
しかし彼には未来への不安があった。
というのも、彼の身には生まれながらにして呪いがかかっていたのだ――災難ばかりが降りかかる、という呪い。
その呪いの影響を抑えて平穏を手に入れるためには『護りの聖女』を伴侶とする外ない。王家お抱えの聖者がそう言ったために、私は彼のもとへ行くこととなった。
……そう、私エリミーレは生まれてすぐに『護りの聖女』であると告げられていたのだ。
突如話があって、第一王子という高貴な人と婚約することになって、当時はかなり戸惑いがあった。でも、彼のためなら国のためならと思い彼と一緒に生きる決心をして。それから彼とは婚約者同士となったのだった。
こんな平凡な私でも誰かのために生きられるなら、それはきっと悪いことではない。
そう信じたからこそ、いきなり始まった関わりであっても拒むことはしなかったのだ。
だがディアは私を受け入れなかった。
ただ冷たいだけならそれでも良かった。放置されるだけなら耐えられた。けれども彼はそっとしておくことすらしてくれず、逆に、たびたび嫌がらせをしてきた。しかも浮気相手という立ち位置にある女性ティリアと共に。
――そしてとある晩餐会にて。
「エリミーレ! 貴様との婚約は本日をもって破棄とする!」
いきなり宣言してきたのはディア。
彼の隣には勝ち誇ったような面持ちの長い金髪の女性ティリアがいる。
「貴様、昨晩ティリアを睨んだそうじゃないか! あり得ん。俺は貴様を許さない! 絶対に許しはしない!」
「待ってください、一体何の話で……」
「とぼけるなよエリミーレ。貴様がティリアに何をしたかはもう知っている。昨夜廊下ですれ違った際、挨拶せず、ただ睨んだそうじゃないか」
困惑する私を見てティリアはくすくすと笑っていた。
「昨夜ティリアさんとすれ違った事実はありません」
「嘘をつくな!」
「何かの勘違いです」
「そんなわけがない! 本人がそう言っているのだから!」
……何を言っているのだろうか?
彼女がそう言ったのだとすれば極めて曖昧な話ではないか。彼女以外にその状況を見た人がいないのだとすれば、なおさら、主張が事実である可能性は下がる。そういうものだろう。
もちろん世界を見回せば、本人が言っているから嘘、というわけではないのだろうけれど。
でも、本人だけが言っているなら、悪く言おうとすればいくらでも悪く言えてしまうではないか。
せめて相手の言い分も聞くべきではないのか。
「貴様は『護りの聖女』だという話だが、こんなにも魅力的なティリアを傷つけた女がそうなわけがない! よって、貴様は俺には不要な女であると判断した! ……何か言いたそうだがもう何を言っても無駄だ、貴様の言葉など決して信じはしない」
「そうですか、残念です」
「それにな! 実はティリアも『護りの聖女』だ! 生まれた時にはご家族が気づかなかったようなのだが、先週、ついにその事実が判明した。だからなおさら貴様は要らなくなった!」
先週判明した、って……本当の話なの? それ。
「貴様の価値ははじめから聖女であるところだけだった。それ以外は無価値だった。だが、他の聖女が現れた今、貴様の存在価値は完全に失われ無となった。となれば話は早い、これでもう俺は貴様を切り捨てられる」
ティリアが「んもぉ、殿下ったらひどぉい。ショック受けてるじゃないですかぁ~」と言えばディアは鼻の下を伸ばしつつ「俺ははっきり言える男なんだよ」と返す。それから腕を絡めて謎のいちゃつきを披露。貴い人なら公の場ですべきではないようないちゃつきを続けながら、ティリアが「一応でもぉ婚約してたんだからぁ、エリミーレさんきっとショックですよぉ~?」と笑えば、ディアは「ショック受けてろバーカ、て感じだろう。はは」と軽くじゃれ合う。さらにディアは「これが終わったらすぐにティリアと婚約するからな」なんて平気で言っていた。
「エリミーレ! 俺の前から消えろ! 今すぐに、な!」
こうして私と彼の関係は終わりを迎えてしまったのだった。




