支えの魔法
これは、とある人から聞いた物語。
その語り部と内容に関する、記録の一篇。
あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。
ふう~ふう~ふう~……うひゃ~、まだまだ冷めないな。
寒い日には暖かいスープ。ありがたいけれど、なかなか飲みごろにするのは苦労するなあ。特にねこじ~たな僕にはもどかしい限りだよ。
つぶらやくんも、熱いのが苦手だったっけ? どちらが早く冷ましきれるか、競争ってところかな?
ん? けれども、ちょっとストップだ。
つぶらやくん、もう一度スープを吹いてもらっていいかい? ふうっと、できれば長いほうがいい。
……やはり。中で渦巻いているな。具の入ったスープで助かったよ、早めに気づくことができた。
ああ、こいつは私の地元に伝わる「きざし」のひとつでね。思い過ごしだったらいいが、少し様子を見た方がいいかもしれない。
ちょうどいい機会だし、スープが冷めるまでの間で話をしようかな。
私の地元では、魔法の存在が信じられている。
といっても、ファンタジーにありがちな目の間で天地雷鳴の力を借りて、自然現象を起こすといった派手なものじゃない。
たとえるなら、超・縁の下の力持ちといおうか。私たちが日々、当たり前に過ごすことができているこの時間、この空間、それによって成り立つ世界……それらをとてつもない力でもって、陰ながら支えている存在たちのことだ。
彼らはめったに表へ出てくることはないが、ときにその力が外へにじんでしまい、我々が目の当たりにしてしまう可能性が生まれる。そのスープのきざしも、一片というわけだ。
汁物に息を吹きかけたとき、内部が自然と渦巻くこの状態。もし、他の動物などにうまく息を吹きかけさせることができたとしても、起こることはない。
人のものに含まれる、何かしらの気が、これを呼び起こしていると見られているな。
そして、このきざしが生まれたときは、魔法の裂け目が近くに生まれているとされているんだ。
私のものはというと、ふう~……うん、渦巻く様子はないな。どうやら、つぶらやくん。君にピンポイントのようだ。だが、私がそばにいるときで助かったな。
いいかい、今から指示を聞いてほしい。これは一種の確認作業にあたる。スープの入ったカップはいったんこたつの上にでも置いてくれ。
魔法の影響。こいつを確かめるには、身体の動きを見るのが手っ取り早い。
シンプルなのは、旗揚げゲーム。分かるね?
右手を赤、左手を白とするから、あとは私の指示に従って、忠実に動かしてほしい。
いくぞ……赤あげて、白あげて、白さげないで、赤さげない。
両手上がっているね? 続けていくぞ。
赤さげて、白さげない。赤あげて、白さげて、白あげないで、赤さげない。赤さげない。赤さげない。赤さげない……。
え、嫌がらせかって? そんなことはない。事実、君は赤の右手を下げてしまっているぞ? 気づかなかったか?
うーむ、魔法の影響を受け始めてしまっている……いかんな。
いったろ? 魔法は時間や空間や世界を支える、とてつもない力だと。君もまた世界のいち要素。それを支える魔法にむしばまれたとなれば、君の身体は世界のものになってしまうぞ。君のものではなく、な。
ほれ、下げたままの左腕の袖も真っ赤ににじんでいるのが分かるか? 君の血だろうが、その様子だと痛みも感じていないんだろ?
ちょっと、本格的にやろうか。こたつから出よう。
魔法を追い出すには、身体をひたすら動かして自分が主導権を持っていると主張し続けなくてはいけないからね。
今度は赤、白にくわえて、右足と左足もいく。手ばかりに気をとられて足を持っていかれたらシャレにならないだろ?
私も一緒にやるから、ちょっと厳しめに行くぞ。
ふう~、どうやら、腕の痛みを感じ始めたようだね。ちゃんと感覚を取り戻すことができたようだ。これで止めても大丈夫だろう。
――どうして判断がついたのかって?
すでに魔法は、その宿る先を見つけて、おさまったからだよ。ほら、こたつの上を見たまえ。
先ほどのカップに入った野菜スープ……「入れ替わったんだ」よ。
見ての通り、野菜スープがカップとなった。煮凝りみたいだろう、その具もろともカップのカタチになったのは。
そしてスープが入っているべき中身は、カップを構成している陶器ですっぽり埋め尽くされている、といったところさ。
こいつが魔法の結果ってわけだ。魔法は姿を見せず、その結果でもって世に現れる。
まあ、まずは傷の手当をしようか。そうやって血を流し、痛みを感じられるっていう常識もまた大事なことだしね。




