第6話 無口な重戦士ルド・フォードは頼もしかった
──ルーンベルク郊外、魔物討伐依頼の現場。
アルはギルド登録を終え、さっそく初仕事に挑むことになった。というか、挑まされることになった。
「え、初依頼ってこんなすぐ来るの!?まだ心の準備が!」
ギルド証を受け取ってから、まだ一時間も経っていない。せめて装備を整えるとか、作戦を練るとか、そういう時間が欲しかった。
シアが淡々と依頼書を読み上げる。
「依頼内容は"魔物の群れの進路確認"。戦闘は避けるように、とのことです」
「避けるようにって、絶対避けられないやつじゃん!」
進路確認という名の偵察任務。そして「戦闘は避けるように」という但し書き。これは確実にフラグだ。避けられない展開が待っているに決まっている。
「そのために、前衛を雇いました」
「え、雇った!?誰!?」
前衛。つまり盾役か剣士か。確かに魔法使いとヒーラーとメイドだけでは、前線が不安すぎる。
──ズシン。
地面が揺れるような足音が響く。その重厚な音に、アルは思わず振り返った。
現れたのは──
「……ルド・フォードだ」
アッシュ系の髪に青い瞳、そして何より目を引くのは、巨大な盾と剣。盾は人の背丈ほどもあり、剣も両手剣としては規格外の大きさだ。兜の下から覗く瞳は、静かに状況を見据えていた。
「……でかっ!盾、俺よりでかいんだけど!?」
その盾は、アルの身長を軽く超えている。あれを持って動けるのか。いや、持っているということは動けるのだろうが。
シアが説明を加える。
「彼は元・勇者パーティー所属。最高の盾役です」
「え、そんなすごい人が、なんで俺の初依頼に!?」
勇者パーティー。つまり、この世界で最強クラスの冒険者集団だ。そんな人物が、なぜ銅級冒険者の初依頼に同行しているんだ。
「動きが遅いという理由で解雇されたそうです」
「理不尽すぎるだろ!!俺と似た匂いがする!!」
動きが遅い。確かに、あの装備の重さを考えれば速く動けないのは当然だ。それで解雇とは、あまりにも理不尽じゃないか。アルも黒歴史魔法のせいで色々と理不尽な扱いを受けてきたので、共感するものがある。
ルドは静かに、低い声で一言。
「……動きは普通だ。誤解されたままだが、訂正する気はない」
「かっこいいけど、なんか切ない!!」
訂正する気はない。つまり、誤解を解く努力をしないということか。それはそれで、どこか達観した雰囲気がある。
リリはきらきらした目でルドを見上げる。その小柄な体格と、ルドの巨大な体格の対比が、まるで子供と大人のようだ。
「わぁ〜!大きい!盾、乗ってもいいですか?」
「やめて!それ絶対事故るから!」
盾に乗る。そんな発想がまず出てくることが恐ろしい。しかも、この天然ヒーラーなら本当にやりかねない。
シアは淡々と、しかし警告を込めて告げる。
「彼の攻撃は遅いですが、重いです。敵は吹き飛びます。味方も巻き込まれます」
「それ、俺の魔法と同じじゃん!巻き込み率高すぎるパーティーじゃん!」
広範囲攻撃の魔法使いと、広範囲攻撃の重戦士。そして事故率の高いヒーラー。このパーティ、まともな戦闘ができる気がしない。
──そのとき、草原の向こうから、魔物の群れが姿を現した。
灰色の毛皮、鋭い牙を持った狼型の魔物たちが、こちらに向かって走ってくる。数は五匹。初心者にはやや多い。
「うわっ、来た!どうする!?どうするの!?」
アルは慌てて杖を構える。戦闘は避けるようにと言われていたが、もう避けられる状況ではない。
ルドは盾を構え、静かに言った。
「……前に出る。お前らは、後ろで騒いでろ」
「指示が雑!!でも頼もしい!!」
その一言だけで、ルドは前に出た。巨大な盾が地面を踏みしめ、重い足音が響く。遅い。確かに遅い。だが、その存在感は圧倒的だった。
アルは魔力を集中し、詠唱を始める。よし、ここで一気に片付けてやる。
「我が命よ、今ここで燃え尽きろ──フルバースト・オブ・エターナル・カタストロフィー・リミテッド・エディション!」
「長い!詠唱長すぎて息切れする!!」
自分でツッコミを入れながら、魔法を発動させる。
──ズガァァァァン!!
赤と青の炎が螺旋状に噴き上がり、魔物の群れを飲み込む。爆発音が草原に響き、熱風が吹き荒れる。魔物たちが吹き飛び、草原の一部が完全に消滅した。
そしてルドの盾も、その衝撃で地面に深くめり込んでいた。
「あ、巻き込んだ!ごめん!」
「……問題ない。魔法、強いな」
ルドは平然と盾を引き抜く。まるで何も起きなかったかのように。
リリは両手を合わせ、笑顔で叫ぶ。
「すごーい!みんな吹き飛んじゃった!あ、この子たち、怪我してる!回復!」
「やめて!敵にヒールかけないで!!」
リリの杖が光り、回復魔法が放たれようとする。その対象は、気絶している魔物たち。
「リリ、止めます」
シアが素早く動き、リリの杖を押さえる。さすがの反応速度だ。
「えー、でも、痛そうだったから……」
「敵です。回復は不要です」
「そっかー……」
こうして、初依頼はなんとか完了した。
魔物の群れの進路は確認できた。というか、群れごと吹き飛ばした。
アルは無口な重戦士ルドと出会い、パーティはさらにカオスに進化した。
そして──
「うぅ……魔力使いすぎた……」
フルバースト・オブ・エターナル・カタストロフィー・リミテッド・エディションの反動で、アルは宿に戻ってから丸一日寝込むことになったのである。
「……次は、もっと短い詠唱にしよう……」
ベッドの中で、アルは固く心に誓った。




