第41話 指名依頼でランドリー魔法お願いしますと言われて、全力で否定した
ルーンベルク冒険者ギルド、朝。
朝日が差し込む受付カウンター。いつものように冒険者たちが集まり、依頼を確認している。
アルが重い足取りで受付に向かうと、エリーカが笑顔で書類を差し出した。
「アル・バイエルン様、指名依頼が届いております。ランドリー魔法の方との記載がございます」
にこやかな笑顔で書類を差し出すエリーカ。
アルが絶句する。
「……その呼び方、やめて!?俺、洗濯魔法の人じゃないから!!」
顔を真っ赤にして叫ぶアル。周囲の冒険者たちが、クスクスと笑い声を漏らしている。
リリが笑顔で、無邪気に言う。
「でも、ぴしゃん!って魔法、便利だよね!敵の動き止まるし、音もかわいいし!」
「かわいいって言うな!!俺の魔法、もっとかっこいいはずだったのに!!」
アルは両手で顔を覆う。何なんだよ、もう……
エリーカが書類を開き、説明する。
「依頼内容は魔力暴走を起こす魔物の捕縛です。詠唱妨害ではなく、動きを止める連撃が求められています」
依頼内容は、魔力暴走を起こす魔物の捕縛。
殺傷ではなく、生け捕りにすることが求められている。そのため、物理的なダメージを抑えつつ、動きを封じる技術が必要だ。
シアが冷静に、しかし容赦なく言い放つ。
「ウォーター・ウィップ・オブ・ランドリー・モードは、連撃性能とスタン効果に優れています。最適かと」
アルは頭を抱える。
「最適って言われても嬉しくない!!俺の魔法、完全に洗濯扱いされてるじゃん!!」
ルドが一言だけ、真面目な表情で呟いた。
「……柔軟剤、持っていくか?」
アルの悲鳴が響く。
「だから違うって言ってるだろ!!」
依頼先の村は、ルーンベルクから馬車で半日ほどの距離。
到着すると、すでに村人たちが出迎えていた。
そして──
「あ!ぴしゃん!の人だ!」
「洗濯魔法のお兄ちゃんだ!」
「詠唱、聞きたい!」
子どもたちが集まり、口々に叫ぶ。キラキラとした目で、アルを見上げている。
アルが空を見上げる。
「俺の黒歴史、村にまで浸透してる……!?誰か俺の羞恥心、回復して……」
あの雲まで飛んで行きたい気分だ。
リリが笑顔で、元気よく言う。
「じゃあ、ヒールかけるね!ぴかーって光るよ!」
「それ、羞恥に効かないから!!」
アルのツッコミが止まらない。
村長が前に出て、丁寧に頭を下げる。
「ランドリー魔法の方、わざわざお越しいただき、ありがとうございます。魔物の捕縛、どうかよろしくお願いします」
アルは力なく返事をする。
「……はい……頑張ります……」
もう何を言っても無駄だと悟った。
村の外れ、森の中。
魔力暴走を起こした魔物が、木々の間を暴れ回っている。中型の熊型魔物で、全身から魔力が溢れ出し、周囲の木々を薙ぎ倒している。
ルドが盾を構える。
「……行くぞ」
アルが深呼吸して、杖を構える。
「……仕方ない。行くか……」
恥を捨てるしかない。
「水よ、鞭となりて連打せよ!――ウォーター・ウィップ・オブ・ランドリー・モード!」
──詠唱完了。
水の鞭が空中に現れ、次々と魔物に向かって飛んでいく。
「ぴしゃん!」「ぴしゃん!」「ぴしゃん!」
軽快な音が森に響き渡る。魔物の動きが次第に鈍くなり、やがて完全に停止した。
完璧な捕縛だ。
見ていた村人たちが拍手する。
「すごい!さすがランドリー魔法!」
「音が心地いい!」
「お兄ちゃん、かっこいい!」
アルは崩れ落ちる。
「かっこよくない……俺、洗濯してるみたいになってる……」
リリがアルの肩を叩く。
「でも、完璧だったよ!魔物、ちゃんと止まったし!」
「結果じゃなくて過程が問題なんだって……」
こうして、アルはランドリー魔法を使って魔物を捕縛し、依頼は無事成功。
村人たちからは大いに感謝され、報酬もしっかりと受け取った。
しかし、称号は確実に定着しつつある。
ギルドに戻ると、受付に新しい依頼が届いていた。
エリーカが微笑みながら、書類を差し出す。
「アル様、新しい指名依頼です。洗濯魔法の方へ。次は乾燥魔法もお願いしますとのことです」
アルの悲鳴が、ギルド中に響き渡る。
「俺の魔法、家事シリーズになってるぅぅぅぅぅ!!」
地面に両手をつき、完全に崩れ落ちるアル。
シアが静かに補足する。
「乾燥魔法は、火属性の温風魔法で代用可能です」
「そういう問題じゃないから!?俺、完全に家事担当になってるんですけど!?」
ルドが淡々と言う。
「……次は、アイロンか?」
「やめて!?もう想像したくない!!」
リリがクスクスと笑いながら言う。
「でも、アルくんの魔法、どんどん人気になってるよ!」
「人気じゃなくて、ネタになってるだけだから!!」
アルのツッコミが止まらない。
エリーカが優雅に微笑む。
「ちなみに、ランドリー魔法使いとしての指名依頼、現在十件以上入っております」
アルは完全に絶望した表情で、カウンターに額をつけた。
「……俺の人生、もう終わった……」




