第40話 遺跡から帰還したら、ギルドで"詠唱石の人と呼ばれていた
ルーンベルクの冒険者ギルド。
石造りの立派な建物の中は、いつも通り冒険者たちで賑わっていた。依頼掲示板の前には何人もの冒険者が集まり、カウンターには依頼報告に来た者たちが列を作っている。
遺跡探索から帰還したアル一行は、疲れた表情で受付へ向かっていた。
受付嬢エリーカが笑顔で迎える。
「おかえりなさいませ。遺跡探索、お疲れ様でした。……それと、詠唱石の件、話題になっておりますよ」
にこやかな笑顔。しかしその言葉に、アルの顔が青ざめる。
アルが絶句する。
「……え?もう広まってるの!?誰が!?誰が流したの!?」
慌てて周囲を見回すアル。ギルド内の冒険者たちが、こちらをチラチラと見ている。
リリが笑顔で、無邪気に言う。
「すごいよね!アルくんの魔法、遺跡の宝になったんだよ!」
「それ、誇らしげに言うことじゃないから!!俺の黒歴史、ギルドの話題になってるの!!」
アルは両手で顔を覆う。もう終わりだ。自分の恥ずかしい詠唱が、ギルド中に知れ渡っている。
ギルド内がざわつき、冒険者たちがひそひそと話し合っている。
「詠唱石の人って、あの「ぴしゃん!」の魔法の人だろ?」
「ランドリー・モードって名前、マジで洗濯じゃん」
「詠唱、聞いてみたいな……生で」
「ハート型の氷も使うらしいぞ。乙女心とか言って」
冒険者たちの会話が、容赦なくアルの耳に届く。
アルが頭を抱える。
「俺、もう外歩けない……ギルドで詠唱石の人って呼ばれてる……」
地面にうずくまりたい気分だ。称号として定着しそうな予感がする。
シアが冷静に、しかし容赦なく言い放つ。
「記録媒体に残った以上、称号として定着する可能性があります」
「定着しないで!?俺、普通の魔法使いでいたいんですけど!?」
アルの悲痛な叫びも空しく、周囲の冒険者たちは興味津々の表情でこちらを見ている。
ルドが一言だけ、真面目な表情で呟いた。
「……洗濯、日課か?」
アルの悲鳴が響く。
「違う!!魔法だから!!家事じゃないから!!」
エリーカが、にこやかに微笑む。
「ちなみに、ギルド内で詠唱石の人の依頼成功率が高いという噂も広まっております。指名依頼、増えるかもしれませんね」
その言葉に、アルは完全に崩れ落ちる。
「俺の黒歴史、仕事に繋がってる……!?いや、違う!魔法だから!ギャグじゃないから!!」
地面に両手をつき、うずくまるアル。
リリがアルの肩を叩きながら、楽しそうに言う。
「いいことじゃん!アルくんの魔法、認められてるってことだよ!」
「認められ方が違う!!俺、戦闘魔法使いとして評価されたかったのに!!」
シアが静かに補足する。
「実際に依頼成功率は高いです。結果を出している以上、評価は妥当かと」
「結果じゃなくて過程が問題なんですけど!?俺、洗濯で敵倒してるみたいになってるんですけど!?」
ルドが淡々と前を向きながら言う。
「……有名になったな」
「有名になりたくなかった!!」
アルのツッコミが止まらない。
エリーカが書類を整理しながら、優雅に言う。
「あ、そうそう。遺跡の詠唱記録石、すでに研究者の方々から問い合わせが来ておりますよ。新しい魔法理論の可能性として、学術的な価値があるとか」
「学術的!?俺の黒歴史、研究対象になってるの!?」
アルは完全に絶望した表情で、カウンターに額をつける。
ギルド内のざわめきは収まらない。
「詠唱石の人、本物か」
「生で見られるなんてラッキー」
「依頼、指名してみようかな」
冒険者たちの視線が、容赦なくアルに集まる。
リリがクスクスと笑いながら言う。
「アルくん、有名人だね!」
「有名になりたくなかった……」
アルは力なく呟く。
エリーカが依頼書を差し出す。
「それでは、報酬の受け取りと、今回の遺跡探索の詳細報告をお願いします。……ああ、それと」
エリーカが微笑む。
「詠唱石の人としての初の指名依頼、すでに三件入っておりますよ」
アルの悲鳴が、ギルド中に響き渡った。
「やめてぇぇぇぇぇ!!俺、普通の魔法使いでいたいんですけどぉぉぉ!!」
──こうして、アルの詠唱は街の話題となり、本人の羞恥とともに広がっていくのだった。
ギルドの掲示板には、早くも「詠唱石の魔法使い募集」という依頼が貼り出され始めていた。




