第39話 遺跡の宝が詠唱記録石で、アルの黒歴史が永久保存された
守護者を撃破し、最後の扉が静かに開いた。
重厚な音を立てて、奥への道が現れる。通路の先には、神秘的な光が漏れ出している。
四人は慎重に奥へと進む。
中には祭壇のような台座があり、中央に浮かぶのは淡く光る透明な水晶のような石。
その石が、魔力の光を帯びて宙に浮いている。その周りには複雑な魔法陣が展開され、石を守るように輝いている。
リリが目を輝かせる。
「わあ……きれい……これが、宝物?」
期待に満ちた表情で、石に近づこうとする。
シアが慎重に魔力を探る。
「魔力の記録媒体です。詠唱記録石と呼ばれるものかと」
アルが顔をしかめる。
「……詠唱記録石?それって、まさか……」
嫌な予感が脳裏をよぎる。詠唱を記録する石。それが意味するのは──
石が反応する。
祭壇の魔法陣が一斉に輝き、空間全体に魔力が満ちる。
そして──
空間に声が響く。
「水よ、鞭となりて連打せよ!――ウォーター・ウィップ・オブ・ランドリー・モード!」
アルの声。完璧な詠唱。
空間に、先ほどの戦闘の音まで再生される。
「ぴしゃん!」「ぴしゃん!」「ぴしゃん!」
洗濯のような音が、神秘的な空間に響き渡る。
アルの顔が真っ青になる。
リリが拍手しながら、感動した様子で言う。
「すごい!保存されてる!アルくんの魔法、永久保存だよ!」
アルの悲鳴が響く。
「やめて!?それ、保存しちゃいけないやつだから!!俺の黒歴史、遺跡の宝になってるの!?」
両手で顔を覆いその場に崩れ落ちるアル。
シアが冷静に、しかし容赦なく言い放つ。
「この石は魔力と詠唱を記録し後世に伝えるものです。つまり、アルさんの魔法は遺跡の遺産となりました」
アルは完全に絶望した表情で地面にうずくまる。
「いやいやいや!?俺の詠唱、後世に残っちゃうの!?これから何百年も、誰かが聞くの!?」
石は相変わらず輝き続け、次の詠唱を再生し始める。
「氷よ、乙女の心を映し、敵を貫け!――アイシクル・ピアス・オブ・フローズン・ハート・エモーション!」
乙女心の詠唱まで、完璧に保存されている。
ルドが一言だけ、感慨深げに呟いた。
「……後世、笑うな」
アルの絶叫が響く。
「誰か俺の味方して!?俺、真面目に詠唱しただけなんですけど!!」
──そのとき、空間が揺れる。
淡い光が祭壇の上に現れ、ふわりと人型が浮かび上がる。
女神レイラが、無邪気な笑顔で現れる。
「やっほー!あ、見つけちゃった?それ、アルくんの詠唱、ちょっと面白かったから記録しておいたの♪」
キラキラと輝く髪を揺らしながら、レイラはにこにこと笑っている。
アルが絶叫する。
「女神様ぁぁぁぁぁぁ!?勝手に保存しないでぇぇぇぇぇ!!」
顔を真っ赤にして叫ぶアル。
レイラがクスクスと笑いながら言う。
「だってアルくん、すっごく頑張ってたし!詠唱も長いし、ハート型の氷とか可愛いし!後世の人にも見てもらいたいなって♪」
「可愛いじゃないから!!戦闘魔法だから!!それを遺産にしないで!!」
アルは杖を地面に突き刺し、両手で顔を覆う。
シアが静かに補足する。
「詠唱記録石は、通常は古代の偉大な魔法使いの魔法を保存するものです。アルさんも、その一人として記録されたようです」
「偉大じゃないから!!黒歴史だから!!」
リリがアルの肩を叩きながら、楽しそうに言う。
「でも、すごいじゃん!アルくんの魔法、歴史に残るんだよ!」
「残したくない歴史なんですけど!?俺、普通の戦闘魔法を残したかったんですけど!?」
ルドが淡々と言う。
「……洗濯と乙女心、歴史に刻まれたな」
「やめて!?そのフレーズ、一生言われ続けそうで怖い!!」
レイラがふわりと浮かびながら、にこにこと笑う。
「大丈夫大丈夫!きっと後世の人も、アルくんの魔法見て元気になるよ!笑顔になるよ!」
「笑顔の種類が違う!!それ、笑われるやつだから!!」
アルのツッコミが止まらない。
石は相変わらず輝き続け、次々とアルの詠唱を再生している。
「闇よ、孤独の中で輝け!――シャドウ・フラッシュ・オブ・ナイト・ソウル!」
黒歴史詠唱まで、完璧に保存されている。
アルは完全に諦めた表情で、地面に座り込む。
「……もういいや……俺の人生、とっくに限界突破してるし……」
レイラが優しく微笑む。
「そうそう!その前向きな姿勢素敵♪じゃあ、わたしはこれで!がんばってねー!」
そう言って、レイラはふわりと消えていった。
──こうして、アルの黒歴史魔法は、遺跡の宝として永久保存されることになった。
詠唱記録石は、これから何百年、何千年と、アルの恥ずかしい詠唱を後世に伝え続けるのだろう。




