第38話 洗濯魔法で守護者を叩き落としたら、仲間のツッコミが止まらなかった
ダンジョンの最深部。
広大な円形の空間が広がっている。天井は高く、壁には古代の文様が刻まれ、淡い光を放っている。
中央に立つのは、白銀の鎧を纏った巨人──魔力生命体の守護者。
高さは五メートルを超え、その全身は継ぎ目のない白銀の装甲に覆われている。右手には巨大な剣を構え、無言のままこちらを見下ろしている。その存在感は圧倒的で、空気そのものが重くなったように感じられる。
シアが慎重に魔力を探る。
「……魔力密度、過去最高。物理主体ですが、魔力の補助もあります」
その言葉に全員が緊張する。これまでの敵とは明らかに格が違う。
ルドが大盾を構え前に出る。
「……来るぞ」
──守護者、動く。
ズシン、ズシンと地響きとともに、ゆっくりとした動きで剣を振り上げる。その剣には魔力が収束し、刃が輝き出す。
そして──
ドォンッ!
剣が振り下ろされ、ルドの盾が衝撃を受け止める。金属音が空間に響き渡り、衝撃波が床を走る。ルドが数歩後退する。
「……硬い。そして、重い」
ルドの表情が厳しくなる。この守護者は、これまでの敵とは比較にならない強さだ。
アルが叫ぶ。
「動きを止めるぞ!……水よ、鞭となりて連打せよ!――ウォーター・ウィップ・オブ・ランドリー・モード!」
──詠唱完了。
杖の先から、透明な水の鞭が複数現れる。そして──
「ぴしゃん!」「ぴしゃん!」「ぴしゃん!」
水の鞭が守護者の装甲を次々と連打する。まるで洗濯板で布を叩くような、軽快な音が空間に響き渡る。
リリが思わず叫ぶ。
「洗濯してるみたい!ぴしゃん!ぴしゃん!」
アルの悲鳴が響く。
「だからそれやめて!?洗濯じゃなくて、物理連撃だから!!家事じゃないから!!」
しかし水の鞭は容赦なく、守護者の全身を叩き続ける。
──鞭の連打が守護者の動きを鈍らせ、スタンが発生。
守護者の動きが一瞬止まり、剣を構えたまま硬直する。その隙を仲間たちは見逃さない。
シアが素早く接近し、守護者の関節部分を正確に狙う。短剣が装甲の隙間に滑り込み、魔力の流れを乱す。
ルドが盾で守護者の体勢を崩しにかかる。巨体が傾きバランスを失う。
「今だ!追撃!」
──アル、追撃の詠唱を開始する。
「氷よ、乙女の心を映し、敵を貫け!――アイシクル・ピアス・オブ・フローズン・ハート・エモーション!」
──詠唱完了。
ハート型の氷が宙を舞い、キラキラと輝きながら守護者に向かって飛んでいく。
そして──
ザシュッ!ザシュッ!
ハート型の氷が、守護者の胸部に次々と突き刺さる。装甲に亀裂が走り、魔力の光が漏れ出す。
守護者の魔力が揺れ、装甲が大きく砕けた。
──守護者、ゆっくりと崩れ落ちる。
ドスンという重い音とともに、巨体が床に倒れ込む。白銀の装甲が砕け散り、魔力の光が消えていく。
完全なる勝利だ。
リリが拍手しながら、笑顔で言う。
「すごい!洗濯と乙女心で勝った!」
アルが絶叫する。
「それ、勝因の言い方おかしいから!!俺の魔法、もっとかっこいいはずだったのに!!」
両手で顔を覆い、その場にうずくまるアル。
シアが静かに補足する。
「戦術的には完璧でした。見た目はともかく」
「見た目が一番重要なんですけど!?俺、最強の守護者を洗濯で倒したみたいになってるんですけど!?」
ルドが一言だけ、真面目な表情で呟いた。
「……柔軟剤、要るか?」
アルの悲鳴が空間に響き渡る。
「誰か俺の味方して!?俺、真面目に戦っただけなんですけど!!」
リリがアルの肩を叩きながら、楽しそうに言う。
「でも、アルくんの魔法、ちゃんと効いてたよ!ぴしゃん!って!」
「その擬音やめて!?俺の戦闘が家事労働みたいになってるじゃん!!」
シアが冷静に前を指差す。
「それより、奥に何かあります」
守護者が倒れた先には、光り輝く宝箱が置かれていた。
ルドが淡々と歩き出す。
「……報酬か」
リリが駆け出す。
「わあ!お宝だ!」
アルは立ち上がり、疲れた表情で呟く。
「……もう何でもいいや……俺の尊厳、とっくに限界突破してるし……」
──こうしてアル一行は、最深部の守護者を撃破し遺跡の核心へと進む。
宝箱の前に立つ四人。しかしアルの心には、「洗濯と乙女心で勝った」という言葉が深く刻まれていた。




