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第37話 封印解除の詠唱が長すぎて、途中で仲間が昼寝を始めた

ダンジョンの最深部。

重厚な石の扉が、静かに空気を震わせていた。扉の表面には無数の魔法陣が刻まれ、その一つ一つが複雑に絡み合っている。魔力の密度は異常で、壁の文様は光を帯びて脈打っている。まるで生きているかのように。


シアが慎重に扉に手をかざす。

「……封印です。解除には、かなりの魔力と詠唱が必要かと」


その言葉に、アルの顔が青ざめる。


アルが顔をしかめる。

「詠唱……長いやつか……」


脳裏に浮かぶのは、過去に使った封印解除魔法の詠唱。あまりにも長く、あまりにも恥ずかしい内容。


リリが笑顔で、期待に満ちた目で言う。

「アルくんの長い詠唱、好きだよ!途中で物語みたいになるし!」

「それ、途中で寝られるやつだから!!俺の羞恥心が限界突破するやつだから!!」


アルは両手で顔を覆う。しかし、この扉を開けるには、あの詠唱を使うしかない。


──アル、深呼吸して覚悟を決める。

杖を高く掲げ、魔力を練り上げる。もう、恥を捨てるしかない。


「……風よ、時を越え、記憶の扉を揺らせ。

水よ、涙となりて、過去を洗い流せ。

炎よ、情熱を灯し、未来を照らせ。

大地よ、重みを持って、運命を支えよ。

そして我が魂よ、黒歴史を乗り越え、今ここに誓う──」


──詠唱は続く。

アルの声が通路に響き渡り、扉の魔法陣がゆっくりと反応し始める。淡い光が魔法陣を走り、複雑な紋様が次々と輝き出す。


しかし、詠唱はまだ序盤。


「失われし時よ、再び巡れ。

忘却の彼方より、記憶を呼び起こせ。

後悔の海を越え、希望の光を掴め。

我が心に刻まれし、あらゆる過ちよ──」


──詠唱はさらに続く。


リリが、だんだんと眠そうな表情になってくる。

「……あ、ちょっと眠くなってきたかも……」


そう言いながら、リリは地面に座り込む。杖を膝に抱え、目を閉じ始めた。


アルは詠唱を続けながら、内心で叫ぶ。


「今を、そして未来を、切り拓くための力となれ。

封印よ、解かれよ。

我が声に応え、扉よ開け──」


──詠唱は、まだ半分も終わっていない。


ルドが壁にもたれかかり、目を閉じる。

「……起きたら開いてるといいな」


そのまま、静かに眠り始めた。


アルの心の中で、何かが折れる音がした。


「運命の糸よ、絡まりを解き、

真実の道を示せ。

光と影の狭間で、

我は選択する──」


──詠唱は、ついに後半に突入。


シアが、どこからか紅茶セットを取り出し、淹れ始める。

「詠唱中に休憩を挟むのは、効率的です」


カップに紅茶を注ぎ、静かに香りを楽しんでいる。


アルが叫ぶ。

「誰か俺の詠唱に集中して!?今、人生で一番恥ずかしい時間だから!!」


しかし仲間たちは、それぞれ自由に過ごしている。リリは完全に寝息を立て、ルドは壁にもたれたまま動かず、シアは紅茶を味わっている。


アルは涙目になりながら、詠唱を続ける。


「過去の痛みよ、今は糧となれ。

未来の不安よ、今は力となれ。

そして我が意志よ、

この封印を打ち砕き──」


──詠唱、ついに完了。

アルの声が最高潮に達し、杖が眩い光を放つ。


「――ゲート・オブ・リグレット・アンド・リスタート・オブ・セカンド・チャンス!」


──魔法陣が一斉に輝き、扉全体が震え始める。

カチャリ、カチャリと複雑な錠が次々と外れていく音が響く。そして──


ゴゴゴゴゴ……


重厚な扉が、ゆっくりと開いていく。


リリが目をこすりながら、眠そうに言う。

「……あ、開いた……すごい……でも、ちょっと夢の中でも詠唱聞こえてた……」


アルの悲鳴が響く。

「俺の黒歴史、夢にまで侵食してるの!?やめて!?寝てる間くらい自由でいて!?」


両手で顔を覆い、その場に崩れ落ちるアル。


ルドがゆっくりと目を開ける。

「……よく寝た。扉、開いてるな」

「感想がそれ!?俺の詠唱、完全にBGM扱いされてるんですけど!!」


シアが紅茶を飲み干し、静かに立ち上がる。

「詠唱時間:約15分。効率的な休憩時間でした」

「休憩時間にしないで!?俺の人生で一番長い羞恥タイムだったんですけど!?」


アルのツッコミが止まらない。


リリがあくびをしながら、アルの肩を叩く。

「でも、アルくんの詠唱、子守唄みたいで心地よかったよ!」

「それ、褒めてないから!!俺の魔法、睡眠導入になってるじゃん!!」


こうして、アル一行は最深部の扉を開け、次なる試練へと足を踏み入れる。


扉の向こうには、まばゆい光が広がっている。しかしアルの心には、15分間の羞恥という重い傷が刻まれていた。

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