第36話 魔力感知したら仲間の魔力が濃すぎて、魔王の前座かと思った
ダンジョンの通路は、さらに深く、さらに暗く。
天井は低くなり、壁からは濃密な魔力が漂っている。空気が重く、呼吸するたびに魔力が肺に流れ込んでくるような感覚。アル一行は慎重に進みながら、複数の分岐が現れた場所で立ち止まった。
「この先、魔力の流れが複雑です。罠か、魔物か、あるいは……」
シアが壁に手をかざし、魔力の残留を確認する。その鋭い感覚が、何か異常を察知したようだ。
三つの通路が目の前に広がっている。どれを選ぶべきか、判断が難しい。
アルが魔力感知魔法を使おうと杖を構える。
「……魔力の流れ、読んでみるか。詠唱は……あれしかないんだよな……」
しかし、魔力の流れを正確に把握するには、この魔法が最適だ。
──アル、深呼吸して覚悟を決める。
「……仕方ない……」
杖を高く掲げ、魔力を集中させる。
「魔力よ、姿を見せろ!濃度と流れを暴け!――マナ・スキャン・オブ・エネルギー・インスペクター!」
──詠唱完了。
杖の先から淡い光が放たれ、空間全体に広がっていく。魔力の流れが可視化され、色と形で表現される。通常なら、壁の魔法陣や敵の魔力を読み取るための魔法だ。
しかし──
空間に浮かび上がった魔力の流れは、予想外のものだった。
仲間たちの魔力が、異常なほど濃く、鮮やかに輝いている。
アルが絶句する。
「……え?なにこれ……魔王の前座か何か……?」
目の前に広がる光景が信じられない。
リリの魔力:回復魔法の光が暴走気味に拡散し、まるで太陽のように輝いている。その範囲は通路全体を覆い、壁すら照らし出すほど。
ルドの魔力:盾のように重厚で、空間そのものを圧迫している。その存在感はまるで要塞のよう。動くだけで周囲の魔力が押し退けられている。
シアの魔力:刃のように鋭く、透明だが確かに存在する。壁を切り裂きそうな勢いで、ピリピリと空気を震わせている。
リリが笑顔で、無邪気に言う。
「わたし、元気いっぱいだよ!」
「それ、魔力の話だから!!元気っていうか、敵が逃げるレベルだから!!」
アルは仲間たちの魔力が、想像以上に濃密だったことに衝撃を受けていた。
シアが冷静に、しかし容赦なく言い放つ。
「魔王の前座という表現は、やや誇張ですが……否定はできません」
「否定してよ!?俺、普通の冒険者パーティーだと思ってたのに!!」
アルの悲鳴が通路に響く。
ルドが一言だけ、淡々と呟いた。
「……魔王、泣くかもな」
「誰か俺の味方して!?俺、ただの魔法使いだから!!」
アルは杖を地面に突き刺し、両手で顔を覆う。自分が普通の冒険者パーティーにいると思っていたのに、実際には規格外の仲間たちに囲まれていたという事実。
──そのとき、通路の奥から魔物が現れた。
灰色の毛皮に覆われた、狼型の魔物。鋭い牙を剥き出しにして、こちらを睨みつけている。魔力に敏感な種族らしく、空気中の魔力の流れを敏感に察知しているようだ。
魔物は一瞬、攻撃態勢を取った。
しかし──
仲間たちの魔力を見て、ピタリと動きを止めた。
そして次の瞬間──
「キャンッ!」
悲鳴のような鳴き声を上げて、魔物は一目散に逃げ出した。尻尾を巻いて通路の奥へと消えていく。
アルが呆然とする。
「……え?戦わずに逃げた?俺の詠唱、無駄だった?」
魔力感知魔法は完璧に機能した。しかし、その結果が敵を威嚇して逃がすことになった。
リリが笑顔で、拍手しながら言う。
「でも、すごいよね!アルくんの魔法、敵を逃がすなんて!」
「それ、俺の魔法じゃなくて、みんなの魔力だから!!俺、ただのスキャン係だから!!」
シアが静かに補足する。
「結果的には戦闘を回避できました。効率的です」
「効率じゃなくて、敵が怖がって逃げただけだから!!」
ルドが淡々と前に進みながら呟く。
「……戦わずに勝つ。孫子の兵法だな」
「それ、兵法じゃなくて魔力の威圧だから!!」
アルのツッコミが止まらない。
リリがアルの肩を叩きながら、楽しそうに言う。
「でも、アルくんのおかげで、わたしたちの魔力がすごいって分かったよ!」
「それ、知りたくなかった情報だから!!俺、普通のパーティーだと思ってたのに!!」
──こうして、アル一行は魔王級の魔力を背負いながら、さらに奥へと進んでいく。
通路の先では、もはや魔物たちが逃げ出す気配すら感じられる。アルの魔力感知魔法は、意図せず敵を威嚇する魔法として機能し始めていた。




