第33話 回復魔法で敵が元気になったので、ツッコミが止まらない
ダンジョンの奥は、思った以上に広かった。
壁には古代文字が刻まれ、床には複雑な魔法陣の痕跡が残っている。魔力の残留が濃く、空気そのものが重たく感じられる。アル一行は慎重に進みながら、探索を続けていた。
「この先、魔力の乱れがあります。魔物の気配あり」
シアが立ち止まり、周囲を警戒する。その鋭い感覚は、これまで何度もパーティーを危機から救ってきた。
全員が足を止め、武器を構える。静寂の中、遠くから重い足音が響いてきた。
──そのとき、奥の通路から石像型のゴーレムが現れた。
高さ三メートルほどの巨体。魔力の核を中心に、硬い外殻をまとった魔物。その全身は灰色の石で覆われ、一歩踏み出すたびに床が震える。物理も魔法も通りにくい、厄介な相手だ。
ルドが前に出て、大盾を構える。
「……来るぞ」
ゴーレムが拳を振り上げ、ルドに向かって振り下ろす。ガキィンという金属音が響き、ルドは衝撃を受け止めた。
「……硬い。核を狙うしかない」
ルドが冷静に状況を分析する。この硬度では、外殻を破壊するのに時間がかかりすぎる。
アルが魔力操作でゴーレムの構造を探る。
杖を構え、微細な魔力を流して内部構造を読み取っていく。ゴーレムの体内には、複雑な魔力の流れが張り巡らされている。
「……核は胸部。魔力の流れ、かなり強い……」
アルが冷や汗を流しながら報告する。この魔力の強さなら、核を破壊するまでに相当な時間がかかるだろう。
リリが杖を構え元気よく叫ぶ。
「任せて!回復魔法、いっくよー!」
アルが慌てて振り返る。
「ちょっと待って!?誰が傷ついた!?今の流れで回復って何!?」
しかしリリの詠唱は止まらない。
「癒しの光よ、命に届いて、元気になぁれ!――ヒール・ブレッシング・スパークル!」
──詠唱完了。
キラキラと輝く光の粒子が宙を舞い、温かな光がゴーレムに降り注ぐ。まるで天使の祝福のような、優しい光。
そして──
ゴーレムの外殻に走っていたひび割れが、みるみるうちに埋まっていく。
石の表面が滑らかになり、損傷が完全に修復された。
アルが絶叫する。
「なんで敵が元気になってんの!?回復対象、間違ってるから!!」
両手を広げて叫ぶアル。目の前の光景が信じられない。
リリがきょとんとした顔で首を傾げる。
「えっ……?だって、傷ついてたから……」
「敵だから!!傷ついてる=回復対象じゃないから!!」
アルは頭を抱える。リリの思考回路が理解できない。
シアが冷静に状況を分析する。
「魔力の流れが安定しました。敵の回復は完了です」
「報告いらないから!!その情報、俺たちに何のメリットもないから!!」
アルのツッコミが止まらない。
ルドが一言だけ、淡々と呟いた。
「……手加減、不要か」
ルドは盾を構え直し、ゴーレムに向かって突進する。
ルドが盾でゴーレムを押し返し、体勢を崩させる。
その隙を狙って、アルが精密な魔力操作で核周辺の外殻を薄くしていく。魔力の流れを操作し、防御力を低下させる。
「今だ!」
アルの合図と同時に、シアのナイフが正確にゴーレムの胸部に突き刺さる。
核が砕け、ゴーレムの動きが止まった。そして、ゆっくりと崩れ落ちる。
ガラガラと音を立てて、石の塊が床に散らばった。
リリが申し訳なさそうに、しかしどこか明るい口調で言う。
「ごめんね……でも、元気になったから、戦いやすかったよね?」
「それ、敵の視点だから!!俺たちの視点じゃないから!!」
アルのツッコミが遺跡に響き渡る。
シアが静かに補足する。
「でも、結果的に倒せました。問題ありません」
「問題しかないよ!?回復魔法で敵を強化するパーティーって何!?」
アルは崩れ落ちそうになりながら、杖で身体を支える。
ルドが一歩前に進みながら呟いた。
「……先に進むぞ」
「誰も今の状況に触れないの!?俺だけツッコミ役なの!?」
アルの悲痛な叫びも虚しく、パーティーは何事もなかったかのように奥へと進んでいく。
こうして、アル一行は回復魔法の誤爆に振り回されながらも、探索を続けることになった。




