表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/41

第32話 笑われて開く扉

─ルーンベルク西部、森の奥。

依頼帰りのアル一行は、分身が勝手に描いた地図に導かれ、苔むした石造りの遺跡の前に立っていた。


「……本当にあったんだな。分身の地図、精度高すぎない?」


アルは地面に残された泡の線を見下ろしながらため息をつく。まさか本当に遺跡が見つかるとは思っていなかった。


リリが目を輝かせる。

「ねえ、ちょっとだけ中を見てみようよ!せっかくだし!」

「待て待て待て!俺たち、依頼終わった帰り道だよ!?これは分身の暴走で見つかっただけだよ!」


アルは必死に止めようとするが、リリの好奇心に満ちた瞳は既に遺跡の奥を見つめている。


シアが扉に手をかざし魔力の残留を確認する。

「魔力反応は本物です。封印されていた以上、何かしらの価値はあるかと」


ルドが一歩前に出る。

「……入るか」


アルは観賞用の杖を握りしめ、仕方なく黙ってうなずいた。もう止められないと悟ったのだ。


一行は慎重に遺跡の内部へと足を踏み入れた。

石壁には古代文字が刻まれ、通路には淡い魔力の光が漂っている。空気がひんやりと冷たく、長い間人が立ち入っていなかったことを物語っていた。


数歩進んだ先でシアが突然立ち止まる。

「床の魔力が不自然です。罠の可能性あり」


全員が足を止める。シアの警告は、これまでの経験上無視できない。


アルが慎重に床に手をかざし魔力の流れを探る。

指先から微細な魔力を流し、床下に張り巡らされた魔法陣の構造を読み取っていく。複雑に絡み合った魔力の糸が、わずかな刺激で発動する仕組みになっている。


「……これ、重量感知式の罠だ。一定以上の重さがかかると、床が崩落する」


アルは集中して魔力の流れを慎重に調整する。支柱の魔力バランスを操作し、罠の発動条件を無効化していく。


床が沈みかけたまま、ぴたりと止まった。


リリが小さく拍手する。

「さすがアルくん!」

「これは普通の魔力操作だから……黒歴史じゃないから……」


さらに進んだ先に巨大な石の扉に複雑な魔法陣が刻まれていた。

古代文字と魔力の紋様が絡み合い扉全体を覆っている。明らかに封印の魔法だ。


シアが扉に魔力を流し、魔法陣の内容を読み取ろうとする。しばらく集中した後、眉をひそめた。

「……笑いによる精神的混乱で封印解除とあります」


一同が沈黙する。


アルが絶句する。

「なんでそんな魔法があるんだよ!?俺、魔法使いであって芸人じゃないんだけど!?」


リリが期待の目でアルを見つめる。

「アルくんの詠唱、いつも面白いからいけると思う!」

「それ、笑われてるだけだから!!俺の黒歴史、封印解除に使われるの!?」


アルは魔力操作で魔法陣の紋様を丁寧に読み取り、別の解除方法がないか探る。


「……無理だ。読めるけど、解除条件が笑わせることって……どうしろってんだよ……」


どう頑張っても、封印解除の条件は「笑い」だけ。力技でも精密な魔力操作でもこの扉は開かない。


アルは深呼吸して覚悟を決めた。

「……仕方ない。やるしかないか……」


観賞用の杖を握りしめ、恥を捨てる覚悟で構える。


「……氷よ、乙女の心を映し、敵を貫け!――アイシクル・ピアス・オブ・フローズン・ハート・エモーション!」


──詠唱完了。

ハート型の氷が宙を舞い、キラキラと光を反射しながら扉に突き刺さる。魔法陣が震え、淡い光を放ち始めた。


そして──


「……ぷっ……くくく……」


扉が笑った。物理的に。石の扉から、人の笑い声のような音が響く。


魔法陣が輝きを増し、カチャリと錠が外れる音が響いた。


そして、ゆっくりと開いた。


アルはその場に崩れ落ちる。

「俺の黒歴史、笑われて開いた……!?いや、違う!魔法だから!ギャグじゃないから!!」


両手で顔を覆い、地面にうずくまるアル。もう何も信じられない。


ルドが一言だけ感心したように呟いた。

「……笑い、強いな」


シアが静かに補足する。

「封印解除には十分な効果でした。内容はともかく」

「誰か俺の味方して!?俺、真面目に詠唱しただけなんですけど!!」


アルの悲痛な叫びが遺跡の通路に響く。


リリがアルの肩を叩きながら、笑顔で言った。

「でも、おかげで先に進めるよ!アルくんの詠唱、役に立ったね!」

「それが一番つらいんですけど!?黒歴史が実用性持ったらダメでしょ!?」


──こうして、アル一行は笑われながらも、偶然のダンジョン探索を続けることになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ