表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/41

第31話 分身、勝手に地図を描く

──ルーンベルク西部、静かな森の中。

木漏れ日が差し込む、穏やかな午後。

依頼帰りのアル一行は、木陰で休憩していた。


「ふぅ……やっと終わった……」


アルは観賞用の杖を地面に立てかけ、疲れた様子で腰を下ろす。今日の依頼は思ったより長引いて、全員くたくただ。


リリが木の根元に座りながら、のんびりとした口調で言った。

「ねえ、アルくん。分身魔法で周囲を見張ってもらえない?」

「えっ……今ここで?俺、疲れてるんだけど……」


アルは疲労困憊の表情で首を横に振る。


「だって、分身魔法使えるのアルくんだけだし。分身いっぱい出るし、見張りにぴったりじゃん!」

「俺の分身、しゃべるだけで見張りにならないよ!?むしろ騒音だよ!?」


アルの必死の抵抗も、リリの期待に満ちた瞳の前では無力だった。


シアが静かに、しかし的確に言う。

「騒がしいほうが魔物の接近には気づきやすいです。ある意味、警報です」

「俺の魔法が警報扱いされてる……!?」


──アルは観念して立ち上がる。

「……はぁ。わかったよ……」


深くため息をつき、杖を手に取る。分身を出すという事は、休憩時間が終わってしまったことを意味する。


「……水よ、幻を千に分かち、我が声を映せ!――アクア・ミラージュ・インフィニティ・スプラッシュ・エディション!」


──詠唱完了。

杖の先から水の波紋が広がり、次々と分身が現れる。透き通った水で構成された、アルとそっくりな姿。


そして次の瞬間──


「俺が本物だ!」「いや俺だ!」「見張りは任せろ!」「地形把握完了!」「地図描いたぞ!」


一斉にしゃべり始める分身たち。森の静けさは一瞬で破壊された。


「……は?地図?」


アルが呆然と振り返ると、分身の一人が地面に水で地図を描いていた。泡の線で構成された、妙に精密な地形図。木々の配置、岩の位置、小川の流れまで細かく描き込まれている。


「こっちに未登録の魔力反応あり!」「ダンジョンの匂いがするぞ!」「探索推奨だ!」

「勝手に冒険始めないで!?俺、ただ見張り頼まれただけなんですけど!?」


アルの悲鳴も空しく、分身たちは勝手に情報を共有し始める。


ルドが地図をじっと見つめる。

「……魔力の流れが不自然だ。何かある」


彼の鋭い観察眼が、地図に描かれた魔力の痕跡を読み取っていた。


リリが目を輝かせる。

「行ってみようよ!分身が描いた地図、なんかワクワクする!」

「いやいやいや!!分身の情報で行動するの!?あいつら、しゃべるだけで信頼性ゼロだよ!?」


アルは必死に止めようとするが、もう遅い。リリとルドは既に地図の方向を確認し始めている。


「大丈夫だって!分身だってアルくんの魔法なんだから!」

「それが一番不安なんですけど!?」


──一行は地図に従い、森の奥へと進んだ。

分身たちが先導し、「こっちだ!」「右に曲がれ!」と騒々しく道案内をする。


やがて、木々の間から石造りの建造物が見え始めた。

苔むした石造りの遺跡が姿を現す。古代文明の遺物のような、厳かな雰囲気を纏った遺跡。


「……本当にあった……」


アルは呆然とつぶやく。まさか分身の情報が本当だったとは。


分身の一人が遺跡の前で得意げに叫ぶ。

「ほら見ろ!俺の情報は正確だ!」「ここ、魔法の詠唱に反応するぞ!」「よし、開けるぞ!」

「待て待て待て!!詠唱は俺がやるから!! 勝手に──」


アルが止める間もなく──


──分身の詠唱が途中で途切れ、盛大に爆発。

ドォンという轟音と共に、遺跡の扉が吹き飛び、内部への通路が露わになる。土煙が舞い上がり、石の破片が飛び散った。


「……開いた……」


リリがぽかんと口を開ける。予想外の展開に、言葉を失っている。


アルは膝から崩れ落ちる。

「俺の魔法、勝手にダンジョン開けた……!?分身が先導ってどういうこと!?」


両手で顔を覆い、地面にうずくまるアル。自分の魔法が制御不能になっている現実を受け入れられない。


ルドが一言だけ、感心したように呟いた。

「……分身、有能だ」


シアが冷静に補足する。

「入口の爆発は完全に事故ですね」

「誰か俺の味方して!?」


アルの絶叫が森に響き渡る。しかし分身たちは既に遺跡の中へと進んでいき、「探索開始!」「宝箱あるかな!」と騒いでいる。


──こうして、アル一行は分身の暴走によって、謎のダンジョンへと足を踏み入れることになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ