第28話 銀等級初任務で、俺の分身が営業を始めた
──ルーンベルク郊外・農村。
銀等級に昇格したばかりのアルは、初の指名依頼に挑んでいた。
依頼内容は「村の安全確認と、若者への冒険者啓発」。
魔物退治のはずが、なぜか広報活動まで含まれていた。
「……なんで俺が"冒険者ってかっこいいよ"って言う係になってるんだよ……」
アルは依頼書を見つめ、ため息をつく。安全確認はわかる。だが、啓発活動とは。つまり、子供たちの前で魔法を披露し、冒険者になることを勧めるということだ。
リリが笑顔で、アルの肩を叩く。
「アルくんの魔法、見た目派手だし、分身いっぱい出るし、宣伝にぴったりだよ!」
「俺の魔法、うるさいだけだよ!?分身が勝手にしゃべるんだよ!?しかも詠唱ミスったら爆発するんだよ!?」
派手ではある。だが、それは良い意味での派手ではない。混乱を招く派手さだ。
シアが紅茶を差し出す。
「"ティー・オブ・羞恥耐性"です。村人の視線に対する精神的ダメージを2%ほど軽減します」
「それ、俺が営業向いてないってことじゃん!!」
羞恥耐性の紅茶。それは確かに、アルには必要だ。だが、2%では焼け石に水だ。
ー村の広場
村の広場には、子供たちが集まっていた。その数は二十人ほど。みんな期待の眼差しを向けている。
「冒険者のお兄ちゃん、魔法見せて!」
「かっこいい魔法がいい!」
「爆発するやつ!」
「爆発は危ないからダメだよ……」
アルは観賞用の杖(※実戦でも使える)を握りしめ、覚悟を決める。
「……よし、やるか……」
深呼吸。魔力を集中させる。
「……水よ、幻を千に分かち、我が声を映せ!──アクア・ミラージュ・インフィニティ・スプラッシュ・エディション!」
──詠唱完了。
水が舞い上がり、分身が次々と現れる。アルと同じ姿の分身が、十体、二十体、三十体……無限に増えていく。
子供たちは歓声を上げる。
「わあああ! いっぱい出た!」
「すごい! 全部同じ顔だ!」
そして──
分身たちが、全員しゃべり始める。
「俺が本物だ!」
「いや俺だ!」
「ツッコミが足りないぞ!」
「君もギルドに登録しよう!」
「今ならペンダント付き!」
「……え?」
アルは固まる。
「営業始めてる!?俺の分身、勝手にギルド勧誘してる!?しかもペンダントは最初から付いてくるやつ!!」
分身たちは、勝手に営業トークを始めている。
「冒険者ギルドでは、新規登録者にペンダントをプレゼント!」
「今なら、初回依頼の報酬が10%アップ!」
「さあ、君も冒険者になろう!」
「それ、嘘の情報混ざってる!!報酬10%アップなんてないから!!」
アルは頭を抱える。
子供たちは、大喜びだった。
「すごーい!」
「しゃべる水だ!」
「お兄ちゃん、魔法教えてー!」
「冒険者になりたい!」
「ギルド行きたい!」
子供たちが、目を輝かせている。
リリがほっこりと笑う。
「よかったね、アルくん。人気者だよ!」
「俺の羞恥心が限界突破してるだけだよ!!これ、魔物退治じゃなくて精神修行だよ!!」
確かに人気はある。だが、それは分身のおかげだ。アル本人は、ただ恥ずかしい思いをしているだけだ。
村の大人たちも、拍手している。
「素晴らしい魔法だ!」
「子供たちが喜んでいる!」
「ぜひ、またお願いします!」
「また!?また来るの!?俺の羞恥心、もう残ってないよ!?」
ルドが壁際から、小さく呟く。
「……営業、成功だな」
「ルドさんまで肯定しないで!?俺、分身に営業負けてるんですけど!?」
分身たちは、まだ営業を続けている。
「冒険者ギルドは、君を待っている!」
「さあ、一歩を踏み出そう!」
「詠唱型魔法も教えるぞ!」
「詠唱型は教えないで!!黒歴史が伝染する!!」
アルは魔法を解除する。
分身たちが消えていく。
子供たちは名残惜しそうに、手を振る。
「またね、お兄ちゃん!」
「魔法、また見せてね!」
「……うん、また……」
アルは力なく手を振り返す。
シアが小さく頷く。
「依頼は成功です。村の安全も確認しました」
「安全確認、いつしたの!?分身の営業で忘れてたんだけど!?」
「魔法発動中に、私が確認しました」
「シアさん、有能すぎる……」
リリが笑顔で言う。
「次の依頼も、きっと楽しいよ!」
「楽しくないよ!!俺の羞恥心、もう空っぽだよ!!」
ルドが静かに言う。
「……次は"泡の重力"を使え」
「それ、見た目が可愛いのに敵がめり込むギャップ魔法だから!!営業向きじゃないから!!」
依頼は成功した。
だが、アルの羞恥心は限界だった。
銀等級の道は、予想以上に過酷だ。




