第27話 銀等級昇格試験で、俺の分身が勝手にボケた
──ルーンベルク冒険者ギルド・地下試験室。
鉄等級冒険者・アル・バイエルン。魔法使い(※観賞用の杖持ち)。本日、銀等級への昇格試験に臨む。
「……なんで俺が試験受けることになってるんだよ!?推薦って誰が!?」
アルは試験室の前で、頭を抱える。銀等級への昇格。それは名誉なことだが、試験がある。つまり、恥ずかしい魔法を披露しなければならない。
受付嬢エリーカが、あの完璧な笑顔で淡々と答える。
「推薦者:ルド・フォードさん。"実戦での魔法精度が高い"とのことです」
「ルドさん!?」
アルは振り返る。
ルドは壁際で腕を組んだまま、静かに立っている。
「俺の魔法、詠唱が長くて分身がうるさいやつですよ!?"精度"って、ツッコミ耐性のこと!?」
アルの魔法は、確かに精度はある。だが、それは魔法の精度であって、分身の精度ではない。分身は勝手にボケる。
ルドは静かに、確信を持って言う。
「……敵が混乱していた。勝てる魔法だ」
「俺も混乱してたんですよ!?分身が勝手にボケるから!!」
確かに敵は混乱していた。だが、アル自身も混乱していた。分身が制御不能だった。
ー試験室
地下試験室は、広い石造りの空間だった。中央に魔法陣が描かれ、その周囲に試験官たちが立っている。
試験官が無表情で告げる。
「魔法をお願いします」
「……はい……」
アルは杖を構える。手が震えている。
「……詠唱ミスったら爆発するんだよな……!よし、落ち着いていこう……!」
深呼吸。魔力を集中させる。
──そのとき、控室から声が聞こえる。
リリが顔を出し、笑顔で応援する。
「アルくん、がんばって!この前の"水の分身"、すごく楽しそうだったよ!」
「俺は楽しくなかったよ!?分身が"俺が本物だ!"って騒いで、敵より味方が混乱してたんだよ!!」
アクア・ミラージュ・インフィニティ・スプラッシュ・エディション。水の幻影が無限に分裂する魔法。だが、その分身は全員がしゃべる。制御不能だ。
シアが控室から、紅茶を差し出す。
「"ティー・オブ・詠唱安定"です。噛み率を2%ほど下げます」
「それ、爆発率を98%にするだけだから!!」
2%下がっても、98%の確率で何かが起きる。それは安定とは言えない。
「……よし、やるしかない……」
アルは覚悟を決める。
ー魔法発動
アルは魔力を集中させ、詠唱を始める。
「……水よ、幻を千に分かち、我が声を映せ!──アクア・ミラージュ・インフィニティ・スプラッシュ・エディション!」
──詠唱完了。
水が舞い上がり、分身が次々と現れる。アルと同じ姿の分身が、十体、二十体、三十体……無限に増えていく。
そして──
全員がしゃべり始める。
「俺が本物だ!」
「いや俺だ!」
「ツッコミが足りないぞ!」
「ボケの順番守れ!」
「魔法の名前、長すぎない?」
「いや、これくらい普通だろ!」
「普通じゃない!絶対普通じゃない!」
「うるさい!!黙れ!!」
アルは頭を抱える。分身たちが、勝手にボケとツッコミを始めている。
試験室の中が、完全に漫才会場になっている。
試験官たちは困惑し、模擬魔物──試験用に召喚された魔物も、完全に混乱して動けなくなっている。
「俺の魔法、敵より味方に効いてる!!」
分身たちは止まらない。
「おい、本物はどこだ!」
「俺だよ!」
「いや俺だ!」
「全員偽物に見える!」
「失礼な!俺は本物だ!」
アルは叫ぶ。
「全員黙れ!!魔法、解除!!」
──水の分身が消えていく。
静寂が戻る。
試験室は、まるで嵐が過ぎ去った後のようだ。
ー試験結果
試験官が、しばらく沈黙した後、静かに言う。
「……合格です。次の等級は銀になります」
「え……合格……?」
アルは信じられない。あんなに混乱したのに。
「模擬魔物が完全に行動不能になりました。戦闘不能状態です。魔法の効果として、認められます」
「でも、あれ、分身が騒いでただけで……」
「結果として、敵を無力化しました。合格です」
アルはその場に崩れ落ちる。
「俺の黒歴史、しゃべる分身で昇格した……!?いや、違う!実力だよね!?騒音じゃないよね!?」
リリが笑顔で駆け寄ってくる。
「アルくん、おめでとう!銀等級だよ!」
「……ありがとう……でも、複雑……」
シアが小さく頷く。
「アル様の魔法は、確実に効果を発揮しています」
「効果はあるけど、方法が恥ずかしい……」
ルドが壁際から歩いてきて、小さく頷く。
「……よくやった」
そして、一言。
「……次は"泡の重力"を見たい」
「それ、見た目がメルヘンなのに敵が地面にめり込むやつだから!!」
泡の重力。バブル・グラビティ・オブ・ヘヴィーネス・ドリーム。見た目は可愛い泡だが、重力が増加して敵が地面にめり込む。ギャップが激しい。
「ルドさん、俺の魔法のギャップ好きすぎない!?」
「……面白い」
「面白いで選ばないで!!」
ー銀等級プレート授与
エリーカが、銀色のプレートを手渡してくれる。
「おめでとうございます。これが、銀等級のプレートです」
アルはプレートを受け取る。鉄色だったプレートが、今度は銀色になっている。
「……銀等級、か……」
重い。文字通り、プレートが重い。そして、その責任も重い。
「……頑張らないと……」
リリが笑顔で言う。
「アルくん、もっと強くなるね!」
「うん……強くなる……」
シアが小さく頷く。
「次の依頼は、銀等級向けの依頼が選択可能です」
「……よし、やるぞ……」
ルドが静かに言う。
「……お前の魔法、面白い」
「面白いって言わないで!!かっこいいとか、強いとか言って!!」
だが、確かに一つだけわかったことがある。
アルの魔法は、恥ずかしいが強い。
そして、認められている。
「……我が心よ……」
「アル、もう次の練習!?」
「銀等級になったから!!もっと強くならないと!!」
冒険者としての道は、まだまだ続く。
そして、アルの詠唱魔法も──銀等級として、響き続ける。




