第24話 魔力暴走事件で、俺の詠唱が街を救ってしまった
──ルーンベルク・冒険者ギルド。
いつも通り依頼掲示板の前で、アルたちはのんびりと依頼選びをしていた。平和な午後だ。
「うーん、今日は"荷物運び"とか"猫探し"とか、平和だな……」
アルは掲示板を眺めながら、安堵のため息をつく。たまには、こういう平和な依頼もいい。
シアが淡々と告げる。
「平和はいいことです。紅茶も安定して淹れられます」
「それ、基準が紅茶なの!?街の安全より紅茶の安定なの!?」
シアにとって、紅茶を淹れる環境が最重要らしい。その優先順位は、もはや理解を超えている。
リリはきらきらした目で、依頼書の一つを指差す。
「ねえねえ、"魔力異常調査"って依頼、ちょっとかっこよくない?」
「それ、絶対ヤバいやつ!!"異常"って書いてある時点でフラグ立ってる!!」
魔力異常調査。その言葉だけで、危険な香りがする。異常という単語は、常にトラブルの前兆だ。
──そのとき、ギルドの壁が微かに震えた。
「……今、揺れた?魔物じゃないよね?」
アルは周囲を見回す。ギルド内の冒険者たちも、ざわつき始めている。
受付のエリーカが、珍しく顔を青くして、慌てて告げる。
「街の南区で、魔力の暴走が発生しています。原因不明。ギルドは緊急対応に入ります」
「うわっ、やっぱり来た!!平和な日常、三話しか持たなかった!!」
魔力の暴走。それは、街全体を脅かす大災害だ。
ー南区・魔導工房跡地
アルたちは急ぎ現場へ向かう。
南区の魔導工房跡地に到着すると、そこは異様な光景だった。地面がひび割れ、空間が紫色に揺れている。魔力が渦巻き、制御を失っている。
「……これ、魔力の流れが……おかしい。誰かが"詠唱型魔法"を無理に短縮して暴発させた痕跡がある」
アルは魔力の流れを感じ取る。これは詠唱型魔法だ。だが、詠唱を短縮したせいで、魔力が制御を失っている。
「俺の魔法じゃないよ!?俺、ちゃんと詠唱してるよ!?むしろ長すぎて怒られてるよ!?」
アルは慌てて否定する。自分の魔法は長い。短縮するなんて、考えたこともない。
シアが冷静に分析する。
「詠唱を短縮しようとした魔法使いが、制御に失敗したようです」
「詠唱を短くしようとして……失敗……?」
つまり、誰かがアルのような長い詠唱を避けようとして、逆に暴走させたということか。
リリは笑顔で、ポジティブに提案する。
「じゃあ、アルくんの魔法で"魔力の流れ"を整えればいいんじゃない?」
「それ、俺の羞恥心を犠牲にする前提だよね!?黒歴史魔法で街を救うの!?それ、後で絶対図鑑に載るよね!?」
街を救う。それは確かに名誉なことだ。だが、その代償として、恥ずかしい詠唱を街中の人々に聞かれる。そして、図鑑に載る。
ルドが静かに言う。
「……使え。街を救えるなら使え」
「ルドさん……それ、正論だけど重い!!」
アルは震える手で、杖を構える。
覚悟を決める。
そして、詠唱を始める。
「我が心よ、混乱の中に秩序を──マナ・リバース・オブ・エネルギー・フロー・リカバリー!」
──空間が震える。
マナ・リバース・オブ・エネルギー・フロー・リカバリー。魔力の流れの回復。それは、暴走した魔力を整える魔法だ。
アルの詠唱が響き、魔力の流れが整い始める。紫の揺らぎが、徐々に静まっていく。ひび割れた地面が、元に戻る。
空間が、安定する。
「……成功した……!」
アルはその場に膝をつく。魔力を使い果たした。
──そして、周囲の人々がざわつく。
街の住民たちが、集まっている。そして、アルを見つめている。
「今の魔法……なんか、詠唱が……泣ける……」
「意味はわからんが、心に刺さった……」
「俺、魔法使えないけど、ちょっと詠唱してみたくなった……」
「やめて!?詠唱ブーム来ないで!?俺の黒歴史が流行になったら、羞恥が社会現象になる!!」
アルは顔を真っ赤にして、立ち上がる。詠唱ブーム。それは最悪の展開だ。
リリが笑顔で拍手する。
「アルくん、すごい!街を救ったよ!」
「……うん、救った……けど、恥ずかしい……」
シアが小さく頷く。
「アル様の魔法は、確かに効果的でした」
ルドが静かに言う。
「……よくやった」
「みんな……ありがとう……」
アルは仲間たちを見つめる。恥ずかしかったが、街を救えた。それは確かに、誇れることだ。
ー事件後
エリーカが近づいてきて、丁寧に告げる。
「アル様。今回の魔力暴走事件、ギルドの公式記録に残されます。"街を救った詠唱"として」
「やっぱり記録されるの!?図鑑に載るの!?」
「はい。おめでとうございます」
「おめでとうじゃない!!」
──こうして、ルーンベルクの危機は一時的に収束した。
だが、魔力異常の原因は不明のまま。誰かが詠唱を短縮しようとして失敗した。それだけがわかっている。
そして、アルの魔法が"街を救った詠唱"として、広まり始めていた。
「……俺、ヒーローになっちゃった……?」
「ヒーローというより、詠唱の伝道師ですね」
「それもっと恥ずかしい!!」
冒険者としての道は、予想外の方向に進んでいる。
そして、アルの詠唱魔法も──街を救う力として、認められ始めた。




