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第21話 魔法図鑑編纂なんて認められないので反逆した

──ルーンベルク冒険者ギルド・資料室。


ギルド職員たちは、大きなテーブルに資料を広げ、何かを真剣に編纂していた。その中心にあるのは、アルの魔法に関する記録だ。


「……なんで俺の魔法が図鑑になってるの……?」


アルは資料室の入り口で固まる。テーブルの上には、『詠唱魔法図鑑──アル・バイエルン編』と書かれた原稿が積まれていた。


シアが淡々と説明する。


「ギルド祭り以降、依頼者から"詠唱の意味を知りたい"という声が増えたため、解説付きでまとめることになりました」


「俺の羞恥心が注釈付きで出版されるぅぅぅ!!」


詠唱の意味。それはつまり、アルの内面が解説されるということだ。黒歴史が、公式の文書として残る。


リリはきらきらした目で、原稿の一部を読み上げる。


「ねえねえ、"スノウ・ハート・オブ・メルティング・コンフェッション"の解説、"未熟な恋心が雪に宿る"って書いてあるよ〜!」


「それ誰が書いたの!?俺じゃないよ!?勝手に恋心にされてるよ!?」


未熟な恋心。確かに、あの魔法は感情的だ。だが、恋心とは限らない。というか、そんなつもりで作ってない。


アルは原稿を手に取り、目次を見る。


詠唱魔法図鑑──目次


・セレスティアル・ヴェイル・オブ・フォーゴトゥン・ライト

解説:忘れられた光のヴェール。孤独な魂が求める救済の象徴。


・フレイム・ポップ・コーン・エクスプロージョン

解説:弾ける怒りと香ばしさ。穀物への敬意と破壊の融合。


・グラビティ・サンド・オブ・エターナル・リグレット

解説:永遠の後悔の砂。過去の過ちを重力として具現化。


・スノウ・ハート・オブ・メルティング・コンフェッション

解説:溶ける告白の雪。未熟な恋心が雪に宿る。


・ライトニング・カーニバル・オブ・インナーチャイルド

解説:内なる子供の雷のカーニバル。抑圧された幼少期の解放。


・シャドウ・カーテン・オブ・ドント・リメンバー・ミー

解説:忘れてくれの影のカーテン。存在を消したい願望の具現化。


・ウィンド・ワルツ・オブ・エスケープ・フロム・リアリティ

解説:現実逃避のワルツ。風と共に現実から逃げる願望。


「最後のやつ、完全に逃避願望じゃん!!俺の精神状態が魔法名に出てる!!」


ウィンド・ワルツ・オブ・エスケープ・フロム・リアリティ。現実逃避の風のワルツ。これは確かに、現実から逃げたい時に考えた魔法だ。


エリーカが静かに、しかし確信を持って告げる。


「アル様の魔法は、詠唱構造が複雑かつ情緒的であり、ギルド内では"詠唱文学"として分類されつつあります」


「文学!?俺の魔法、ジャンル変わってる!?戦闘じゃなくて文芸枠になってる!!」


詠唱文学。それは魔法ではなく、文学作品として扱われているということだ。


シアは淡々と、別の資料を差し出す。


「こちらが"詠唱構造解析図"です。アル様の魔法は、序章・感情爆発・自己否定・希望・余韻の五部構成です」


アルは解析図を見る。そこには、詠唱の各部分が色分けされ、感情の起伏がグラフで示されていた。


「五部構成!?俺の魔法、オペラなの!?詠唱が叙事詩になってる!!」


序章で状況を説明し、感情爆発で魔力を高め、自己否定で内面を暴露し、希望で魔法を発動し、余韻で締めくくる。確かに、五部構成だ。


リリが感心したように言う。


「すごいね!アルくんの魔法、ちゃんと構造があるんだ!」


「構造があるのは嬉しいけど、分析されるのは恥ずかしい!!」


ルドは静かに、アルを見つめる。


「……図鑑に載るなら、載るだけの覚悟を持て」


「ルドさん……それ、かっこいいけど重い!!俺の黒歴史に出版覚悟を求めないで!!」


図鑑に載るということは、永遠に記録されるということだ。アルの黒歴史が、ギルドの公式記録として残る。


アルは深呼吸し、そして──


ついに叫ぶ。


「俺は!この図鑑に!載ることを!断固拒否する!!」


資料室が静まり返る。


ギルド職員たちが一斉に振り返る。


「えええええええええええええええええ!?」


職員の一人が慌てて言う。


「で、でも、もう編纂が進んでいて……」


「知らない!!俺の許可を取ってないよね!?勝手に編纂してるよね!?」


エリーカが冷静に告げる。


「ギルド規約第47条により、ギルドに所属する冒険者の魔法は、ギルドの資料として記録する権利がございます」


「そんな規約あったの!?俺、契約書ちゃんと読んでなかった!!」


シアが小さく頷く。


「契約時に説明されていました。アル様は"はい、はい"と連続で返事をされていました」


「適当に返事してたの俺じゃん!!自業自得じゃん!!」


リリが笑顔で言う。


「でも、アルくんの魔法、みんな知りたがってるよ?」


「知られたくない!!俺の内面、公開したくない!!」


ルドが静かに言う。


「……逃げるか。それとも、受け入れるか」


「逃げる!!全力で逃げる!!」


だが、エリーカは冷静に続ける。


「図鑑の出版は、来月予定です。アル様の承認なしでも、ギルド規約により出版可能です」


「承認なしで出版できるの!?俺の人権どこ!?」


──こうして、アルは"黒歴史魔法図鑑"への掲載を拒否し、詠唱の尊厳を守るための反逆を開始した。


だが、ギルド規約は冷酷だった。


羞恥と出版と詠唱の戦いは、次なる局面へ──!


「俺の黒歴史、出版阻止する!!」


「無理です」


「即答!?」


冒険者としての道は、予想外の展開を迎えている。

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