第19話 ギルド祭りの詠唱ステージで、俺の黒歴史が公開上演された
──ルーンベルク冒険者ギルド・年に一度の祭り。
屋台が立ち並び、演舞が披露され、魔法演示が行われる。冒険者たちの祭典だ。そして今年から、新たなステージが新設された。
「詠唱ステージ」
「……なんでそんなステージ作ったの……?」
アルは掲示板に貼られたポスターを見つめ、頭を抱える。詠唱ステージ。その名前だけで、嫌な予感しかしない。
シアが淡々と説明する。
「アル様の魔法が話題になった影響です。"詠唱の美学"部門が新設されました」
「俺の羞恥心が部門化されてるぅぅぅ!!」
詠唱の美学。それは確かに、アルの魔法に対する評価だ。だが、それが公式の部門になるとは。
リリはきらきらした目で、アルの腕を掴む。
「アルくん、ステージで詠唱するの!?すっごく楽しみ〜!」
「楽しみにしないで!!俺の黒歴史が公開朗読されるんだよ!!」
ステージでの詠唱。それは大勢の観客の前で、恥ずかしい詠唱を叫ぶということだ。想像するだけで、全身から汗が噴き出す。
──受付のエリーカが、あの完璧な笑顔で近づいてくる。
「アル・バイエルン様、詠唱ステージ・第3枠にて出演が確定しております。拒否権はございません」
「拒否権ないの!?俺、ギルドに所属してるだけなのに!?契約に"羞恥公開義務"とかあったの!?」
拒否権なし。つまり強制出演だ。ギルド所属の冒険者として、祭りへの協力が義務付けられているらしい。
「詠唱ステージは、今年最も注目される演目です。アル様の出演を、多くの方が楽しみにされています」
「楽しみにされても困る!!俺の羞恥心、娯楽じゃない!!」
──そして、ステージ本番。
ギルドの広場には、特設ステージが設置されている。その周囲に、大勢の観客が集まっていた。冒険者だけでなく、街の住民も来ている。
第1枠、第2枠と、出演者が続く。
前の出演者は、詠唱短めの実用魔法使いだった。「炎よ、燃えろ──ファイアボール!」というシンプルな詠唱。観客は静かに拍手していた。
「……あれくらいなら、まだ……」
アルは舞台袖で、自分の出番を待つ。心臓が激しく鳴っている。
──第3枠、アル登場。
司会者が、明るい声で紹介する。
「次は、"感情干渉型詠唱魔法"の代表──アル・バイエルンさんです!」
「紹介が恥ずかしい!!肩書きが羞恥心に刺さる!!」
感情干渉型詠唱魔法。それは学術的な分類だが、つまりは「感情がこもりすぎて恥ずかしい魔法」という意味だ。
アルはステージの中央に立つ。大勢の視線が、こちらに集中している。
「……」
深呼吸。
覚悟を決める。
そして、詠唱を始める。
「……我が心よ、誰にも届かず、それでも叫びたい──セレスティアル・ヴェイル・オブ・フォーゴトゥン・ライト!」
──光が舞い、空間が震える。
白く、眩い光がステージを包み込む。セレスティアル・ヴェイル・オブ・フォーゴトゥン・ライト。忘れられし光のヴェール。その神聖な光が、観客を魅了する。
観客がざわつく。
「うおおおお!なんかすごい!詠唱が詩だ!」
「詩じゃない!!魔法だよ!!でも詩っぽいのは認める!!」
確かに詩っぽい。誰にも届かず、それでも叫びたい。その言葉は、魔法というより詩だ。
観客の一部が立ち上がり、拍手する。
「すげぇ!あんな長い詠唱、初めて聞いた!」
「感動した!魔法って、こんなに美しいんだな!」
アルは顔を真っ赤にして、ステージから降りる。
「恥ずかしい……恥ずかしすぎる……」
舞台袖で、リリが涙ぐみながら拍手している。
「アルくん、すっごく綺麗だったよ〜!」
「それが一番恥ずかしい!!感動されると羞恥が倍になる!!」
感動されること自体は嬉しい。だが、それは同時に、自分の内面が暴露されたということだ。
シアは無表情で、紅茶を差し出す。
「詠唱後の水分補給です」
「気遣いは嬉しいけど、紅茶じゃなくて水がいい!!」
喉が渇いている。だが、紅茶はちょっと優雅すぎる。今は水が飲みたい。
ルドは静かに、アルの肩を叩く。
「……よくやった。恥ずかしくても、前に出た」
「ルドさん……それ、かっこいいけど重い!!俺の黒歴史に勇気を与えないで!!」
恥ずかしくても、前に出た。確かに、アルはステージに立った。逃げなかった。それは、少しだけ成長したということかもしれない。
──ステージ後、ギルドの掲示板に新たな張り紙が貼られる。
『詠唱ステージ・観客投票結果』
【第1位】アル・バイエルン(セレスティアル・ヴェイル・オブ・フォーゴトゥン・ライト)
→「詠唱が心に響いた」「感情が伝わってきた」と高評価
「一位!?俺、一位取っちゃった!?黒歴史で!?」
シアが淡々と告げる。
「おめでとうございます。詠唱部門、優勝です」
「祝わないで!!これ、羞恥の優勝なんだよ!!」
リリが笑顔で言う。
「すごいね!アルくん、人気者だよ!」
「人気者になりたくなかった……」
──そして、その影響は即座に現れた。
ギルドの依頼掲示板に、アル宛ての依頼が増えている。
『魔物討伐(詠唱あり)』
『ダンジョン探索(詠唱推奨)』
『護衛任務(詠唱可能)』
「詠唱前提の依頼が増えてる!!俺の魔法、需要が出てきた!!」
シアが小さく頷く。
「アル様の魔法は、認知されました。今後、依頼は増加すると予測されます」
「認知されるのは嬉しいけど、恥ずかしい……」
ルドが静かに言う。
「……使え。恥ずかしくても、使えるなら使え」
「うん……使う……頑張る……」
こうして、アルの魔法はギルド祭りで公開され、観客の心に何かを残した。
羞恥は増え、評価も増え、そして──次回の依頼が増えた。
冒険者としての道は、まだまだ続く。
そして、アルの黒歴史魔法も──ついに、認められ始めた。
「……我が心よ……」
「アル、もう次の練習してるの!?」
「依頼が増えたから!!準備しないと!!」
羞恥と共に、前に進む──それがアルの生き方だ。




