第1話 女神様、転生ってそんな軽くやるもんですか?
白い空間。
まるで雲の上にいるような、ふわふわとした感覚。
佐藤隼人は、スーツ姿のままぽつんと立っていた。
「……ここ、どこ?」
目の前には、金髪で青い瞳の女性が浮かぶように座っていた。
神々しいというより、どこか親しみやすい雰囲気。
彼女はにこりと微笑んだ。
「こんにちは。私はレイラ。女神です」
「女神……って、え?俺、死んだの?」
「うん。トラックに轢かれて。あれはもう、完全に事故っていうか、巻き込まれっていうか……」
「いやいやいやいや!俺、避けただけなんですけど!?なんで避けたら死ぬの!?」
「私もびっくりしたよ。あれはもう、運命のいたずらってことで……」
「納得できるかぁぁぁ!!」
レイラは、ふわっと手をかざすと、隼人の人生がホログラムのように再生された。
仕事、趣味、休日の引きこもり、そして──
「……“もし俺が魔法を使えたらリスト”?」
「うん。これ、すごく面白かった。『魔力操作特化』とか『詠唱なしで魔法を操る』とか、ロマンあるよねぇ~」
「うわ、見られてた……!俺の黒歴史が女神に読まれてた……!」
「だからね、ちょっと提案があるの」
レイラは、少し真面目な顔になった。
「この世界での人生は、もう終わっちゃった。でも、あなたの“魔法への憧れ”は本物だった。だから、異世界で新しい人生を始めてみない?」
「……異世界?」
「うん。剣と魔法の世界。中世ヨーロッパ風で、魔族が勢力を広げてて、人族が勇者を待ってる感じ」
「設定がラノベすぎる……」
「あなたには、“魔力操作特化”のスキルをあげる。魔力の流れ、濃度、性質を自在に操れる。詠唱なしで生活魔法も使えるよ」
「生活魔法……?」
「火を灯すとか、水を出すとか、掃除とか。便利だよ~」
「いや、俺が使いたいのはもっとこう……ド派手な魔法で……」
「それは“黒歴史魔法”で使えるよ。ただし、詠唱は必須。短縮すると威力が落ちるし、噛むと爆発するから気をつけてね」
「爆発!?なんで俺の妄想、そんなリアルに再現されてんの!?」
「あと、魔法作成もできるけど、黒歴史級じゃないと却下されるからね。判定は私がするよ♪」
「女神様の気分次第かよ!!」
レイラは、ふわっと立ち上がると、光のゲートを開いた。
「転生先では“アル・バイエルン”って名前になるよ。転生したことは秘密ね。勇者とは会わない方がいいかな。巻き込まれるから」
「勇者って、俺と同じ転生者?」
「うん。でも、ちょっと……うん、まあ、いろいろあって。あなたとは違うタイプ」
「不穏な言い方やめて!気になるじゃん!」
「じゃ、いってらっしゃい。好きなこと、思いっきりやってね。あなたの“魔法への憧れ”、応援してるから」
「……マジか。俺、ほんとに異世界行くのか……」
光に包まれながら、佐藤隼人──いや、アル・バイエルンは、異世界へと旅立った。
常識人でツッコミ担当、黒歴史魔法使いとしての人生が、今始まる。




