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爆ぜる  作者: 変汁
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第十四章 ⑨⑧


約束のクリスマスイヴの朝は雨で始まった。

夜中から降り出したその雨は時間の経過と共に激しくなり、7時を過ぎた頃には既に地域によって避難勧告が出ているようだった。


弓弦は布団から這い出し、窓の前に立った。カーテンを開け、外を眺めた。目の前には母親が趣味でやっているガーデニングがあるが、それらを囲う幾つものブロックがこの豪雨によって倒れている。


既に庭は水溜りが出来ており、せっかく植えた花が倒れたブロックの間をぬって水溜りの方へと流れ出していた。数メートル先も見えない程の豪雨にさすがに今日は中止だろうと思った。


お互い個人的な連絡手段を持たない為、中止の判断は自分で決めるしか無さそうだ。冴木の方はともかく、弓弦は冴木の自宅の電話番号を知らなかった。


わざわざこちらから調べたりするのは億劫だし面倒くさかった。


クリスマスイブに重信悠人を殺害すると決めた冴木は、数日前、学校の休憩中に廊下を歩いている弓弦をみつけるとすれ違う振りをしながら決定日時を書いた紙を弓弦に手渡した。弓弦はそれを受け取り直ぐにポケットにしまった。


クラスも違う為、お互い他人のふりをしようと決めたのは冴木の方だった。下手に話している所を仲間の誰かに見られたくないというのがその理由だった。


正直、そこまで警戒する必要があるのか?と弓弦は思ったが、アイツ達の冴木に対する虐めは胸糞悪くなる程の物だった事を思い出し、慎重になる事については一切口出しはしなかった。


そもそも最初からそのような権利は弓弦にはなかったし、言うつもりもなかった。廃屋の中で目にした事に怒りを覚え、その場の感情で冴木の手伝いをする事に決めたが、今は後悔で一杯だった。


だが嬉しい事にこの天気だ。おまけに連絡手段もないとくれば、廃屋へと向かう必要はない。


仮に冴木がこの雨の中、重信悠人を呼び出し殺害したとしても、それはそれで構わなかった。


あくまでも自分は観客に過ぎないわけだし、自分が側にいる事で冴木の勇気が沸くとも思えなかった。


これが雷鳥だとしたら、弓弦は絶対に手助けをする。雷鳥も勇気が出る筈だ。でもリサイクルショップの社長の家が放火される前に雷鳥自身から殺す事は止めにしたと聞いた時、心からホッとした。


だが、その2日後に社長の家が放火され家族全員が死んだと耳にした時、弓弦は雷鳥を疑った。


勿論、雷鳥はその事について何もやってないと否定したし、逆にショックを受けているようでもあった。


ただ悔やんでもいた。自分の手で社長を殺せなかった事が悔しかったようだ。それに付随するからのように、社長以外の家族が巻き添えを食った事に胸を痛めてもいるようだった。


自分なら社長1人で済んだのにと、寂しげに呟いた姿は今でも忘れる事が出来ない。


けれどこの事件が起きて喜んだ人間もいた。冴木守親だった。何故ならリサイクルショップの社長の1人息子が、冴木のグループのメンバーだったからだ。


自分を虐める対象が1人減った事に、少しだけ気持ちも軽くなったようだった。


だが実際には違っていた。木下が死んだ事で、仲間たちはその悔しさや悲しみを反動に変え、より一層、冴木への虐めへと返してきた。


話を聞く限りどうやら前にも1人、仲間が放火で死んだらしく、その事が残った奴等の気持ちをより苛立たせたようだった。


ひょっとしたら、中には自分達が順番に狙われているのかも知れないと考えた者もいたかも知れない。


真実はわからないが、その事件によって冴木がより重信悠人を殺す事に執着し始めたのは確かだった。


だが決行日の今日、冴木の憎しみの象徴かのように降り出した雨はおさまる所かより激しさを増していくばかりだった。


弓弦は部屋の中からその雨を見ながラッキーと呟いた。重信悠人殺害の立会人になる事に関しはヒヨリに怒られて以来、ずっと後悔していた。


それでも弓弦は約束だからと今朝の今朝まで行くつもりでいた。それが天の恵みか悪戯か、豪雨となってくれたお陰で、しばらくの間、弓弦の中で悶々としていた気持ちがいっぺんに解消された。


災害レベルの豪雨様様だった。お陰で今日はゆっくりと穏やかに過ごせそうだ。


弓弦の部屋は昔、婆ちゃんが茶道にハマっていた頃に使っていた所だった。


ハマっていたからと言って囲炉裏があったりするわけではなく、ごく普通の畳部屋で広さは四畳半だった。雷鳥の部屋と比べるとかなり狭いが、弓弦はこの部屋が気に入っていた。


雷鳥の部屋みたいに床がフローリングでないのが又良かった。まあ、フローリングのある部屋で茶道はないだろうけど、それを抜きにしても、畳部屋というの弓弦の好みでもあった。


弓弦が使用するようになってから直ぐ茶道の道具は処分された。要するに婆ちゃんは茶道に飽きたのだった


その頃はまだ小さかった弓弦に対し、両親は反対したようだった。


個人の部屋は早いよと反対する父ちゃんに噛みついたのが婆ちゃんだった。


その時は確かまだ幼稚園生だった筈だ。


「早い内から自分の部屋を持つ事はええ事や。自立心が芽生える。1人の時間が多ければ物事をより深く考えるようにもなる。その分同い年の子より早く社会生活に適応出来る能力が身につくんや。だから弓弦にはワシが前に使っとった和室をやる。そこを自分の部屋として使わせるけん」


婆ちゃんは1度こうと決めたら絶対に引かない人だった。血脇家の家長は誰かと聞かれたら、家族全員、婆ちゃんと答えるくらい家の中では1番偉い存在だった。


権力と言えば聞こえは悪いけど、でもこの家の中で1番発言力が強いのは間違いなく婆ちゃんだった。


半ば強引に幼稚園生から1人部屋を貰った弓弦は、婆ちゃんが決めたその日の夜から、いきなり1人で寝る事を強いられた。


それまでは両親と一緒に寝ていた弓弦に1人で寝る事が出来るか両親は不安だったようだ。


夜中に起きて泣き出し、両親の部屋に来るのではないか。弓弦が寝入るまで絵本を読み聞かせなくていけないのではないかと。


後になって両親の口から、当時、弓弦に対しそのような心配をしていた事を聞いた。だが、弓弦は両親の心配を他所に1人部屋を喜んでいた。その為、1人で寝る事に恐怖を覚えるような事もなかった。


ごく稀に婆ちゃんが来て、窓を開けて煙草を吸う以外、家族の誰もが弓弦の部屋に入ってくる事はなかった。


掃除や片付けも全て自分でやる、これが部屋を与えてくれた婆ちゃんから弓弦に対して出た命令だった。


婆ちゃんが弓弦の部屋で煙草を吸うのはきっと身の回りの事がしっかり出来ているか確かめる為に見に来ていたのだと思う。


だが婆ちゃんの心配は杞憂に終わった。弓弦は自分が思っている以上に綺麗好きだったのだ。だから掃除や片付けなどは、暇があればやっていた。


だからだろう。最近はパッタリ婆ちゃんは部屋に来て煙草を吸う事が無くなった。


幼い頃から1人部屋を貰うと自立心が芽生えるかどうか、それは弓弦にもわからなかった。


だだ確かに、あの時から1人でいる時は色々な事を考えたりするようにはなった。


俗に言う妄想ってやつだ。もっぱら弓弦がヒーローになって人々を助ける物語ばかりだった。


だが小学生になると、自分の妄想と現実とのギャップを感じてからはその類いの妄想はしなくなった。


普通であれば、妄想を現実にする為に、将来を思い描き、その為に何かをするといった行動に出るのだろうが、弓弦にはそういう事に走る事はなかった。


ヒーローとはTVの中だけの物、大人になってもなれない事だと当時から漠然と感じていた残ったかも知れない。


いつしか弓弦は物事を考える事、つまり、ありもしない、起こりもしない事について頭の中で思い描いたり心を使う事はしなくなった。


考える事と言えば、現実の生活の中で起きる事、起きた事に対して対処する方法などが殆どだった。


例えばクラスが運動会で1番になるには、とかだ。


それは今でも変わらなかった。


そして最近ずっと考えてばかりいた冴木との約束が、

果たせなくなった今、弓弦は改めて自分と向き合う事にその時間を使う事にした。



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