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爆ぜる  作者: 変汁
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第十三章 ⑨⑦

宗太郎の後に選ばれたのは蓮だった。そんな蓮はバールで殴られてから1度も目覚めていない。


既に死んでいると思ったけど、何故か恭次郎さんは倒れている蓮の足を引きずって悠人と金木の前へ横たえた。


仰向けにすると、恭次郎さんは両膝に手を置き腰を屈め2人を交互に見やった。


そしてグローブやライダースジャケットの袖口が血塗れになったその手で包丁を持ち替えた。刃の方を摘み、柄の方を悠人と金木に向ける。


その行為が何を意味するか守親にはわかった気がした。恭次郎さんはお前らのどちらかが、蓮を刺せと言いたいのだ。


それまであんなに饒舌だった恭次郎さんが突然、無言になる事でよりその存在が、恐ろしく感じた。


2人に向かって顎で指図するが、悠人の目はテーブルに寝かされた宗太郎の死体に釘付けのまま恭次郎さんを見ようともしなかった。


目の前で起きた反日常的な出来事に対し、悠人の何かが音を立てて崩れてしまったのかもしれない。


余りにも残忍で衝撃的な現実を受け入れられず、悠人の心はこの場に戻って来れずにいるようだった。


守親の乳首を切り落とす程の事が出来た悠人なのに、宗太郎の凄惨な死に様を見せつけられ完全に壊れたようだった。


魂を抜かれた人間とは、今の悠人のような状態の人間を言うのかも知れない。


そんな悠人に恭次郎さんが空いた手で頬を叩いた。だが悠人は変わらず宗太郎の死体を見つめている。


「あらら」


恭次郎さんが呆れた風に呟いた。


「そこの君、これで隣の子を殺せ。それが出来たら命だけは助けてあげられるかも知れない」


なんて酷いことを言うんやと守親は思った。まるで他人事のような言葉に守親は辟易した。僕を含め、今、ここにいる全員の命は恭次郎さんの手の中だ。


生かすも殺すも恭次郎さん次第だ。なのにさも上からの命令に逆い拉致された人間を助けようとしているかの風な言い方に背筋がゾッとした。


これだけの事をしたのだ。1人だって助けるつもりなんてない筈だ。


けれど金木は自分の前に突き出された包丁へ手を伸ばした。震える手で柄を取った。だが上手く掴めなかったのか、包丁を落としてしまった。


そんな金木に対し恭次郎さんが呆れた風に溜め息をついた。


「人が生きていくには何が必要か。忍耐?才能?仕事?お金?彼女?どれも違う。順応性だよ。あらゆる状況に対し素早く順応する。それが人が生きるに必要なものなんだ。この場合、君は隣の子を殺す事で生きる確率があがる。それを繰り返す事でしか、人は生きてはいけない。適応力とも言えるかな。どんな状況下に置かれても瞬時にそれが判断出来る人間でなければ、そいつに生きる価値はないんだ」


恭次郎さんはいい包丁を拾い上げた。


「でもね。そういう場合ってさ。不思議なものでチャンスは早々訪れない。君はそのチャンスを1度、無駄にした。わかるよね?」


金木は涙を流しながら頷いた。震える唇から唾液が垂れている。


恐ろしさからか、極寒の地に裸で放り出されたかのように歯がカチカチと鳴っていた。


「次が最後のチャンスかも知れないよ?」


恭次郎さんは再び金木へ向けて包丁の柄を突き出した。金木は全身を震わせながら、震える両手で包丁を掴むと、落とさないように1度、自分の胸へと引き寄せた。


長い刃が金木の顎の辺りで鈍色を発している。室内が一段と暗くなって来た。


ここへ来てからどれくらい時間が過ぎたのだろう。

外は夕暮れを迎えている頃に違いなかった。


ガタガタと震えたまま金木は未だ悠人を刺せずにいた。恭次郎さんは身体を起こすと


「ブブー」


と一声発すると金木の肘を蹴り上げた。

顎付近にあった包丁の刃先が金木の下顎を貫く。あんぐりと開いた金木の口から血が滴り落ちた。


恭次郎さんは金木の顎を掴み、口を開かせた。

中を覗き込みながら金木の肘に手の平を添えて力の限り押し上げた。


カエルの鳴き声のような声を上げ、金木は横へ崩れ落ちて行った。恭次郎さんは金木の手から包丁を奪うと、いきなり滅多刺しにした。


一時的に金木の足だけ動いていたが、それも直ぐに止み、その後は蓮に向きなおった。


呼吸を確かめ、脈を測る。まだ息があるのか、恭次郎さんは金木に続いて蓮をも滅多刺しにした。


その後で2人の衣服を脱がした。そして守親に見せつけるように、腹部を切り裂いた。


取り出した腸を守親の首に巻きつけその後で至る箇所に腸に切れ目を入れ引き裂いた。 


大便が飛び出し守親の顔へ撥ねた。余りの臭さに守親は嘔吐した。


「全く、君が僕に余計な事させるから疲れちゃったじゃないか。そもそもこれは君がやるべき事だった筈だよね?復讐ってそういう事だよ?なのに君は、この子達に格好いい所を見せようなんて考えるから、わざわざ僕が代理でやらなくちゃいけなくなったんじゃないか。ったく。雷鳥君ならこうはならないのになぁ」


恭次郎さんはいい、守親を縛りつけた椅子を持ち上げキッチンの壁の方へと運んだ。そこには出張った柱があり、その柱に押し付ける形で守親を置いた。


その後、直ぐに畳の部屋へ行き、何やらゴソゴソとやり始めた。


バールを使い、柱の左右の壁に穴を穿った。

その後で束であった拘束バンドを繋ぎ合わせる。


それを開けた穴に通し反対から引き出すと守親ごと縛りつけた。


それが終わると恭次郎さんは空になった5リットルの焼酎のボトルを持ち流し台へと向かう。


蛇口を捻った。水が出ない事に、参ったなと呟くと、何かを思いついたかのように素早く風呂場へと駆け込んで行った。


「良かった」


風呂場からそのような声が聞こえた。

何が良いのか守親には全くわからなかった。


この状況は明らかに最悪な事態を示していた。

まるでクリスマスイヴの日の再現みたいだった。


あの時、自分は椅子に縛られて動けなかった。

けどギリギリの所で恭次郎さんに命を救って貰った。なのに今は救ってくれた本人からこのような目に遭っている。自分が選択を誤った事は理解していた。


だが、それならそれで挽回のチャンスを与えてくれてもいいじゃないか。守親は思い、恭次郎さんに話しかけた。


「恭次郎さん、悠人を殺したら僕のミスは帳消しになりますか?」


風呂場から出て来た恭次郎さんに聞くが返事をしてくれなかった。


風呂場に溜まっていた濁った水が5リットルのボトル一杯に汲まれている。


それをテーブルに置き、再び畳みの部屋に戻って行った。ガタガタと物を動かしたり壊したりする音が聞こえたかと思うと、何処で見つけたのか、恭次郎さんは、ハンマーと釘、そして床板を折った物と垂木を2本、さらに錐を手に戻って来た。


守親の前へ来ると柱に向かって垂木を押し付け、斜めから釘を打ち込んだ。2本分終わるとそこに板を置く。


板と垂木にも釘を打ちつけた。

その後で錐をつかい焼酎の蓋に小さな穴を開けた。


5リットルものボトルを横倒しにし、何やら眺めいた。再び立たせまた、蓋に錐を刺し又、横倒しにした。


「うん。いい感じかな」


恭次郎さんはいい、柱に打ちつけた板の上に焼酎のボトルを横倒しに置いた。


その後で3人を刺しまくった包丁を持ち、守親の前で屈んだ。拘束バンドを繋ぎ合わせ、片方を椅子に縛った。そしちて包丁の刃を上へ向けた状態のまま守親の顎を押し上げた。


1度、確認した後、顎から手を離した恭次郎さんはこの廃屋にある刃物という刃物をかき集めた。


そして刃先を上に数珠繋ぎのうに刃物の柄に拘束バンドを結びつけた。合計、6本の包丁やナイフの刃先が半円を描く形で守親の喉仏の上辺りや、喉、顎の下にあてがわれた。


少しでも頭を下げると刃先が皮膚を貫く構造になっているようだ。


包丁の類は微妙に長さが違う為ら低い方へ下げられると思ったが、そこには別の刃物が守親の喉を待ち受けていた。


守親は必死に頭を上げ続けた。忍び寄る恐怖に守親は唾を飲み込んだ。


「頭を下げたら痛い痛いだよ」


恭次郎さんはそのように言ってから又、反対側の椅子に拘束バンドを縛りつけた。


守親は頭を上げた状態のまま1ミリも動く事が出来なかった。


疲れて下げてしまえば、頭の重さで刃物の刃先が守親の喉を刺し貫いてしまう。


この際、刺されたままの方が楽かも知れないと思ったが頭の重さでどこまで深く刃先が皮膚を貫くか全くわからない為、守親には頭を下げるという選択肢を選ぶ事が出来なかった。


そちらの恐怖の方が痛みを堪える事より、優ったようだった。


恭次郎さんから返事が返って来ない時点で守親の提案は破棄された事を意味していた。


たった1度の判断ミスが、このような結果を招く羽目になったのだ。悔やんでも悔やみきれないとはまさにこの事だった。


そう思った矢先、守親の額の中央に一滴、水が落ちて来た。


「水って凄いよね。大量に集まると氾濫して死ぬ思いをするし、反対にたった一滴でも長い歳月をかければ、岩にも大きな穴を開ける」


恭次郎さんのこの言葉でようやく5リットルものボトルが頭上へ置かれた事の意味がわかった。


恭次郎さんは守親の額に穴を開けるつもりなのだ。誰も来る事のない廃屋で時間をかけて守親を殺害していく。それが恭次郎さんの目的のようだった。


「人間の凄い所はさ。想像力がある事なんだ。

守親君は賢いからもうわかっただろうけど、この一滴はやがて君の額に穴を穿つ。僕はそれを観察したいんだ。どれくらいの時間で君がこの一滴に恐怖し、やがて精神が崩壊していく様を見たい。ひょっとしたら、直ぐにでも頭を下げ、刃物で自分を傷つけるようになるかも知れない。でも君が僅かな希望を失わなければ、生きる為に頭を上げ続けなければならない。でも、額には一定の間隔で水が落ちてくる。きっと眠る事もままならないだろうね」


恭次郎さんはいい、背筋が凍るような笑みを浮かべた。


「あ、そう言えば、君が引いたおみくじだけどね。確かあれには水と火には気をつけてみたいな事が書いてなかった?あったよね?それってさ、今、この状況と当てはめたら、当たってるって事になるよね?大凶のおみくじって怖いね。当たるんだ。大凶って怖くない?ねぇ守親君、もしあの時、もう一度おみくじを引き直していたら、こんな事にはならなかったんじゃない?」


つまりまだ火が残っているという事か、と守親は思った。僕の精神が崩壊し狂うのが先か、餓死して死ぬのが先か、自ら刃物へ向かい自殺するのが先か、それとも奇跡を願い、誰かが助けに来てくれるのが先か。その殆どが皆、考えたくもない事ばかりだった。


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