第十三章 ⑨④
「それで守親君、どのように彼等に復讐するつもりだい?一気に4人は無理だよね?それに誰だっけ?1人呼び出したけど不信に思われた挙句、まんまと罠にはまってあんな目に遭ったのだよね?」
昨年のクリスマスイヴの日の事は忘れたくても忘れられない。ふとした時に思い出しては、心が殺意に支配された。
アイツ達は本気で僕を殺す気だった。あの豪雨の中、目撃者もいないだろし計画としてはほぼ完璧だったんじゃないかと思う。
アイツ達にとって不運だったのは恭次郎さんの存在だ。それは僕にとっては幸運に他ならなかった。
そして復讐を考えている今、やはり恭次郎さんの存在は僕にとって大きな意味を持っていた。
僕の復讐に手を貸してくれるかは別として、側にいてくれるだけでアイツ達へ与えるプレッシャーは計り知れない。
僕らは所詮、まだ子供だ。幾ら4人いるからと言っても、大人の、それもまだ若くて筋肉質で背の高い恭次郎さんを相手に勝てる訳がない。
そもそも4人いっぺんに呼び出すような事はしないから、きっとアイツ達にとっては恭次郎さんの存在に気づいた時、僕を今以上に憎むだろう。
そして僕の少し後ろから、いつものように淡々とした口調で恭次郎さんは僕に向かって言うだろう。
「さぁ。守親くん。君の復讐とやらを僕に見せてくれないか?」と。
それを聞いたらアイツ等は恐怖におののくだろう。手出しはして来ないとわかったとしても、それでも不安はよぎる筈だ。不安は心や思考の中で膨れ上がりやがて成長する。
恐怖という姿へ向って脱皮していく。そうなってしまった時はもう遅い。
恐怖に震え僕の足にしがみつき涙を流しながら許しを乞うだろう。けど僕は無言のまま復讐を止める事はない……
「うん。だからここへ呼び出す為に何か良い方法を見つけなきゃいけ……」
そこまで話した時、恭次郎さんがいきなり
「シッ!」
と言った。
「誰かこちらへと近づいて来てるみたいだね」
そういうと恭次郎さんは静かに立ち上がった。
畳の部屋へ行き窓辺に近づいた。
カーテンを少し開き外を覗いた。
「守親君」
囁くような声で呼びながら手招きをしている。
守親はそっとそちらの部屋へ移動した。
恭次郎さんの身体に密着するほど、側に寄った。
「彼等に見覚えはあるかい?」
恭次郎さんは言いながら顎でカーテンの隙間から見える外を指した。守親の身体に緊張が走る。窓の外を覗いた。
「アイツ達だ!どうしてここに……」
廃屋からはまだそれなりに離れているが、自転車に乗ってアホみたいに喋っている4人は紛れもなくアイツ達だった。ひょっとしたら、家へ行って僕がいない事を知り、仕方なくここまで来たのかも知れない。
「それは後から考えよう。守親君、急いで押入れの中へ隠れて」
守親は言われた通り、押入れの中まで這って行った。
「恭次郎さんも早く!」
囁く守親の声に恭次郎さんが答えた。
「僕は一旦、外へ出る」
言うが早く、微かに裏口の戸が軋む音がした。
守親は押入れの奥に詰め込まれてある布団の中に潜り込んだ。息を止める。緊張で口の中が渇いた。カビ臭さで咽せるが我慢するしかなかった。お願いだ。ここへは来ないでくれ。
そんな守親の願いは僅か1分程で、あえなく砕け散った。
裏口が開き、悠人の苛々した声が耳へ届けられた。続いて金木と蓮が悠人を宥めようと話しかけている。
宗太郎は3人の会話の後から、うるせーなと文句を言いながら入って来た。
「誰がアイツを助けたのかはわからんけど、でもまぁ、もう一回殺せるチャンスがあるのはええ事やし嬉しいやろうが」
「そうやけど、次やったら流石にワシらにやられたいうて、チクるんやないか?」
悠人が言う。
「チクられねーよ」
宗太郎が返した。
「アイツは死ぬんやから」
「宗太郎、問題はそれやで。そうさいさい、あんな豪雨はないやろうし」
「ま、そうやな。あん時失敗したんは驚きやけど、でも次は絶対に失敗せんで」
「そりゃそうや」
悠人が言う。
「で、宗太郎?何か良い考えはあるんか?」
金木だ。
「あるも何も、ここでやるしかなかろうが」
「そうかもしれん。けどワシらが出入りしとる所を誰かに見られとったら、そうはいかんやろ?下手すると通報されるんと違うか?」
金木が続けて話した。
「そうやね。守親をここで殺すんはやらん方がええかも知れん。やからしばらくは前みたいに虐めて気分晴らす程度にしといた方がええと思う」
蓮が言った。
「見られとろうが関係ないわ。それならとっくに通報されちょる」
悠人がいい、苛立っているのか床に落ちたていた何かを蹴飛ばした。
「確かにそれは言えるかも」
蓮が続く。
「おい、この絵の下に立てかけとったバールしらんか?」
宗太郎が3人に尋ねた。
「そがな所に置いてあったか?ワシは見ちょらんで」
金木が言うと、椅子に腰掛けた。蓮も悠人も知らんと言い出した。
「記憶違いやないか?」
「いや、確かに前来た帰りにそこに置いた筈なんやけ……」
宗太郎が言いかけた時、裏口の戸が思い切り開かれた。バン!っと音がしたのはきっと閉められたからに違いない。
「僕らやったんか」
その声を耳にした守親は思わず布団を蹴り上げ、押入れから飛び出しそうになった。忘れる訳がない。ついさっきまでこの廃屋で2人話していたのだ,
「僕ら小学生やろ?」
「あ、いや、ごめんなさい。直ぐ出ます」
上擦った声で蓮が答えた。
「ここはさ。僕の叔父さんの家なんだよ。その叔父さんからね。やるから好きに使えって言われてたんだけど、ちょっとそこの君、話が終わるまで動かない。動いたら捕まえて警察に突き出すからね。これはれっきとした不法侵入で犯罪だ。おまけに何だこれ?異様に生臭い臭いがするけど……」
「勝手に入ってごめんなさい。僕ら何かを取るとかそういうつもりで入ったわけやないんです。この裏の雑草の中にタイムカプセルを埋めようと思って、来たんです。そうしたら中から悲鳴のような声が聞こえた気がして……ノックしても返事がないし、ドアが少し開いていたから、悲鳴を出した人を助けなきゃって思って……」
「その割にそこの彼は他人の家の椅子に呑気に座ってたね。慌てて立ったけどバレバレだから」
その時微かな舌打ちが聞こえた気がした。守親は息を止め布団から這い出した。
本当はそんな事するべきではない事くらいわかっている。静かに押入れの中で、事が終わるまで待っているべきだ。
でも、見たかった。恭次郎さんがアイツ達をどうするか見てみたかった。
自分の叔父さんの家だと嘘をついてアイツ達をビビらせたのは楽しかった。
けどまだ満足出来しない。散々叱りつけて、せめてビンタくらいかまして欲しいと守親は思った。恭次郎さんなら、それくらいやってくれそうだ。だから絶対に見たかった。
やらないかもだけど、だとしても今のこの状況を見逃す手はなかった。
アイツ等が恭次郎さんにビビって泣く所を見たかった。守親は勘づかれないよう慎重にゆっくりと襖を開けた。
顔を少しだけ覗かせるとキッチンには3人の後ろ姿が見えた。守親から見て1番左に蓮、宗太郎、悠人。という事は椅子に座っていたというのが金木か。襖が邪魔して金木の姿は見えなかった。
恭次郎さんが両手を後ろに回した格好でアイツ達を見下ろしていた。
「もう2度と勝手に入りませんから。すいませんでした。これでいいですか?」
悠人が言った。その瞬間、宗太郎が悠人の足を蹴飛ばした。
「痛いやろが」
「お前黙ってろ」
宗太郎が悠人を怒鳴りつけた。
「何やと!」
「悪いんはワシらや。なのになんや、ちゃんと謝りもせんで、これでいいですかって。お前が逆の立場やったらそんな言い方する奴を許さんやろが!」
「お前って言うなや!大体、宗太郎もワシに偉そうにしすぎなんじゃ!何様のつもりや!」
悠人は怒鳴り宗太郎の胸ぐらを掴んだ。
「お?仲間割れかい?良いねぇ。早く喧嘩してみせてよ。けどその前にタイムカプセルを見せてくれないかな?それを見せてくれたら、君達の話を信じてあげるよ。不法侵入した事も見逃してあげる。さぁどこにあるのかな?」
宗太郎が悠人の手首を掴み胸ぐらから引き離した。
「ボケが」
宗太郎が小声で言った。
「お前がボケじゃ」
負けじと悠人が言い返す。
その瞬間、恭次郎さんがテーブルを思い切り叩いた。
全員の身体が飛び跳ねるほど、ビクッと動いて止まった。
「タイムカプセルは?」
「外にあります」
宗太郎がいい裏口を指差した。
「雑草の中に置いてます」
「そ。なら見てこよう」
恭次郎さんがアイツ達から目線を外し背中を見せた。
その時を見計らって宗太郎が蓮に耳打ちした。
「外に出たら思い切り走れ。とにかく走れ。悠人達もや」
恭次郎さんには聞こえなかったのか鼻歌を歌いながら裏口の戸に手をかける。
直ぐ後ろに蓮が立ち、宗太郎達も続いた。
恭次郎さんがドアを開け外に出た瞬間に逃げ出すつもりのようだった。
守親は恭次郎さんに声をかけるべきか迷った。
でもこの状況で自分が出て行けば、恭次郎さんとの関係性がアイツ達にバレてしまう。
今後、復讐するにしても、ここで2人の中がバレたら、それでは面白みがなくなってしまうのではないだろうか。
それなら今はアイツ達を逃した方が良い。
助けるみたいで嫌だけど、それでも今は、自分が、ここにいる事が知られる前に逃げて貰った方が守親には良かった。
実際、今、恭次郎さんに復讐してみせてよと言われてもぶん殴る事くらいしか思いつかない。それだけじゃきっと恭次郎さんは納得しない。
「守親君、彼等は君を殺そうとしたんだよ?それなのに1発殴るだけで君は満足なのかい?あり得ない。あり得ないね」
そんな風に言われるのも癪だった。だから守親はアイツ達に上手く逃げてくれよと思った。無意識の内に守親はアイツ達を庇おうと、ここは助かって欲しいと思った。恭次郎さんもどうせビビらせる程度だろうし、だから早く……
裏口の戸が開いた。恭次郎さんが、外に出た。両手を前にしてゆっくりと雑草の方へと進んでいる。
それを見た蓮が外に出た。逃げろ!と守親は思った。守親のその声が蓮に届いたのか、いきなり左方向へと走り出す。瞬間、蓮の頭が右側へ回転し、遅れて首、身体へと力が加わり回転しながら地面へ倒れた。
「バレバレなんだなぁ。これが」
「蓮!」
名前を叫びながら3人が蓮に駆け寄った。
しゃがみ込み上半身を金木が抱え上げた。
蓮は白目を剥き痙攣している。口から赤い泡を吹いていた。
恭次郎さんはそんな3人をバールを肩に担ぎながら見下ろしていた。
「ねぇ。そこの僕達。血塗れのお友達を家の中へ連れて行きましょうか」




