第十三章 ⑨⓪
クリスマスイヴの約束が守られなかった事について、守親は「どうすればいい?」と病室のベッドの中で考えていた。本来なら入院前に会って謝るのが良かったのだけど、このような形になってしまった為、その機会を得る事が出来なかった。
血脇弓弦の連絡先も知らない為、どうする事も出来なかった。
結果的には悠人を連れ出す事は出来ず、逆に悠人やアイツ達にハメられ殺されそうになった。
急死に一生を得た守親は今、こうして病院のベッドにいる訳だが、とりあえず血脇を巻き込まずに済んだ事にはホッとしていた。
本気で悠人殺害を考えていたが、もしクリスマスイヴの日に天気は良く、悠人がアイツ達に黙って1人で廃屋に来ていたら、僕は本当に悠人を殺す事が出来ていただろうか。
殺害する為の道具は買い揃えなくても、あの廃屋に腐るほどあったしその点で言えばまさに殺害現場として最適な場所だ。
死体の処理については床下に埋めるつもりでいた。
バラバラにして何処か別の場所に埋めるか捨てるにしても、床下に埋める方が時間も含め効率が良いのは明らかだったからだ。
もしそうなっていた場合、死体処理について血脇は文句を言ったかも知れない。
何故、そう思うかと言えば、あの場所はアイツ達が僕に暴力を振るう場所だからだ。
何かの拍子に悠人の死体を見つけられた時、守親は言い訳出来ないだろうと。
あくまで想像に過ぎないが、血脇ならそういうだろうなと守親は思った。
守親は豪雨によって死ぬ思いをしたが、悪い事ばかりでもなかった。
それは恭次郎さんと知り合えた事だ。血脇なんかより全然心強いし、それに大人だ。
いざとなったらまだ子供のアイツ達なんて簡単に蹴散らすだろう。
頼もしい仲間を得たのはこれから起こす予定の復讐において、紛れもなくスーパーな援軍に間違いなかった。
ただ、不安がないと言えば嘘だった。
恭次郎さんは人に対して復讐する事を何とも思っていない節がある。
それだけならまだ良いけど、明らかに殺害する事を最終目的にしている感じがあった。
それを僕が実行する事に喜びを見い出している風でもある。
もし、万が一、僕のアイツ達への復讐が恭次郎さんの気にいるものでなかったとしたら、あの人はどう思うだろう。僕に対しどう接して来るのだろう?
それは未知数で守親を怖がらせるには充分だった。
大晦日の午前中に退院した守親は、てっきり恭次郎さんも姿を見せると思っていたので、少しガッカリした。
けれど蓮に対する復讐の方法が未だ決まっていない事を考えると、良い事なのかも知れない。
迎えに来てくれた母親の運転する車の助手席に座ってシートベルトに手を伸ばした。
病院の大きな駐車場は大晦日だというのに半分近く埋まっている。
守親がシートベルトをしたのを確認した母親は左右を確認した後、ゆっくりと車を走らせた。
出口付近に向かって走っているとそこに人が立っているのが目に入った。
近づくにつれ、その人の容貌が明らかになって行く。人は4人いた。
そしてその4人は皆子供で1人だけ身体の大きな子供がいた。金木だった。宗太郎を左手に蓮、金木、悠人と偉い人を送り出す生真面目な使用人のように整列していた。
使用人と違うのは頭を下げているのではなく、それぞれが守親の車を見ながらニヤけていた事だ。母親がアイツ達に気づいて、
「あら、守親の事、迎えに来てくれたのね」
どういう経緯で僕が助かり入院し、今日が退院日だという事を知ったのだろうか。
「守親、皆んなと少し話して行く?」
「ええ。しんどいから」
「そう?でもわざわざ来てくれたんやから、挨拶くらいはしとかんと」
守親としては、いいから黙って行けや!と母親を怒鳴り散らしたかったが、そうも行かず、4人の前で車は止まった。
母親が、これも勝手に助手席の窓を開け、守親の身体の前から顔を覗かせ、アイツ達に挨拶をした。
「皆んな、わざわざ来てくれたんやね」
「おばちゃんこんにちは。ほんまさ入院中に来たかったんやけど、あんな酷い事があった後、やから見舞いに来てええんか、わからんかったけん、せめて退院する日なら平気かなぁと思って。守親、元気そうで良かったわ。なぁ?」
宗太郎はいい、残りの皆んなの方へと向いた。
「ほんまや。顔色もええし」
蓮が言う。
「無事でほんま良かった良かった。守親に何かあったら、わしら又、大事な友達を1人失う事になっとたわ」
金木が続いた。
「隼人が守親を護ってくれたんやなぁ」
悠人が窓に顔を近づけ、守親の肩に手を置いた。
その手で母親から死角になる耳を摘み、力をこめて引っ張った。守親は痛みを我慢し、
「そうやな。隼人が護ってくれたんかも知れん」
そういい、左手で悠人の手首を掴んだ。中々、離さない為、守親は悠人の二の腕を思い切りつねった。
反撃される事を想定していなかったのか、悠人はチッと短い舌打ちをして守親の耳から手を離した。
「皆んな送ってあげたいんやけど、おばちゃんの車、軽やから全員乗れんのよ」
「おばちゃん、そがな気をつかわんで大丈夫よ。ワシら自転車で来とるけん」
母親はそうなんやと言い、守親の顔を見た。守親は頷いた。
「ならみんな、守親が元気になったら又、遊んでやってな」
そういい、ゆっくりと車を走らせた。
守親はこちらを見下ろす4人の視線から逃れるかのように窓を閉めた。
「せっかく友達が来てくれたんやから、サイナラくらい言わんとあかんやろ」
「ええんよ。毎日顔合わせとんやから」
「ったく、あんたは。そんなんしてたら、いつか皆んなから総スカンくらうで」
とっくに喰らっとるわと守親は思ったが口には出さなかった。




