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爆ぜる  作者: 変汁
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第十三章 ⑧⑧

守親を救ってくれたのは河原の反対側で暮らす人達だった。


局地的な豪雨の為、その地域で暮らす青年団や消防団の人達が2名1組になって交代て河川の状況を見回りしていたそうだ。


その時、2人の内の1人が、守親の叫び声を聞きつけたが豪雨のせいで守親の位置は中々、把握出来なかったそうだ。


視界も悪くおまけに聞こえた声も雨音に紛れ何処で助けを求めているのか、その方角すら中々掴めなかった。


その分、発見まで時間がかかった。だが守親の姿を土手を降りている時に見つけそちらへ向かおうとした。


だが河川は既に氾濫し始めて降り危険だとは思ったが、青年団の1人は構わず守親の方へと向かおうとした。


地面はぬかるみ足元がおぼつかなかった。踏ん張りも効かない為、一旦、引き返した。


急いで皆へ助けを求めた。集会所に集まっていた青年団や消防団の皆で手分けをして祭りで使う縄やロープなどを集めた。


そして守親を救出する為に再び河川へとむかった。誰が助けに行くのか?そんな話が出る前に1人の青年団が


「自分があの子を助けに行くので、安全帯を2個を用意してください。自分用と子供用にです。つけたらあの子と離れないよう金具と金具をロックさせますから。後は自分の身体にロープを巻きつけて下さい。それで橋の下まで行きます。恐らく子供をだき動き出した時点で濁流の力で流されてしまうでしょうから、自分達の姿が橋の下から出て来た時点で引き上げて下さい。もし見えなかった場合、確実に左側へと流されているので、その時はロープにテンションが掛かった時点で一気に引っ張って下さい」


青年団の1人がそう言った。その判断のお陰か、皆の協力のお陰で運良く2人は助かる事が出来た。


だが、当然、良かった良かったで終わるわけがなかった。守親が椅子に縛り付けられていたからだ。


その姿を見た全ての人達が当然、その事について尋ねて来た。


「これは明らかに殺人未遂や。警察に連絡した方がええ」


初老の消防団の人がそう言った。残りの消防団は皆、そうやでと口を揃えて言った。


しばらくして守親は濡れた衣服を脱がされタオルを受け取った。その後直ぐ誰かが着替えを持って来た。


「僕にはまだ少し大きいが、充分やろ」


この雨の中、消防団の1人が自分の中学生になる息子のお古になった服を持って来てくれたのだ。

守親はそれを着てストーブの側で身体を暖めた。


「訳を話せるかい?」


守親を橋の下まで助けに来た青年団の人が尋ねた。


「いつも遊び場にしてる河原がどうなったか心配で、黙って家を抜け出して自転車で来たんだ。道路の上から見ていたら、いきなり数名の人間に自転車ごと持ち上げられ土手へと投げ捨てられて……気づいたらあんな風にされてた」


何故アイツ達を庇ったのか、その理由が自分にもよくわからなかった。


後から思うと全員を殺したかったからに違いない。

殺人未遂として全員逮捕されたとしても少年院に入れられて終わりだ。


その前に宗太郎の指示で全員がシラを切り通すに決まっている。あんな豪雨の中では目撃者もいる筈もない。


消防団や青年団の中には、土手付近を自転車に乗った子供達が集団でいたのを目撃した人がいる可能性もないとは言えなかった。


けど、その場でそのような目撃情報を口にした人はいなかった。それならつまり目撃者はいないという事になる。


他の住民は皆、豪雨が降り続く不安の中で自宅で身を寄せ合っていたのだから。


嘘をついた事に後悔はなかった。


冬休みに入っているし僕が生きている事をアイツ達が知るのは早くても2、3日後だろう。


守親の話を聞いて消防団の団長が警察へ連絡した。30分くらい後で警察官が来て事情を聞かれた。


その後に警察から事情を聞いた母親が車で飛んで来た。生存している守親の姿を見て、号泣しながら抱きついて来た。


「良かったなぁ」


消防団の団長が母親に声をかけると母親は集会所にいる青年団や消防団の人達へ何度も頭を下げお礼を言い続けた。


その後、母親は改めて警察官から話をされ、涙を拭きながら何度も頷いた。


そんな守親達を見て、消防団や青年団の人達は気を遣い、2人から距離を取った。


「悠人君達は大丈夫だったの?」


「蓮はちょっと河を見に行っとって僕らが家に言った時には、もう家におったんよ。やからそれから皆んなとは直ぐに別れた」


「ならなして真っ直ぐ家に帰らんかったんよ」


「ごめん、あそこはいつも遊んどる場所やけぇ。気になってしもうて……でもお母さん、僕は約束は守ったで」


「約束?」


「うん。覚えとらんの?」


「お母さん、今、頭が混乱しとるから、よう思い出せんわ」


「家を出る時、約束したやろ?」


「ん?」


「河には絶対近寄らんって」


「あ、そうやね。うん。そうやった。守親は偉いなぁ。偉い子や」


母親はいいまだ乾ききっていない守親の頭を何度も撫でた。


「お母さん、この坊やは本当強い子ですね」


自分の命も、顧みず守親を助けた青年団の人が側に来て言った。


「このお兄さんが僕を助けてくれたんよ」


「そうなんや」


母親は言い、再び頭を下げた。


「そんなに頭を下げないでください。自分は当然の事をしただけです」


そう言われても母親は中々、頭を下げるのを止めなかった。


「お礼をしたいので、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」


母親の言葉にその若い青年団の人は一瞬、困ったなぁという表情を浮かべた。母親から視線を移し守親を見ながら


「自分は如月恭次郎(きさらぎきょうじろう)と言います。僕の名前は?」


冴木守親(さえきもりちか)


「もりちか君か。良い名前だね」


「恭次郎の方がかっこいいよ」


「君みたいな強い子に言われると照れるよ。けど、ありがとう。嬉しいよ」


その後、母親は守親と一緒に改めて皆んなにお礼をした。集会所を出ても雨足は弱まっていなかった。そんな雨をみて消防団の団長が


「土手を越えなきゃええんやが……」


と聞こえるか聞こえない程度の小さな声で呟いた。


守親は母親の差し出した傘の中に入ろうとして、止めた。


「恭次郎さんにもう一回お礼言ってくるけん、先に車にいっとってや」


母親は濡れた守親の衣服が入ったコンビニの袋を持ち、守親に傘を渡すと車まで小走りで駆けて行った。


踵を返して再度、集会所の中に入ろうとした守親の前に如月恭次郎が立っていた。


恭次郎は守親の両肩に手を置き、回れ右をさせた。外に出ると集会所のドアを後ろ手で閉めた。


しゃがみ込み、守親だけに聞こえる声で呟いた。


「守親君をあんな酷い目に遭わせたのは友達だよね?僕、見たんだよ。土手の上の道路に4台の自転車が集まって直ぐ1台だけ消えたのをさ」


「え?」


「消えた後、僕は見に行ったんだ。あの3人が君の足を掴んで橋の下まで引きずって行くのをさ。橋の下にも1人いたね。守親君はアイツらに虐められているの?」


恭次郎の余りの衝撃的な告白に守親は口をあんぐりと開けたまま言葉を返せなかった。


「ま、それはいいとして。守親君は思っているよね。見てたならどうして直ぐ助けに来てくれなかったのか?って。そうでしょ?」


守親は錆びついたブリキのオモチャのようにゆっくりと頷いた。


「どうしてだろう。う〜ん。きっと守親君が自力で何とかするのを見たかった、というのが1つ」


椅子に縛り付けられているのに、そんな事出来る訳がない。そう恭次郎さんに文句を言いたかったけど、どうしても言葉が口から出てくれなかった。


虐められていた事に、アイツ達の事、自分がついた嘘の事、そして直ぐに助けてくれなかった理由、それらが守親の頭の中でごちゃ混ぜになり、訳がわからなかったからに違いない。


「それと君の苦しむ姿が見たかったのと、生き延びた後で守親君があの友達に対してどういう風に復讐するか、それを見てみたいと思った。だから直ぐに助けにいかなかったんだ。僕は次の見回りの番が来るまでドキドキしてたまらなかったよ。河はどれくらい氾濫しただろう?もうあの子供は流されてしまっただろうか?って。ワクワクしたよ。そして自分の番が来た。僕は驚いたよ。君が濁流に対して必死に抗っている姿は、もう神の域に達していた。君はあの暗闇の中で輝く一天の星だった。そのような人間を助けない訳にはいかない。だから僕は急いで助けを呼んだのさ。流石にあの状況じゃあ僕1人で君を助けるのは無理だからね。しかし、君の生存本能には驚かされっぱなしだ。普通の人間ならとっくに諦め、泣きじゃくって終わりなのにさ。人間、命のかかった極限状態から生還したら怖いものが無くなるって言うから、だから生きて帰って来た守親くんには怖いものはない。それはつまり、友達に対しても同じだって事さ。けど、怖くないからって言うのと、友達に対して何もしない、金輪際、2度とあの子達と付き合わないようにすると言うのは怖くないというのとは違う。君がそう望んでもあの子達は虐めはやめないだろうね。寧ろ死ぬのが確実だっていう状況下で生き延びたんだがら、今後、友達は、君に対してあれ以上の事をしようとしてくる。これは自信を持って言えるよ。もしそうなったら次、友達に何かされた時には君は死ぬかも知れない。ゲームでも楽にクリア出来た面の後は少し難しくなるだろう?それと同じさ。君が生きていると知った友達は、次はより君が死ぬような方法を使って君を虐めようとして来るだろう。それで、良いのかい?極限を生き抜き怖いものが無くなった守親君だ。友達に復讐するのなんて簡単だろ?全く怖くないだろう?」


守親は頷いた。


「そうさ。それでこそ守親君だ。君は強いんだ」


恭次郎さんはいい、守親に紙を手渡した。


「僕のスマホの番号だよ。復讐する時は是非、立ち会いたから、その時は必ず連絡をしてくれ」


そう言うと守親へ傘を差し出した。開き守親の手に握らせた。


「復讐劇、楽しみにしてるよ」


恭次郎さんはいい、集会所のドアを開けた。中へ入ると守親の背中を押す。


「お母さんが待ってるから、早く行ってあげな」


守親は1度も後ろを振り向かず車へと向かっていった。


濁流に飲まれそうになっていた時、僕はアイツ達を殺してやると思った。願っていた。


その気持ちを恭次郎さんは見抜いたのかも知れない。そうだ。そうに決まっている。


僕の気持ちは固まっていたじゃないか。

守親は今すぐ友達全員を殺したいと思った。

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