表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
爆ぜる  作者: 変汁
85/107

第十三章 ⑧④

[葉の雫]

   

            田浦美津子


溺れるモノをみた それはとても美しく


眩い光を受け 透明な雫の中で


あがき もがき 


得体の知れない何かが迫っている事に


怯えている


溺れるモノは両手脚で 自らの命にすがっている


行きつく先は 地獄か はたまた天国か


得体の知れない何かが そのモノを捉え


羽衣はズタズタに切り刻まれ 美しい羽根は


引きちぎられてしまった


得体の知れない何かの 激しい息遣い


そのモノは 漆黒の艶なき髪を 振り乱し


雫の奥深い場所へ 逃げ込もうとする


だが、得体の知れない何かは そのモノに


追いすがり 細く白いその首に手をかけた


そのモノは 雫の中で 溺れていく


そのモノは 私だった


私は下腹部の痛みを 歯噛みしながら堪えている


失われたのは 私の身体か それとも命か


遥か彼方の闇星は 全てを見透かしていた


悪いのは 愛した私か それとも利用した貴方か


月が笑いながら欠けていく 


内腿から滴り落ちる生命の契り 


その温もりに


憎悪の涙で頬が濡れた


闇星のある世界から見れば 私など 


あぁ 口が裂けても言ってはならぬものが


このような世界にあったとは


何処かで 私を笑うモノがいた。


残骸


砂埃


腐臭


私にたかる蝿


私の身体を蝕む無数の蛆虫


風に晒され風化する命


私の爪がパキリと剥がれた


雨の温もり 遠くの国で人が死ぬ


悲痛な叫びを耳にするに


国境は必要ない


打ちひしがれ 両手を天に向け掲げ


頬を伝う涙は  枯れ果て


もはや生き抜く意味さえ見失った


なのに神は天から舞い降りる事も


その存在を示す事もなかった


雲ひとつない澄み切った空に


渡り度の群れが飛ぶ


何処からか1発の銃声がした


渡り度の先頭の鳥が羽ばたきを止め


急降下し始めた


残った多くの渡り度は


指標をなくして


バラバラに散らばって飛び去っていく


私の後頭部には


銃口が押し当てられている


こんな命を欲しがって何になる?


だけど私は死に恐れ慄いている


それは押し付けられた銃口と同じで


見えないからだ


銃を構えている人が男なのか女なのか


年寄りなのか子供なのかわからない


だから私は後ろにいる人間に話しかけた


私の使う言語が通じるかは知らない


けどどうしても話しかける必要があった


何故なら銃口を見たいから


そうすれば


私の命を欲しがっているあなたを通じて


死を見ることが、出来そうだからだ


けど幾ら話しかけても反応はなかった


照り返す陽射しのせいで


肌がジリジリと焼けて行く


汗は止めどなく全身から溢れ出て


跪いた私の内腿の上で紋様をつくる


紋様はすぐに乾き


新たな紋様は又、直ぐに蒸発する


報われないのはどっちだ


背後の者は未だ返事をしなかった


再び銃声がした。遠い国で笑い声がする


その笑い声は銃声と共に倒れた


心からの笑い声に国境はない


物資は送り届けられる事もなく奪われた


何日も口にしていないせいで唾すら出ない


雫を 雫を どうか 一口で構わない


壊れたジープが砂漠の上で横転している


それを日除けにし休むモノ


そこにいるのは誰だ


そこにいるのは誰だ


そこにいるのは誰だ


そこに隠れて私を見ているの誰だ……


[葉の雫]というタイトルの詩だった。


作者は田浦美津子という女性だった。

他にも9名程の詩が掲載されている。


その横に1回生、3回生とあるけど、守親にはその意味がよくわからなかった。


けど関西方面の大学の名前の朱印が押されてある為、

9つの詩の作者全員が大学生のようだ。


多分、この小冊子なる物は、大学の詩のサークルで作られた物かも知れない。


安っぽい紙を束ねホチキスで止めてあるだけという代物だ。埃やタバコのヤニのせい全体が黄ばみ、文字も所々滲んでいる。


最後のページにSの文字と日にちが数字で記されてあるから、それは恐らくこの詩集が発表された時の年号と日付けだろう。


Sと言う文字から、時代的に昭和の物だと推測は出来た。


冴木守親は毎度の事のような例の廃屋で仲間から暴力を受け続けた。


これまでは殴って出来た痣や切り付けて出来た傷を親や先生にバレないようにと、極力上半身に限っていたのだが、ここ数日殆どの奴がそれを無視し始めて来ている。


宗太郎は気取った態度でそんな事をする奴らを黙認している。新たに全身を痛ぶる事にしたのは、仲間達1人1人が明確な意図を持っているからだと言わんばかりだった。


そんな帰り道、守親はこの小冊子を他人の家の前で見つけた。自由にお持ちくださいと籠の中で並べられた多くの小説や雑誌に紛れたこの詩集を見つけたのだ。


守親は特別読書好きと言うわけではなかった。けれどエスカレートして来た暴力に頭の中が一杯になり、可笑しくなりそうな自分を救い出す為に、別な世界にどっぷりと浸る必要があった。


守親は小冊子と小説を3冊手に取り家へと向かった。それに未だ血脇弓弦との約束が守れていない事も、守親の頭の中を混乱させた。


重信悠人は狡猾なのか、守親の誘いには絶対に乗って来なかった。


個人的な話があると言っても、家に会いに行っても2人きりになる事を極端に嫌がっているようだった。


そんなある日、と言ってもつい先週の事だけど、仲間の1人、木下康太の家が何者かに放火され、家族全員が焼け死んだ。仲間の暴力が上半身以外の所へ向けられたのも、丁度その頃だった。


それらの事実を組み合わせると、守親の目に見えた世界があった。


それは重信悠人が自分が康太の家に火をつけたのではないか?と疑っている、そう思えて来たのだ。


もし自分の考えが、合っていて悠人が勝手な思い込みをしてくれいるなら、それは好都合だった。


だがあくまでそれは悠人個人がそう思っているのではないか?と僕が感じているに過ぎないだけだった。


でもそれまでの悠人と比べ明らかな違いを僕はこの痣だらけの身体で感じ取っていた。


殴る力が弱くなって来ていたのだ。それに康太が焼け死ぬ前なら廃屋へ押し込まれテーブルの上で僕を縛りつけた後、真っ先に殴って来たのはいつも悠人だった。


それがこの3、4日、一番手は金木真弘か栗林蓮にとって変わっていた。


皆んなの手前、悠人はたまには1番を譲ってやるよとイキがって見せてはいるが、その実、悠人が僕を殴る回数はあからさまに減っていた。


当然、その事に真っ先に気づいたのは古里宗太郎だった。


宗太郎の怖い所は悠人が変だとわかっても、殴る事を強要しない所だった。


悠人が抱える不安要素を見抜く為、悠人の言動を細かく観察していたのだ。


「なぁ」


廃屋を出て直ぐ金木が言った。


「もし学年の女子1人にチンポ舐めてもらえるとしたら、誰がええ?」


金木は蓬原ヒヨリだというのは誰もがわかっていて、その事を蓮がいうと金木は顔を真っ赤にして「と、当然やろが」と言った。


あれだけこっぴどい振られ方をしてもまだこいつは蓬原ヒヨリの事が好きなのか。本当頭の悪い奴だと守親は思った。


「お前は誰だよ?」


金木が守親に聞いて来た。


「舐めてもらえるなら誰だっていいよ。どうせその時、顔なんて殆ど見えないんや。ブスだとか可愛いとか関係ない」


「あー言えてるかもやな」


蓮がボソッと言った。


「とか言うとるが、蓮、お前今、誰か想像したやろ?」


金木が蓮を弄ると蓮は意外な名前を口にした。


「堀籠朱音や」


「あいつ小学生モデルやっけ?まぁ顔だけならわからんでもないわ」


「でも、ワシは嫌やな」


悠人が言った。


「あの女、頭イカれとるからな」


「確かにおかしいわ」


金木が激しく同意した。その後、全員、横倒しにしてある自転車を起こすと堀籠朱音の奇行についてあれこれと上げて行った。


奇声を発しながら廊下の端まで走り、タッチして又、戻りそちら側にタッチする。


休み時間中、ずっとそれを繰り返し行っていたとか、黒板を「あ」の字だけで埋め尽くしたり、机の下に潜り今日一日ここで勉強すると先生を困らせたり、噂に過ぎないがその後も沢山の奇行が皆んなの口から出て来た。


「宗太郎は誰が良いんや?」


悠人が尋ねると宗太郎は


「康太」と言った。


その瞬間、悠人は宗太郎から目を逸らし、守親を見た。宗太郎はそんな悠人のちょっとした仕草を見逃さなかった。


「宗太郎、さすがにそれはあかん。女子やないし、そるに不謹慎やわ。笑えん」


金木が言った。


「ワシはな。康太が死ぬとわかっとったら、多分、お願いしとる。もしくはワシが康太のチンポを舐めてやったわ」


「宗太郎、そっちの趣味があるんか?」


金木が言った。


「いや、ないで。ただチンポを舐めるってな

秘密みたいな事やろ?だっての、チンポって普段パンツやズボンで隠されとるやろ?秘密な部分や。それを舐めたら永遠に2人だけの秘密になるんや。康太との思い出は沢山あるけど、ワシと康太だけの秘密は何にもない。やから康太が死ぬんがわかっとったら、ワシはそうしたと思うわ」


宗太郎の言葉は完全に周りをしらけさすものだった。だからその後、会話もなくそれぞれがそれぞれの場所で分かれて行った。


他の仲間が側に居なければ、悠人は僕に対して殴る所か触れる事さへ恐れているようだった。


それが証拠に、僕の乳首を鋏で切り取ったのは宗太郎の命令だったと別れ際に口を割った。


勿論、僕に許して貰いたい一心でついた嘘かも知れない。そるにあの時の状況を思い返せば、宗太郎が命令したような事はなかったように思う。


でも何故か悠人は康太が死んだ後、明らかに守親に接する態度が変わった。


僕の事を康太を含めた家族全員を放火で殺した犯人だと疑っているようだった。康太なりにそう思う理由があるのだけど、それを聞くのはまだ早い気がした。


勝手な思い込みという線もあるけど、でもそれなら、悠人を殺す為にその思い込みを利用しない手はなかった。


「クリスマスイヴの夜、あの廃屋に来て欲しい。個人的に悠人と話がしたいんだ。約束を守ってくれないとどうなるか、頭の良い悠人ならわかると思うけど」


悠人は決して頭など良くはなかった。仲間内では多分、1番か、2番目に馬鹿だ。けれど、もし僕の事を康太殺しの犯人だと思い込んでいるなら必ず約束を護る筈だ。


「わかった。行くわ」


守親は頷き微笑みかけ、悠人とわかれた。

その後で拾ったこの詩集。

田浦美津子という女に守親は興味が湧いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ