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爆ぜる  作者: 変汁
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第二章 ⑦

深夜のニュースで火事の事をやっていた。


4階と5階の店舗に居合わせたお客と従業員を含めた計46名程の人が亡くなったそうだ。その中には僕の幼馴染の4人も含まれている筈だ。火災原因は6階から上の店舗にいたお客や3階から下の人達の証言から火災原因は恐らく放火という話だった。それは守親にもわかっていた。真っ先にビルから逃げ出して客が、守親にそのように話したからだ。知らぬ間に両拳を握りしめ僕は淡々と話すニュースキャスターの言葉に集中していた。


火災が起きたとされる4階と5階の店舗の入り口には、鉄パイプがかんぬきの要領で店舗入り口の引き戸の把手に差し込まれていて、且つワイヤーで縛られており、店内から出られないよう固定されていたらしい。


非常口も同じような手口で封鎖されていたようだった。放火した犯人は焼死したのか、それとも逃走したのか、まだわかっていないようだ。


5階から上の店舗の客や従業員達は炎が舞い昇る中、階段で屋上へと避難し、消火後に無事救助されたようだった。


犯人がどういった手口で店舗内に火を放ったのかは未だ判明しておらず複数での犯行なのか単独犯なのかもわかっていなかった。ただ3階や6階にいた大勢の客の証言から、ガソリンを使った犯行という事は明らかにされている。亡くなった方の身元などはまだ特定に至っていないそうだ。


「僕はその内の4人を知っているよ」


守親は画面に向かってそう呟きながらテレビを消した。


火災があったあの後、女の人は地下鉄丸の内線の改札側で「私、死者の数を数えているの」と僕に言った。


それが自分の趣味であり、希望だともあの女の人は僕に向かって堂々と言い放った。


「この東京で1日に何人死んでいるのか知りたいだけ。勿論、紙面やネットに上がる死者数以上の人が死んでいるだろうから、絶対正確な数はわからないけど、それでも今日はこれだけの人が死んだんだと知ることで、私は気持ちが楽になるの」


ヤバい奴だ、と思った。だから僕は再び頭を下げ、キップを持ち改札口へと足を向けた。


その女の人とはそこで別れる筈だった。だが、何故か今、その女の人は今、僕の部屋のお風呂でシャワーを浴びている。


僕はパイプベッドにもたれながら、床に放置していたスマホを手に取った。天井の柔らかなオレンジ色の明かりが、やけに眩しく感じる。


僕は今日、あの店に集まっていた1人1人に電話をかけてみた。電波の届かないとかなんとかというメッセージが聞こえただけで、呼び出し音すら鳴らなかった。


「誰とも連絡つかない?」


僕の貸したバンTとスエットを来た女の人が立ったまま髪の毛をタオルで拭きながらそう言った。


僕を見下ろす双眸は天井の明かりと正反対に冷ややかに見えた。


「はい。ダメですね」


女の人は髪の毛を拭いたタオルを首にかけ、コンビニで買って来た缶ビールを冷蔵庫から取り出すと、僕の側を通過してパイプベッドの上で胡座をかいた。


そして「私、蓬原ヒヨリ(よもぎはらひより)。よろしく」と名乗った。


僕はスマホを床に置き、「冴木守親(サエキモリチカそれが僕の名前」


「モリチカ、ね。変わった名前」


「モリチカってあまり聞かないですよね」


「そうだね。けど良い名前だと思うよ。モリー」


「モリー?」


「そ。モリ、でもリチ、でもチカは女の子ぽいし、だからモリー」


「モリーも充分、女の子みたいですけど」


「私はそう思わないから、モリーって呼ぶ」


「まぁ、好きに呼んで下さい」


あいつらは全員が全員、僕の事をモリチカと呼んでいた。略す事はなかった。そのような人は今まで1人もいなかった。けど、その事は黙っておいた。


「自分もですけど、ヒヨリって名前も珍しくないですか?」


「どうなんだろ。わからないなぁ」


「ヒヨリってどういう漢字を書くんですか?」


「カタカナよ」


「カタカナ?」


「モリー、ちょっと今、天気の何とか日和みたいな漢字思い浮かべてない?」


確かにイメージはした。でも僕は首を振りヒヨリさんの言葉を否定した。



「ま、どうでもいいけど」


ヒヨリさんは言い、小さな円テーブルの上に放置してあった僕のBluetoothイヤホンを指差し、


「それ、取ってよ」


と言った。


僕のだけど?と言い返す前に


「早く」


と語気を強め言われたものだから、つい渡してしまった。


それを自分のスマホと連動させるとベッドに横になり、スマホで何かを見始めた。


仕方なく僕は再びTVをつけた。


それから1時間強の沈黙が2人の間に落ち、それはやがて僕の部屋に広がっていった。

そんな中、ヒヨリさんが口を開いた。


「私、真っ暗じゃないと眠れないのよ」


深夜2時半まで、1人サブスクで映画を観ていたヒヨリさんが突然そう言ったのだ。

僕のBluetoothイヤホンを勝手に奪い、それをつけて僕のベッドに寝転びスマホで映画を観ていたこの女の人は、まるでここは私の部屋、と言わんばかりの無神経さで僕に明かりを消すよう促した。


僕は僕で、TVをつけたら「うるさい」とヒヨリさんに怒られ仕方なく買ったは良いが手をつけていなかった文庫を読んでいた。それに今は完全なニートだ。昼夜逆転の生活をしてる僕としては全く眠くなかったのだが、仕方なく従う事にした。


全く寝る時間もヒヨリさんに合わせないといけないのか。そう思ったが、この人が家にいるのは今夜だけだと思い、我慢しろと自身に言い聞かせた。


「一緒に寝る?私は別に構わないわよ」


ベッドは1つしかなく、家にはソファーもない。

客用の布団なんて以ての外だ。


だが僕は一緒に寝る事を断った。きっと添い寝しただけで、緊張と興奮で眠れないのはわかっていたからだ。


毛布ならもう一枚あった筈だ。それを床に敷けばそのまま寝転ぶよりはマシだろう。


僕はクローゼットから冬用に使う毛布を引っ張り出して、床に敷いた。明かりを消し、その上に横になった。


「おやすみなさい」


僕がいうとヒヨリさんはおやすみ〜と軽く返して来た。

その軽さが幾分、友人と呼びたくない友達の死に対し、僅かに生まれていた悲しい気持ちが少しばかり軽くなった気がした。


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