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爆ぜる  作者: 変汁
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第十二章 ⑦④

だが、思いもよらぬ出来事が起きた。買い出しは充分だった筈なのに、誰かが何かが足りないと言い出しそれに付き合わされる羽目になった。


その間、ビデオルームの設営を他の誰かにやられたら田浦寿子の死体が見つかってしまう。


それは安馬の望む所ではなかった。だから安馬はメンバーに対して


「戻って来たらビデオルームの設営は自分がやるからさ。椅子とか長机とか運ぶの女性じゃ大変だし」

と話をしておいた。


歓迎会の準備の手伝いに来ていたのは何も女性ばかりではなかった。自分を含め男は3人いた。


その内の1人は現役の和食の料理人でほぼ食事の下準備で厨房から出る事はなかったし、設営を手伝えなどと言い出したら飯が食えなくなる。


だからそいつは心配なかった。もう1人は陰気なオタクっぽい理系の大学生だった。


こいつとは初対面の時から気が合わなかった。いつも人を見下すような視線が気に食わなかった。


実際、他の会員達の事も軽蔑しているようだった。こんな奴がどうして入会して来たのか安馬には理解出来なかった。


そしてそれを許した田浦にも腹が立っていた。来るものは拒まずでは組織として立ちいかなくなる場合がある。たった1人の人選ミスで堅固の筈の絆が壊される事だってあるのだ。


だがこいつに至っては決して言われた事意外はやらなかった。あくまでも噂だが、どうやら会員の中に好きな子がいるらしい。


そいつがどういった経緯でその子を見つけたのかわからないが、今回来ているメンバーには現役の大学生はそいつしかいない事を踏まえると同じ大学生ではないらしい。


だからサークルの合コンで見かけたというのも、考えられなかった。安馬は恐らく街頭演説をしているメンバーを偶々目にし、入会を希望して来たのだろうと予想した。きっとその程度な事がそいつの入会希望の動機だろう。


なので、男2人に関しては心配はいらなかった。

後は残っている女性達だ。女性という生き物は良くも悪くも余計な事や余分な事をしがちだ。


良いよと言っているのにも関わらず、ついでだから等いいやり始める。


勿論。そのような女性ばかりでない事は安馬もわかっていた。けれど新入会員の歓迎会の為にわざわざ自腹を切って四国まで来るような女性の中には少なからずお節介な性格の持ち主はいる筈だった。


だから安馬は新人意外の女性全員にビデオルーム設営は帰って来て自分がやるからと伝えておいた。


全員に話す事で中には、「安馬さん。やけにビデオルーム設営にこだわるなぁ」と捉えられる恐れもあったが、それは賭けでもあった。


女性に重労働はさせられないから。その為に男がいるんだからさ。安馬の頭の隅ではそのような言い訳が出来上がっていたが不安がない訳ではなかった。


その不安が的中したと安馬が気づいたのは買い出しを終え施設へ戻って来た時だった。施設の周りがとんでもない騒ぎになってしまっていたのだ。


その光景を目の当たりにする前、少なからず安馬の不安の種が芽吹く要素は垣間見れていた。


帰宅途中からやけにサイレンや警察車両が目につくとは思っていたのだ。


が、自分がやらかした事ではないと信じていた。あれだけメンバーには釘を刺しておいたのだ。


だから心配はない。そう信じたかった。だが警察車両は次々と施設がある方へと向かって行っている。にも関わらず安馬はまだ、この目で見た訳ではないからと、警察が別な事件で動き出したのと信じようとしていた。


反面、安馬は運転しながらどうか自分の事ではありませんようにと、無意識の内に心の中で必死に祈っていた。恐らくこんなに真剣に祈ったのも数年ぶりだった。


だが現実とは不穏な心を持つ者に対して容赦なく訪れる。施設の前に到着した頃には小さな駐車場はパトカーで埋め尽くされ、施設の正面玄関前には刑事車両が複数台駐まっていた。


運転する施設の車すら停められない状態になっていた。正面玄関には会員達が集まり、中には泣いている者もいた。直ぐ様、同行していた女性が車から飛び降り、会員達の方へと駆け出して行った。


この状況を見る限り、ビデオルームの倉庫に隠しておいた田浦寿子の死体が見つかったのは明らかだった。


安馬は震える足をつねった。警察車両の邪魔にならない場所に車を駐めルームミラーで今の自分の顔を確かめた。


足が震えているのにも関わらず、表情は普段と変わらずの自分に安馬自身、驚きを隠せなかった。


そのような自分の顔に安馬は初めて感謝した。決してイケメンではない、どちらかというとブサメンに位置付けられる顔は、その見た目の力を遺憾なく発揮出来ていた。


よし。これならシラを切り通せると安馬は思い、車を降りて会員達の下へ向かった。


泣いていたのは先週入会したばかりの新人だった。田浦寿子が直々、この女を入会させたらしい。


名前は確か……志自岐と言ったか。その新人の話によれば、というより代弁した者が言うには、倉庫内で田浦代表の遺体を見つけたと言う事のようだった。


当然、これだけの数の警察車両が来ているのだから、それ以外は考えられないのだが、安馬はまだ何処かで違っていて欲しいと願っていた。


例えば隠キャな大学生が、女性会員を襲っただとか、そういう事が起きていて欲しいと思っていた。あいつならやりそうというのもあったし、それならあいつは[葉の雫)にいる事も出来なくなる。


安馬からすればそれが現実である事が一石二鳥だった。だが物事はそう都合良く周る筈もなく、僅かな望みは代弁した女性会員の言葉で完全に潰えた。


ならばシラを切り通すしかないと気持ちを切り替えようとメンバーを励ましている時、志自岐という新会員の代弁をした先輩女性が、女性警官に呼ばれた。


一団になっていた場所から少し離れた所へ移動し何やら尋ねられている。耳を傾けた安馬はその先輩会員の口から出た言葉に、一瞬、顔が青ざめた。


直ぐに顔が火照り怒りを覚えた。田浦寿子の死体を発見に至ったそもそも原因はこの女だったのだ。


あれほど自分がやると言っておいたビデオルームの設営を安馬がいないし、手が空いてるならやって来てと志自岐に頼んだようだった。そのように女性警官に話すこの女こそ、自分を窮地に陥れた人間だった。


今すぐにでも殺してやりたいと安馬は思った。だがそんな事が出来る訳がなく、ただ安馬はこの怒りを鎮めようと必死になるしかなかった。


その先輩女性が話す会話の流れで安馬の名前が出るのは自然の成り行きだった。


当然の事だった。安馬さんがやるからと言ってたんですけど……買い出しに出られてたし、設営くらい私達でも出来るし、それに志自岐さんは先週、研修を受けた後、片付けを手伝わせて欲しいって言って来た唯一の新会員だったので、わかるだろうなって思ったので……


無意識に奥歯を噛み締めていた。後々考えるとその時、自分は物凄い表情でその先輩女性会員を見ていたに違いない。


施設についた時、出来ていた普段の表情は恐らくその時に崩れていた。


そんな風に女性会員を睨みつけいた時、いきなり肩を叩かれた。振り返るとそこには安馬より少し歳上の感じのするスーツを着た少し白髪の混じった頭の温和そうな刑事が立っていた。


刑事は「貴方が安馬さん、ですか?」と尋ねて来た。

安馬は「あ、はい。そうですが」と答えた。


「お怒りになるのはごもっともです。貴方達の大切な方が無残にも殺害されてしまったのですから」


突然の刑事の言葉の意味が理解出来なかった安馬は、「お怒り?」と尋ね返した。


「ええ。安馬さん今先程、凄い表情をしていらしたので。余程、代表の田浦さんの事をお慕いしていらしたのだろうと……」


見られていた、と安馬は思った。おまけに自分は先輩女性を睨んでいたのだ。


きっとその事もこの刑事は気づいている筈だ。手の平にジワリと汗が滲み出る。


無意識にズボンで拭いていた。脇も湿り出すがこれは見られる事はないと内心ホッとした。


その安堵からか、安馬はまだ自分がやったという証拠が出た訳ではない、ただ死体が出たに過ぎないのだ、きっとこの状況から盛り返す事は出来る筈だと考えた。


「当然でしょう。田浦さんは僕達のリーダーですよ?そんな大事な人が殺されたんだ。怒らない訳がない」


「買い出しに行かれていたのに、よく田浦さんが殺害された事をご存知ですね」


「そりゃこれだけ警察が来てたら只事じゃない事くらいわかります。きっと代表に何かあったのではないか?と思うのは当然でしょう。それにメンバーから聞きましたし……」


「ですが安馬さん、田浦さん。こちらに来る予定はなかったと伺いましたが?」


刑事の一言に安馬は慄然とした。つま先が震え出し膝が笑い出した。


「ここにいらっしゃる方は、誰一人、田浦さんが来る事をご存知ありませんでしたよ。なのに安馬さん貴方は……」


刑事の言葉に安馬は自分の言葉で覆い被せた。


「実は、代表は今回の研修に来る事を僕にだけに話してくれていました。本来は刑事さんのいうように来る予定はありませんでした。ですがどういう理由でかはわかりませんが、歓迎会に参加する旨の事を電話で伝えてきたんです。理由を聞くと、皆んなを励ましたいからという事でした。それなら普通に来てくだされば良い事なのですかきっとあの方は皆んなを驚かせたかったのではないでしょうか。そうすれば新入会員もまだ入って間もない人も驚きびっくりするでしょう。自分だってもし田浦代表から知らされなければ、きっとあの子のように泣いていたかも知れませんね」


「そうですか。来る事をご存知だったからこそ、殺害された事にさして驚きはなかったという事ですね」


「そういう訳ではありません。充分驚いていますよ」


「そうですか。うん、そうでしょう。でなけれは

先程見せたような怒りの表情など浮かびません。動揺するか、涙を見せるかのどちらでしょうからね」


安馬は刑事の言葉に返事は返さなかった。

代わりに動揺している皆んなを落ち着かせる為、施設の中へ入っても良いか?とその刑事に尋ねた。


刑事はすまなさそうに安馬の申し出をやんわりと断った。


「今、鑑識が現場検証をしておりまして……中に入るのはもう暫くお待ちください」


刑事の言葉に安馬は渋々、頷いた。


その後でメンバーへ落ち着く迄、向こうで少し休んでいようと告げた。それぞれの肩を叩き、さぁ行こうと声かけする。


そんな安馬の後方で刑事が言った。


「又、後ほど詳しい事をお伺いさせて頂くので、この近辺からは離れないようにしてください」


「わかってますよ」


つっけんどんに返した。その時、安馬と話していた刑事が別な若い刑事に呼ばれた。


「係長」


「どうした?」


「鑑識さんの話だと殺害現場は田浦代表の部屋のようです」


「そっか。わかった。ありがとう」


係長と呼ばれた男が、背後から駆けてくるのが安馬にはわかった。


「安馬さん、ご迷惑をおかけしますが、何卒ご協力の程、よろしくお願い致します」


「勿論です」


安馬がいうと係長と呼ばれた刑事は頭を下げて踵を返した。


安馬はその後ろ姿を見ながら、この施設に来た時から殺害に至るまでの自分の行動を遡って思い出していた。


問題は田浦代表をあの部屋に入れた後の事だった。


アリバイはない。当然だ。自分の部屋に戻るまで誰にも会っていないのだから。


ただ、田浦代表を何時頃部屋に入れたのかが、問題になるのはわかっていた。死亡推定時刻から遡れば、自分と田浦代表とが一緒にいた時間帯が逆算出来る。それは刑事に取り調べを受けた時、ごく普通に答えられるよう把握しておかなくてはならない。


それに恐らく今頃は東京から四国までの飛行機の搭乗者も調べられている筈だ。


田浦代表の到着時刻は何時だった?何時頃ここを出て何時頃に空港につき何時頃空港を後にし何時にここへ到着した?田浦が死んだのは何時だ?


飛行機の到着時間は大体、記憶にあるが、空港を出てからの安馬はその時間を覚えていなかった。


何故なら車内で田浦代表と口論となってしまい、そのような事に気を回す余裕がなかった。


そもそも田浦代表を殺すつもりなんてなかったのだ。カッとなりつい手が出てしまい……


これはマズイなと安馬は思った。


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