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爆ぜる  作者: 変汁
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第十一章 ⑦①

ベッドは1番大きな社長の物を使う事になり、社長の死体がある寝室へ人影が奥さんを雷鳥が木下を運び込んだ。


人影は一旦、裸の奥さんをベッドの側に置くと肉の塊となった社長の両足を持ち端に寄せた。今度は両手を持ち同じ要領で端に寄せた。


次は僕の番だった。木下の腰に両手を回し持ち上げ廊下を引きずって社長の部屋へと持ち込んだ。そこで息が切れ一旦、木下を放り出した。そんな雷鳥を人影は微笑ましく眺めている。多分、そんな目をしていた。雷鳥はその目を見て直ぐに木下の側に膝をつき片腕を自分の首に回した。衣服を掴みそのまま起き上がった。そのままベッドの端まで運ぶと、前方へ倒れ込むように木下の上半身をベッドに乗せた。その後、両足首を持ち数回左右に振った。遠心力を使って木下の身体をベッドに乗ると雷鳥は一度手を離した。土足のままベッドにあがり木下を仰向けにして社長の横へ寝かせた。雷鳥がベッドから降りるのを見て人影が奥さんを抱え上げた。木下の横に寝かせると、人影は「あれ」と言った。


「彼、パジャマ着たままだね」


言葉の意味はわかった。雷鳥は再びベッドに上がり木下の衣服を剥ぎ取った。


そこで見た木下の身体に雷鳥は唾を飲み込んだ。上半身が痣だらけだったのだ。


弓弦が話していた冴木が虐められている状況と似ていたからだ。


特に意識していた訳じゃないから確証はないけど、最近、アイツらと一緒にいる所を見かけなかったなと雷鳥は思った。


冴木だけじゃ物足りず、大人しめの木下も新たな虐めのターゲットにされたのだろうか。


もしそうならアイツらは仲間を2人も虐めているという事になる。


古里、金木、重信、栗林、どう言う訳かこの4人が仲間の2人を虐めている事になる。


従来の虐めであれば、アイツら全員が他の生徒を虐めるのが普通だ。


でもアイツらは違う。仲間の1人を選んで虐めている。誰が首謀者かはわかっている。


古里宗太郎だ。けど、このままだと古里を除いた残り3人はこう思う筈だ。


「次はワシがやられるんやろうか?」


と。


その気持ちが強くなるのは、今日の昼くらいからだろう。何故なら木下は死んでしまったからだ。


冴木は生きているが、木下にも手を出していたとなると、やはり冴木の反応に飽きたからに違いない。


毎回同じような痛がり方や赦しを乞う姿は見飽きてくるものだと思う。


誰もがそう感じ始めた頃に、木下が次のターゲットに選ばれた。選ばれた理由はわからないけど、ヘマをしたか、ひょっとしたら冴木を虐め抜く事に恐れ、中止を申し出たのかも知れない。


それは仲間からしたら裏切り行為だ。多分、理由はこれだろうと雷鳥は思った。


脱がした衣服はベッドの外へ放り投げた。まだ毛も生えていないツルツルのチンチンが悲しそうに縮こまっている。


ベッドの上へこの形で並べたのはヒヨリが新聞で読んだと話していた川の字殺人を雷鳥が知っていたからだ。


人影が社長を横にずらした後、直ぐに雷鳥が木下を抱えた事に人影は一瞬だけ目を見開いた。


少なからず雷鳥がこのやり方を知っていた事に驚いたに違いない。


もしかしたらよく調べているなと感心してくれたかも知れなかった。


ヒヨリから聞いただけなのに雷鳥は自分の手柄のように嬉しく思った。


勿論、決してそのような態度は見せる事はなかった。


これは人影の作品だ。コラボだと言ってくれたけど、自分は何もしていない。社長を刺し息子の木下を殺しただけだ。もしあのまま1人だったら家の中にさえ入る事は出来なかっただろう。


それでも人影はそうは言わない。絶対に言わない確信が雷鳥にはあった。


川の字に並べた後は早かった。室内に灯油をばら撒くと人影は雷鳥にジッポライターで火をつける事を頼んだ。木下のパジャマに持参したオイルをかけ、それにジッポライターで火をつけた。それを社長の寝室へ放り投げた。その後は残った灯油を2階の全部の部屋、廊下に撒いて再び雷鳥が火をつけた。エレベーターで1階に降りると螺旋階段がある部屋に入った。見上げると階段の先は恐らく奥さんの部屋に繋がっていると思われた。人影は軽くなって来たポリタンクを雷鳥に私ら螺旋階段の上から撒いて来るよう頼んだ。言われた事を忠実にこなした雷鳥は下に降りた時点で火をつけた。その間、人影は客間に置いてあるお酒を選んで床に撒き散らしていた。度数が高いと火がつきやすいらしい。雷鳥には何の事かさっぱりわからなかったが、人影は構わずそれを続けた。それが終わると人影は雷鳥を呼び、リビングキッチンの端にあるドアの所へ行くようにと告げた。その後で雷鳥に灯油の入ったポリタンクはまだ残っていたか尋ねた。雷鳥は後、2つあると返した。


人影はきっとポリタンクの数くらいわかっていた筈だ。恐らく雷鳥を試す為に尋ねたと思われた。ようはあらゆる事を頭に入れておく重要さを教えたかったのだろう。雷鳥が数を間違えていたり、覚えていなければ、この家を後にした時、話したに違いない。


「持って来れる?」


雷鳥は言われた通りに従った。かなりの重量だったが、持てないと根を上げるのが恥ずかしくて、必死に力を振り絞って人影のいるキッチンダイニングまで運んだ。


人影はそれをいとも簡単に持ち上げると中身を全てぶちまけた。そして胸ポケットからタバコを取り出し、火をつけた。ゆっくりと吸い込み、ゆっくりと吐き出した。数回それが繰り返された後、タバコを摘み弾くようにキッチンダイニングの床へ向けて飛ばした。タバコは巻いた灯油に浸かり、直ぐに湿っていく。雷鳥が火はつかないのか?と思った矢先、小さな炎が上がり巻いた灯油に引火して行った。


「出よう」


人影の言葉に雷鳥は頷き、駐車場へ出た。人影がドアを閉めると、今度は車のガソリンタンクを眺めた。タンクの蓋には鍵穴があり、キーを差し込まないと開かないようになっていた。


人影は車の後ろにある棚を漁り、工具を見つけるとガソリンタンクの蓋をこじ開けた。


その後で灯油のポリタンクから別の容器に移し替える時に使う、電動のシュポシュポを使って車の中のガソリンを駐車場へ撒き散らした。

2台分それをやった後で、人影は雷鳥へ駐車場の外へ出るように言った。


言われたように外で待っていると人影も直ぐにやって来て「雷鳥君。仕上げた」と言った。


つまり、雷鳥に最後は任せたという意味だった。

ガソリンは素早く燃え広がりあっという間に車が炎に包まれて行った。


「そろそろ消防車や野次馬が集まる頃だ。こんな所に居るのを誰かに見られたら、まるで僕達が放火魔だと疑われてしまうね」


人影はいい頬んだように見えた。雷鳥も微笑み、人影の指示で家の裏側へと回り込んだ。その足で燃え盛り始めた家を背に、2人は暗い雑草地帯をゆっくりとそして蛇行し、時に、横道へ逸れてわざと草木を踏み倒し、その足で逆戻りした。


社長宅から随分離れた雑木林の中に入ると、ようやくサイレンが聞こえて来た。遠くに赤い回転灯が回っているのを目撃した。2人は林に身を隠すようにしゃがんだ。


「コラボは上手くいったね」


雷鳥は頷いた。


「とても良い炎が舞っているじゃないか。

炎にとっては燃える物を区別したり差別したりしない。けど、ごく稀に炎から艶やかさが抜けている場合がある。煤が混ざって出来たりするみたいなんだけど、今後、雷鳥君もそのような炎を見かけたら、充分注意する事だ。呪いと霊なんて全く信じてないけど、そういう炎を見た後は決まってろくな事が起きない。まるで焼かれた怨みを晴らしてるかのように、自分の身に危険が及んだりする。例えば青信号で渡っているのに車が突っ込んで来たりするんだ」


「そうなんだ」


「あぁ。理由はわからないけどね」


雷鳥は艶やかな炎というのが、どんな風な色をした炎か全くわからなかった。その事を話すと人影は言った。


「不思議に感じるかも知れないけど、悪人として生きている人間は殺される事で、その悪事の対価を払ってるのだと思う。だから炎が綺麗なのは悪人の良い部分だけが炎の力によって浄化される為、美しい炎が舞い上がる。反対にそうでない人間、つまり悪事を内面にひた隠しにして生きている人間、顔では笑っていても、心ではその相手に対して悪事を働こうと考えていたり、お前死ねよと思っていたりしている人間ほど、殺されて焼かれた時に心にあった黒いものが炎によって炙り出されるんだ。そうなるとそいつの悪い考えが、炎によって外へと飛び散るわけさ。あの社長の家の炎のようにね」


人影が指指すと確かに炎が黒っぽかった。


「炎を見る限り奥さんか息子のどちらかの心が相当真っ黒だったって事だね」


きっとそれは木下に違いないと雷鳥は思った。


「悪い考えは飛散されて人の心に巣食う。だからそうならないように、死体は川の字にら並べるんだ。誰の心にも見知らぬ人の悪意が根付かないように川に流されて欲しいという僕の願いからあのように並べるんだ」


人影はいい、スッと起き上がった。


「雷鳥君、これでお別れだ。今夜は素晴らしい作品が出来た。君には感謝しかない。それと今夜経験した事は忘れちゃいけない。自分が気づいた事、考えた事はしっかり頭の中で整理整頓しておくように。次、いつ又、会えるかはわからないけど、記念としてこれを君に贈呈する」


人影はいい、血糊がついたナイフと鋭利に尖った棒を雷鳥に手渡した。


「僕は君の活躍を期待してるし楽しみにしている。でも絶対に焦ってはいけないよ。今回のようにそれが絶対に正しいと思える時だけ、この2つの物は使って欲しい」


人影は言うと、「それじゃ又」


手を振ったかと思うと素早い動きで周囲の闇の中へと溶け込んで行った。


「この町から出て行くの?」


雷鳥のその言葉は夜風に吹かれ、人影に届く事なく、雑木林の中へと紛れ込んで行った。


雷鳥も起き上がり、リュックを下ろした。中に貰ったナイフと鋭利な棒を入れ、チャックを閉めた。それを背負い直すと、雷鳥は人影が消えた方向とは真逆の方へと足を踏み出して行った。


風に乗った熱風が雷鳥を包むように駆け抜けて行く。遠くではまだサイレンが鳴り響いていた。


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