第十一章 ⑥⑧
冴木守親があの顔でどうやって家まで来れたのか僕には理解出来なかった。確かに辺りは暗くはなっていた。
けど、顔がわからないほどじゃない。冴木は徒歩でこの家の近くまで来ていたのだ。
それ事態、計画的に練られた行動のように思えてならなかった。あんな顔にされる前から弓弦に会いに来る気でいて住所を調べていた可能性はある。
だとしても普通あんな状態になっているのに病院にも行かず誰かに助けを求めもせず、弓弦に会いに来るだろうか。
弓弦の口調からして2人が今日会う約束はしていなかったのは間違いない。弓弦本人も驚いていたから、冴木が勝手にやって来たというのが正解だろう。
なら何故、わざわざ重症を負ってまで弓弦に会いに来た?
何かしらの理由が、冴木に企みがあるに違いなかった。それにまだ小学生の子供が顔をあんなにも腫らせながら歩いている事に周りは誰も気にかけなかったのか?冴木自身、帽子を目深に被って顔を隠すような真似はしていなかった。マスクもしていなかった。
近くまで来て捨てたか隠した可能性は否めないが、だとしたら冴木がそこまでして弓弦に会いにくる理由は何だ?全くわからない。雷鳥は床に寝そべっていた身体を起こした。
1つ2つ、咳払いをした後で雷鳥は冴木の親はどうしたんだ?と思った。
あんなにも顔が腫れるほど殴られたなら、普通しばらくは動けない筈だ。
被せられたという紙袋だって1発パンチを喰らえば破れてしまいそうだが、冴木はその時相手の顔を見なかったのか?恐怖でずっと目を閉じていたと?目を開けていられないほど、アイツらから受ける虐めが酷かったのか?いつも目を閉じていろと命令されていたのか?殴られた後の冴木がとった行動の意味が、雷鳥にはわからなかった。
ひょっとしたら弓弦の言っていた廃屋の中で監禁されていたのかも知れない。
でもそこを上手く逃げ出せたのなら、誰かしらに助けを求めるのが普通じゃないか。
それが言えない程、冴木はアイツらに何らかの弱みを握られているとでもいうのか。
それに周りの、つまりこの家の近くに来るまで、きっと数人以上の人とすれ違っている筈だ。
なのに誰も冴木を気に留めずやり過ごした。だからここまで来れたのだ。声をかけてもいない。
かけたのならそれを冴木が無視したとしても、明らかに普通じゃない冴木をほっとくほど、この辺りの人は薄情なのか?そんな筈はない。
雷鳥だって見知らぬ年寄りにお帰りなさいとか気をつけなさいよとか声をかけられる事があるくらいだ。声をかけずとも警察には連絡する筈だ。
まだ幼い子供がぶどうのような色をした顔で歩いているのだ。まともな事じゃない。
変だと思わない事の方が変だ。何かが引っかかっる、と雷鳥は思った。
雷鳥は家の中に戻ってその事ばかり考えていた。弓弦はあの後、冴木とヒヨリを連れて一旦、家へと戻った。
ついさっきパトカーのサイレンが聞こえたから今頃、冴木は警察に保護されているに違いない。
何もかもが冴木の思い通りに動いている気がして気に入らなかった。
弓弦は僕と別れる時、アイツらの事は絶対に許さないと怒っていた。あんなに怒った弓弦を見たのは初めてだった。
あれほど怒っていたら弓弦は冴木の望みに手を貸すだろう。誰が止めても聞かない筈だ。
それはまさにヒヨリが言っていた最悪な事態が現実味を帯びて来ている証のようだ。
弓弦が重信悠人の殺害犯として捕まる未来が直ぐそこまで来ているようだった。
アイツらの仲間は信用出来ないとヒヨリは言っていた。聞いた時は何とも思わなかった。
けど、こうして冷静に考えていけば行くほど、ヒヨリの言葉が正しく思える。その言葉はまさに預言者のようだと思った。
そう思ってしまった事は雷鳥がこれから起こそうとしている行動について歯止めをかけた。
ヒヨリに僕の気持ちは理解出来ない。逆も同じだ。
それは間違っていない。けど早まらずじっくり待てと言うのは、冴木の事も含め正しいのかも知れなかった。
怒りの感情に振り回されて周りが見えなくなっている、そんなような事も言っていなかったか。確かに僕の考えは穴だらけだ。
それを認めたくなかったというのも少なからずあった。自分の計画では、社長家族全員、火事を見に行く想定だった。
社長の家の周りは住宅が密集しているわけではないし、それにこの町の人々は未だ家の鍵を閉めず出かけることも全然ある。
だから例え近所で火事が起きても、自分の家に被害が及ぶような事がなければ、わざわざ戸締りをしてまで火事を見に出るとは思えなかった。
だから雷鳥はヒヨリにあんな言われ方をしてもやり切る自信があった。さっきまで自信満々だった。だが今はその自信が少しばかり揺らいでいた。
それでも雷鳥は目的を見失う事はなかった。失敗する事を恐れては駄目だ。行動に移す前から不安になる必要はない。不安になるのは失敗してからでいい。
充分過ぎる程、その気持ちと向き合える時間はきっとある筈だ。雷鳥は蝋燭に火をつけ、それを持って風呂場へ向かう。服を脱いで震える身体で風呂場の中に入った。タオルを水に浸した。
それを絞りボディソープをつけた。身体を洗ってからシャワーを出しそこへ飛びこんだ。余りの冷たさに自然と手足が動き出した。両足で足踏みをする。
バタバタと動かしながら意味不明な言葉を吠えながら冷たい水を頭から被った。風呂場から出て直ぐに身体を拭きパジャマを着込む。
電気が止まっている為、ドライヤーは使えない。髪の毛はタオルを3枚使って拭いたが、それでもまだ湿っていた。この家から両親がいなくなって随分と経った。
経った数ヶ月が雷鳥にとって何年分にも感じられた。1人で生きる事に不安を感じたりはしない。
ただお金を稼ぐ事が出来ないのが、雷鳥には不満だった。唯一そのチャンスをものにしたと思った矢先、まんまと大人に騙された。
それは雷鳥が社会という未知の世界の入り口へ足を踏み入れた事を痛感した出来事でもあった。だが自分は子供だ。充分過ぎる程、ガキだ。
だからこそ余計にリサイクルショップの社長は許せない。許せないと言ったら許せないのだ。自分が大人であったなら割り切る事も出来ると思う。
向こうも騙そうなんて考えなかったかも知れない。そもそも電化製品を売るような真似はしないだろう。
そう考えると大人が社会でお金を稼ぐというのは、とてつもなく凄い事なのだと思えた。何をするにもお金がかかるのだから。
稼げないと電気ガス水道は知らない内に止められ、夜な夜な自動販売機の下を漁るような事をし始めなければならない。ホームレスになるのは凄く簡単であっという間だと思った。
それが嫌だからお父さんは朝早い時間から出かけて夜遅くまで働いていた。けど僕も大人への道を踏み出した。だからお父さんが遅く帰って来るのは外にお母さん以外の女の人がいたからだと最近、ヒヨリに教えて貰った。
それでも働いたお金はお母さんに渡していた筈だ。それは今も続いているようだけど、その肝心のお母さんはまだ行方知れずだ。
そのせいでこんな状況下で生きないと行けなくなったのは、不公平な気がしていた。ただ弓弦のお婆ちゃんにラッキーやと言われて少し気持ちが楽になった。
だからお金の事でお父さんを責めるような真似はしないと決めた。お母さんは違う。僕に責められる理由が充分過ぎる程あるからだ。
家を出て行った2人の内、どちらかを許さなければいけないとしたら、浮気をしたお父さんを許す。その浮気に怒ったお母さんも、突然、出歩くようになり、自分の家でもあるこの家へも寄り付かなくなった。けど、今はその2人にはここへは帰って来て欲しくなかった。
どちらかが家にいる事でやりたい事が出来なくなりそうで怖いのだ。
だから今は1人でいる事が凄く楽しかった。けどその分、大変な事も多かった。
それはつまり楽しい事には規模の大小に関わらず楽しさの代償って物を取られるって事だ。自分の場合は空腹と、寒さだった。
雷鳥は頭にタオルを巻いたまま蝋燭を持ち自分の部屋へと向かった。2人が帰らなくなって髪の毛も随分と伸びた。
それまでは1ヶ月に一度は散髪していたのだから、長くなって当然だ。鬱陶しさは感じなかった。
きっと今の季節が冬だからだろう。蝋燭は枕元に置いて2枚の毛布と4枚重ねた掛け布団の中へ潜り込む。
目覚まし時計を10時半にセットして蝋燭の火を吹き消した。目を閉じるが、中々、心地よい体勢が見つけられなかった。
こういう時は決まって寝つきが悪い。それはそうかと雷鳥は思った。今夜決行するつもりだったからだ。
ヒヨリの言葉に何処かで納得していた自分に逆らうかのように雷鳥は社長殺害を頭の中で思い描いた。
包丁はある。果物ナイフもある。カッターナイフもある。3つ用意したのは社長家族は3人組みの強盗に襲われたと見せかける為だった。
刺し傷を変える事で警察の目を上手く誤魔化せるのかはわからない。
けど雷鳥は人を刺し殺すならこれが最善だと考えた。単なる思いつきではあったけど、悪くないと思えた。既にリュックの中にしまってある。
その他にビニール袋に詰めた枯葉とジッポオイル。3人が火事の騒ぎで家を出た後、やるべき事は3人の寝室を確認する事だった。
社長、奥さん、木下。その内、息子の木下は1人で寝るのは間違いないだろう。
まさかとは思うけど、小5にもなって母親と同じ布団で寝てる可能性はあるだろうか。雷鳥はアホなと呟いた。
そして雷鳥は1番殺し難い社長を最初に殺すつもりだった。多分、それが上手く行けば後は簡単な気がした。けどそうするには問題が無いわけではなかった。
土壇場で自分が怖気付く事だ。動物だって殺した事がないのに、いきなり人間を刺すなんて事が可能なのだろうか。
刃物を持ったは良いけど、迷いが生じて刺せなかったじゃ笑い話にもならない。野球じゃないけど、刺し切る素振りをしとくべきか雷鳥は迷った。
結局止めてそのまま目を閉じた。寝つきが悪いと思ってたけど、意外と直ぐに眠る事が出来た。
僅か4時間程度の睡眠だけど、頭はスッキリしていて、身体も軽かった。着替えて家を出る。
自転車で目的地である家へと向かった。家から離れた場所に自転車を横倒しにして置いた。普通に停めたら、夜中でも目立ってしまう気がしたからだ。
時間は11時半近かった。ここら辺りの住人でこんな時間帯に帰宅してくる人間がいるのかそれはわからなかった。
そんな人がいて鉢合わせなんかしたら最悪もいい所だ。雷鳥は黒のパーカーのフードを被り、標的にしている家の庭に忍び込んだ。明かりは消えている。
この家に住んでいるのは老人夫婦だ。2人共、昼間も夜も家にいる感じだったから、多分仕事はしてない。数回ほど、平日に学校を休んで確かめたから間違いない。
周囲を確認し人がいないか確かめた。鍵なしのフェンスに手をかける。飛び出しそうなほど心臓が高鳴った。
その音が異常にうるさくて雷鳥は静かにしろ!と囁いた。そっとフェンスを開けて身体を庭へと忍び込ませた。
後ろ手でフェンスを閉め、直ぐに家の裏側へと回った。道路に面した場所でいつまでも姿を晒しているような馬鹿じゃない。雷鳥は裏の戸口の方へと急いだ。
社長の家から、この家までは道路を挟んで200メートルはあるだろうか。いや、実際にはそこまで離れていない。
その数字は自分の願望に過ぎないと雷鳥は思った。せいぜい100メートル前後だろう。
この家の戸口の先は雑木林になっていて、身を隠したり逃げるには持ってこいの場所のように思えた。
けど、この家が全焼するほどに燃えれば、雑木林にも引火し被害は広がると思われた。
まぁ悪いけどこの家には囮になってもらう。
雷鳥は背負っていたリュックを下ろし、中からオイルとビニール袋に詰めた枯葉を取り出した。
縛った口を解こうとした時、背後で物音がした。手を止めゆっくりとそちらへ顔を向ける。が、気配はなかった。驚くほど、息を吐いた雷鳥は自分の手が震えている事に気づいた。
その震えは段々と酷くなり、掴んでいたビニール袋を離してしまう程だった。ビビッとらん。ビビッとるわけやない。
少し寒いだけや。頭の中でその言葉を繰り返す。が、手の震えは一向に治ってくれなかった。
歯痒さの為、雷鳥は自分の手に噛みついた。親犬が悪さをする仔犬の首に噛みつき大人しくさせるように、まるで他人の物のような手の震えを止める為に更に強く噛みついた。
さっきまでは平気なつもりでいた。なのにどうしてだ。寸前になってこんなにも手が震えるなんて……
一本ずつ指を噛んで行き、10本目を噛む頃には震えも殆ど治っていた。その手でビニール袋を拾い上げた。又、背後で音がした。雷鳥は直ぐに振り返った。闇の中に目を凝らし左右を見た。
ピシッ。尖った音が雑木林に反響する。月を覆っている雲がゆっくりと動きを早めた。徐々に広がりを見せる月明かりの中で、雷鳥は早く火をつけてこの場から逃げないと思った。
結び口を開けようとしたその時、いきなり大きな手が雷鳥の口と鼻を覆った。
同時進行で背中に負荷がかけられた。前倒しになりそうな所で止まると耳元に生暖かい息が吹きかけられた。
「シシッシ、シシッ。シィ……」
雷鳥は頭を上下に振ってその声に対しての答えとした。
「本当?本当に静かに出来る?」
再び頷いた。
「オッケー」
大きな手の持ち主はいい、雷鳥の背にかけていた負荷を取り除くと引き起こすと同時に顔を塞いでいた手も離した。
両手で軽と雷鳥の体を反転させると無理矢理に向かい合わさられた。
顔を覗かれた。その目と合った雷鳥は思わず目を見開いた。そこには顔全体が黒く塗られマスクをし黒いフードを頭から被った全身黒づくめの人間がいた。
絶対に忘れる事の出来ない顔だ。雷鳥は直ぐにポケットに手を突っ込んだ。
「僕、何してるの?」
低く安定した響きの声。言葉の一言一言に乱れがない。早くなる事も遅くなる事もない。
一定のリズムで話しかけて来る。雷鳥はポケットから引っ張り出したジッポライターをその人物へ向けて突き出した。
黒ずくめの人物は一瞬首を傾げた後、雷鳥の手からジッポライターを受け取った。
あらゆる角度からジッポライターを眺めた後で、その人物は何やら思い出したらしく、ニヤリと微笑んだ。
マスクをしているから全体の表情は読み取れなかったけど、笑っているのは目を見れば明らかだった。
「大きくなったね」
雷鳥は頷いた。
「ひょっとして今夜が初めてかい?」
何度も首を縦に振る。話したいのだが上手く声が出せなかった。
それに静かにするよう言われていたし、口を開いたら思わず大声で喋り出しそうでそうしない為にも雷鳥は口は閉じたままでいた。
「口が聞けないのかな?」
横に振る。
「ならどうして?」
今、雷鳥の目の前にはあの人影がいる。雷鳥にジッポライターをくれ、雷鳥もアーティストになれると言ってくれたあの人影がいるのだ。
興奮してさっきとは違う震えが全身に広がりつつあった。嬉しい時にも震えたりするんやなと雷鳥は思った。
人影はしゃがんでいた身体を起こすと雷鳥に向けて手を差し出した。その手を掴むと人影は又、軽々と雷鳥を引き起こした。
「ちょっとあっちに行こうか」
人影は雑木林を指差した。裏の戸口の横には物干し台が置かれてあった。雑木林のせいか庭は決して広くなかった。
人影は周りを見もせず雑木林の中へと入って行く。驚いたのは殆ど足音がしなかった事だ。
反対に雷鳥が足を踏み出す度に音がして、その音はまるで騒音のように雷鳥にまとわりついた。
歩く事だけ取ってみても、人影とはこんなにも違いがあった。別にショックじゃないと言えば……
それは大嘘だった。雑木林の中腹付近で人影は足を止めた。座るように言われた雷鳥はその指示に従った。
その後で雷鳥は人影から沢山質問された。雷鳥はそれらの質問に1つ1つ答えていった。
「後、少し良いかい?」
「うん」
「君はさっきの家を燃やそうとしていた。間違いないかな?」
「うん」
「それはどうしてだい?」
そう問われた雷鳥は正直に成り行きを話していった。
「つまり、雷鳥君。君は君だけの力では社長の家に入れないから、ここの人の大事な家を囮に利用しようと考えた。この家が火事になれば社長達が家を空けて見に来るだろうと予想して」
「はい」
こう返したのは何処となく人影の声のトーンが変わった気がしたからだ。
自分の考えたやり方が人影には気に入って貰えていない、そんな雰囲気が辺りに満ちていたように感じたからかも知れない。それは間違っていなかった。
「それは関心しないな」
「駄目ですか」
「うん。そうだね。良くないね」
人影曰く雷鳥が取ろうとしていた行動はアーティストとしてあるまじき行為らしかった。
「音楽や、本などは好きかい?」
「ちょっとだけ」
「そうなんだ。ま、でも嫌いでないなら良かった」
「どういう事ですか?」
「パクりって言葉知ってる?」
「はい。知ってます」
「音楽や本の世界にも他人の作品に似せて曲を作り出したりする人間が一定数いるんだ。リスナーにはバレないと本人達は考えてそんな事をしているのだろうけど、ちゃんとしたリスナーはそれを簡単に見抜いてしまう。このアーティストは又、誰々の曲をパクってるよ、ってね。でも殆どの人は気づかない、気にもかけない。そういう人達はばかりだとどうなると思う?」
雷鳥は首を横に振った。
「アーティストは他人が苦労して考え作り出した物を永遠にパクりつづけ、それに気づこうともしない自称音楽好きの人達のお陰でお金持ちになるわけさ。音楽好きの人達は騙されてるとも知らず、お金をそのアーティストに使う。ファンなら半永久的にお金を支払うだろうね」
「そうなんですね」
「君がやろうとしていた事は、今話したパクりが得意なアーティストと同じだという事さ。侵入出来ないなら出来るように考え努力するのが本物のアーティストだよ。出来ないからって無関係な家を巻き込むのは、曲が出来ないから他人の曲をパクればいいって考えの最低な偽物のアーティストと同じだよ。僕は君にそうなる事は望まない。
目的の為に全てをクリアに出来る状況まで、努力の出来るアーティストになって欲しい。それが僕が望む君のアーティスト像だ」
人影の言う話の殆どは理解出来た。けど音楽の例えはいまいちだった。
わかったのは人影の考え方はヒヨリに似ているという事だった。
ただ、違いがあるとすれば、人影はヒヨリと違い完璧までを求めていない感じがしたという事だった。
「ま、お節介はこれくらいにして、雷鳥君行こうか」
「何処に行くんですか?」
「社長の家さ。君もそこへ行くつもりだっただろ?かくいうこの僕も雷鳥君と同じだったって訳さ」
人影はいい、雑木林の中で体育座りをしている雷鳥の頭を撫でた。
「今夜は特別な夜になるね」
「そうなんですか?」
「そうさ。考えてもみて欲しい。これから僕は未来のアーティストと共に共同で作品を手掛けようとしているんだ。そんな機会はそうはない。最近、アーティストを気取って僕の真似をしている輩をチラホラと見かけるんだ。そういう輩は最悪だね。勿論、そうじゃない奴もいる。けど、炎の芸術家同士がコラボするなんて絶対にあり得ないんだ。だけど奇跡が起きた。僕は今日という夜の事は一生忘れないだろう。初めて雷鳥君との出会ったあの夜、今夜という未来は既に決まっていたのかも知れない。この巡り合わせは言ってみれば運命というものなのだろう。わかるかい?」
「んー。何となく」
「あはは。そっか。そうだよね。うん。今はそれでいい。充分だ」
人影は行った。
「はい」
雷鳥は小声で元気の良い返事をした。




