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爆ぜる  作者: 変汁
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第十一章 ⑥⑥

「無関係の家はもう決めてあるの?」


「うん」


「なら雷鳥がその家に放火したせいでそこに住んで居た人が死んだらどうするの?」


「わからない。というか社長の家の中に忍び込むにはそれしかないかなって」


「アイツが火事を見に家を出てもさ、玄関の所で眺めてるだけだったら家の中に入れないよね?」


「ま、ぁ、そうだけど……」


「雷鳥はあいつ等家族が火事を見にその家の側まで来る想定なんだろうけど、アイツだけだったら?息子と母親は家から出なかったら?それだと忍び込むのは厳しそうだよね?」


「そうやな」


弓弦が言った。


「忍び込むなら3人がいない時間帯にする方がより確実だと思う」


「それだと鍵が掛かってて無理なんよ」


「という事は雷鳥、それはもう考えたって事ね」


「うん。考えた。んで。どこか入れる箇所がないか調べもしたけど、やっぱり無理だった。

駐車場の後ろにあるドアが1番侵入しやすそうだったんやけど、そこも中から鍵がかけられてる。窓ガラスを割ってってのも侵入手順としてありかもだけど、それは空き巣の場合でしょ?僕は夜中になるまで家の中で隠れていなきゃいけんのよ。万が一、窓ガラスが破られているのを気づいたら警察に通報されるだろうし、それだと盗まれた物があるか警察に確認するように言われちゃうやん?そうなったら家の中を色々と引っ掻き回すだろうし、隠れていても見つかる可能性が出てくるから、空き巣みたいなやり方は駄目なんよ。

そうなるとやっぱり別の家を放火して社長等の気を逸らした隙に忍び込んむのが1番かなって」


「確かに雷鳥の方法が最善のような気がするけど、でも仮に家の中に侵入出来たとしてその後はどうしようって考えてるの?」


「寝てる所を刃物か何かで社長達を襲って勿論、僕も人を刺したりするのは初めてだから、焦ったりして完全に殺す事は出来ないかもだけど、でも動けないようにする事くらいは大丈夫だと思う。全員をそうやって襲った後は、駐車場の後ろの棚の下に常備してる灯油があるから後はそれを家の中に撒いてから火をつけるつもり」


「なんか危なかっかしいなぁ。寝静まるまで待つって言ったけど雷鳥が寝ちゃう可能性もあるよね?トイレにだって行きたくなるだろうしさ。

それに社長が奥さんと一緒に寝てたら?2人同時には刺せないよね?それに刺されたら痛みで飛び起きて、大声で叫んだりすると思うよ?そうなったら隣で寝てる奥さんがその声に気づいて反撃されるかもだし、例え社長が1人だったとしても雷鳥はプロじゃないのだから一撃で殺すなんて出来ないと思うよ?何度も刺せばいいとか考えてたら、それは甘いと思うな。現実は映画やドラマみたいにいかないと思う。それに土壇場になって雷鳥が怖じ気づく事だってあり得るんだし」


「僕はそんな事には絶対にならん。僕は社長が憎いんや。やから怖じ気づくなんてないわ」


少しばかり雷鳥がムキになっているのが弓弦にはわかった。ヒヨリも気づいているだろう。


「まるでベテランの人殺しみたいに雷鳥は言うけどさ。雷鳥は人を殺した事もないただの小学生だよ?自分の力を見誤ったら駄目。しっぺ返しくらっちゃうよ?」


このような言い方をされて、雷鳥はやっぱり話すんじゃなかったと思った。大体、ヒヨリも弓弦もあの社長に何かされた訳じゃない。被害者は僕なんだ。だから僕がどれだけあの社長を憎んでいて殺したいと思っているか、2人は全然わかってない。


「まるでヒヨリは殺人の経験者みたいな言い方をするよね」


ヒヨリにダメ出しみたいな事を言われ続けた雷鳥は、ヒヨリに一矢報いたくて、嫌味たらしく言った。


「経験なんてないよ。あるわけないじゃん。けど、きっと雷鳥や弓弦よりは沢山殺人のシュミレーションはして来たと思う。でもね。幾らシュミレーションしたからって子供の私達が大人を殺すにはかなり無理があるの。シュミレーションの中でさえ上手く出来ないのだから本番なんてもっと難しいよ。想定外の事が起きたらパニックに陥って、身動きだって取れなくなる筈。そうなったら焦るばかりで空回りしちゃって上手くいかなくなるの。その時点で失敗だし、直ぐに見つかるか捕まえられて雷鳥は終わり」


このままじゃ、ずっとダメダメが続きそうやと感じた雷鳥は適当に話を切り上げようと思った。

僕なら出来る。出来るんだ。雷鳥は言い聞かせ無意識にポケットの上からしまってあるジッポライターを握りしめた。


「やっぱそうかなぁ」


本心とは掛け離れている言葉を吐いたが、それが嘘だとバレないか、内心ヒヤヒヤしていた。


「社長を殺してやりたいって気持ちは凄くわかる。だって私も毎日、お父さんを殺したいって思ってるから。けどさ。焦る事はないと思う。じっくり時間をかけていけば、いつか完璧に殺せる最高の時がやって来る筈だから。私もそう信じて生きてるよ?それとも雷鳥は社長に対する憎しみを抱き続けながらじゃ生きていけない?いつか必ずって強く願って、その時を待てない?悪いけど、雷鳥が待てないというなら雷鳥の憎しみは本物じゃないから。本心から他人を憎んでいる人はさ。何十年先になっても殺意を持ち続けていられるもんなの。そういう人こそが個人を憎む事が出来る本当の意味での殺意を持った人なの。雷鳥のように一時の感情の昂りだけで殺意が湧いてもさ、最大のチャンスまで待てないようじゃ絶対にミスするに決まってる。最大のチャンスってのは雷鳥は絶対に捕まらなくて、犯人を殺す事。私はそう考えてる。もし仮に殺人を思いとどまったとしたら、きっと、雷鳥はいつかあの時は殺してやりたいと思ったけど……て自分が殺人の行動に移さなかった事にホッとしちゃうの。実際、人を殺したって良い事なんかないんだから。捕まって刑務所に入れられて、死刑になったり何十年も刑務所から出られなかったり、出たとしてもお金は無いし、頼る人もいない。だってもし人殺しの親戚だとか家族だって知れたらその人達は世間から冷たい目で見られて、ネットに実名を晒されたりして、何処に行ったって直ぐにバレてさ。生きる場所は無くなるからね?最終的には辛くなって自殺しちゃったりするもん。反対に殺人を犯した当人は全然いいよ。自分がそうしたいからやったをやだから満足だろうしさ。例え刑務所から出られて仕事や生活が苦しくたって、殺害した時の感触はずっと忘れないだろうし。その喜びに浸りながら生きていける。それに周りからは小野乃木は人を殺した事があって、最近ムショから出て来たみたいだぜ?そんな風な陰口で済めば良いけど、でもさ。そんな上手くいかないよ。運良く働ける場所が見つかったとしても、いつかは正体がバレちゃってさ。友達も仲間も恋人も作れない。仕事場では無視され、下手すれば虐められるかも知れない。怖がって近寄らない人がほとんどだろうけど、でも中にはそんな馬鹿な人が居たりするの。何も憎しみを忘れてって言ってるんじゃないよ?私が雷鳥に言いたいのは私と同じように、今すぐ憎しみを爆発させるんじゃなくて、その時を待とうよって事なの。今の状況じゃ雷鳥だけが損しちゃう気がして、私は私の友達には絶対に損な事はさせたくない。して欲しくないの」


一気に語ったヒヨリの眼差しは真剣そのものだった。薄暗いリビングの中にいてもその目が潤んでいるのはわかった。


わかったが、雷鳥は止めるつもりはなかった。ヒヨリの言葉が胸に響かなかった訳じゃない。


充分過ぎるほど伝わった。けどそれは普通の人に対していうべき話だ。


何故なら雷鳥は憎しみだけで社長を殺そうとしている訳じゃなかったからだ。


雷鳥は炎のアーティストとして成長する為に殺人が必要なだけだ。それが何より美しい筈だからだ。


だから社長の家族も殺す。別の家に放火してその人が死のうが関係ない。どうでもいい。


ただそれもアーティストとしてやるべき事に過ぎないからだ。


でもこんな事を言ったってヒヨリや弓弦にはわかりっこない。だって2人は人影と出会った事がないのだから。


「わかった……よ」


雷鳥はヒヨリの目を見てそう言った。

当然嘘だ。


「なら雷鳥、約束して。自分の中で完璧に社長1人を殺せるとなるまで手を出さないって」


「約束する」


「本当に本当?」


「うん」


「なら私も約束する。お父さんを殺しても私が捕まる事もなくて、楽しく生きていられる条件が果たせるって感じるまで、私もお父さんを殺さない」


「うん。わかった」


雷鳥がいうとヒヨリは大きな息を吐いた。きっと疲れただろうなと雷鳥は思った。

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