第十一章 ⑥⑤
2人を家に招き入れた後、雷鳥は紅茶花伝のミルクティーとピーチティーのペットボトルを手渡した。
弓弦とヒヨリは前回来た時とは違いリビングの床に座るのではなくキッチンテーブルの椅子に座っていた。
「どうせならこのテーブルと椅子も売れば良かったのに」
ヒヨリが言いながらテーブルを軽く小突いた。
「まぁ、どっちみち馬鹿みたいに安い値段をつけられただろうけどさ」
雷鳥はそう話すヒヨリに向かってどっちがいい?と2つのペットボトルを掲げながら尋ねた。レディファーストってやつだ。
「ん〜ピーチティー」
雷鳥はそれをヒヨリに手渡した。
「冷えてなくてごめん」
「いいよ。まだ電気止まったままなんでしょ?」
「うん」
「そうなんか?」
ミルクティーのキャップを開けながら弓弦が言った。
「あれっぽっちのお金じゃ、全然足りなくて。やから水道代だけ、って言うても全額やないけど、使えるようにしてくれる金額だけ支払ったんよ」
弓弦は何も言わずミルクティーのキャップを開けた。
雷鳥はパパとママがまだこの家にいた時と同じように自分の椅子に腰掛けた。
「電気は止まったままだから夜は寒いけど、それは厚着すれば我慢出来るし、それに明かりは弓弦のお婆ちゃんが仏壇用の蝋燭を沢山くれたから、それをつけて本を読んだりしてる」
「お父さんかお母さんはお金送ってくれないの?」
「パパには状況は話したんやけど、ママに言っとくってばかりやし、ママはママで全然連絡取れないんよ」
「ちょっとそれ、酷くない?」
「そう思うけど弓弦のお婆ちゃんには、小さい時にこんな事滅多に経験出来んから、良かったやないかって。そう言われて最初は意味わかんなかったけど、でも今はそうかなって思い始めてる」
「かもだけど、そろそろ役所に相談した方がいいと思うけど」
「そうやで雷鳥。それに身体もまだ元のように戻っとらんしさ」
「うん。次、水道が止められるまでにお父さんかお母さんがお金を送ってくれんかったらそうしてみる」
雷鳥の返事に納得いかないのか、ヒヨリは少し不満気な表情を浮かべた。
が、直ぐに気持ちを入れ替え、別の話題を持ち出した。
雷鳥の事は心から心配している。なのに、雷鳥はこの環境を受け入れようとしていた。
大人なら構わないと思うけど、雷鳥は私達と同じでまだ小5なのだ。
そんな小さな子供が、ましてや友達がこのようない目に遭うのはヒヨリは納得がいかなかった。
自分もお母さんが死んでからそれなりに月日が経ったけど、家にいれば寒さや空腹に困る事はない。
実際雷鳥のような事は経験した事が無いけど自分なら直ぐに役所に駆け込んで助けを求めるのにとヒヨリは思った。
弓弦のように家が近ければ私だって夕飯くらいは食べさせてあげられるけど、でも雷鳥と弓弦の2人には私のお父さんには会わせたくなかった。
あの人はそれを利用し、私に近づく為の理由とするだろうから。
「で、雷鳥、話しって何?」
ヒヨリの言葉に弓弦がミルクティーを飲む手を止めた。聞くでという心構えが出来たのか表情かわ引き締まって見えた。
それに弓弦は僕が話した後で話があると言っていた。
それがどんな話かは雷鳥には想像も出来なかったけど、それも僕の話が終われば分かる事だ。
雷鳥は静かに息を吐き切り、ゆっくりと吸い込んだ後、口を開いた。
「社長を殺そうと思う」
「やっぱり」
ヒヨリがあっさりと言った事に雷鳥は驚いた。
「どうしてわかったの?」
「わかるよ。だって雷鳥わかりやすいし。それに最近は一緒に帰ってくれなかったじゃん。その事で私も弓弦も何も言わなかったのは、雷鳥の表情が異常なくらい怖かったからだよ。雷鳥はそんな自分の顔に気づいてなかっただろうけどさ。私、弓弦に話したんだ。雷鳥は絶対あの社長を殺す事を考えてるって。そうしたら弓弦も同じ考えでさ。なら雷鳥から話を聞こうよって弓弦に言ったの。したら弓弦は雷鳥は絶対に話してくれる筈だから、それまで待ってあげようと言ってさ。それだと雷鳥は絶対に失敗するし、捕まっちゃうよって私が話したんだ。だって騙された時に怒ったじゃん?雷鳥、あの日からずっとあの時と同じ表情してるんだもん。それじゃやみくもに向かっていって、捕まってボコボコにされて死んじゃうだけだよって。そう弓弦に言ってんのにさ。こいつ全然聞いてくれなくて。私、凄く頭に来てたんだよ?雷鳥、私が怒ってるの知らなかったでしょ?」
「うん」
「まぁ当然よね。態度や表情に出さないのが、大人な女だからさ」
ヒヨリはふふんと胸を張った。どう?私凄いでしょ?と言いたげな顔をしていた。
「それでも、今は弓弦の言うことを聞いて良かったと思う。だってこうして話があるって言ってくれたし。雷鳥の方から話してくれるって信じた弓弦も凄いけど、そこはほら?2人は幼馴染だし、私の知らない所での付き合いの長さがあるじゃん?その数年間の友達付き合いの分だけ私にはわからなかっただけで、けど、これからは私も弓弦のように気付けるようになるからさ。雷鳥の考えてる事、全部見透かしてやるんだから。ようく覚えておく事ね」
ヒヨリは一気に喋ったせいか、手にしていたピーチティーを半分近くまで飲んだ。
「で、雷鳥り本気なんか?」
「本気やよ」
「なら聞くけど、どうやって社長を殺すのよ?」
「どうかと聞かれたら、そうだね。焼き殺す予定だよ」
「なるほどね。だから雷鳥は給食の時、放火の事を私達に聞いたわけか。それってやっぱり社長が死んだら放火魔のせいに出来るかも知れないって考えたから?」
「うん」
「直接、社長に向かっていかないのは正しいと思うけど、それだと他の家族がいたら巻き添えを食っちゃうわけよね?その辺の事、雷鳥は考えている?」
「ちゃんと考えとるよ」
雷鳥は言ったが、きっとヒヨリが求めている考えとはまるっきり正反対だと思った。
ヒヨリは社長と無関係の人は巻き込んじゃ駄目!って言うに決まっている。
けどそれだと人影と同じアーティストになれないじゃないか。
川の字殺人をするには確かに仲間が必要だ。僕1人で3人を殺害出来たとしても、殺害場所によってはベッドや布団の上へ3人を寝かし川の字の形に並べるのは相当な時間が必要だろうし一苦労だ。
だから無理を承知で2人に手伝いをお願いする為にこうして話をする場を設ける事を雷鳥自身が望んだのだ。
けどやはりヒヨリの言葉からは無関係の人を巻き込む事は望んでいないようだ。
雷鳥は咄嗟に手伝いをお願いするのは弓弦だけにしようと思った。
だからその話は今は黙っておく事にした。弓弦とならいつでも話は出来る。ヒヨリがいる所でする必要はない。
「ちょっと、雷鳥〜」
「何?」
「あんた、今、私だけハブにしようって考えたでしょ?」
「そんな事考えてないよ。最初から2人には話を聞いて貰うだけだったし、手伝いをお願いするつもりもないけん。ただどうやれば社長を上手く殺せるかの意見を2人から聞きたかったんよ」
「そう?私にはそうは見えなかったけど。ね?弓弦?そう思うよね?」
「雷鳥、悪ぃ。お前相変わらず嘘が下手っぴや。ヒヨリに言わなきゃいけんのに、その返事を言いながらワシを見てどうするつもりや。こう見えてもヒヨリだってアホやないで?」
「こう見えてもって……弓弦酷すぎ」
「あ、いや、大体、姫様ってんは物を知らんし世間知らずって言うやろ?けどヒヨリは違うで?って意味で言うたんや」
「弓弦め〜上手く逃げやがったな」
ヒヨリは弓弦に向かってファイティングポーズを取ってみせた。
「とにかく雷鳥、嘘はあかん」
「嘘をいうつもりはなかったんよ。ただヒヨリには悪いかなって思ったからつい……」
雷鳥は言うと、そんなのは話を聞いてから私が考える事なんだから、さっさと本心を話せ!とヒヨリは雷鳥に向かって怒った風を装った。
それがヒヨリなりの気遣いだとわかった雷鳥は今度こそ全てを、自分が考えている社長殺しの内容を話して聞かせた。




