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爆ぜる  作者: 変汁
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第十一章 ⑥③

この町では一体、どれほどの数の家が放火の被害に遭っているのだろう。


2時間目から始まった授業からずっと給食の時間が来るまで、雷鳥は思い出したかのようにその事を考えていた。


「ヒヨリ、今日の給食は3人で食べん?」


「お?雷鳥どないしたんや?ヒヨリを誘うなんて珍しいのう」


弓弦が言うとヒヨリは


「そうだね。初めてだよ。けどデートの誘いなら2人でって言うべきかな」


「いや、デートの誘いやないし」


「は?何、雷鳥、私をデートに誘いたくないわけ?」


「いや、そんなやなくてさ、ただ2人の意見を聞きたくて一緒に食べん?って言っただけなんよ」


「じゃあ、いつかは誘う時があるん?」


「あ、今、ヒヨリちょい方言混ざりよったで」


弓弦が嬉しそうに言った。席から立ちそさくさとヒヨリの前に回った。机を持ち上げ向きを変える。


「何しとんや雷鳥、お前も机こっちに向けんと3人で食べれんやろ」


弓弦の言葉に雷鳥は慌てて動き出した。

その間、ヒヨリは他の女子の所へ向かい、

「今日はあの2人がどうしてもって言うから、ごめんね?」と手を合わせ謝っていた。


その気持ちに嘘がないかは雷鳥達にはわからなかった。そもそも雷鳥達もたまにヒヨリが何考えているかわからなくなる事があった。


突然、姫と呼べとか、かと思えば雷鳥や弓弦を君付けで読んでみたりする。一回や二回だけなら冗談だとわかるのだけど、ヒヨリはその呼び方を数日間続けた。


いきなりそんな呼び方をし始めた理由を聞いてもヒヨリ自身、同級生なのだから君付けで呼ぶのが普通だよ?などといい、2人は開けた口が塞がらなかった。


「ヒヨリの奴、なんなんや。調子狂うわ」


ヒヨリと別れた後、弓弦はいい雷鳥も同意した。なのに翌朝、ヒヨリは雷鳥!弓弦!と呼び捨てでいい再び2人をあっけらかんとさせた。


何で急に又、と雷鳥が聞くとヒヨリは「何か?」とマジ顔で返した。


君付けで呼んでいたのはワザとか?と弓弦も続いたが、ヒヨリは「あんたら何?ウザいんだけど」と突き放すように返した。


弓弦と雷鳥は互いに目を合わせ首を傾げた後、

「どうでもええか」とヒヨリの自由奔放さに余計な事を考えないようにしようと言いあった。


だから女子に謝っていたのも、ヒヨリの本心なのか、ただそうしたかっただけなのか、それとも又別の考えがあっての事なのか、単に一緒に食べる約束をしていてそれが出来なくて謝ったのか、2人にはわかる筈もなかった。


いやそんな事すら今の2人は考えもしなかった。ヒヨリはヒヨリだ。


2人にとってはそれで、充分だった。


「朝言ってた話の前倒し?」


口の中に入れたパンをちゃんと咀嚼してからヒヨリは言った。


「違うよ」


「なら何や?」


「2人は知ってる?」


「やから雷鳥、何をや?」


「この町で起きた放火の件数」


「そんなんいちいち数えとらんで」


「だよね」


「そうよ。そがな事、ワシにわかるわけないやろ」


「12件。今年に入ってからね。だから約1年で12回放火された家がある。平均すれば月一のペースって感じ。でも一度、6月に2件放火の被害にあってるかな。その内、死人が出たのは……」


「ヒヨリ、ちょ、ちょ、ちょい待った!」


「何よ?雷鳥が知りたがってるから私が教えてるのに、弓弦、横から入って来て邪魔しないで」


「悪い。邪魔するつもりはないで。ただの」


「何よ」


「ヒヨリはこっちに転校して来てまだ半年くらいやろ?」


「秋からだから半年は経ってないかな」


「ならなして6月に放火が2件あったって知ってるんや?」


「調べたからに決まってんじゃん。この町ってやけに放火が多いなぁて気がしたから図書館に行って過去の新聞を読んで調べたの」


「で。その手帳に記入してたって事?」


雷鳥もヒヨリに対して驚きを隠せないでいた。


「そうだよ」


あっさり言った後直ぐに話を元に戻そうとヒヨリは口を開いた。


「それでさ。12件の内、人が死んだ放火は4件かな。新聞ではその4件とも家族構成が同じだったみたい」


「構成?」


「ちょっと弓弦、あんたまさか構成って言葉の意味がわかんない訳じゃないでしょうね?」


「あ、おう、まあ。少しわからん」


「ったくもう」


ヒヨリは言うが全く嫌味に聞こえなかった。


「家族構成ってのはさ。家族の成り立ちや内容の事。その他で言えば一つ屋根の下で一緒に暮らしている人間達。その人達を近親者って言ってさ。つまり弓弦の家族で言えばお父さんお母さんお爺ちゃんお婆ちゃん、そして弓弦を入れた5人の関係を近親者っていうの。近くにいる親やその者たちって書いて近親者。わかる?あ、いまいちか。ま、仕方ないか。私もネットで調べただけだから深く理解してるって胸張って言えないのが頭に来るけど、でもそういう人達か何人集まって出来ているか?って言うのが構成って意味。それを踏まえていうけど、死人が出た4件は全部家族構成が3人だった。おまけにその3人ってね。父母息子って構成なのね。年齢はまちまち。80代の父母と50代の息子とか、若い人もいたみたい。だから4件放火されて12人死んだって事になるの。これって不思議じゃない?月一ペースで放火されて、1年が経った。1年は12ヶ月よね。で、放火で死んだ人数は?はい。弓弦」


「12人」


「正解。放火魔はまるで1年12ヶ月と死ぬ数を合わせているように思えない?」


「確かにそうやな」


「何の為にそんな事をするんやろ」


「雷鳥君。良い所に目をつけましたね」


ヒヨリは手帳を、パチンと閉じて服の内ポケットにしまった。


「単なる偶然かも知れない。私はそうは思えないけど、多分、これはたまたまだと思う」


「ならなしてヒヨリはそう思えないんや」


「死んだ人全員が、1つのベッドか布団の上で川の字になったまま焼け死んでいたようなの。それも真ん中は息子でその息子の右手側が父親で左手側が母親だったらしい。おかしくない?放火されて火の海の家の中にいたのに、逃げようとしないで、仲良く3人並んで寝てたわけ?そんな馬鹿な事絶対にあり得ない。放火されたから、仕方なく3人並んで焼かれるのを待ってたって?そんな馬鹿な事はあり得ないよ。警察も一家心中の可能性もあると言ってたらしいけど、でも4件の家族共、心中するような理由が見つからなかったらしいよ。そうなると川の字で並んで死んでいた理由は1つしかないよね?ね?雷鳥」


「ん?あ、うん。そうだね」


「何雷鳥〜今の私の話聞いてた?」


「聞いてたよ」


「本当?なら答えてみてよ」


「いいよ」


雷鳥は一呼吸ついた。


「川の字に並んでいた理由は、放火される前に全員殺されてそんな風に寝かされたからや」


「すご〜い。雷鳥、私の話、ちゃんと聞いてたんだ?」


「やから聞いとるって言うたやん」


「ごめんごめん」


ヒヨリはいい、雷鳥の頭を撫でた。雷鳥は満更でもない表情を浮かべながらも、やめーやと頭を逸らした。


「んでさ。警察も連続猟奇放火殺人として捜査してるみたい」


「その4件については、そうやろうけど、他の8件はどうなんや?」


「新聞の記者によれば、死者が出なかった残り8件の放火はただの放火魔の仕業に見せる為に犯人が意図的に火をつけた可能性があるんじゃないかって書いてた。放火魔の本当の狙いは殺人であって放火じゃない。犯人に本当の狙いが警察にバレないようにする為に他の放火が行われたんじゃないかって。いわゆるフェイクね」


「つか、犯人アホやろ。みんな決まっ寝かせ方させとったらそんなんバレバレやろ」


「そう。弓弦の言うように、私もそこが引っかかるんだよね」


「バレたくないってのがそもそもの間違いなんやない?」


雷鳥が会話に入り込んだ。


「どういう事?」


「上手く言えないけど……」


ヒヨリが話し出してから直ぐに雷鳥の頭の中には人影が、浮かんでいた。


そして雷鳥が初めて見た火事は人影がやったものだ。

そう家から出る炎は美しさといったらなかった。


そしてその放火された家の人の名前は思い出せないけど、あの家も家族構成は3人だった。


そして当時の僕の家も今とは違って3人家族だった。

それはつまり人影はあの夜に僕の家にも放火する可能性があったという事だ。


これは面白いと雷鳥は思った。一方は焼け死に煤になりもう一方の僕は人影から炎の美しさを知り、ジッポライターをもらった。


いや違う。このライターは人影から受け継いだのだ。人影は僕が本物のアーティストになる事を期待してプレゼントしてくれた。


運が悪ければあの家と逆の立場になったかも知れないとは雷鳥は思わなかった。


100%あり得なかったと思った。しかしもしヒヨリの言う川の字放火殺人が人影の仕業だとしたら人影はどうしてそのような真似をするのだろうか。


そんな事は簡単だ。連続放火殺人の犯人が人影だとすれば、川の字に寝かせたのには、1つの理由しかない。


そうする理由は絶対に雷鳥にしかわからない筈だ。そのようにして放火する事が人影にとって何より美しいのだ。


人影にとっては究極の美の形がそれなんだろうなと雷鳥は思った。だから人影は幾つかある3人家族の内の1つを選別し、殺した後か先かわからないけど、とにかく人影は川の字に寝かせ放火するのだ。


雷鳥はこの話をヒヨリから聞いてより決心がついた。


今年中に全て片付ると決意したリサイクルショップの社長とその家族も、家族構成は3人だ。川の字殺人にぴったりの、3人家族だった。


雷鳥は話す度にヒートしていくヒヨリの言葉に頷きながら人影が社長家族を選別する前に、自分がやらなきゃと思った。


炎のアーティストの先輩として、師としての人影に、雷鳥の炎を見せなければならなかった。


いや見せたかった。受け継いだジッポライターを使用し、社長と木下そして母親の3人を川の字に並べ燃え尽きた煤の瓦礫の中から川の字姿で焼け死んだ3人の美しさを、何としても伝えたかった。


それが出来たら、ひょっとしたら再び僕の前に姿を現してくれるかも知れない。


雷鳥はあの夜、沸る炎に燃えゆく家をバックに、僕の前に現れた黒ずくめの人影の姿を思い出した。


それは優しく強く、そして圧倒的に偉大な存在だった。

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