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爆ぜる  作者: 変汁
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第十一章 ⑥②

翌週の月曜日、ホームルームの後、1時間目が自習となった。


何でも下級生の子の家が放火に遭い家が半分焼失したらしい。


幸いな事にいち早く火事に気づいた母親が下級生の子と父親を起こし、家から逃げ出したようだ。


「火事の事、弓弦は知ってた?」


「知らんかった」


「ヒヨリは?」


「知らない。朝のニュースでも報道してなかった気がする。まぁニュースをちゃんと見てた訳じゃないから、ひょっとしたらやってたかも知れないけど」


ホームルームが終わり自習時間に入ると直ぐに雷鳥がそう口火を切った。


当然、周りのクラスメイトの会話も自然と火事の話になっていた。


「また放火魔が出たんやろか?」


「放火かどうかまだわかっとらんのやないの?」


「けど、こんなに火事ばかりだと怖くて寝れんよ」


そのような会話が教室のあちこちから聞こえて来る。


雷鳥は、自分が社長の家に火をつけた翌日にも、こんな会話がされるのだろうか?と思った。


それは何だか嬉しいような楽しいような、自分では上手く説明出来ない気持ちが胸の中から湧き出して来る。


「何、ニヤけてんのよ?」


ヒヨリの言葉に、雷鳥は自分の気持ちがわかったと思った。


表情に出ていたという事は間違いなく僕は嬉しいと感じている。


放火は犯罪だとか、そういうのを取っ払った先にある何かは、きっと僕にとっては喜びなのだろう。


そりゃ当然だ。改めて自分の気持ちに気づくなんてアホ過ぎる。


まだ幼い頃のあの夜、人影に出会った日からこの気持ちが変わった事はなかったじゃないか。


だから枯葉を集め蟻を焼き殺したりしたんやないか。1人になってからはそれどころじゃ無くなって枯葉集めも行く回数は減っていたし、燃やす行為に触れるのは大体がヒヨリの手紙を焼く時くらいなものだった。


そんな雷鳥だったが、社長に騙され悔しくて腹立たしくてジッポライターのオイルを手に入れた。


そう思った時、雷鳥はあの夜の人影も怒っていたのだろうか?と思った。


思い返してみると人影からそんな印象は受けなかった。それに美しいものを見る時、見たい時、人は怒っているか?怒っていたとしてもその怒りはゆっくりと落ち着きを取り戻し、喜びに変わるんじゃないだろうか。


嬉しくて皆んなにそれを見てもらいたい、そんな気持ちがあの夜の人影にもあったんじゃないのか。


そうでないとあのような優しい声で話せる筈がない。

怒っていたら目撃した僕を襲うかそのまま逃げる筈だ。なのに人影はそうしなかった。


それは人影が喜びで満ち溢れていたからだ。

誰かに見せたい、見て欲しいという嬉しさから僕に近寄り、あのような言葉をかけジッポライターまでくれたのだ。


そうだ。きっとそうに違いない。

美しさの中には喜びが沢山詰まっているんだ。


雷鳥は、ヒヨリや弓弦が声をかけている事に気づかず、そのような事を考えていた。


「雷鳥、大丈夫?ご飯食べれてないの?」


「あ、ううん。昨日の夜も弓弦の家でご馳走になったから大丈夫。心配かけてごめん」


雷鳥は返すが頭の中では、ヒヨリに声をかけらる前に考えていた事を尚も続けていた。


「なら良いけどさ」


ヒヨリはちょっとつっけんどんな言い方をした。

多分、それは最近、自分がヒヨリや弓弦と一緒に帰らない事が原因しているのではないかと思われた。


だから雷鳥は


「久しぶりになるけど、今日学校終わったら一緒に帰らない?2人に話したい事もあるけん」


「ええで。ワシも2人に話があるけんな。丁度ええわ」


「私は特に2人に話があるわけじゃないけど、ヒヨリ姫、どうか私共にお付き合いくださいませって言うなら一緒に帰ってあげてもいいわよ?」


ヒヨリの言葉に弓弦は直ぐに雷鳥に話しかけた。


「昨日一緒に観たドラマの話やけどな」


そんなものは見ていないけど、これはワザとヒヨリの惚けた言葉を無視する為に弓弦が言って来た話だった。


直ぐにそうだと気づいた雷鳥も弓弦の話に乗る。ヒヨリの視線が痛かったが2人は適当な話で誤魔化そうとしていた。


「あんたら昨日のドラマ全然観て無いじゃん!話違い過ぎますけど!」


弓弦がやべえって顔をした。雷鳥はそれを見て笑い、ヒヨリに向かって「姫様、どうか私共にお付き合いくださいませ」


「分かればいいの。分かればさ」


嬉しそうなヒヨリの笑顔の前で、雷鳥は自分は間違えていたと思った。


僕は殺意を持っていた。持ち過ぎてもいたんだ。社長の家に火をつける前に気付けた事はラッキーだと思った。


もしこのまま社長の家に火をつけていたら、きっと失敗に終わっただろう。何故なら僕は怒りによって放火しようと考えていたからだ。


あの夜、僕は巨大な獣の咆哮のような炎を目の当たりにした時、何かに気づいていたのだ。


当時は小さくて意味がわからなかったけど、それはきっと僕の先祖が大昔に炎の偉大さを知り、記憶と共にその身体の中にあるDNAに刻み込まれたに違いない。


それが何代もの間、知らぬ間に受け継がれながら、あの夜の出来事によってよ僕は全ての世代間の記憶を一瞬にして思い出し、目覚めたに違いない。


目にした業火は根源的な力や神秘さを余りの凄さで僕の前に現れた。


あの時の僕の魂は一時的に太古に生きた先祖の魂と重なりあったのかも知れない。


そう思えるほどに、炎に酔いしれていた。

炎を見て感動してさえいた。


それは小野乃木家の子とし令和に生まれた僕に示した先祖達の願いとも言えた。


だから僕は炎に見惚れ、燃やす事が大好きになったのだろう。


そこには朽ちていく美しさもある事も、理解出来ないなりに感じていた筈だ。それを言葉にし、僕に教えてくれたのが人影だった。


僕は忘れていたのかも知れない。喜びこそが炎と会話出来るのだという事を。


雷鳥は今、その心を遠い昔から再び取り戻したようだった。


そんな雷鳥を見ながら、ヒヨリが首を傾げた。


「雷鳥あんた、私達と一緒に帰らない時、何か良い事があったんじゃないの?出なきゃそんなキモい笑顔なんて人に向かって作れないよ?」


それを聞いて弓弦は笑った。

釣られて雷鳥も笑い、


「ヒヨリ、幾ら何でもそれは言い過ぎやろ」


と返した。


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