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爆ぜる  作者: 変汁
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第十一章 ⑥①

僕には時間があった。夜中までフラついていようが、僕を叱る人は1人もいなかった。誰に咎められる事もなかった。


だから学校が終わって帰宅した後は好きな事が出来た。リサイクルショップに物を売ったお金で水道代金だけ支払った。


お金がないからご飯を買えない僕には空腹を満たすには水が絶対に必要だった。


ガスや電気もなるべく早く復帰させたかったけど、お金に余裕がないから無理だった。


家の電話も止められたからお父さんに連絡するには公衆電話を使わなくてはならなかった。


公衆電話は山の麓の近くの金具屋店の店先の横に寂しそうに設置されてあった。けどかける為にはお金が必要で僕は夜中にあちこち徘徊しては自動販売機のお釣り受けやその下を懐中電灯で照らしお金を探した。


たまに500円玉が落ちているのを見つけると僕は世界で1番幸せな小学生かのように、その500円玉を大事に握りしめた。


そしてコンビニに行きパンとおにぎりとジュースを買った。


レジ横にあるプラケースの募金箱を何度も盗みたくなった。けど、それを持って走り出した途端、店員に捕らえられるイメージしかわかなかった。


盗ったと同時に出口に向かったその時、自動ドアが閉まっていたら?と、手間取る自分の姿しか思い浮かばなかった。


だから募金箱に伸ばしかけた手を止めて商品だけ受け取って店を出た。


募金箱の中には一万円札や五千円札が入っている事もあった。世の中には募金にそんな大金を出すお金持ちがいるんやなぁと思った。きっと自己満足やと皮肉めいた気持ちになったりもした。


あれだけのお金があれば……と何百回も考えた。

けど、僕は取らなかった。


何故ならこのお金は悪いお金じゃないからだ。取るなら悪いお金しかない。


この頃には僕は既にお金を盗むならリサイクルショップからだと決めていた。


そうは言っても簡単に盗めるものじゃないから、稀に募金箱を目にしたら手が伸びそうになるのだった。


その度にあの社長の顔を思い出した。僕は憎しみを込めながら買ったばかりのおにぎりやパンに貪りついた。


弓弦も僕を気遣って頻繁に夕食に誘ってくれた。弓弦のおばさんもお婆ちゃんも毎晩食べに来ればええと言ってくれた。けど出来る限り、断った。


お父さんが帰って来るからとか、これからお母さんに会いに行かなきゃだからと嘘をついた。


でもそんな嘘は僕の衣服の臭さや身体を見れば、嘘だという事くらい簡単に見抜かれていた筈だ。


でも弓弦やヒヨリは僕の嘘について何も言って来なかった。多分、そう、多分だけど、あの2人は僕の目を見て勘づいていたのかも知れない。


憎しみの炎がメラメラと燃えている僕の目に気づき、僕が誘いを断るのも、こうしてギリギリで生きているのはリサイクルショップの社長を殺したいと願っている為だと、2人は知っていたのだと思う。


その社長の家は思ったより簡単に見つけられた。

社長には僕と同じ小学生の息子がいて学校も学年も一緒だった。顔にも見覚えがあった。


社長の自宅を調べる為に、店の近くで見張り初めて、数日が過ぎた時だった。


そいつがたまたまリサイクルショップ内に入って行き、しばらくして社長とにこやかに話しながら出てくるのを見た。


耳をそば立て会話に集中した。パパと呼ぶそいつの言葉からこいつが社長の息子だと気づいた。


だから僕は社長をつけるのではなく、そいつが帰宅する後をつける事にした。


あっさりと目的地である社長の自宅はわかった。町の中心部からは随分と離れていて、とても静かな場所に社長の家はあった。


近所とも充分過ぎるくらい距離が離れていたし、家自体もかなり大きなものだった。


駐車場も広く、横並びに5台は置けそうな程、幅が広がった。


そんな大きな家の玄関へと続くまでの正面フェンスの石壁に木下という表札が飾られてあるのを見て、僕の中の小さな歯車がカチリと音を立てハマった。


木下康太。学年で人気者のグループの1人だ。確か冴木という男子と、ヒヨリが転校して来た当初、頻繁にうちのクラスに顔を出していた金木というのもそいつの仲間だった。


その冴木と弓弦が2人、河原で話していたのを目撃したけど、あの日から数週間経った今も、弓弦から冴木の話は聞かない。


2人きりで、それも草むらの中から出て来た事を思うとただ仲良くなっただけとは思えなかった。


何故かというと、いつだったか忘れたけど、その場所でアイツらのグループが何かしていたのを見た事があったからだ。もっと確かめたいと思い、見ようとしたのを弓弦に止められたのを覚えている。


その場所で2人きりでいたというのはやっぱり変だった。まだ僕やヒヨリに話せない、もしくは話したくない秘密が弓弦にあるという事だ。


弓弦のそういう態度にどうにも納得がいかなかった。そう思うのはきっと僕が寂しかったからに違いない。


リサイクルショップの社長を殺す計画も2人には黙っていたくせに、弓弦に対してそんな気持ちを抱くのは卑怯だし自分勝手だと思った。


でも、2人を人殺しに巻き込みたくはなかった。だから家を調べたりしている事も言わなかった。


でも弓弦の場合は多分、僕がやろうとしている事とは違い、僕やヒヨリを巻き込んだとしても大した事はない筈だった。


どう2人が知り合ったのかわからないけど、どうせ冴木がアイツらから虐められたとかで弓弦に悩みの相談した程度のものに違いない。


で、何処で虐められたんや?という弓弦の問いに、あの日見た時のように2人は河原に行き、その場所を弓弦に教えたのだろう。


自分勝手だとわかっていたけど、僕やヒヨリの知らない所でそういう事があったなら少しは話して欲しかった。


確かに今の僕は社長を殺す事しか考えられなかったし社長の自宅を探し出す為、毎日、学校が終わると家に戻って自転車でリサイクルショップの付近まで通っていた。


そんな僕の言動を見て話すのは難しいと弓弦は思ったのかも知れない。確かに弓弦ならそう思う。


怒りから周りが見えていなかった僕を、弓弦は冷静に観察していたのだろう。


けど、自宅がわかった今、僕の心にも随分と余裕が出来た。


だから久しぶりに3人で帰り、ヒヨリが手紙を燃やしたいと言えば付き合ってあげようと思った。


その日は案外と早く訪れた。社長の自宅、つまり木下の家にどうやって火をつけたら良いか朝から考えていた。


ただ火をつけるだけじゃ、簡単に消される可能性がある。それにそれだけでは美しくない。


人影さんをガッカリさせたくなかった。だから美しく出来ないのならこのジッポライターは使いたくなかった。


けど、あの夜、目の当たりにした炎の美しさや壮大さを思うとやっぱりジッポライターを使うべきだと考えた。それなら尚のこと良く計画を練らなければならないと思った。


美しくするには社長を、木下を、木下のお母さんをも手にかけなければならないのかと思った。


けど、やから何や?という声が僕の中で言った。

うん。そうやな。そうや。やから何や?

悪いのは社長や。木下は仲間を虐めとる。お母さんはそんな2人に優しくしとる。つまり手をかけても何も問題ないちゅう事や。


とすれば火をつけた後、先ずは社長を家から逃げられないようにしないといけない。


真っ先に僕がつけた火に気づくのが何も社長だと決まった訳じゃないけど、代わりに木下やお母さんという事だってあり得る。


そうなれば自然と社長は叩き起こされ家から逃げ出してしまう事も考えられた。


当然、近所の人が見つける事もある。ただ良かった事は隣の家とは随分と距離があるという事だった。


これなら近所の人が火に気づくのはかなり難しいんやないか?と思った。


やるのは深夜だし、きっと寝ているに決まっている。可能性を少し除外出来そうだと思った僕は少しだけ決行する勇気を、その自信を、更に強い怒りを取り戻せそうだった。


僕を騙したように汚いやり方で沢山のお金を稼いだのだろう、社長の家の駐車場には3台の車があったし、その内、2台は僕でも知っているような高級車だった。


その時、高級車の後ろに金属製の棚がある事に気がついた。周りを見渡し、木下に気づかれないよう足音に気をつける。棚には工具などが乱雑に置かれてあった。


その1番下に、赤いポリタンクが2つ置かれてある。

蓋を開けて嗅いでみると灯油のようだった。


普通、灯油とかって車の側に置くものではない事くらい雷鳥でも知っている事だ。


なのに社長は平気で置いている。まだ駐車場にシャッターがあり、自分のように勝手に入り込んで車を傷付けたり出来ないような工夫が施されているなら、ここに置くのもまだ理解出来ない事もなかった。


おまけに防犯カメラもないのだから、不用心過ぎると雷鳥は感じた。


都会ならこんな風な事はしないのではないだろうか。その瞬間、雷鳥の表情は久しく見られなかった笑顔が浮かんだ。


このポリタンクの中の灯油を使えば、外周はわけないやないか。


なら家の中はどうすればええ?雷鳥は息を潜め、尚且つ車の陰に隠れながら思案していた。


良い案が浮かばなかった為、雷鳥さとりあえず今日は帰ろうと思った矢先、棚の先で物音がした。


素早く車の下に潜り込んだ雷鳥は、音と狭い視界のみで、何が起きているのか考えた。


色白で細い小さな足が目の前を通過した。その足はポリタンクの前で止まり、何やらし始めた。


鼻につく灯油の匂いは雷鳥の昂っている気持ちを僅かに和らげた。この一連の動きでわかった事は今、木下が灯油を入れに出て来たと考えられた。


つまり直ぐ側には家の中から出入り出来るドアがあると言う事だ。駐車場に出てくる為のドアだから当然、中から鍵はかけられるのだろう。


もしそうでなければお金とかその他もろもろ盗み放題になる。そんなアホな家はないだろう。


けど、家に入るにはそこのドアから入るのが1番だと雷鳥は思った。


最初にそこから侵入し、灯油を撒いて火をつける。その後でそのドアから出て、ドアの前に物を置いて、逃げ出し難くする。


そして、車や家の周りにも撒き火をつけ逃げる。これなら全員逃げられないのではないかと雷鳥は考えた。


火をつけてやると思ったはいいが、想像以上に難易度が高すぎるような気がした。


鍵はどうやってあけるんや?壊すんか?物音で絶対気づかれるやろ。段々、自分の考えは上手く行かない気がして嫌気がさしてきた。


それに放火魔として捕まる覚悟があるなら良いけど、雷鳥にそんな覚悟なんてなかった。


絶対に嫌だった。代わりに人影のように捕まる事なく、完璧にやり遂げてみせたかった。


それが出来れば人影もきっと褒めてくれる筈だし、もしかしたら再び僕に会いに来てくれるかも知れない。


そう思うと早く自分の手で美しい物を作り出したかった。その分だけ余計に気が逸った。


何処かで決行は冬休みだと考えていた自分がいたけど、その日まで自分の気持ちを抑え続ける自信がなかった。


だから今年中にやると決めた。起きている間はずっとリサイクルショップの社長を、ううん。木下一家を焼き殺す事だけ考えるようにしよう。


その中には当日、越えなければならない問題も含まれていた。


最近、雷鳥の近所でもそれまではなかった事が行われ始めた。それは町内会の役員の人達が集い火の用と言いながら町を見回りする事だった。


立て続けに放火が起きている事を思えば、当然だ。寧ろ遅すぎなくらいだ。近々に放火魔の仲間入りするだろう僕としては、この辺りのそのような人達にも気をつけなければならない。


雷鳥は木下が家に入るのを音で確かめてから、車の下から這い出て来た。服の汚れなどどうでも良かった。風呂にもしばらくの間、入れていなかったし、汚れが気になる筈もなかった。


雷鳥は神経を研ぎ澄まし人に見られないよう気をつけた。そして離れた場所に停めてある自転車へと駆けていった。

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