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爆ぜる  作者: 変汁
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第十章 ⑤⑨


目が覚めると全てが闇に包まれていた。弓弦はしばしの間、緩やかな呼吸を繰り返した。


その呼吸音と体内へ入り込んで来る空気によって「あぁ、ワシは死んじょらんのか」と思った。


余りに深い闇のせいで最初は自分が何処にいるのかもわからなかった。次第に目が慣れてくると微かだが、周囲の物のシルエットが確認出来た。


あちこち窪んだ襖に弛んだカーテン、カビ臭いと埃っぽさが鼻をつく。


ゆっくりと身体を起こすと僅かに淡い光が目に入った。その光は襖の小さな穴から入り込んでいる。


弓弦は身体にかけてあった布団を剥ぎ、頭の中を整理した。


冴木に連れられ廃屋に来て、凄惨な虐めの場所を目撃し、切られた2つの乳首が壁の絵にピン留めされていた。


その絵は人形で、下手くそだけどモデルは冴木だった。


冴木の身体の一部を切り取り、クローンを作るという冗談めいた事が確か書かれていた。


その後、冴木から話を聞き、余りにも壮絶過ぎて怒りが沸いたが、冷静にその事について弓弦は断った筈だ。


耳鳴りが激しかったが、このように生きているという事は外に出て火をつけた事が上手くいったようだ。


しかしその後の記憶が全くなかった。室内で寝ていたという事は自分は外に出た後で意識を失ったのかも知れない。そんな自分を冴木が廃屋の中へ運び……


そこまで考えた時、静かに襖が開いた。


冴木が割れた小皿を持って部屋に入って来た。

小皿の上には小さな蝋燭が立っている。さっき見た光はどうやらこの蝋燭の炎だったらしい。


「血脇君、具合はどう?」


「普通や。特に辛いとかはないけん心配いらん」


「なら良かった」


「何が良かったんや」


「死んだかと思ったけん」


「勝手に死なすなや」


「だってさ」


冴木は蝋燭の乗った小皿を畳の上に置いた。

畳自体が湾曲しているのか、妙に斜めに傾いていた。


「いきなり別人のように豹変したけぇ。恐ろしかったよ。おまけに表情や身体が人間ぽくないし、なのに血脇君は悠人を殺すのを手伝ってくれるいうたけぇ嬉しかったんやけど、それよりなにより血脇君が外でぶっ倒れるし、その周りには火がついちょったから、慌てて踏んで消したんよ。その後でどうしてええかわからんからとりあえず家の中まで運び込んでから、救急車とか呼ぼうかと思うだけど、それしたらここに出入りしとる事が近所の人達にバレるから血脇君には悪いけど、しばらく様子見てからにしようと思ったんや」


「ワシが約束したやって?」


「うん」


冴木はいい、自分のスマホを取り出した。

それを操作するとスマホから聞いた事のないザラザラとした少ししゃがれた声で重信悠人の殺害を手伝うとその声は確かに言っていた。



自分じゃないと言い張ろうとしたが、どう考えてもこの場所にいたのは冴木と自分だけだから、言い訳のしようがなかった。


けど何故自分はこんか声をしていたのか、弓弦にはピンと来なかった。


ただ、だからといって許可なしに隠れて録音していい訳じゃない。その事について弓弦は文句を言った。


「ごめん。けど悠人を殺す事についての話だから、手伝う、手伝わないに関係なく返答の証拠が欲しかったんよ」


まぁそうやろなと弓弦は思った。自分はスマホを持ってないが、立場が逆なら同じ事をしただろう。


「なら、今更断れんな。約束は約束やし」


そう言えたのも、殺す事には手を貸さないとハッキリとそう録音されていたからだ。


「ありがとう」


「で、いつやるんや」


「それは僕に任せて欲しい。決行日が決まり次第、伝えるから」


「どうやってや?ワシはスマホないで」


弓弦がいうと冴木は


「大丈夫。方法は幾らでもあるけん」


その後、2人は廃屋を後にした。


弓弦は冴木の指示で隠していた自転車を取りに行く為、その場で別れる事にした。


「胸、痛むか?」


「まだ少しね」


「そうなんやな。切られた乳首はあるんやから、病院に行けば縫いつけてくれるんやないか?」


「それしたら、他の痣や切り傷も医者に見つかるやない」


「あ、確かにそうやな。ならそれは出来んな。お前に虐めを言う気持ちがあるなら、こうなる前に誰かに話したやろうし……まさか冴木、お前ひょっとして最初から、誰かを殺すつもりで虐められ続けたんと違うか?」


「そんなアホな事、誰がするんよ。最初から殺す気でおるんならもうとっくに殺しちょるよ」


「そうよなぁ」


「虐められる前の時のように元通りにならんかなってずっと考えとった。いつか僕の気持ちに気づいて虐めをやめてくれるかも知れんって思いよった。やから今日まで我慢しちょったら、これやろ?」


冴木はいい、自分の両胸を指差した。外は既に暗く月明かりが鮮やかに全てを照らしている。


「それはもう虐めの限度をこえちょるわ。限度って言い方は変やけど、アイツらはやり過ぎや。刑事事件になってもおかしゅうないで」


「そうだよね。僕も身体の上に跨りハサミを持った悠人を見ても脅すだけかと思ったんや。けど違ってハサミを真横にして広げた刃を軽く閉じて乳首に当てた時、悠人はね。こう言ったんや。


『お前の事は幼稚園の頃からずっと嫌いやったわ。ワシが大人しいのをいい事に何でもかんでも偉そうに指示しよってな。いつも自分は正しいみたいな口調でそれも自信満々でワシら皆んなを従えようとしよってから。思い出しただけで向っ腹が立つわ。ワシはな。皆んなもそうやろうけど、お前に嫌な思いをさせられた事は1度も忘れた事はないで。やからお前は知らんやろうが、ワシら皆んなお前がおらん所でいつか全員でお前をリンチしちゃろうって話おうとったんや。いつからかわかるか?小1からやで』悠人はそう言ってバカ笑いしてさ。

その後、皆んなも笑い出してキッチンテーブルの上で裸にされたまま手足を縛られてた僕に向かって唾を吐きかけたんよ。そんな事されても僕はアホやから、僕の何処がいけんかったのか、悪かったなら謝るけん、今まで通り、仲良くしてやって言ったんよ。したら悠人がさ。謝ることなんかないで。今まで通り、こうやって仲良くしとるやないかって言うて、僕の頬を打ったんや。するとさ。宗太郎が、あ、古里宗太郎が、悠人に何しよんな!って怒ってさ。そん時、僕は宗太郎が助けてくれるって思ったんよ。けどそれは間違いやった。つくづく僕はアホな奴や」


「どう間違いやっんか?」


弓弦が尋ねると冴木は言葉を続けた。


「宗太郎はな、打つんやったら、こうやって打たんな駄目やろ?て、別に悠人は僕を打った時、手加減してたわけやないんやけど、宗太郎からしてみれば、弱く感じたんやろうな。その言葉を聞いた悠人は宗太郎に、ならどうやれっちゅうんやと苛ついた口調で言いよった。悠人はさ。口数が少ない大人しい奴やった。けど、僕を虐め始めてから別人のように変わったんよ。こうなる前は宗太郎や金木に口答えするような事はしよらんかったけど、それがどういう訳か、最近は言い争いをしたりするんよ。自分がしたいように出来んと、宗太郎や金木でも手がつけられんくらいこん部屋ん中で暴れてから色々と壊しよった。そういう経緯があったからかわからんけど、宗太郎は僕の頬を本気で打ったんや。余りの強さに多分、数秒間、は意識がなかったと思う。それを僕の上で馬乗りになって見ていた悠人が、そん程度しか出来んのか?ってニヤニヤした顔で宗太郎を見てな、そん後、悠人がその程度で威張られちゃワシもやっとられんでって言って手にしていたハサミを再び乳首に当てて、お前らよう見とけや、これくらいはせんとつまんらんやろがって言うて直ぐに僕の胸に激痛が走ったんや。同時に血が吹き出して、宗太郎の腹部を汚したんよ。それと同時に僕は自分の切られた乳首が袋から取り出そうとしたグミを取り損ねた時のように、僕の目の前でプチンっと跳ね、脇に当たって又跳ねて、床へ落ちて転がっていったんや。それを見た宗太郎が斬られた乳首を摘んで取り、親指と人差し指で持ちながらそこでコロコロと回していてね。


その間、僕の胸からは一瞬、噴水のように血が噴き上げたかと思うとその後、直ぐに激しく痛み始めた。まるで虫歯に冷たい水が当たった時のような痛みでな、2つ目の乳首がチョキンと切られたんや。人形の絵はその後で悠人が思いついてさ。栗林蓮に悠人が命令して模造紙を買って来させたんや。その間、悠人は一旦僕の身体から降りると自分のランドセルからエッチな本を取り出して来て、宗太郎と金木の2人に、エッチな本を広げて見せながら、悠人はこれやってやるわと自慢げに言うてな。そしたら金木が今の時代にエロ本か?動画見せたれやってちゃちゃ入れたんやけど、悠人はエッチな本の良さがわからんのは猿と同じやいうて笑ってから、又、僕の上に乗るとな。エッチな本の1ページを見せてな。守親、お前は今からこの女の役や。でワシが男の役や。このエロ本の写真と同じ事をワシにせえって言い出してズボンとパンツを脱いでチンチンを僕の口に押し込んで来たんよ。エッチな本ににはちょっとしたセリフが書いてあったみたいで、悠人はそれを真似始めた。

もっと必死に舐めんかい!ってな感じでさ。僕は訳もわからず悠人のチンチンを舐めさせられた。するとさ。悠人が射精してそれが喉の奥に飛んで吐きそうになった僕は思わず悠人のチンチンを噛んでしもうたんや。したら悠人はそれまでは禁止されていた顔へのパンチを金木に止められるまでやり続けた。悠人はそんな力がある方やないからパンチはそんな痛くなかったんやけど、それよりも吐き気が止まらんで、僕は顔を横に向けて胃の中にあるもんを全部吐き出したんや。とうせ、後片付けもやらされた。裸のまま、自分のゲロを犬のように舐めさせられたんよ。それがキツいし、血も止まらん。逃げ出す事め出来ん。毎日こんな事が続くんかと思ったら、全員が憎くなってな。そん時や。殺しちゃるって思ったんは」


冴木はいい、


「今話した事が血脇君と会うまでにここで起きた事なんよ」


と続けた。


「今の話聞いた後で、こんな事いうんは変やけど、まぁ、出来るんやったら、先生か親に話すんが1番やろうな。それか転校するとかもありやで。やけどワシが冴木やったら同じ気持ちになるわ」


弓弦は言った後で、そん時は声かけてなぁと

まるで同級生を殺す事は悪い事ではないみたいな軽い口調でいい、自転車に跨ると冴木に手を振るでもバイバイも言わず、闇の静けさに紛れるように冴木から遠ざかって行った。

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