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爆ぜる  作者: 変汁
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第十章 ⑤⑥

ヒヨリを送り届け雷鳥と別れた後、そのまま畑へと向かった。


てっきりお爺ちゃんはいるものだと思っていたが、声をあげながら探してみたが、何処にも姿はなかった。


その時、偶然通りかかった人が、キョロキョロしている弓弦に声をかけて来た。


「血脇さんとこのお孫さんやないか」


弓弦は声のした方を振り返った。もう12月を過ぎたというのにその人は薄汚れた白いシャツ1枚に首にタオルをかけている。


弛んだ下腹を掻きながらこちらの反応を伺っているようだった。作業用ズボンは泥だらけで後ろに荷台をつけた小型バイクのステップに乗せた長靴には渇いた泥が付着していた。


「おじちゃん、爺ちゃん見んかった?」


「ん〜今日は朝からこっち来とったが見とらんなぁ」


「そうなん?わかった。ありがとう」


畑に出かけるのは爺ちゃんの日課だ。台風直撃の時や大荒れの天気の日以外は欠かさず畑へ出掛けている。


そんな爺ちゃんが来てないとすると、何かあったのかも知れない。


弓弦は名前も知らないおじちゃんが小型バイクで去ったのを見届けた後、停めてある自転車の所まで駆けて行った。


自宅に戻ると相変わらずの庭の草むしりをしている婆ちゃんに出会した。


「毎日草むしりするほど、庭に草は生えとらんよ」そう言いたくなるのを堪えて弓弦は爺ちゃんの事を尋ねた。


「朝から具合が悪いいうてな。病院に行っとる。なんや2、3日入院するいうとった」


まるで他人事のようにいう婆ちゃんに弓弦は少しばかり呆れてしまった。


その後、お母ちゃんから爺ちゃんの入院した病院を聞き出し、弓弦は再び自転車に乗ってそちらへと向かって行った。


ここら辺で入院するとなると1つしかない。


わざわざどこの病院かなんて聞くまでもなかったが、最近、クリニックという名前の医院も出来始めていて、そこでも1日2日の入院が出来るという話を前にお母ちゃんが電話で話しているのを聞いた事があったから念の為に聞いたのだけど、やはり弓弦が思い浮かべた病院に爺ちゃんは入院しているらしかった。


病院の受付で名前を告げ、病室の番号を尋ねた。

爺ちゃんが入院している部屋は3階の真ん中の病室らしい。


「血脇さん以外の人も沢山、入院なさっとるけん、僕、騒いじゃあかんよ?」


「わかっちょるって」


爺ちゃんはいわゆる大部屋と呼ばれる入院しているらしい。


「後、廊下は走ったらあかんよ?」


受付の看護師はそう言った。一体、僕を幾つの子供だと思ってるんや。。もう小5や。廊下を走ったらいけない事くらいわかっちょるわ。


弓弦はそんな事を思いながら、病室へ向かった。

爺ちゃんが入院している部屋に入ると、

爺ちゃん以外の患者は全員がカーテンを閉じていた。


見舞い客も弓弦1人だった。まるで、皆んなみの虫みたいやと弓弦は思った。


そんな中、病室の1番奥の窓際に爺ちゃんが横になっていた。冬の昼間の陽射しが入り込み、ベッドで横たわる爺ちゃんを照らしている。とても暖かそうだった。


静かに歩きながらベッドの側まで来ると爺ちゃんは軽いイビキをかいて眠っていた。


窓ガラスを通じて差し込む陽射しは本当暖かく、自分もここで昼寝したいと弓弦に思わせる程だった。


せっかく来たのだけど、寝ている所を起こすのも気が引けた弓弦は「また来るけんな」と囁き、入って来た時と同じように静かに病室を後にした。


どうして入院する羽目になったのか、爺ちゃんの口から聞くつもりでいたが、病院って患者に病名を教える事は先ずない事を、弓弦はテレビドラマを見て知っていた。


だから、看護師などに聞いても子供の自分に教えてくれる筈もなく、だから親に聞くのが1番だと弓弦は思った。


1階に降りて受付の横を通りかかった時、さっきの受付の人に声をかけられた。


「お爺ちゃんに会えた?」


「うん」


「なのにもう帰るん?」


「爺ちゃん、気持ち良さげに寝ちょったから、起こすの悪いけん帰るんよ」


「あら。せっかく来たのにそりゃ寂しいなぁ」


「そうやけど、爺ちゃんは直ぐ退院するって婆ちゃんが言いよったから、話せんでも平気や」


「それは良かったね。けど時間あればお見舞い来てあげてな。すぐ退院するにしても、ひとりやと寂しいやろうし」


「うん。わかった」


弓弦は受付の方を見て軽くお辞儀をした。

そして駐輪場へ行き自分の自転車を取り出して家へと向かった。


冴木守親と出会ったのはその帰り道だった。

声をかけて来たのは冴木守親の方で、その時、弓弦は丁度信号待ちをしている時だった。


いきなり背後から肩を叩かれ振り向いたらそこに冴木守親が立っていたのだ。冴木の顔を見た瞬間、弓弦はタイミングが良すぎると感じた。


と同時に何故か待ち伏せされていたように感じた。そう感じた事に、根拠もなければちゃんとした理由はなかった。が、冴木の妙に明るい笑みが嘘くさかったからそのように感じたのかも知れない。


そもそも自分らは全く仲良くもないし、友達でもない。確かに冴木守親が仲間から虐められていたのを目撃した。


その事で1度だけ、それもほんの少し言葉を交わした程度だ。その程度の相手に自分ならこうも馴れ馴れしく肩を叩いたり、笑みを浮かべるような事はしない。


警戒してるわけではないが、冴木守親にしたら、自分に出会えて嬉しいなんてあり得ない。


何故なら弓弦は冴木守親の秘密、つまり学校内では仲良いグループのリーダー的な存在にありながら裏では実はそのグループの全員から裸にされ皆から蹴られるような虐めを受けている。


それを知っている自分なのに、どうして近寄ろうとするのだろうか。弓弦にはその辺りが理解出来なかった。


虐めに遭っている事をチクられない為の、その口止めにこうして現れたのだろうか。だとしたら、ワシは黙っていると言ってやる。こいつらの事など、どうなろうと構わないからだ。


「元気?」


突然声をかけて来ていきなり元気?やと?

会話の始まりとしては凄く違和感があった。


あ、血脇君、こんにちは。偶然だね、何してるの?とかが普通なような気がした。


「チャリ乗っとるんやから、元気やろ」


「そうやね。元気やなかったらチャリ乗られんし」


冴木は弓弦にこんな所で何しとるんや?と聞いて貰いたい顔をしているように感じた。


「お前んち、この辺なんか?」


弓弦はそれに近い言葉を返した。


「近くはないけど」


「ど?」


「わかるやろ?」


「何がや?」


「家にいたら、呼び出されるんや」


冴木の言葉で弓弦は理解した。他のメンバーに見つからない為に家から逃げて来たのだろう。


「断ればええやろ」


「家の両親、あいつらの事、信用してるんや」


信号が青になり、佑月は自転車のペダルに足を乗せた。


「虐められとるって話せばええだけや。それは何も恥ずかしい事やない。虐める奴が悪いんや。それせんといつまでも虐められ続けるで。ま。そういう事やから」


弓弦が行こうとするのを冴木が腕を掴んで止めた。


「何や」


その顔はさっき見た笑顔とうって変わり、今にも泣き出しそうな程、崩れかけていた。


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