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爆ぜる  作者: 変汁
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第九章 ⑤③

あの後、雷鳥が落ち着きを取り戻すまで、2人は黙って見ているしかなかった。こんな時、下手に止めに入ると返って熱くなるものだ。だから2人は雷鳥が拳を痛め殴りつかれるまで、一切、止めようとしなかった。


痩せ細った雷鳥の両腕から繰り出される拳は、2人の目にはきっと弱々しく映ったに違いない。それも黙ってみていた要因の1つかも知れなかった。


今の雷鳥なら小学生低学年の子供でも余裕で勝てそうだ。それほどまでに雷鳥は痩せ細っていた。


その痩せ方は見窄らしく、まるでまもなく病院のベッドの上で息絶えようとしている高齢の老人のようだった。死期を悟ってもなお、死と向き合おうとせずに今すぐ助けろと周りへ怒鳴り散らし、暴れればその可能性があると言わんばかりの、わがままなみっともない老人のようだった。


雷鳥は尚も一丁前に怒りの声は張り上げてはいるが、それも体力の無さから途切れ途切れになって来ていた。


肩で息をするというような言葉を聞いた事があるが、雷鳥は更にその上を行くような、全身で不安定な呼吸を繰り返していた。自分の周りにある酸素は異常に薄いと言わんばかりに、雷鳥は過呼吸気味に口を開き続けた。身体の中へと酸素を取り込もうと躍起になっているようだった。


「僕はアホや」


ハァハァと息をしながら雷鳥は掠れた声で、そう囁いた。


「そうや。雷鳥はアホや」


間髪入れずに弓弦が答えた。雷鳥は床を見つめたままコクリと頷いた。


「けど、雷鳥がアホってわかっとって、こんな事する奴はもっとアホや」


「アホやないでしょ?こんな事言いたくないし、あの顔と声を思い出したら腹立たしくて仕方ないけど、でもあいつは寧ろアホというよりは頭がキレるんじゃない?普通、相手が子供だったら多少遠慮がちになると思う。だって雷鳥の両親立ち会いの下で買取りした訳じゃないんだしさ。それに雷鳥の話だと下駄箱の上に置いておいた公共料金未払いの紙を見てたって言うじゃない?そんな家の子供なら誰だって公共料金が支払えるくらいは高く買い取ってやろうと考えない?私なら考えるよ。けどあいつはそんな家の子供にさえ容赦なかった。もし、あいつの側に地獄に落ちかけた人がいて助けを求めて来たらあいつは助ける振りをして、絶対に蹴り落とすタイプだよ。

だって雷鳥が良い例じゃない?」


「ワシもそう思う。けどワシのいうアホちゅうのは、今さっき起きた事に対しての意味やない。

口コミサイトで評判が悪うても、あいつはリサイクルショップの社長や。きっとこれまでにも雷鳥にした事のような真似をあちこちでぎょうさんして来たんやろな。そういう意味では頭がキレるんかも知れん。でもやからってこのまま許してええわけやない。ワシが言いたいのはの。アイツはワシら3人を怒らせたちゅう事や。そういう意味でアホなんや」


「私らを怒らせた?はぁ?弓弦何言ってんの?私らを怒らせたらアイツがどうにかなるっての?馬鹿じゃない!なるわけないじゃん!ならないよ!そりゃ私だってアイツを許せないし頭にきてるよ。でもさ。私達まだ小学生だよ?そんな子供の私達に何が出来るっていうの?」


「そりゃあ、まぁ、今は思いつかんけん。やけど、その内、きっと、」


「ほら、弓弦だってどうして良いかわからないじゃん。その内って言ったけど、雷鳥の家電一式や家具なんかを取り戻すつもりなら、絶対やめといた方がいい。私らにはあんな大人に勝てっこないから!」


「なら弁護士に頼めばええやろ」


「あのさ、弓弦、弁護士にお願いするのもお金がかかるの。それにもし弁護士に今回の事を話したとしても両親連れて来なさい、話はそれだけだって言われるのがオチだって。それにさ。雷鳥の話からしたら雷鳥の両親に今回の事を話しても戻って来てくれなさそうだし、それに売った物を取り戻すには買取り金額の何倍というお金をアイツに払わなきゃならないんだよ?おまけにその品物だって私達自ら持って帰らなきゃいけないの。そんなの絶対無理」


「無理無理いうなや」


弓弦が悔しそうな顔でヒヨリを見た。


「ひょっとしてかもだけど、弓弦、まさか自分の親に雷鳥を助けて欲しいってお願いする訳じゃないよね?」


「そんなん、するに決まっとるわ。弁護士にも金がかかる。アイツらから物を買い戻すのにも金がかかる。その金はワシらには絶対用意できん額や。なら親に頼むしかないやろ」


「雷鳥と弓弦の家族がどんだけ仲良いか私は知らないけど、雷鳥の為に弓弦のお父さんが数万円もの手数料を払って一式買い戻してくれると思える?」


「お、おう。父ちゃん達なら何とかしてくれる筈や」


「理由は?」


「雷鳥や雷鳥の親とは昔から仲良かったからや」


「それだけ?」


「それだけ?ヒヨリ、お前何言うとるんや。助ける事に仲良い以外必要あるんか?」


「あるわよ」


ヒヨリは言い


「変に雷鳥に希望を持たせちゃダメだよ。こうなったのはそもそも雷鳥の両親がいけないんだし、だから雷鳥の両親がお金を払ってくれるとは私は思わないけど、でもお金が必要なら雷鳥が自分で親に頼むしかないじゃん。弓弦が弓弦のお父さんにお願いする事じゃない」


「ヒヨリ、お前冷たい奴やな」


「冷たい?かも知れないね。けど、お金の問題は仲良しな友達だろうと、関わっちゃダメ。本人が何とかするか、その家族に助けて貰った方が絶対に良いんだって」


「……やけどこのままじゃ、雷鳥の奴が……」


「弓弦の言いたい事はわかるよ。実際、雷鳥は生活苦だし、それを乗り越えるにはお金が必要だし、このままじゃいずれここには雷鳥1人じゃ住めなくなるかも知れない。詳しい事は私にもわかんないけど、私達に出来る事は雷鳥の両親がいなくなったって事を他の誰かに知られないことだよ。口を閉じて何も言わない。その間に両親のどちらかが戻って来たら、ラッキーだしそれが叶わないなら、雷鳥がろくに食事も出来ない悪環境の中で生きていると知られた時点で、朱音ちゃんと同じように施設に入れられてしまうかも知れないと思う」


「弓弦、ヒヨリ、ありがとうな。そんな一生懸命に僕の事を考えてくれて。本当嬉しい」


雷鳥は涙を流しながら2人に向かってそう言った。


「弓弦、隠しててごめん。今度からお腹が空いたらちゃんと話すけん」


「当たり前や」


「ヒヨリ、黙っててごめん。僕もヒヨリの言う通りやと思う。やからパパに電話してお金の事、あ、アイツらに取られた物を取り返すお金やなくて、生きていくお金の事を相談する。電話も止められとるから、公衆電話からかけんといけんのが面倒やけど、でもそれくらいどうって事ないけん」


雷鳥はいいゆっくりとした動作で起き上がった。


「2人とも心配かけてすまんかったね。僕、今からパパに電話してくるわ」


「雷鳥、その前に、家で飯食うてけ。卵かけご飯くらいしかないかもやけど、でも腹一杯食うてええから。電話はその後やで」


「うん、わかった」


「なら私も卵かけご飯食べる。良いよね?」


「あぁ。ええよ」


「ご飯食べたら、雷鳥は電話。私はチャリでにけつして、弓弦に家まで送ってもらう」


「これやから、ヒヨリ、最初からチャリで行こういうたんや」


「今日は2ケツしたい気分だったんだから、仕方無いじゃん」


言ってヒヨリが笑うとさっきまで重たかった空気が、軽くなって行くのが雷鳥にはわかった。そのおかげか、息もし易く感じられた。3人は家を出て、雷鳥は自転車に乗り、弓弦は自転車の後ろにヒヨリを乗せて、押しながら自分の家へと向かって行った。

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