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爆ぜる  作者: 変汁
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第一章 ④

「今日はありがとう」


5時間目の授業が終わると直ぐに蓬原ヒヨリは僕に向かってそう言った。


「明後日には全部用意できるらしいから、悪いけど後1日、教科書みせてね」


蓬原はそういうと、良いとも嫌だとも言う前に、既に仲良くなったらしい女子と一緒に掃除をする支度を始めた。


僕は血脇と女子2名、岸田と梅原が先立って教室から出て行くのを見て3人を追う形で教室を後にした。


今日の掃除箇所は理科室だった。理科室は校舎の3階にある。


体育館とは反対側に位置していて、音楽室や美術室、職員室もそちら側にある。


血脇は1人階段を上がって行く。岸田と梅原の女子2人は韓流ガールズグループのニュージーンズの推しの話をしながら、振り付けを真似ていた。


「ミンジ可愛すぎて死ぬ」


「ハナのが可愛いけん」


そんな会話を耳にしながら3階までゆっくりと上って行った。


理科室に入るとツンと鼻をつくような臭いが教室中に充満していた。5時間目の授業で何らかの実験でもやっていたのかも知れない。


血脇はそさくさとと掃除用具箱から箒を取り出し、1人床を掃き掃除を始めた。


そんな姿を見た岸田と梅原が、


「血脇、臭くないの?」とハモるようにいい、窓へと近寄り、レースのカーテンをサッと引くと全ての窓を全開にした。


僕はそんな2人から離れ、掃除用具箱から箒を取り出した。血脇とは離れた場所、つまり理解室の入り口付近へと向かおうとした。


自分は前からで、血脇が後ろからと言う具合に掃き掃除をしようと思った。だがそれを女子2人が非難した。


「男子は拭き掃除してよ」


「雑巾臭いから嫌や。あんなもん触りたくないけん」


「男子が嫌な事は、女子はもっと嫌なんだけど」


岸田と梅原が血脇を非難するような目でみていた。けど血脇はその視線を一切無視して掃き掃除に集中している。その姿をみた女子2人の視線は自ずと僕に向かった。


「そんなんやと、一生モテないから」


岸田がいい、梅原が同意を示す頷きをする。


「わかったよ。やるよ」


僕は仕方なくそういい、箒を黒板に立てかけ、バケツと雑巾を取りに再び掃除用具箱の方へと向かった。


大きな机と机の間を抜けていく。そんな僕を血脇がチラッと見た。


目が合うと、血脇は僕を見ながら溜め息をついた。女子の言う事なんか聞くなよ。血脇は批難の眼差しを僕に向けていた。


掃除用具の側の棚には実験で使われるビーカーやフラスコ、アルコールランプ、解剖器具などがしまわれてある。


鍵もしっかりとかかり持ち出されないよう、注意書きの紙も貼られてあった。


アンモニア、エタノール、硫黄、塩化ナトリウム等と記載のある薬品などは1番高い場所に置かれてあった。


それを取り出すには壁の角に立てかけてある鎖で二重に施錠された大きな脚立を使わなければ取る事は出来ない。


けど鍵を外さなくても棚に立てかければ、登るが出来る。薬品がしまわれてある場所へは簡単に手が届く筈だ。


確かに脚立自体大きくて重いけど、引きずれば移動させるくらい何とかなりそうだ。


だがそこまでして薬品等を欲しがる人がいるとは雷鳥には思えなかった。


上段の棚にしまわれているのは、生徒達が悪戯をしないようにとの判断からの、その置き場所なのだろうけど、盗る気があれば、丸椅子に上り、ガラスを割って箒でも使えば、簡単に出来そうな気がした。


僕はバケツと掃除用具箱の中に干されてある雑巾を手に取った。


実験専用の机に付いている水道を使い、バケツに水を入れ雑巾を濡らして絞り、机の上を拭いて行く。


その間、女子の2人はお喋りをしながら、床を掃いていた。血脇は黙々と掃き続け、女子2人の側まで来ると、まるで足下にゲロでも見つけたかのように大袈裟にその前を迂回した。


そんな血脇の行為に苛ついたのか、女子2人は動かしていた手を止め、血脇の首筋を睨みつけた。


その目には、まるで呪いをかけるかのように増悪が込められていた。


そんなものは効かないよと言いたげに血脇は1人勝手に掃除を続けている。半分程、終えると塵取りでゴミを拾い、ゴミ箱に捨てた。箒と塵取りを元に戻すと、


「俺の分は終わったけんな。残りはお前ら3人の分や」


血脇はいい、勝手に理科室を出て行った。


「何、あいつ」


岸田が言った。


「小野乃木、あんた血脇と仲良いんやろ?」


「仲が良いっていうか、幼馴染なだけや」


「けど給食一緒に食べてるやない」


「まぁ、それはそうやけど……」


「血脇も小野乃木も友達がいないんやから、いないもん同士仲良くしてんやない?」


梅原が岸田に向かってそう言った。


「大体、最後に使ったクラスの連中が掃除すれば良いだけやん。何で私らがわざわざここまで来て掃除せんといかんのよ」


「ほんまね」


梅原が言うと岸田はやってらんないわと言い、梅原の手にした箒を奪い、掃除用具箱へ片付けた。


黒板上の時計をみると、掃除の終わり時間まで、まだ、10分以上残っていた。


なのに2人は血脇と同様、理科室から出て行った。


呆れた僕は手にした雑巾と、皆が出て行った理科室の入り口とを交互に眺め、再び机を拭き始めた。


6個ある大きな机を拭き掃除し終えるとバケツと雑巾を洗って掃除用具の中へと片付けた。


一息付くと、開け放たれた窓から冷たい風が入り込んで来た。冬の到来を告げるような冷たさに、僕は秋も終わりかも知れないと思った。


女子が開けた窓を全て閉めレースのカーテンを閉じる。


理科室の電気を消して出ようとした時、教壇の床の隅に何かが見えた気がした。近寄り屈んで、それに向かって手を伸ばした。


100円ライターだった。雷鳥はそのライターを着火させた。ボォーという音と共に炎が上がった。


同時に、耳裏が熱くなった。鼓動が早くなり高鳴った。雷鳥は、数度、着火させてから辺りを見渡した。そしてライターをポケットに押し込んだ。理科室でライターを拾ったのはこれで2回目だ。まるで僕に拾わせる為に、わざと落としているように思えてならなかった。


けどそんな事はどうだっていい。ジッポライターのオイルを手に入れられない今は、何よりの拾い物だった。


これでライターは2つになった。雷鳥は無意識に周囲を見渡し、拾ったライターを素早くポケットの中へと押し込んだ。


前に理科室で拾ったライターが1使えなくなったらどうしようと思っていた矢先だったから、これは本当にラッキーな事だった。そして、落ちているライターを拾ったのが女史2人でもなく、血脇でもなく自分だった事に雷鳥はある確信を得た。


それは黒い人影の人が言ったように、やっぱり僕は炎のアーティストになるべき存在なのだという事だった。


雷鳥はポケットの中へ手を突っ込み静かに理科室から出て行った。



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