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爆ぜる  作者: 変汁
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第七章 ③⑧

校門を出た所で、宗太郎達が待ち構えていた。

校舎裏から帰る事も考えたが、他の生徒や先生に見つかりでもしたら、何の言い訳も出来ないと守親は考えそれは却下した。


保健室での一件以来、日毎に自分に対するアイツらの虐めが酷くなって来始めていた。


このような虐めがこの先どこまで続くのかわからないけど、このまま黙って虐められるのが良い事ではないのは守親にもわかっていた。


早いとこ自分に変わる誰かを用意するか、もしくは再びこのグループ内での立場の確立を得るか、この虐めから手っ取り早く逃れる方法はその2つしかないように思えた。


だが、現実は夢のように甘くなくその2つの考えは明らかに子供じみていて、自分でも救いようがないと思えるものだった。


それだけ自分は追い詰められているんかと守親は我ながら悲しくなった。


最早どうする事も出来ない現実にまともに向き合う事も出来ない程、守親の心は傷ついていた。


そしてその傷を塞ぐように守親の中で憎悪が膨れ上がっていった。


自分と隼人の関係以外、アイツ等とは平等だった。けれど平等だった筈のものが何かのきっかけを境に崩れ始めると、2度と元通りには出来ないようだ。


それは自分達の仲間との関係性を見ても明らかだった。まるでその関係性は建造物と同じだと守親は思った。


長い間、強固にみえた建造物も年月を経て行くとあちこち傷み出し劣化していく。


劣化した箇所を修復しても、その劣化は細菌のようにあちこちへと広がりをみせていく。


最終的には建造物自体を壊してしまう方が良いとなり、粉々に粉砕され、更地になった新たな建造物へと生まれ変わる。


それは人間同士の関係性とも同じで、以前のようにあのグループの中で再び自分がリーダー的存在になるのは不可能というわけだ。


リーダーになれずともせめて悠人や蓮のような立場にまでは……とそこまで考えた守親だったが、その考えは余りに馬鹿馬鹿しくまだあのグループに固執し、かつ第2の隼人のような存在を見つけてやろう考える自分は底知れぬアホだと思った。


そんなのは劣化した建造物と同じで僅かな修復は出来たとしても、前のような関係に戻るなど到底不可能なのだ。


今更、気がつくなんて愚かすぎると守親は思った。自分がそうだったように一度でも虐めという暴力の魅力に取り憑かれたら最後、止める事など出来る訳がない。


隼人に対しての守親がそうだったように、暇さえあれば虐め、殴りたい衝動に駆られるのだ。


殴る箇所が無くなると道具を使いたくなる。これは更なる痛みに苦しみ悶える奴の新たな表情を引き出し、それを眺めたいという欲求が腹の中から沸々と膨れ上がり抑えらなくなる。


心が一段、ステップアップするのだ。そこには相手が可哀想などと言った感情は全く芽生えやしない。


そんな気持ちが自分にあるとさへ信じられない。ただただ暴力を振るう自分に怯え萎縮する相手の姿を見るのが楽しくてたまらないだけなのだ。


だからこの先、宗太郎達が自分を虐めなくなったとしても、それは一時的なものに過ぎず、誰に咎められようと直ぐにやり出すに決まっていた。虐めには暴力という中毒性が含まれている事を守親は知っているからだ。


だから自分はこのグループにいる限り、虐められ続けるという訳だ。それが守親の未来にどのような影響を及ぼすのか、守親には何となくわかっていた。


わかっているからこそ、つまり虐める側にいたからこそ、宗太郎達と縁を切らない限り未来に渡りこの格差は続いていく事が痛いほどわかっていた。


守親は、今の自分の未来は夜明け前より暗いんやなと思った。ならば自分が取るべき行動は1つしかなかった。


その1つに虐めに遭っている事を大人に話し助けてもらうという最善策は全く含まれていなかった。

何故なら、隼人も大人には話さなかったからだ。


大人に話しても解決などしない。より怒りを買うだけだ。子供は大人の目の届かない場所や時間をわきまえている。自分もそうだった。


隼人が宗太郎に話さなければ、自分が隼人を虐めていた事は隼人の両親もグループ内の誰一人も気づいていなかったのだから。


ならどうするべきか。それは宗太郎達に対抗出来る新たなグループを作り、宗太郎達が自分に手を出せないようにするのが1番理想的だと思った。


だけどこれは無理だった。自慢じゃないが、5年生の中で自分達のグループに逆らったり刃向かうような奴はいないからだ。


虐めもしない人気者のグループである宗太郎達にどうして逆らう必要がある?どこにもありはしなかった。


つまり対抗出来るグループを作るのは不可能というわけだ。


そうなれば、やはり1つしかない。内心、宗太郎達をウザがっている奴を探し出しそしてそいつに仲間になってもらう。


けどそんな奴がいたとして、自分と仲間になってもらっても、宗太郎達に逆らうだろうか。ウザいだけでは駄目なんやと守親は思った。


ならせめて共犯になってもらう手もあるにはあった。自分が酷い目に遭っている事を遠回しにバラしてもらうとか。余り良い考えではないけど、仲間以外の人間からの密告なら、宗太郎達も自分を虐める事を多少はやりづらくなるのではないか。


自分と宗太郎達が一緒に帰るだけで、今から虐められるんか?と他者に思わせる事も出来るだろうし、そうなれば、毎日のように集団で待ち伏せされる事も無くなるかも知れない。


それが出来れば、多少は自分の逃げ場が作れる筈だ。けど問題は宗太郎達の事をウザがっている、嫌っている奴をどうやって見つけるかだった。


守親は河原に生えた背の高い雑草の中で身体を丸め痛みに耐えながらそんな事を考えていた。痛みを柔らげるには別の事を考えるのが1番いい。それは毎日のように殴られ続けて来てわかった事だった。


痛みと向き合ったりしたら、より苦しくなる。そうわかっていても、痛い事には変わりなかった。


だからだろうか。堪え続ける守親を見て宗太郎が蓮に向かって「土を食わせてみ?」と言った。蓮は体育の時間、守親がズル休みした時の怨みがあったのか嬉々として守親に土を食わせ続けた。


吐くたびに新たな土を守親の口の中へ押し込んだ。その途中、蓮に向かって止めろと宗太郎が声をかけた。


「悠人、お前、今、しょんべん出るか?」


「出るで」


悠人は即座に宗太郎の考えを悟ったようだった。両腕で頭と顔を庇っている守親には、その2人のニヤけ顔が容易に想像出来た。


別の事を考えろ。こいつ等が死ぬ事を考えろ。守親はただひたすらに、自分を虐める奴等が死ぬ所を考え続けた。呪詛のように死ね死ねと心の中で唱え続けた。


「守親の奴、土が好物なんて流石にヒクで」


ケタケタ笑いながら真弘が言った。


「口の中、汚いからうがいさせてやれや」


宗太郎が続いた。悠人が「わかっちょる」と返してしょんべんの入ったペットボトルの口を無理矢理、守親の口へ押し込んだ。


瞬時にアンモニアの臭いが鼻をつき、ペットボトルの中身が悠人のしょんべんだという事がわかった。口の中に流されてくるしょんべんを飲まないように我慢していたが、真弘に腹を蹴られ、息を吐いた。


口の端から多少のしょんべんが吐き出されるが息継ぎの時に思わず悠人のしょんべんを飲んでしまった。


酸っぱいものが腹の底から這い上がりしょんべんと嘔吐物が混ざりより気持ち悪くなった。


それを吐こうと守親は暴れたが、悠人と蓮が2人かがりでペットボトルを押さえ続けた。


その間も真弘は守親の脇腹を踏み付け続け、守親はペットボトルに入れられた悠人のしょんべんと口の中に残っていた細かな土の全てを飲み込む羽目に遭った。


ペットボトルの中身が無くなったのを見た蓮が悠人からペットボトル奪ってそれを守親の口から引き抜いた。同時に守親は地面へ向けて大量に嘔吐した。


「勿体ないやろが」


その言葉の次に真弘からの蹴りが腹部を襲った。


ここまでやったのに、まだコイツらはが満足していなかった。こういうものは自分が隼人に対しそうだったように、よりエスカレートして行くのだ。


もっと苦しむ所を見たい、それが何よりのご褒美だった。この気持ちを知る守親には虐める側の気持ちが手に取るようにわかった。


これがコイツらの本性だ。自分とさして変わらないクズだ。


そんな奴等を同じ目に遭わすにはどうすればいいんやと守親は目から涙を流しながらそのように思った。


どう考えても自分と結託してコイツらと敵対してくれる奴が同じ5年生にいるとは思えない。


現実、コイツ等が過去に他の生徒を虐めた事なんて1度もなかった。


そんな学年で人気者のコイツらは、今は宗太郎の下、癖になる程までに自分に対して非情で容赦がなかった。


殴る場所、蹴る場所、突き刺す場所などは絶対に下着や衣服で隠れる場所に限られていた。


それは守親の親が守親の裸を見ない限り、虐めに遭っていると言う事がバレない場所ばかりだった。


当然、散々廃屋で殴られた日の夜は親に話そうかと思った。そんな風に考えた事は何度もあった。


でも言えなかったのはアイツ等からの報復が怖かったからだ。けど、それ以上に昔からの仲間という意識が強かったせいもある。


今ではあの夜の事は宗太郎にはバレてはいるが、宗太郎の事だ。その事は他の奴等には話していないと守親は睨んだ。言っていたなら金木や悠人が隼人の件を持ち出さない筈がないからだ。


つまり宗太郎は何か考えがあってあの日の夜の事は誰にも話していないのだ。


その理由が何であれ、今は出来る限り早くこの状況から切り抜けなければならなかった。


仲良いグループでリーダー的、いやリーダーだった自分が今、最悪な状況へと突き落とされてしまっている。


けど宗太郎が隼人の事を皆んなに隠している理由がわかれば又、このグループ内で自分のを発揮できるかも知れない。……だが無理な事くらい馬鹿でもわかった。

こうなったのも自業自得と言えばそうかも知れない。


けど、隼人が宗太郎にチクりさえしなければ……自分がこんな目に遭う事はなかった。


隼人のせいだ。隼人さえ黙っていれば……もし今も隼人が生きていたら、これ以上の苦しみを与えてやるのにと守親は思った。だがそれは無理な話だった。


だから守親は放火で焼き殺される以前、隼人が宗太郎に何を話したのかが気になった。


宗太郎がコイツらを煽りここまでする理由がその話にはある筈だ。でなければ納得がいかないと守親は思った。


髪の毛を鷲掴みにされ無理矢理引きずり起こされた守親は服を手渡され、着るように命令された。それに従っている時、ふと視界の隅に人影らしきものが見えた気がした。


雑草の隙間から土手の方を見ると、ランドセルを背負った男子2人と女子1人が何やら話ながら土手を上っていた。


その内の男子1人が足を止めこちらに視線を向けていた。それを止めさせようと別の男子が上るようランドセルを押した。


押しながらこちらを見下ろす視線は刺々しいものだった。こんな視線は以前にも見た事があると守親は思った。


あぁ。隼人だ。散々、殴った後であんな風に睨みつけて来たわ。守親はその視線の主の顔を目に焼き付けた。


自分がコイツらにされていた事を心底、軽蔑しているような、そんな強い視線を送る男子の顔を忘れるわけにはいかなかった。


アイツなら手を貸してくれるかも知れない。そう感じた守親は思わず頬が緩んだ。その瞬間、


「何笑っとんじゃ」


と蓮の拳が守親の鼻面を襲った。


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