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爆ぜる  作者: 変汁
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第七章 ③⑥

落ち葉と一緒にハサミ虫が焼け焦げ身体が丸くなると、今は弓弦の耳鳴りも完全に治ったようだった。


まだ僅かに煙を上げる落ち葉の燃え滓と共に弓弦はハサミ虫を踏み付けすり潰した。


ハサミ虫を殺した事に何の感情も沸かなかった。


耳鳴りのせいで自分を見失い、錯乱し大切な家族や友達を傷つけ不安にさせるくらいなら、どんな生き物が犠牲になっても何とも思わない。


この先、この耳鳴りが続くとしても弓弦の気持ちは変わらないだろう。そのように思っていた。


ただ自分に見つけられた生き物は不運だとは思う。

けれど今回で言えばそれはハサミ虫の運命でしかなあか。自分に見つかりライターで焼かれ死にかけたたその命を完全に断つ為に炎によって燃やされる、それがハサミ虫の運命に過ぎなかっただけだ。


だからハサミ虫に対してどんな感情も抱くはずがなかった。


何かあるとするならば、耳鳴りが治ってホッとしたという、ただそれだけに過ぎなかった。


それでも弓弦の中には自分の為に犠牲になったハサミ虫に対し情けという感情がまだ残っていたのか、起き上がった身体を再び、その場でしゃがみ込ませた。


素手で地面に穴を掘り、そこにハサミ虫を埋めてやろうと思ったのだ。


浅いと蟻に食われると考え少しだけ深く掘り進めていった。


柔らかい地面を掘り進めて行く内に、白い固形のものにぶち当たった。


それを掘り出す為に重点的にその周りを掘った。

割れた茶碗の欠片?と弓弦は掘り返した白い固形物を手に取り、ついた土を払った。


白いものを手の平に乗せ、改めてよく見ると、それは人間の歯が3本程残った欠けた顎の骨のようだった。


弓弦は咄嗟に辺りを見渡した。人気はなかった。


視線も感じない。心臓が鼓動を早めた。弓弦はその歯のついた顎の骨を握りしめた。


そしてハサミ虫を埋める事も忘れ、草むらを掻き分け手摺りを乗り越え山の上側にある公園へと向かって走り出した。


あの公園には管理事務所と、確かトイレもあった筈だ。


早くこいつを洗ってじっくりと眺めてみたい。

地面に埋まっていたという事は、昔、誰かしらが人を殺し埋めたに違いない。


ひょっとしたらあの付近を掘り返せば沢山の白骨が見つかるかも知れなかった。


骨自体に興味があったわけではなかった。ただ、残った3本の歯と顎の骨が、弓弦の好奇心をくすぐったに過ぎなかったのだ。


その白いものが弓弦の脳内を刺激し、今の弓弦の想像力を最大限に引き出した。


どういう経緯でこの骨の人物は殺され埋められたのだろうか。


いや、まだ殺されたとは限らない。大昔、この山には墓があったかも知れないじゃないか。


弓弦はそのような考えを思い浮かべ、一瞬、殺害され埋められた可能性を否定しようとした。


だが出来なかった。弓弦の中では確定していた。これは殺された人間の骨だと。


僅かな時間でそのように結論づけた。そうでなければ、たかが人骨だけでこうも気持ちが昂るわけがない。


心臓が高鳴ったのはこの骨の人物が私は人間で殺されて埋められたのだと骨が弓弦に訴えて来たに違いないからだ。


何一つ根拠のない確信を得た弓弦ははやる気持ちを抑えながら急いで公衆トイレへ駆け込んだ。


一旦、中へ入り再び外を覗きに出た。ベンチに2人、老人が座って楽しそうに話している以外、人の姿はなかった。


とって返し洗面所の蛇口を捻った。勢いよく出る冷たい水が弓弦の手の平の上の骨に当たり、飛沫を撒き散らした。


構わずに、そして歯が取れないよう慎重に弓弦は両手で骨を洗った。


歯と歯の隙間のこびりついた土は年月が経ちすぎたせいか指で洗ったくらいでは落ちなかった。これはタワシか歯ブラシを使わないと落ちそうにない。


弓弦は思い、濡れた骨を上着の裾で拭いた。


そしてポケットに入れ、何事もなかったかのように、トイレを後にした。


今来た山道を降りている途中、聞きなれた声が下の方から聞こえて来た。


雷鳥とヒヨリだ。弓弦は直ぐに手摺りをまたぎ2人が通り過ぎていくのを待った。


何も隠れる必要はないのだけど、今は2人に対しここにいる良い言い訳が思いつかなかった。


それにポケットには骨があるし、なるべく早く爺ちゃんを手伝いに行かないといけなかった。だから弓弦は身を隠したのだ。


息を潜め2人の姿をやり過ごしてから数分待った。


その後で山道を駆け降りた。この時は気づかなかったが、山道の入り口付近に乗って来た自転車を置きっぱなしだった。


雷鳥とヒヨリにそれが見つかっていたと知ったのは、翌日の事で、2人は弓弦に山の何処にいたのよ?と問いただされたのだ。


返事に困った弓弦は仕方なく、急な腹痛に見舞われ草むらの中で野糞をしていたと言った。


苦し紛れの言い訳だったが、ヒヨリは爆笑し、雷鳥は災難だったねと言った。


それから事ある事にヒヨリは弓弦に対し、ウンコ大丈夫?この辺なら野糞出来るよ?と周囲に何もない見晴らしの良い場所に限り、そのように弓弦を弄った。


弄られる事に腹が立たなかったのは、きっと雷鳥の存在があったからだろう。


ヒヨリの弄りに直ぐに反応し、「こんな場所でうんこなんかしたら丸見えや。僕やったら、パンツの中に漏らすわ」


と、これまたヒヨリに弄られそうな事を雷鳥は言った。


「ヒヨリならどうすんや?」


弓弦が問うとヒヨリは


「私は乙女だからうんこなんかしないし」


と顎を上向きにし、誇り高き貴族の姫のように雷鳥と弓弦を見下すような冷たい視線を投げかけた。


2人は何が貴族やと、ヒヨリを揶揄った。

ヒヨリのその仕草が2人には演技だとわかっていたからだ。


とにもかくにも、骨の事は2人にバレずに済んだ。でもこの興奮は自分1人では抱えきれない程、大きなものだと弓弦にはわかっていた。


だからいつか、そう、いつか耳鳴りの事と同様に人骨の事も話したい、弓弦はそのように考えながら、未だうんこな弓弦と揶揄うヒヨリに、


「ワシのうんこはフローラルな香りがするんや。今度嗅がせてやるわ。あ、何なら朝、うんこしたから、パンツにうん筋ついてるかもや。嗅がせてやるわ」


とその場でズボンを脱ごうとした。ヒヨリが馬鹿、アホと弓弦の頭を叩き、小走りで数メートル先へ走り出した。


「ヒヨリ、嗅がんでええんか?」


「いらねーよ」


こちらに振り返りヒヨリがいう。後ろ歩きしながら


「本当、弓弦は下品だわ」


「うんこうんこいうヒヨリに言われたかないわ」


「うんこなんて可愛いもんよ。女子同士はもっと下品な会話したりするからね」


「堀籠朱音ともそんな話するの?」


2人の戯れの中に雷鳥が入って来た。


「最近、良く話とるよね?」


「そうね。下品な話はしないかな。主にファションシや心霊現象の事かな」


「ヒヨリ、心霊とか好きなんやな?意外や」


と雷鳥が言った。


「好きっていうかさ。堀籠さんが勝手に本を見せたり、そんな話をし出すから私はただ聞いてるだけ」


「そうなんやな」



雷鳥が返す。いつしか2人はヒヨリのいる場所まで着くと、今までと変わらぬヒヨリを中心とした3人並列で河原へと向かって歩いて行った。


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