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爆ぜる  作者: 変汁
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第一章 ②

蓬原ヒヨリ(よもぎはらひより)が僕のクラスに転校して来た時、誰もがその特徴的な瞳の大きさに息を飲んだ。


おかっぱ頭にしているせいか、瞳の大きさだけがより強調されしまっているようだった。


少し甲高い声で自己紹介をし終えた蓬原ヒヨリは、先生の指示に従い僕の隣の空席となっている席へと座った。


この席は3ヶ月前、親の転勤に伴って東京へ引っ越した柏木雫(かしわぎしずく)という女子が使っていた席だ。


当時の僕は隣に柏木雫がいるというのが嫌だった。

何か嫌な事を言われたりされた訳ではなかったのだけど生理的に好きになれない苦手なタイプだった。

物事をハッキリいうタイプで自ら学級委員に立候補するそんな生徒だった。


反面、その性格が災いしてか、友達はさほど多くなかった。唯一、仲良くしていたのも堀籠朱音(ほりかごあかね)くらいなものだった。


柏木はよく堀籠の席に行き、授業でわからなかった所を教わったりしていた。


そんな堀籠はクラスで1番勉強が出来る女子だけど、あの授業参観の父親乱入事件には驚かされた。


それがきっかけで堀籠は今、施設へ入っているという噂だった。噂と言っても、実際、見知らぬ車で送り迎えされてる所を目撃されている時点で、それはもはや噂の範疇を越えたものだった。


当の堀籠朱音は、勉強は出来たがちょっと変わった趣味を持っていた。いわゆる、学校の怪談とか怖い話が大好きなのだ。それが理由なのかわからないけど、よく1人席に座って何かを読んではニヤニヤしていたりした。


そんな堀籠を大半のクラスメイトは気味悪がっていた。けれど、嫌われてイジメられるという事はなかった。


勉強が出来たのがその理由の1つで、もう1つは小学生のモデルとしてスカウトされたとの、新たな噂が持ち上がっていたからだ。


本当、この堀籠朱音という女子は噂が絶えない生徒だった。施設では下級生を虐めているという話も、別のクラスの男子が話していたというのを耳にした。その程度の噂ではあったけれど、施設に引き取られたという噂が殆ど確定している事を思えば、やっぱり堀籠朱音に対する噂は全て本当の事だろう。


そんな堀籠朱音は今日は体調が悪いという事で休んでいた。


蓬原ヒヨリは空席になっている堀籠朱音の席をチラリと見た後で、僕の隣の席まで進んで来た。席に座るとこちらを見ず、


「よろしく」


と言った。僕は慌てて蓬原の方を見て、よろしくと返した。


けど、その時には既に蓬原は真っ直ぐ教壇の方を見ながら先生の話を聞いていた。


朝礼が終わり、1時間目の授業が始まるまで、

蓬原の側には複数の女子生徒が集まり色々と尋ねていた。


そこに隣のクラスのお調子者の金木真弘(かねきまさひろ)が現れ、


「転校生って女子?可愛のか?」


と金木の仲間である木下康太(きのしたこうた)に尋ねていた。木下は面倒くさいと言わんばかりの表情を浮かべながらも、こちらに向かって指差した。  


「転校生は女子の塊の所にいるよ。可愛かどうかは自分で見てみて確かめれば?」


「おう、わかった」


金木は言い、並んだ机を避けながら僕の席の方へと向かって来た。


「ごめんよー」


金木は輪になっている女子の一団の間に割って入ると席に座っている蓬原ヒヨリの真正面に立った。


蓬原は座ったまま金木を見上げ、「何か用?」とつっけんどんに言い放った。


「お前、可愛いけど、目がデカいな。金魚みてえ」


「は?私が金魚?何言ってんの?」


「俺、金魚好きだから、お前の事も好きになれると思うわ」


金木はいい、自分の名前をいい、蓬原へ手を差し出した。


「隣のクラスだけど、よろしくな」


「私、隣のクラスの人には興味ないから」


蓬原が言うと、周りにいた女子達が一斉に囃し立てた。


「金木、フラれてんじゃん」


「あんた、部外者なんだから早く出て行きなよ」


「うちのクラスに来ないでくれる?」


等と女子から散々な言われようの金木は、


「うっせーよ。転校生にはまだ俺の良さがわかっていないだけや」


そう言って差し出していた手を引っ込めた。


「とにかく、可愛い事だけわかればええけんな」


金木はいい、木下に「またな」と言って僕の教室から出て行った。


1時間目が始まると、いきなり先生が僕に転校生に教科書を見せるように言った。


蓬原は僕の返事を待たずに机を動かし僕の机にくっつけた。勝手に教科書を掴み自分にも見えるような位置に置く。そんな蓬原を唖然として見ていると、蓬原は教科書から顔を上げ、


「何?」


と聞いて来た。


「あ、いや、別に……」


蓬原は溜め息をつき、再び教科書へと目を移した。


ひょっとして、しばらくの間、こうして蓬原と一緒に教科書を見ないといけないのだろうか。


そう思うと、凄く嫌な気持ちになった。このような気持ちを前にも感じた事があった。しばらく考え、それが柏木雫に対して感じたものと、一緒だと僕は気がついた。


柏木が転校してホッとしていた所に、今度は蓬原だなんて。全くツイて無さすぎて、笑えて来る。


よりにもよって、どうして僕なんだ?僕が嫌だなと感じる人が、何故か僕の横の席に座ったりする。ウンザリしてると、蓬原はいきなり手を上げた。


「先生!」


「ん?蓬原どうした?」


「この子、さっきからずっと笑ってて気持ち悪いんですけど」


「小野乃木、お前、何ヘラヘラしてるんや?」


先生に言われ僕はハッとした。笑えて来ると思ったが、実際に自分が笑っているとは思わなかった。


「す、すいません」


席を立ち、先生に向かって頭を下げた。クラス全員の視線が自分に向けられているのがわかった。


その視線は針先のように僕の皮膚をチクチクと刺して来る。その微かな痛みを縫って全身が火照った。急に訪れた恥ずかしさによって自分の顔が真っ赤に染まって行くのがわかった。


僕はクラス全員から向けられた視線に耐えきれなくなり、直ぐに席についた。


それからしばらくの間、僕は恥ずかしさと、蓬原に気持ち悪いと言われた事によるショックで足が震えていた。


そんな僕の気持ちなどどこ吹く風で蓬原は僕の教科書に目を落としていた。


中断された授業が再開されても、僕はまださっきの事を引きずっていた。


一部の女子や男子から、陰で気持ち悪いと言われている事は知っている。だからそんなには気にはならなかったけど、転校して来たばかりの女子に言われたのは、さすがにショックだった。


自分の思った事を直ぐに口に出す、そんな所も柏木雫と似ていて、やはり蓬原は苦手なタイプの女子のようだ。


こういう時の対処法として、僕は必ずある事を思い出すようにしている。


それを思い出すと緩やかだけど、今、感じている僕の感情を鎮める事が出来るのだ。恥ずかしいという気持ちは徐々に僕の中から薄れて行った。


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