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爆ぜる  作者: 変汁
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第六章 ②⑦

身体のあちこちについた煤を落とす為、守親は久しぶりに湯船にお湯を溜める事にした。


お湯を入れている間、手と顔だけでもと思いハンドソープで洗ってみたが、どうしてか煤は落ちてくれなかった。


煤は顔にもついている為、黒く汚れたまま落ちないようでは外出する事も無理そうだ。


サバゲーをやった帰りだと装えば、それも平気かも知れない。


「参ったな」


守親は1人愚痴りながら湯船にお湯が溜まるのを待った。


その場で着ていた服を脱ぎ裸のまま湯船の縁に腰掛けた。蛇口から出るお湯を見ながら、風呂掃除用のゲキ落ち君や古びた歯ブラシを手に取った。


一旦、蛇口を洗面台の方に戻し、両手を濡らしてから再び湯船の方へ向けた。


ゲキ落ちくんや歯ブラシに洗浄液を付けて煤のついた濡れた手の平や爪の中を擦ってみた。


若干、煤は薄くなった気がしたが、それ以前に、肌がヒリヒリと痛み出しこれ以上擦るのは無理そうだった。


掃除用具を元の位置へ戻すと、守親は汚れていない皮膚を眺めた。


その部分は赤切れを起こし薄っすらと血が滲んでいる。どうやら気づかない内に力を入れすぎて擦っていたようだ。


これだけ擦っても殆ど落ちないという事は、この黒い物は煤ではないという事だろう。


煤なら落ちていてしかるべきだ。

赤切れを起こすくらい擦ったというのにどういう訳か落ちないのは、これがただの汚れではないという事に他ならない。


顔についた煤はどうすれば良いんだ?嫌な気分が守親の身体の中を巡り始める。



その気分が嫌で守親は今は考えるのはやめようと思った。


まだ溜まり切っていない風呂の縁を跨ぎ、中へと入った。膝下辺りで揺れ動くお湯を見下ろしながは守親は身体を沈めた。


お湯が溜まってもユニットバスの為、普通の姿勢では肩まで浸かる事は出来なかった。


それでも守親は次第に身体が温まっていく感触を楽しんだ。


時より姿勢をくの字に崩し、首まで浸かるとより隅々まで温かさが浸透してくる気がした。


正直、ずっとこのままでいたいと思ったが、さすがにこの無理な体勢を長くは続けられなかった。


半身浴が良いというのは耳にした事はある。

けど、こうして湯船に浸かってみると、やはり自分は首まで浸かりたい派だなと思った。


体勢を戻し再び湯船にもたれた。両手を持ち上げお湯を掬い顔を洗った。


何度か繰り返しながら、こういう行為は銭湯や温泉では好まれないだろうなと思った。


まだ自分が小さい頃は何度か銭湯に連れて行って貰った事はある。けど温泉には一度も行った事がなかった。


何も家族旅行をした事がないというわけではない。祖父母が健在の頃は1年に1度、何処かしらへ出かけた筈だった。


だったというのはその思い出の記憶が自分の中には残っていないせいだ。


思春期に入る頃になると自分は家族旅行というものをダサいと感じていた節がある。


だから行っていたとしてもきっと小学生までだろう。その時期の頃の記憶はどうにも曖昧で、自分の中には、それら一つ一つの記憶の繋がりがないようだった。


断片的でなら思い出せる事もあるのだけど、果たしてそれが事実かどうかは自分でも良くわからなかった。


そもそも小学生時代の記憶をハッキリと憶えている人の方が少ないのではないだろうか。


守親は自分の記憶が明確でない為、過去の記憶という物をそのように捉えていた。


それでも、隼人が死んだ5年生の時の数ヶ月の記憶はそれとなく憶えていた。


つまり大した用事もないのにアイツ等と集まり遊んでいた頃の時の事だ。


けど隼人が死んで、放火魔を捕まえようと言った後からは、良く思い出せなかった。


きっと印象に残る記憶や思い出がなかったのかも知れない。アイツ等と一緒に日々をダラダラと過ごしていたに違いない。


にも関わらず僕はそんな奴らと昨日まで繋がっていたなんて、火災から24時間が過ぎた後では、それも他人事のように思えてならなかった。


守親は散々顔を洗った後で、お湯から持ち上げた両の掌を眺めた。その手はまだ黒く汚れている。


目の前に洗っても取れない煤が自分の一部としてそこに残っていた。


「とりあえず今夜はこれで我慢するしかないか」


明日になれば、この黒い汚れを落とす何か良い方法が見つかるかも知れない。


自分自身に折り合いをつけるのは中々苦労したが、風呂から上がり、着替えを済ませ髪の毛を乾かす頃にはその事もすっかり忘れてしまっていた。


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